みなさん、こんにちは。
横槍メンゴ作品で好きなキャラは『クズの本懐』の茜先生! なマンガフルライター、柚木です。
今回は、横槍メンゴ先生の短編集『めがはーと』『一生好きってゆったじゃん』の魅力をまとめてご紹介します!
現在、赤坂アカ先生とタッグを組んだ『【推しの子】』が大ヒット中の横槍メンゴ先生。
『【推しの子】』では作画に専念していますが、『クズの本懐』のように原作から手掛けた作品も多く、はたまた「ヨリ」という名義でボカロ絵師として活動していた時期もあったりと……
活動スタイルがとてもフレキシブルな作家さんですよね。
そうした多岐にわたる活動のなかでも、「横槍メンゴ先生のコアな部分がいちばん色濃く出ているのでは?」と感じられるのが、短編作家としての仕事の数々。
今回はこれら短編の魅力を、ライターの思い入れたっぷりにご紹介していきます!
- 長編『クズの本懐』や『レトルトパウチ!』が好きだったので、他の作品も読んでみたい
- 『【推しの子】』の作画がきっかけで横槍メンゴ先生に興味をもった
- 尖った魅力のある漫画が好き
そんな方々に幅広くお薦めしたい、傑作短編集です。
目次
1、『めがはーと』~すれ違いのドラマが胸をつく、激重感情満載の短編集
まずは『めがはーと』からご紹介していきます。
1-1 『めがはーと』ってどんな漫画?
著者 | 横槍メンゴ |
---|---|
出版社 | 小学館 |
掲載雑誌 | 月刊IKKI/週刊ビッグコミックスピリッツ増刊「ヒバナ」/ビッグコミックスペリオール/マンガ・エロティクス・エフ |
掲載期間 | 2013年~2017年 |
巻数 | 全1巻 |
『めがはーと』は、横槍メンゴ先生が2013年~2017年にかけて、さまざまな雑誌に発表した短編をあつめたコミックスです。
なので各話の執筆時期や掲載誌にはバラつきがありますが、中心となる連作短編『めがはーと episode 01~04』は、共通するひとつの世界観に基いて描かれています。
物語の舞台となるのは「自分の大切な人に寿命が譲渡できる世界」。
その架空の世界を舞台に、4組のカップルたちが繰りひろげる人間模様を、ときに切なく、ときにドライに、ときには残酷に……と、さまざまなトーンで描きだします。
たんなるラブ・ストーリーの枠組みを超えて、人間の業をあぶりだす、エッジの効いた作品集です。
1-2 『めがはーと』の世界観~寿命の譲渡制度があぶりだす人と人のすれ違い
『めがはーと』の世界で寿命譲渡の制度ができたそもそもの理由は「夫婦がなるべく同じ寿命で生きられるように」というもの。
(『めがはーと』横槍メンゴ/小学館 より引用)
たとえば、寿命80歳という診断がでた人が、もし望めば、寿命70歳のパートナーに「5年分の寿命」を分けてあげることができる。
すると、ふたりはともに75歳で寿命をむかえることになる。夫婦として、同じぐらいの時間を共有することができるわけです。
こう書いてみると、けっこう素敵な制度のような感じもしますよね。
想い想われた者同士が結ばれて、おなじ長さの時間を夫婦として分かちあい、添いとげる。
(『めがはーと』横槍メンゴ/小学館 より引用)
しかし、もちろん(というか)本作の登場人物たちは、この制度を平穏な目的では用いません。
ある人は痛切な、ある人は軽率な、またある人は恐ろしい動機をもって、この制度を利用します。
そして、各々の利用の仕方によってあぶり出されるのは、どうしようもなくすれ違い続けるカップルたちの姿です。
寿命という最大級に大切なものが、大切に想っている人とのあいだでやりとりできる、素晴らしい制度。
でも、その制度が皮肉にも明らかにするのは「人と人はお互いを理解できずに、すれ違っていくもの」という事実なんですね。
寿命がやりとりできる世界にあっても、本作の登場人物たちは、お互いの心(ハート)をやりとりできない。
そして、ついに相手の「ハート」が自分の元に届いたときには、色々なことが手遅れになっていたりする。
ここが『めがはーと』という作品の、残酷で、だからこそ心に響くところです。
1-3 『めがはーと』ストーリー紹介~どこまでも「平行線」なカップルの軌跡
なかでも白眉は、単行本の最後に収録されている『めがはーと episode 04』。
このエピソードでは、とある漫画家カップルによる、敬愛・嫉妬・羨望・後悔といった激重感情満載のドラマが展開されます。
キャバクラに勤める本エピソードの主人公は、あるとき取材のために来店した可愛らしい漫画家に一目惚れ。
(『めがはーと』横槍メンゴ/小学館 より引用)
「下心オンリーで」取材に付きあうことにした彼女ですが、訪れた漫画家宅で何気なく読んだ漫画に衝撃を受け、人生が一転します。
(『めがはーと』横槍メンゴ/小学館 より引用)
彼女はすぐさま漫画家のアシスタントになり、自身も漫画を描き始めるのだけど……という物語。
このエピソードに登場する二人の漫画家は、お互いに対してすごく強い感情を抱えています。
でも、その感情が一方通行で、終始「平行線」を描き続けているのが辛いところ。
おなじ時間を共有していたはずの二人は、どれほど違う景色をみていたのか。
60ページあまりの短編ですがその密度は凄まじく、大切な人を理解してあげられなかった主人公の後悔の念に、引きずりこまれそうな息苦しさを感じるほどです。
そして、すれ違いを通して、最後の最後に主人公の手元に残る「何か」。
作品を創りだすクリエイターの「業」を怖いぐらい真に迫った筆致で描いている、という点において、藤本タツキ先生の『ルックバック』とおなじぐらい大好きな漫画です。
2、『一生好きってゆったじゃん』~世間の価値観から平然と逸脱する危険な短編集
つづいて『一生好きってゆったじゃん』をご紹介。現時点での横槍メンゴ先生の最新短編集です。
2-1 『一生好きってゆったじゃん』ってどんな漫画?
著者 | 横槍メンゴ |
---|---|
出版社 | 小学館 |
掲載雑誌 | グランドジャンプ/週刊ヤングジャンプ/週刊ビッグコミックスピリッツ/ビッグコミックスペリオール |
掲載期間 | 2018年~2020年 |
巻数 | 全1巻 |
『一生好きってゆったじゃん』は、『めがはーと』の刊行後に発表された短編を集めたコミックス。
おおよその執筆時期としては、2018年に『クズの本懐』『レトルトパウチ!』が連載終了してから、2020年に『【推しの子】』の連載がスタートするまでの「あいだ」の期間にあたります。
長期連載の谷間に、短編を集中的に描かれていた時期ですね。
(横槍メンゴ先生は短編というフォーマットがとても好きなようで、本作のあとがきにも「短編、描き続けたいなぁ」と書かれています。)
『一生好きってゆったじゃん』に収録されている全7編は、『めがはーと』のような連作形式をとってはいません。
とはいえ、方向性の異なるバラバラな短編の「寄せ集め」ではない。
すべての物語が「片恋」をモチーフ(題材)にしている、という点で一本筋のとおった、まとまりを感じさせる短編集になっています。
2-2 『一生好きってゆったじゃん』のモチーフ~片恋が象徴する一方通行の感情
本作の魅力を語るにあたって、まず最初に、コミックスの裏表紙に印刷されたキャッチコピーを引用させてください。
結ばれなかった初恋の人。一番好きだった最低な人。憧れ続けていた同級生。なりたかった理想の自分。
”永遠に届かないあなた”に恋をしてしまった私たちは、戸惑い傷つき失いながらも答えを求め、彷徨うーーー
青春漫画家、横槍メンゴが描く7編の片恋短編集。
(『一生好きってゆったじゃん』横槍メンゴ/小学館より引用)
とても巧みに本作のモチーフ、通奏低音となるトーンをとらえたキャッチコピーだとおもいます。
このキャッチコピーを読んだだけで、
- これは「片恋」をモチーフにした短編集である
- 「片恋」は恋愛に限らず、人が人にむける一方通行の感情全般を指している
- 「片恋」は物語の最後まで相手に届かない
……のだろうな、ということがわかるんですよね。
すれ違う二者関係を執拗に描いている、という点では『めがはーと』と共通する部分の多い短編集です。
じゃあ『めがはーと』と『一生好きってゆったじゃん』は似たテイストの作品なのか?
というと、これがけっこう違います。
どう違うのか?
私見ですが、『めがはーと』は「人と人はお互いを理解できずに、すれ違っていくもの」という切なさや苦しさにフォーカスした作品が多い。
いっぽう『一生好きってゆったじゃん』は、すれ違うことしかできない人間たち、その存在のあり方のいびつさを「そういうものだ」として静かに見つめる……みたいなトーンが強いように思うんです。
2-3 『一生好きってゆったじゃん』ストーリー紹介~正解を無視する危ない魅力
たとえば、収録作のひとつ『Neo Dutch Wife』。
この物語の主人公は、エロ漫画家の青年です。
彼は大学時代に所属していた創作サークルで、「オタサーの姫」に手酷く傷つけられた経験から、三次元の女性を一切信じられなくなっています。
(じつは彼女の側にも事情があって、二人のあいだには「すれ違い」が発生しているのだけど、そのあたりの詳しい事情は伏せます。)
そして、自分の描いた理想の女性だけを信じる、という自閉的な状態にある。
(『一生好きってゆったじゃん』横槍メンゴ/小学館より引用)
こういうタイプの主人公が出てくる場合、多くの作品では「傷つくことを恐れて自分のなかに閉じこもってちゃダメだ、さあドアをあけて外に出よう!」みたいな結末を描くことが多いですよね。
人間が本来あるべき健全な状態=「正解」があって、そこに向かうことが解決として描かれる。
でも、この物語はそういう「正解」には向かいません。
本作には、オタサーの姫も含めて創作のプロになりたい人達が幾人か登場するのだけれど、実際にプロになったのは主人公だけ。
(『一生好きってゆったじゃん』横槍メンゴ/小学館より引用)
傷つくことを過剰に恐れる心、恐れるあまりに架空の女の子を創造して、生涯その子だけを愛する、と決意するような常軌を逸した感じやすさ。
この異常なナイーヴさが、主人公をプロにしたんですね。
こうなると、何が「正解」なのか、よくわからなくなってくる。
……というように、本作は「正解」を基準にして、高いところから登場人物を裁いたり導いたりはしません。
そうではなくて、
「いびつに見えるかもしれないけれど、この人は、このように在ることしかできないんだよ」
と、善悪の判断を脇に置いて、ただそっと見つめるような描き方をするんですね。
これが人間のあるべき姿、健全な状態だよね、という「正解」をゴールに設定して、そこにむかっていく「成長物語」のフォーマットに回収されない作品なんです。
世間一般の価値観をナチュラルに無視している。
この意味で、ぱっと見の雰囲気はマイルドながら、じつはけっこう危ない作品であり、そこがたまらない魅力になっています。
そして、そうした危なさ・ヤバさが頂点に達するのが、ラストに収録された『南無阿弥だいすき』。
(『一生好きってゆったじゃん』横槍メンゴ/小学館 より引用)
この物語のヒロインも、世間一般の価値観に照らせば、ひどくいびつに感じられるような「在り方」しかできません。
横柄な彼氏の言いなりになる彼女の姿を、不快に感じる人もいるかもしれない。
でもそれが極まることで、物語の最後にはパワーバランスの逆転がおこり、「いびつな聖性」(妙な言い方だけど)みたいなものが立ちあがってくる。
はじめて読んだとき、最後のコマを見た瞬間に「最高!!」とおもわず声が出てしまった、本当にほんとうに大好きな短編です。
3、両作で描かれる、すれ違いを通してもたらされる「何か」の存在
ここからは、両作で共通して描かれているテーマについての、ライターの個人的考察です。
お気づきの方もいるとおもいますが、今回ご紹介した2冊の短編集は、ある共通したひとつのモチーフを扱っています。
それは、人と人とのすれ違い、「わかりあえなさ」です。
人は他人のことを本当の意味では理解できない。
これはまあ、一般論ではありますよね。
どんなに親しい間柄……家族、恋人、友人であろうと、「最終的には」他人のことはわからないもの。
そういう意味では、人はどこまでも孤独。
寂しいけれど、これは多くの人が受け入れていることだろうと思います。
横槍メンゴ先生の短編の登場人物たちもまた、みな一様に孤独です。
片想いの相手と、恋人と、あるいは大事な友達と、どうにかして心を通わせ、相手のことを理解しようとする。しかしそれは叶わない。
「人と人はお互いを理解できずに、すれ違っていくもの」
これが、2冊の短編集の基本的なトーンです。
でも、ただただ「すれ違うことしかできない人間って寂しいね」というだけの話にはなっていない。
それは、その「すれ違い」を経て、登場人物たちがかならず「何か」を得ているからです。
その「何か」は、喜ばしいものである場合もあれば、見方によっては呪いのようなものだったりもする。
(『Neo Dutch Wife』の主人公が、すれ違いで傷ついた結果プロになったのは、その一例です。)
(『一生好きってゆったじゃん』横槍メンゴ/小学館より引用)
でも、とにかくそれは、大切な誰かとの「すれ違い」を通してもたらされた、人生を変えてしまうような大きなものです。
『一生好きってゆったじゃん』に収録された短編『一本花』には、こんなモノローグが登場します。
(『一生好きってゆったじゃん』横槍メンゴ/小学館より引用)
私はこれは、2冊の短編集に通底して描かれているテーマではないかな? と思っています。
人と人は理解しあえずにすれ違っていくものだが、にも関わらず、人は人と関わることでどうしようもなく影響を受けてしまう。
その影響はもしかしたら、一方がもう一方との関係を通して「勝手に」受けとる、一方通行の影響かもしれない。
でも、そのような影響が避けがたくある限りにおいて、人は孤独ではない(または、孤独ではいられない)。
この喜びや、あるいは恐ろしさが描かれているのが、私にとっての両作の魅力です。
4、まとめ
今回の記事では、
- 『めがはーと』
- 『一生好きってゆったじゃん』
2冊の短編集をご紹介したうえで、両作に共通して描かれているテーマ・魅力について、ライターの考えを書いてみました。
かなり個人的な思い入れがはいった記事になりましたが、書いてみてあらためて「横槍メンゴ先生の濃~い部分が凝縮された濃~い作品集だなあ」ということを再確認しました。
とはいえ、シリアス要素が強い短編集こそがメンゴ作品の真髄であり、ポップで楽しい路線の作品はビギナー向け、と言いたいわけではありません。
横槍メンゴ先生は、エンターテイメントをとても大切に考えている作家でもある、ということはつけ加えておきたいです。
たとえばある対談記事のなかで、冒頭にリンクを貼った楽曲『いーあるふぁんくらぶ』のイラストを手掛けたときの経験について、こう話しています。
横槍:私”いーあるふぁんくらぶ”を描いてるとき、諸々の事情でものすごく病んでて、どん底だったの。めっちゃ苦しいって思いながら、あのハッピーな絵を描いたのね。
そうしたら、結果的にあれが大ヒットして、「幼稚園で歌われてます」って聞いたりして。
すごい苦しい時期に描いたポップなものが、人を喜ばせてるっていう状況を見たときに、私の友達が「エンターテイメントとか娯楽って、すごく苦しいことの中から生み出されるのかもしれないね」ってポロっと言って。
(『横槍メンゴ ときどきヨリ』横槍メンゴ/スクウェア・エニックス より引用)
そんな風に、ポップからシリアスまで多面的な作家・横槍メンゴ先生の一面を伺い知ることのできる短編集。
長編は読んだよ、というファンの方にも、最近興味をもったばかりの方にも、本当におすすめの傑作なので、ぜひ手にとっていただきたいです。
それでは、横槍メンゴ作品で好きなキャラは『クズの本懐』の茜先生!! なマンガフルライター、柚木でした。
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※『【推しの子】』の大人気キャラ・有馬かなの魅力を存分に語った記事はこちら!
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