みなさんこんにちは、【今週の1冊】として毎週金曜日、基本的には直近に読んだ作品(時には古い作品も!)をご紹介するマンガフルライターの神門です。
皆さんが作品を購入するご参考にしていただければと思います。
今週ご紹介するのは、天野しゅにんた先生の『愛されてもいいんだよ』です。
天野しゅにんた先生は、百合姫で『私の世界を構成する塵のような何か。』を連載されていた頃から好きな漫画家さんでした。
百合姫では当然ながら全作品が百合作品となります。
そんな百合作品の多くは、いわゆる「ファンタジーな百合」だと思います。
ちょっと極端な言い方をすると、可愛い女の子、綺麗な女性たちがイチャイチャするような作品です(もちろん、そんな作品ばかりではありません)
しかし天野先生の百合作品は違っていて、百合といいつつも、同性愛者(レズビアン)を描いた、より現実世界に近い物語を描いています。
ただ単にかわいい女の子が好き、とかいうのではなく、色々な生い立ちとか性格とかそういうバックボーンがあったうえで女性と体を重ねる女性。
あるいは女性のことを愛する女性。
こういう女性達って本当にいるかもしれないし、もしかしたら身近にいる人もそうかもしれない。
そう思わせてくれるような作品だと思いました。
その天野先生の『愛されてもいいんだよ』
これは、レズ風俗を舞台にして女性を描いた物語です。
「レズ」という言葉が蔑称として使われてきたこと、レズビアンではない女性も使用できることからこの呼び名に疑問も上がっていますが、現状、この呼称が広く普及しているという消極的理由から本作では便宜上、「レズ風俗」という言葉を用いています。
実在するレズ風俗店、「レズっ娘クラブ」さんに取材を行い、きちんとした取材に基づいて作品も描かれています。
主人公の木村倫は自分のやりたいことなんて見つからないけれど生活するためには働く必要があり、正式採用を目指して働いています。
上司からセクハラされ、それが社内で盛っているだの女性社員から噂され、それでも言いたいことも言い返せず日々心を弱めている中、レズ風俗で働いている諒と出会います。
諒によって自分の心に素直になれた倫はセクハラ会社を辞め、無職になります。働かなければ生きていけない倫は、諒の店がキャストを募集していることを知り、自分の人生を変えてくれたレズ風俗の世界に飛び込んでいくのでした。
「愛されてもいいんだよ」 1巻 天野しゅにんた/講談社 より引用
この作品では、大きく二つのことが描かれています。
- 自分は何がしたいのか、何になりたいのかわからない倫が、レズ風俗で働くことを通して自分自身を見つめなおし成長・再生していく物語
- レズ風俗を通して様々な人(キャストや店員、お客さん)の物語
天野先生の作品を読んでいて思うのは、「人間を描いている」ということです。
前述もしましたが、ファンタジーというよりは現実寄り。
もちろん漫画ですのである程度は誇張している部分とかあるかもしれませんが、ドラマを描いている。
レズ風俗に訪れるお客には、当然ながら様々な理由があって訪れています。
単純に女性が好きで快楽を味わいたい人もいるでしょうけれど、それだけではない。
倫はキャストとしてお客様と向かい合い、その人が何を望んでいるのか、何が喜ばれるのかを理解しようとします。
仕事というのは多くがそうですが、客がいて、客が望んでいるものを提供するからこそ求められるわけです。
レズ風俗では、初めて会った人が何を望んでいるかを理解し、わずか数時間の中で作り上げるけれど、それはあくまでお客様に与える夢の時間。
終わったらそれを引きずらせてはいけない。
とても難しいことだと思います。
「愛されてもいいんだよ」 1巻 天野しゅにんた/講談社 より引用
今まで人とあまり向かい合ってこなかった倫が、風俗の仕事を通して始めて真剣に人と向かい合い、様々な人を知っていきます。
そうして人とかかわっていく中で、自分自身のことも見つめなおしてもいくことになります。
2021年11月19日時点で3巻まで発売され、2022年春発売予定の4巻で完結するとのことですが、終わる時に倫がどのような女性に成長しているのかが楽しみな作品です。
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