みなさんこんにちは、TSや女装・男装といったコアなジャンルも好きなマンガフルライターの神門です。
TS(trans sexual)とは、男が女に、あるいは女が男に性転換してしまうことを意味します。
例えば有名な作品では高橋留美子先生の『らんま 1/2』などがあり、この手のジャンルが好きな人は世に大勢います!
そんな中で今回、記事の題材としたTS作品は、
『オレが私になるまで』
です。
TS作品が大好きで今までに数々のTS作品を読んできて、本作も期待して手に取りました。
そうして1巻を読み始めて感じたのは、
「コレは今までのTS作品とは違うぞ? この先どうなるのか楽しみ過ぎる!」
というものであり、そして既刊3巻(2021年4月現在)まで読んだところでは、今まで読んだTS作品の中でもトップクラス、いやTSとジャンルを限らずとも素晴らしい作品だと思っています。
いったい、何が他のTS作品と異なっていてトップクラスに面白い作品なのか?
それを今回の記事でまとめました。
TS作品が好きな方だけではなく、漫画が好きな誰にもお薦めしたい一作ですので、是非、ご覧ください!
目次
1、『オレが私になるまで』ってどんな漫画?
著者 | 佐藤はつき |
出版社 | KADOKAWA |
掲載雑誌 | ComicWalker/ニコニコ静画 |
掲載期間 | 2019年~ |
単行本巻数 | 既刊3巻(2021年X月現在) |
ジャンル | TSF |
『オレが私になるまで』は、佐藤はつき先生がComicWalkerとニコニコ静画で連載している作品です。
主人公である小学生の男の子、藤宮アキラが、ある日朝起きたら女の子になっていて、そのまま男の子に戻れずに女の子として生活していく物語です。
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
男が女になってしまうTSは今までも多くの作品が発表されていますし、本作もそういう作品群の一つかなと思うかもしれませんが、読み進めていくとすぐに他のTS作品と一線を画すぞ、と感じていきます。
そして他のTS作品と違う点が作品に深みを与えていて、非常に読み応えのある作品になっています。
では、
- 他のTS作品と何が違うのか?
- どの辺が読み応えがあるのか?
をこれからご紹介します。
2、TS作品の王道とは? 変わった”性”を意識することで生じる恥じらいや戸惑い、意識や関係性の変化を楽しむこと
他のTS作品との違いをご紹介する前提として、まず他の既存のTS作品の王道的な特徴と楽しみ方をまとめました。
王道と比較することで、『オレが私になるまで』が違っている点が分かるかと思います。
今まで数々のTS作品が世に発表されてきました。そのTSの手法として、
- 性別変化
- 男女入れ替わり
- 変身
といった違いはあれども、殆どの作品は主人公が中学生・高校生以上の年齢で性別が変わっています。
「ぜんぶきみの性」 1巻 浅月のりと/KADOKAWAより引用
中でも多いのが、中高生が主人公の作品です。
それはなぜかと言うと、
- 異性を強く意識する思春期の年代だから
- 男女が50%ずつ存在する学校を舞台に出来るから
この二つが大きな要因だと考えます。
TS作品は、作品の性質的に「性」を扱うことが必然的になってきます。
「オレが腐女子でアイツが百合オタで」 4巻 アジイチ/KADOKAWA
男の子が女の子に、あるいは女の子が男の子になってしまう。
今まで生きてきた性と異なる性になってしまう。
- 男の子であれば、女の子の体ってどうなっているんだろう?
- 女の子であれば、男の子の体ってどうなっているんだろう?
そういう興味、好奇心を持って当たり前の年頃です。
本やネットや学校の授業で知識だけは身に付けていても、実際に本物を見たり触ったりしたことはない子も多いでしょう。
幼い子供であれば男女差を強く意識していない一方、大人になってしまったら性的な経験も済ませていたりします。
それに対して中高生は、子供でも大人でもなく性に対して興味津々な年代です。
だからこそ、中学生、高校生を主人公とした作品がTSモノには多いのだと思います。
「純とかおる」 1巻 二駅ずい/講談社より引用
そして、男と女が50%ずつ存在する学校を舞台に出来るというのも大きいです(共学前提ですが)
社会に出れば、ここまで男女の人数が均等な場所はそうそうないはずです。
男女が均等に存在し、様々な学園イベントで男女の交流機会を作れて、恋愛に関しても盛り上がって性を意識する年代が、中学・高校生の時代です。
TS作品を描くのにこれほどうってつけの年代は他にないでしょう。
そして、
- 性別が変化してしまい、男女の体の違いに戸惑い赤面したり、恥じらったりすることを楽しむ
- 性別が変わったことで以前は異性だった子と仲良くなったり、同性の時は嫌われていた子に好意を持たれたり、本人に加えて周囲の変化も楽しむ
これこそが、TS作品の多くで描かれていることであり王道です。
3、『オレが私になるまで』が他のTS作品と一線を画する点 その1:TSの王道を捨てた物語設定
王道を踏まえたうえで、ではここから『オレが私になるまで』のどの辺が他のTS作品と一線を画するかを具体的にご紹介します。
まず第一に物語設定の違いがあり、大きくは以下2つが他のTS作品と異なります。
- 主人公が性別変化するのが小学二年生の時
- 主人公のことを知っている友人がいない
【物語設定による違い (1)】主人公が性別変化するのが小学二年生の時
主人公のアキラが”突発性性転換症候群”によって女の子になるのは、小学二年生の時です。
まず、これ自体が珍しいです。
特に男子は、第二次性徴を迎えていない年齢(※男子の第二次性徴の発現が始まるのは平均して11歳6か月)であり、男女の差をあまり理解していないような年齢です。
アキラも、同級生の女の子のスカートめくったり、からかったり、その年頃のやんちゃな男の子そのもので、女の子に興味など全くなく、むしろ女子なんて嫌いな存在でした。
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
そんな、男の性も女の性も、どちらの知識もないアキラがいきなり女の子になるのです。
自分自身が女の子になったことが何を意味するかも理解できていません。
当然、
「うわ、女の子の体、胸ってこんなに柔らかいのか!」
とか
「女子更衣室や銭湯で他の女の子の下着姿や裸が見られる!」
みたいなことも思いません。
女の子の体となりましたが、小学二年生のアキラにとっては男性器が付いていない、くらいにしか思っていませんし違いも感じていませんから当然です。
知識も経験もありませんから、そのうち治るだろう、と軽く考えています。
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
こんなに、自身も周囲もドキドキしないTS作品の主人公はなかなかおらず、この時点でまず他のTS作品と異なりました。
ですが、これだけではありません。
【物語設定による違い (2)】主人公のことを知っている友人がいない
物語の初め(小学二年生の時)こそ、アキラはもともと通っていた小学校で過ごしますが、女の子になってしまったことで居づらくなり、すぐに祖母の住んでいる田舎に引っ越してしまいます。
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
新しく住む土地と学校には、アキラが元は男の子だったことを知っている同級生の子はいません。
家族、教師、そして医療機関といったごく一部の人達だけが事実を知り、周囲に悟らせないようにしています。
アキラは最初から女の子として新たな学校に転入し、新たな人間関係を築いていくことになります。
それは即ち、
”前は男だと知っているのに、可愛いから好きになっちゃう、どうしよう!?”
と戸惑う周囲の男の子とか
「めんどくさがり男子が朝起きたら女の子になっていた話」 1巻 小林キナ/スクウェア・エニックスより引用
”女の子になったらあんなに可愛いなんて! お洒落させたい!”
と男の時から一転して絡んでくるようになる女の子とかもいないわけです。
「めんどくさがり男子が朝起きたら女の子になっていた話」 1巻 小林キナ/スクウェア・エニックスより引用
TSものの楽しみ方の一つとして、本人の戸惑い以外に、性が変わった人物に対する周囲の目や態度が変わること、というのがあります。
そして、周囲の反応が変わることによってさらに本人にも新たな影響が出てきて、連鎖反応的に、且つ相乗効果的に人間関係に変化をもたらします。
男と男、女と女、男と女、それぞれの間における友情、恋愛感情はまるで異なってきます。
主人公だけに限らず、主人公に関与する人たちの心の機微の変化もTS作品の醍醐味の一つといえます。
「カレとカノジョの選択」 1巻 緒原博綺/KADOKAWAより引用
性別が変わることでコメディとして様々な展開が考えられますが、本作『オレが私になるまで』では物語の最初からその展開をなくしています。
アキラは女の子として、同級生たちと人間関係を最初から築くことから始まります。
誰も、アキラが元は男の子だった、という目で見ません。
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
(1),(2)とあわせて、物語の開始時点でTSの王道的な楽しみを捨てているのです。
この清々しいまでの判断が凄まじいです。
前項の2で記載したように、性別変化、男女入れ替わり、変身、と性別変化の方法は多々あれど、他のTS作品では主人公(性別変化者)と周囲(主人公に影響を与える、対等な立場にいる同年代の友人・知人)の関係は、
- 1:n (主人公の性別が変化していることを知っている周囲の人が複数人)
- 1:1 (主人公の性別が変化していることを知っている周囲の人が1人。これは男女入れ替わりモノ)
「思春期ビターチェンジ」 1巻 将良/ほるぷ出版 より引用
と、最低でも一人は存在していて、主人公の気持ちや行動は外向きになります。
それに対して『オレが私になるまで』は
- 1:0 (主人公の性別が変化していることを知っている周囲の人がゼロ)
と、保護者的立場の人(家族や医療関係者)を除けば同年代でアキラの性別変化を知っている人はおらず、主人公の気持ちや行動は内向きになります。
この設定の違い故に、主人公の内面や心情の変化と成長を描くことに集中しており、それが秀逸な物語を創り上げているのです。
4、『オレが私になるまで』が他のTS作品と一線を画する点 その2:主人公の内面に焦点をあてた物語の展開
物語の設定に加えて、物語の展開が他のTS作品と大きく異なっています。
具体的な説明の前にまず、TS作品をジャンル分けすると、大きく以下のジャンルに分かれると考えています。
- コメディ・ラブコメ
- コメディ・セクシー
- 恋愛
- シリアス・ストーリー重視
■コメディ・ラブコメ
主人公の性が変化すること自体がネタとして強いですので、そのまま男女逆転となった生活のドタバタをコミカルタッチに描いた作品たちです。
「僕と彼女のXXX」 1巻 森永あい/マッグガーデンより引用
また同性の時に親友だった相手や、同性の時に好きだった異性などを意識してその関係性の変化を恋愛にも絡めることも多いです。
多くの作品が、このジャンルに属しています。
- らんま1/2
- 僕と彼女のXXX
- ボクガール
- 革命の日
■コメディ・セクシー
コメディタッチではありますが恋愛要素は少なく、男性が女性に変化することで本人自身の露出が多くなったり、女の子として生活・行動することで他の女の子のエッチな場面に出くわしたりして、お色気シーン・サービスシーンを多く読者に提供している作品です。
- アイドルプリテンダー
- ふたば君チェンジ
■恋愛
ラブコメと似ていますが、こちらはより恋愛寄りに作られた作品です。
主人公は性が変化したことをより重く受け止め、自分がどちらの性として生きていき、男性と女性のどちらを好きになるのかといった点を主眼において真剣に考え決断する、そんな作品達です。
「彼女になる日」 4巻 小椋あかね/白泉社 より引用
- 彼女になる日
- かしまし
- あめのちはれ
■シリアス・ストーリー重視
性が変化したことによる主人公の心情や生活や人間関係の変化などを、ストーリー重視でシリアスに描くものです。
ですが、TS作品でこのシリアスに分類される作品は『オレが私になるまで』くらいだと思っています(恋愛のジャンルは近い部分もありますが、あくまでは主は恋愛と考えています。なお、世にある全TS作品を読破しているわけではないので、他にあったら申し訳ありません)
多くの作品は、程度の濃厚さに差はあれども、性の変化をコメディタッチで描くか、恋愛を主としています。
対して『オレが私になるまで』は、性の変化を軽く描いたり簡単に許容したりせず、茶化したりコミカルに見せたりもせず、女の子になってしまったアキラの内面を時間をかけてゆっくりと描いていきます。
これは前項の3で記載したように、アキラと周囲が1:0の関係性であり、アキラの内面に向けた物語だからこそだと思います。
「オレが私になるまで」 3巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
コメディタッチでもない、恋愛要素が強くもない、お色気要素もない。
TSをネタにした友人達との絡みもなく、一時的な性別変化でもなく、主人公アキラの心と体の成長と変化をゆっくりと見せていく物語です。
その物語展開が他のTS作品と異なり、極めて珍しい作品となっているのです。
では、いかに物語がシリアスでストーリー重視かを、実際に物語を追いかけて紹介していきます。
【物語展開による違い 小学生時代(1)】女の子になった少年と周囲のリアルを描き、トラウマと恐怖から始まる物語
物語の冒頭、女の子に性別が変化する以前、アキラはカードゲームが好きで、女の子に対してはいたずらばかりする、やんちゃで活動的な男の子でした。
それが女の子になってしまったことで生活は一変します。
同級生の男の子たちからは、「本当に女の子になったのか見せてみろ」と、無邪気に服を脱がされ裸にされてしまいます。
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
同級生の女の子たちには、自分が男の時にしでかした数々の悪戯から優しくされず、仲間に入れてもらえません。
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
かつて味方だったはずの男子の輪から外れ、女子の輪に入ることも出来ず、アキラは女の子の体でクラスに馴染めなくなり、物語の開始早々で祖母の住む田舎に引っ越します。
転入した学校でうまくやっていけるかというと、そんなことはありません。
女の子の体になって男子からされた仕打ちにより、アキラにとって男子は“恐い”存在に変化していました。
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
一方で女子に対しては、「もしも自分が元は男だったことを知られて嫌われたらどうしよう」という思いから、距離を置いて逃げるようにしています。
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
自身が女の子となり身をもって「恐怖」を経験したことで、自分が男の時にしてきたことがいかに酷いことだったのかを理解し、その「恐怖」によって男の子にも女の子にもなれず、怯えながら孤独な学校生活を送るのです。
他のTS作品の多くは、性が変化したことを本人も周囲も結構あっさりと受け入れますが、実際そう簡単にいくでしょうか。
特に小学生くらいだと無邪気なだけに残酷です。アキラだけでなく、同級生の男子、女子の行動もリアルさを持っています。
このように物語の開幕から、小学二年生の子にトラウマを持たせるという重さで始まります。
でも、だからこそ最初から「これは他のTSとは違うぞ」と思わされ、ストーリーに引き込まれていきます。
【物語展開による違い 小学生時代(2)】自己肯定ができず自己存在を否定する第二次性徴期
アキラの孤独な小学校生活にも光はありました。
それは、同級生の女の子、渡井瑠海の存在です。
瑠海は転入してきたアキラを見た時から、
「この子は可愛い、おしゃれをすれば絶対に凄い可愛くなる!」
と思っていて、一人おどおどしているアキラに積極的に話しかけます。
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
近づくのは恐い、でも女の子と仲良くならないといけないと、アキラは悩みながらも瑠海と仲良くなろうとします。
瑠海と仲良くなることで周囲とも少しずつ馴染んでいくアキラですが、女の子として生きていくことに割り切ったわけではありません。
だけど少しずつ、嫌でも体は女の子として成長していきます。
- 胸が大きくなってきたり
- 初潮を迎えたり
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
そのたびにアキラの精神は不安定に揺れ動いたり、二年生の時の記憶がフラッシュバックしたり、時には自分の意思とは別に涙が溢れ出したりすることもあります。
更にただ不安になるだけではなく、自分が女になったせいで母や祖母に迷惑をかけていると考え、
”自分が存在しなければ”
とさえ思うようになったりもします。
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
だけど、そういう時にアキラを助けてくれたのが瑠海という存在でした。
一緒に居て、抱きしめてくれて、「大丈夫だよ」と言ってくれる瑠海の存在がなければ、アキラの精神はどうなっていたか分かりません。
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
そして瑠海の優しさに触れていくうちに、自分も瑠海みたいになりたい、と思うようになっていきます。
それは内面的な部分もそうですが、外面的な部分についても変化を及ぼし、髪型を変えたり可愛い服を着たりすることに対し、「嫌ではない」、「してみたい」と、自分の意思を持って動き出すようになります。
一方で家族はまだ、アキラが男の子でありたいと思っていると考えています。
そしてアキラもまた、家族は自分に対して男の子であることを期待していると考えています。
それまで、女の子となったアキラは周囲から嫌われたくないという思いも強く、自分の意思を見せることは殆どありませんでした。
それが、初めて自分の意思で女の子の格好をしてみたいと思うようになったのです。
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
完全に自分を肯定できたわけではありませんがようやく一歩を踏み出し、本当の意味での物語が始まります。
小学五年生の後半、女の子となってから三年経ってです。
TS作品で、女の子として生きる最初の一歩にここまで時間をかけた作品はおそらくないと思いますが、現実的にそう簡単に男→女という変化を受け入れられるものではありません。
漫画でフィクションだからとTSを明るく受け入れるのではなく、受け入れられないけれど少しずつ変わっていくリアルを描くその姿に、引き込まれていきます。
【物語展開による違い 中学生時代(1)】女子の関係性に悩み、いまだトラウマに囚われ続ける中学生活の幕開け
中学生に進学すると、新たな問題が発生します。
- 女の子同士の友情
- 男女の性の差異と恋愛
違う小学校出身の子達も同じ中学に入ってきてクラスメイトとなり、新たなグループが結成され始めると、女の子独特の関係性にアキラは戸惑います。
小学校からの親友で、ある意味「依存」してきた瑠海と初めてとも言える喧嘩をしてしまいます。
その原因は
- 他の小学校から入学してきた藤木葵と仲良くした
- 瑠海より先に葵と連絡先を交換した
というようなもので、アキラにしてみたらそんなことを気にするのかと思うようなことでした。
「オレが私になるまで」 2巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
瑠海に冷たくされたアキラは激しく動揺します。
過去の経験から、嫌われたくない、瑠海に見放されたくないと思うアキラは、自分が悪くて間違っていてこれからは瑠海の言うことを聞くから、と謝ります。
ほんのちょっとしたすれ違いだけでここまで思い詰め、ネガティブなことを考えてしまうアキラ。
前向きになり始めたと思えたものの、まだまだ深い傷が残っていることを見せつけました。
「オレが私になるまで」 2巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
その後、アキラは瑠海と互いの本心を打ち明けあいます。
瑠海は、アキラに瑠海自身が好きなことを押し付けてしまっていたことに気付いたと、自分が間違っていたと言います。
それを聞いたアキラは、今のアキラがいるのは全て瑠海のお蔭なのだから間違っていたなんて言わないでほしいと伝えます。
「オレが私になるまで」 2巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
瑠海とは仲直りをして、親友としての距離は更に近くなったかもしれません。
見た目も可愛らしく、女の子らしくなったかもしれません。
それでも、アキラの心はまだ過去のトラウマと恐怖に絡めとられていますし、いつ解放されるのかも分からない根深さを持ち続けているのです。
女子同士の友情や感情の間に元は男だったアキラの身を置かせて読ませる見せ方も上手く、また小学生時代のエピソードを丁寧に積み重ねて描いていたからこそ、読み手の心にもアキラの気持ちが素直に響いてきます。
【物語展開による違い 中学生時代(2)】受け入れることなどないと理解しながら歩み続ける
中学に入ると男女で制服も異なり、アキラもセーラー服を着るようになって見た目でも明らかに男女差が出ます。
授業でも性に関する知識を教えられ、恋愛関係も小学生時代より活発になります。特に女子は恋愛面では男子より遥かに強く興味を持つ年頃です。
「オレが私になるまで」 3巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
アキラは、自分もやがて誰か男子を好きになり、結婚したりするようになるのだろうかと漠然と思うものの、全く実感がわきません。
女の子として生活することに前向きになりつつありながらも、常に迷い続けるアキラ。
そんなアキラが、強風でスカートがめくれそうになって慌てて手で抑えたときに発した一言、
「オレが私になるまで」 3巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
この、
「私たち女子だなって思って」
短い言葉の中に、どれだけの思いがこもっていたのでしょうか。
そして、同時に描かれていたアキラの心の内。
「オレが私になるまで」 3巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
口では「私たち女子だな」と言いながら、内心では「全部を受け入れる日は一生こない」と言うアキラ。
多くのTS作品が描いてこなかったものが、この一言に詰められている、と私は思いました。
一生
他のTS作品で性が変化した人(人格交換や変身で元の性に戻れる人以外)もみな一生背負っていくことなのに、他のTS作品ではどこか明るくコミカルに受け入れているようにも見えます。
一方でアキラは、そんな日は来ないと理解し、それでも女の子として生き続けるしかないと思うのです。
実際その後も、男だから、女だから、男の子なのに、女の子なのに、といったことでアキラは悩み苦しみます。
おそらく、アキラが生きている限り悩み続けるのだと思います。
「オレが私になるまで」 3巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
『オレが私になるまで』とは、TSが主ではなく一人の男の子がゆっくりと女の子に成長していく内面を描いた物語である
他のTS作品と一線を画する作品とご紹介しましたが、それも頷けるもので、本作は
”TSを見せたい作品ではない”
からです。
物語の最初から、結論は既に明示されています。
「オレが私になるまで」 1巻 佐藤はつき/KADOKAWAより引用
一人の男の子が女の子(女子高生)に成長していく過程を、内面の成長とともにじっくり描いている物語であり、TSが主眼ではなく物語に必要な設定・手段がTSなのです。
- 性が変化したことで巻き起こるドタバタをコミカルに描きたいわけではない
- 性に関すること(LGBT)を描きたいわけではない
- でも、物語を作るにはTSが最適
多くのTS作品は性別が変化するという特殊な設定・状況を活かした物語を作って展開します。それは当然のことです。
しかし『オレが私になるまで』は、物語冒頭で性別が変化して以降はTSに関した周囲との絡みはなく、あくまでアキラの内面に影響するだけです。
その描き方が秀逸で、且つ他のTS作品には無いことで、唯一無二の作品となっているのです。
5、まとめ
今回、『オレが私になるまで』が
- なぜ、他のTS作品とは異なるのか
- その上で何が読み手を引きつけるのか
の考えをまとめご紹介しました。
本作品は連載中でまだ完結していませんので、もしかしたら今後の展開で少し変わっていく部分もあるかもしれませんが、恐らく芯はブレないと考えています。
それは、作者が何を表現したいかが最初から確定しているからです。
この先、アキラがどのような決断をして、どのような女の子に成長していくのか。
目を離すことが出来ません。
是非みなさんも一緒に、一人の少年の成長を見届けていきませんか。
以上、マンガフルライターの神門でした。
コメントを残す