こんにちは! マンガフルライターの柚木です。
先日、ついに最終巻が発売になった『NEW GAME!』。
この作品で描くべきことを描ききってくれた、すばらしく前向きでさわやかな幕切れでしたよね。
いやー、読後感ハンパなく良かったです……。
とはいえ、8年以上にもわたる長期連載だった本作。
ついにおとずれた「終わり」に喪失感をかかえている人も多いのではないでしょうか?
わかります。ライター・柚木もそのひとり。
そこで今回は、そんな「青葉ちゃんロス」に苦しむ自分を救済するべく喪失感に苦しむ人の寂しさを埋める一助となることをねがって『NEW GAME!』名台詞集をお届けします。
- とにかくかわいい!
- 意外と展開がシビア
- 巻頭カラーがけっこうエッチ
- じつは熱血
などなど。
さまざまな魅力がつめこまれた本作ですが、「各キャラクターの成長がしっかりと描かれている」のもそのひとつですよね。
(『NEW GAME!』13巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
この記事では、そんな成長ストーリーの魅力に満ちた本作から「これだ!」という名シーンを、ライターが独断と偏見でチョイス。
「キャラクターが成長する瞬間」を象徴した台詞とともに、ベスト5形式でご紹介。
同時に、その台詞が作品のテーマやストーリー構成とどう関係しているのか? についての考察もまじえつつ『NEW GAME!』の魅力に迫っていきます。
- 『NEW GAME!』の推しキャラの成長に感動した!
- 『NEW GAME!』の魅力についての考察が読みたい
- とにかく『NEW GAME!』成分を1mgでも摂取したい!
そんな読者のみなさんに、この記事が「やっぱり『NEW GAME!』良かったよね!」という共感や、「へー、そういう読み方もあるのか」みたいなちょっとした刺激を提供することができれば嬉しいです。
この記事では、漫画『NEW GAME!』第1巻から最終巻までのネタバレをまじえつつ作品の魅力を考察していきます。あらかじめご了承ください。
目次
1、『NEW GAME!』ってどんな漫画?
みなさんご存知だとおもうので、ここは手短かにいきます!
著者 | 得能 正太郎 |
---|---|
出版社 | 芳文社 |
掲載雑誌 | まんがタイムきららキャラット |
掲載期間 | 2013年~2021年 |
巻数 | 全13巻 |
連載スタートは2013年。
のちに『NEW GAME!』をアニメ化する動画工房が『GJ部』や『恋愛ラボ』などを制作していた年ですね。うわ懐かしい……。
アニメ第1期の放映は2016年の夏。放映終了にあわせて、9月に画集『FAIRLYS STORY』が発売。
翌17年には、第2期が放映されました。
原作者の得能 正太郎先生も、アニメの脚本に参加されていましたね(第1期9話と第2期5話)。
2021年3月時点で、シリーズの累計発行部数が320万部を突破しているビッグタイトル。
https://twitter.com/tokutaro/status/1375463635913297920?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1375463635913297920%7Ctwgr%5E%7Ctwcon%5Es1_&ref_url=https%3A%2F%2Fnlab.itmedia.co.jp%2Fnl%2Farticles%2F2103%2F27%2Fnews028_2.html
9月には最終第13巻とともに、2冊目の画集『NEXT GAME!!』も発売されました。
2、「名言」と「名台詞」の違い
さて、さっそく名台詞を紹介! といきたいのですが、そのまえにひとつだけ。
この記事で取りあげるのは「名台詞」であって「名言」とはちょっと違います、という前置きをさせてください。
あくまで私の個人的な定義ですが、「名言」と「名台詞」の違いはこんな感じです。
- 名言:発せられた文脈をしらなくても「なるほど」という気づきや納得感を得られる言葉
- 名台詞:発せられた文脈から切りはなすと、なんのことかわからない言葉
例をあげると、『ファインディング・ニモ』に登場するこの言葉は「名言」といえるでしょう。
「人生にがっかりしたとき、何をするべきかって? ただ泳ぎつづけるんだよ!」
たとえ作品を観ていなくても「そうかもな」と思わせてくれる台詞です。
いっぽう『魔法少女まどか☆マギカ』ですごく印象的だったこちらは「名台詞」。
「こんなの絶対おかしいよ」
作中でこの台詞が口にされたシーンの状況や文脈をしらないと「わけがわからないよ」となってしまいますね。
これからご紹介していくのは、後者の「名台詞」。
それだけを取りだすとごく平凡な言葉ではあるけれど、作品の文脈のなかに置いたときに、輝きをはなつ台詞たちです。
3、成長の瞬間をとらえた名台詞ベスト5で物語の魅力を深掘り!
前置きが長くなりました。
ここからは『NEW GAME!』のキャラクターが成長する瞬間をとらえた名台詞を、カウントダウン形式で紹介します。
「あの台詞のシーン良かったよね」という共感や、「なんであれが入ってないんだ!」というツッコミなど込みでお楽しみいただければ幸いです。
3−1 第5位「就職して自分の夢を直接追いかけてみたい」
まずは、青葉たちの高校時代を描いた第5巻『THE SPINOFF!』から。
進学か、就職か。ふたつの選択肢のあいだで揺れていた青葉が、はっきりとした結論を友人たちのまえで宣言するクライマックスです。
(『NEW GAME!』5巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
本作でくりかえし描かれる「成長ストーリー」がもっともストレートに表現された台詞として、第5位に選んでみました。
第5巻の冒頭では、自分の夢を言葉にすることにためらいがあった青葉。
そんな彼女が、いくつかの出会いや経験をへて「自分の夢を追いかける」という宣言を友人たちの前でできるまでに成長をとげる。
これが『THE SPINOFF!』で描かれたメインストーリーでした。
わざわざ「メインストーリー」という言葉を使ったということは「サブストーリー」も描かれている、ということ。
そう、読者の方ならご存知のとおり『NEW GAME!』って4コマ漫画の形式をとってはいるものの、実際はとてもストーリー志向が強い作品なんですよね。
ちょっと注意深く読むと、ほとんどの巻において
「冒頭でキャラクターの抱える問題が提示され、ラストでその解決が描かれる」
という古典的なストーリー構成がとられていることがわかります。
『THE SPINOFF!』についていえば、この巻で描かれる青葉のストーリーは、つぎのような明確な起承転結の構造を持っていました。
- 起「夢に確信がもてない」という問題の提示
- 承「夢」と、それを叶えるための「手段」を宣言
- 転「夢に確信がもてない」問題の再燃
- 結「手段」を飛ばして直接「夢」を追うという二度目の宣言
まず「起」では、自分の夢を言葉にすることにためらいがある青葉の姿が描かれます。
(『NEW GAME!』5巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
「承」では、星川ほたるの存在に刺激をうけ、夢(キャラクターデザイナーになる)と、それをかなえるための手段(美大進学)を宣言する青葉。
(『NEW GAME!』5巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
「転」では、夢をかなえる「手段」だったはずの美大進学が、友達と離れたくない気持ちの増大によって夢そのもの、つまり「目的」に転じそうになる、という問題が出現。
「起」の「自分の夢に確信がもてない問題」が、形をかえて再燃している状態ですね。
(『NEW GAME!』5巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
そして「結」。夢の実現をさまたげる「障害」に転じてしまった進学を蹴って、本来の夢を追いかける宣言をする青葉。
(『NEW GAME!』5巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
このあと、イーグルジャンプに入社した青葉を起点として、成長ストーリーがつぎつぎと繰り広げられていくんですよね。
青葉に刺激された人々が成長していき、その変化がさらに周囲を刺激、青葉にもその影響がかえってくる……という連鎖反応がとても丁寧に描かれていく。
(『NEW GAME!』5巻 6巻 9巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
作品全体をつらぬくこのような連鎖反応の起点として、青葉がほたるからの刺激をうけて成長する『THE SPINOFF!』は重要です。
まさに「エピソード0」。
ビリヤードの最初のひと突き、ブレイクショットという感じでしょうか。
3−2 第4位「まぁなりゆきだったけど結果オーライだね!」
つづいてはおなじく、第5巻『THE SPINOFF!』からのこの台詞。
(『NEW GAME!』5巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
青葉・ねね・ほたるにとっての、高校時代最後のお正月。
初日の出を見に高尾山にきてみたは良いものの、無計画っぷりがたたって山頂にたどりつけない3人。
それでもなんとか運良く日の出が拝めたとき、ねねが口にした台詞が「まぁなりゆきだったけど結果オーライだね!」でした。
この台詞は日の出のことにかぎらず、進路や将来の夢といったことについての、ねねなりのスタンスを表しているんですよね。
キーワードは「なりゆき」。
そもそも絵を描くことに興味のないねねが、青葉といっしょに美術部に入部したのは「なりゆき」でした。
(『NEW GAME!』5巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
それでも、美術部での活動を楽しむねね。
でも、楽しいからこそ、美大をめざす青葉・ほたるとは進路がわかれる……という事実に寂しさを感じることも。
そんなねねに、美術部顧問の日高ちなつが言葉をかけます。
自分も高校のころは、将来の夢とか目標とか、そういうのは何ももっていなかったよ、と。
(『NEW GAME!』5巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
つまり、顧問・ちなつを含めた美術部の4人組は、こんな感じでペアに分けられるのですね。
明確な夢や目標が……
- ある:青葉&ほたる
- ない:ねね&ちなつ
夢とか目標にたいして、ふたつのスタンスが描かれている。
それで、第5位でみた青葉のメインストーリーでは「誘惑に負けずに、幼いころからの夢を一途においかける」という王道的なスタンスが描かれました。
いっぽう、ねねを中心にしたサブストーリーでは「みんながみんな夢や目標を持てるわけじゃないけど、べつにそれでもいいじゃん」という、もうひとつのスタンスが描かれます。
いま目の前にあることを一生懸命楽しんでいれば、いずれは「なりゆき」でやりたいことが見えてくるかもしれないよ、と。
ちなつとのやりとりを経て、「なりゆき」まかせの現在の自分を肯定し、前向きになることができたねね。
(『NEW GAME!』5巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
彼女の成長をあらわした台詞が、初日の出を見ながら口にした「まぁなりゆきだったけど結果オーライだね!」なんですよね。
高校卒業後、就職して忙しそうな青葉を心配して、ねねはイーグルジャンプにアルバイトとしてやってきます。
そこで、プログラマーになるという目標を「なりゆき」で発見。
(『NEW GAME!』8巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
お調子者の印象が強いけど、じつはいつも自分より他人のことを考えているねね。
そんな彼女が、他人を心配してやってきたイーグルジャンプで「なりゆき」で自分の目標をみつけだす、というストーリー。
私は、ねねと同じくはっきりした夢とかを持ったことがない人間なので、彼女のストーリーがとても響きました。
まあ、この「なりゆきでもいいじゃん!」という、ねねなりに筋の通ったスタンス(哲学?)がツバメには理解されず、一悶着あったりもしましたが。
目標のために苦労をかさねてきたツバメには「なりゆき」が軽薄にきこえてしまったんですね。
(『NEW GAME!』6巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
青葉みたいに夢や目標を一途に追いかけるキャラクターもいれば、ねねやちなつのように、目の前のことに真剣に取り組むうちに、いつの間にかそれらを発見するキャラクターもいる。
(じつは、星川ほたるも後者寄り。)
人それぞれいろんなルートがあるよね、という姿勢が描かれているのも『NEW GAME! 』の魅力のひとつです。
(『NEW GAME!』5巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
「なりゆきでも結果オーライ派」と「見ようって決めてここまで来たから見れた派」。
夢や目標について異なるスタンスをもつ両者が、おなじ日の出を前に「また一緒に見よう?」と再会を約束するこのシーン。
作中でもとくにグッときた4コマでした。
3−3 第3位「私が信じた人を 人達を 見守り支える仕事です」
第3位は、遠山りんの社会人としての成長をあらわしたこの台詞。
(『NEW GAME!』7巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
会社の上層部に内緒で、自分たちが企画したゲームのテスト版をこっそりとつくっていたはじめ達。
それを知ったりんは叱責しますが、はじめの熱意に打たれて、自らの責任で正式に企画の続行を命じる……というシーンですね。
そもそもりんは、なにかやりたいことがあってイーグルジャンプに入社したわけではありませんでした。
第4位で見たねねとおなじく、明確な夢や目標をもっていなかったキャラクター。
(『NEW GAME!』7巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
そんなりんが、最初は八神コウという「ひとりの同僚」を支えることにやりがいを見いだす。
これは、コウへの好意(恋愛感情)に下支えされた、いわばプライベートな領域のやりがいです。
やがて、プロデューサーとして目の前にある仕事に真剣にとりくむうちに、支えたい対象がコウひとりから、イーグルジャンプの同僚たちへと「拡大」していく。
(『NEW GAME!』7巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
りんの中でプライベートなやりがいだった「人を支えること」が、仕事のうえでの目標へと結像した、社会人としての成長の瞬間。
それをとらえた台詞が「私が信じた人を 人達を 見守り支える仕事です」なんですね。
私が信じた「人」から「人達」へ。
そんな経緯を経ているりんだからこそ、『FS4』のキャラクターのモデルになることを辞退したのかもしれません。
(『NEW GAME!』11巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
いちおう注釈をつけくわえておくと、これはりんのプライベートなやりがいが、仕事上の目標に「アップデートされた」とか「置き換わった」という話ではありません。
りんのなかには、八神コウという個人を支えたいプライベートな気持ちも、大切なものとして変わらず存在していることでしょう。
その延長線上に「社会人としての目標」をあらたに発見した、ということですね。
さて、りんのたどった「プライベートなやりがい → 社会人としての目標」という成長ストーリー。
このストーリーをなぞるように経験するキャラクターが、もう一人います。滝本ひふみです。
ひふみもまた、夢や目標をとくにもたないキャラクター。
そのため、はっきりとした目標にむかって進む青葉にコンプレックスを抱いていました。
第11巻の冒頭では、そんな胸中のモヤモヤを吐露するひふみの姿が描かれます。
(『NEW GAME!』11巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
つまり、さきほどの「コウ&りん」の先輩カップルに作劇上対応しているのが「青葉&ひふみ」の後輩カップルなんですね。
(あくまでも「作劇上」のポジションの話であって、青ひふこそ正義みたいな話じゃないです! カップリング論争ダメ。)
そんなひふみにアドバイスする上司の葉月さん。
(『NEW GAME!』11巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
この話の流れでいくと、苦境に立った青葉をひふみが直接サポートする、という展開が描かれそうな感じもしますよね。
が、実際にはそうはなりません。
第11巻の後半では、もっと間接的なかたちで青葉をサポートするひふみの姿が描かれます。
(『NEW GAME!』11巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
すでに青葉作のデザインにOKがでたゲームのラスボス。
でも、紅葉は自分の描いたデザインのほうがゲームにあっているとおもう。
現場の空気をこわして、青葉の気分を害してまで、自分のデザインを提出するべきか……と迷う紅葉の背中を押すシーンです。
ここでのひふみは、青葉を直接サポートしているわけではないですよね。
そうではなくて、青葉の理解者としての立場から、紅葉に「青葉は信じて大丈夫な子だよ」と力強く肯定してみせている。
直接的には紅葉を、間接的に青葉を、同時にサポートする姿を通してひふみの成長が描かれているわけです。
りんと同じく、ひふみのストーリーでも、青葉への個人的な好意をベースにした「支えたい」という気持ちが、職場の他のスタッフへと「拡大」するさまが描かれているんですね。
(『NEW GAME!』11巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
「3人いれば社会ができる」みたいな言いまわしをきいたことがないでしょうか。
「きみとぼく」や「あなたと私」といった二者関係だけでは社会は成立しない。第三者が入ってきて、はじめて「社会」が立ちあがる。
りんの「私が信じた人を 人達を 見守り支える仕事です」と、ひふみの「もっと青葉ちゃんのこと信じてあげてもいいんじゃないかな」。
ふたつの台詞は「信じる」という言葉を共通項として持ち、「あなたと私」という一対一の関係性のその先に、彼女たちの視野が広がったことをあらわしています。
そしてその広がりが「社会人としての成長」を示している。
りんとひふみの成長ストーリーは、相似形の軌道を描いているんですね。
以上の理由から、ややイレギュラーですが、ふたつの台詞をセットで紹介してみました。
3−4 第2位「私も自信をもってアッキーに自分の趣味を告白する!」
第2位は、第4巻から。篠田はじめのこの台詞です。
(『NEW GAME!』4巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
高校生時代、隠れオタクだったはじめ。
そんな彼女が、偶然再会した当時の友人(アッキー)に、自分がオタクだったことをカミングアウトするぞ! と決意するシーンで口にしたのがこの台詞でした。
「自信をもって素直な自分をさらけだす」という、はじめの成長をあらわした台詞ですね。
この場面だけをとりだすと「まあたしかに成長ではあるだろうけど、そんなに大したことじゃないのでは?」という感じをうけるかもしれません。
でも、これ、第4巻を通して描かれたテーマの総決算になっている大事な台詞なんです。
そう、『NEW GAME!』って、単行本ごとに「その巻で中心になるテーマ」がきっちり設定されているんですね。
- 単行本の冒頭で、その巻のテーマが提示される
- テーマを反映したエピソードが、さまざまなバリエーションで展開される
- 最後に、そのテーマの解決が描かれる
という流れで、1冊の単行本ができあがっている。
そんなふうに中心になるテーマがあるから、いっけん様々なキャラクターたちによる雑多なエピソードの寄せあつめに見えても、単行本トータルでのまとまりが感じられるんですよね。
テーマが、エピソードの集まりに一本筋をとおすための「背骨」の役割をはたしているわけです。
(『NEW GAME!』4巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
第4巻についていえば、この巻のテーマは「自己開示」。
ひらたくいえば「カッコつけずに等身大の自分を素直にさらけだす」ということですね。
はじめのオタクカミングアウトはその一例です。
自己開示は、コミュニケーションにおいてとても重要だといわれています。飾らずに、素直に自分をだしてくる相手に好感をいだくのは、ごく自然な感情ですよね。
また、ビジネスの現場でも、自己開示は同僚や取り引き相手との信頼関係の構築、組織のクリエイティビティの活性化などに役立つといわれています。
もしかしたら、社内研修とか就活でこの言葉をきいたことがある人もいるかもしれませんね。
(「ジョハリの窓」とか書かされたことないでしょうか?)
第4巻冒頭のエピソードで、この自己開示というテーマが提示されます。
より正確には「自己開示の困難さ」。といっても、ぜんぜんシリアスな話じゃありません。
ダイエット中のゆんが「ラーメン食べたい」という気持ちをはじめの前で素直にだせない、というコミカルなエピソードです。
(『NEW GAME!』4巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
このエピソードは、両者満腹、めでたしめでたしというオチでおわります。
まあ、ラーメン食べたいと素直に言えないぐらい、たいしたことではないですよね。
でもこのあと、ゆんの「自己開示が苦手」という問題は、もうちょっとシリアスな形をとって顕在化します。職場の上司、ひふみとのトラブルです。
あたらしくキャラリーダーに就任したひふみ。
以前キャラリーダーをつとめていたコウと違い、おどおどしたところがあるひふみとのコミュニケーションに、ゆんは困難を感じます。
スケジュールがきびしいので〆切をのばしてください! のひと言がいえず、悶々とするゆん。
(『NEW GAME!』4巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
けっきょく〆切には間にあわず、頭をさげるゆん。
しかし「泣かれちゃうかも」という杞憂に反して、ひふみは真摯に改善点を考えてくれます。
(『NEW GAME!』4巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
私も、ひとりで勝手に追いつめられて「うぎゃー!」と自爆するタイプなので、ゆんのこの感じはよーくわかるんですよね。
(『NEW GAME!』4巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
第4巻ではこのあとも「自己開示」についてのエピソードが、さまざまなバリエーションで展開されていきます。
企画のアイデア出しで、同僚に頼ることをためらうはじめ。
(『NEW GAME!』4巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
ねねも、勇気をだして自作のゲームについての相談をうみこにもちかけます。
(『NEW GAME!』4巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
完成したゲームを青葉たちに披露するまえの葛藤を描いた4コマは、さきほどのゆんの葛藤4コマと構成が対応していますね。
(『NEW GAME!』4巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
くわえて、制作中のゲーム『PECO』のラスボスも、素直に自分の気持ちをみせられない(つまり自己開示が苦手な)女の子という設定。
(『NEW GAME!』4巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
さらに、コーヒーに素直に砂糖とミルクをいれたり、逆に背伸びして、わさび入りのお寿司をほおばってみせたりする青葉の姿。
(『NEW GAME!』4巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
こんなふうに第4巻では、等身大の自分をみせられるようになることが、成長の表現になっているんですね。
これら数々のエピソードの結節点が、冒頭の「私も自信をもってアッキーに自分の趣味を告白する!」なわけです。
そして、お互いの高校時代の写真をおそるおそる見せあう、ゆんとはじめ。
(『NEW GAME!』4巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
自己開示には「返報性」という効果があるそうで、相手が自己開示してくると「自分もお返ししなきゃ」という気持ちがはたらくらしいんですね。
結果、コミュニケーションが深まるふたり。
(『NEW GAME!』4巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
冒頭でゆんとはじめを例に「自己開示の困難さ」が提示され、そのバリエーションでエピソードが展開されていき、自己開示の成功でゆんとはじめの絆が深まって終わる、という構成の第4巻。
(実際には、このあと主役である青葉をメインに据えた、コウとの対決エピソードが描かれますが。)
もちろん「テーマを設定し、そのバリエーションでエピソードを展開していく」という手法自体は珍しいものではありません。
だけど、書き下ろしならともかく、連載漫画でこんなふうに単行本ごとのテーマのまとまりを演出しているのはちょっと驚き。
本誌掲載よりもかなり早い段階で、先々までの設計図がきっちりとひかれていたんじゃないかなあ、とおもいます。
ゆるく楽しめる4コマ漫画だけど、構成はぜんぜんゆるくないんですよね、『NEW GAME!』。
3−5 第1位「お父さんに似てきたわね」
そして第1位は、記念すべき第1巻の最終話から。
(『NEW GAME!』1巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
休日をだらだらとすごす青葉にむけて、青葉母が放ったこの台詞が第1位! です。
コミカルな印象のこの台詞、じつは、青葉が第1巻での経験を通してすこしだけ成長したね、という母からの「承認」にもなっているんですね。
では、第1巻における成長はどのように描かれているのか?
さきほど見た第4巻のテーマは自己開示で、つまり「背伸びをせずに」等身大の自分をみせることが成長を表現していました。
いっぽう、第1巻のテーマは「背伸び」。
新社会人になった青葉をはじめとして、実際以上に自分を大人にみせようと「背伸び」するキャラクターたちの姿が描かれます。
なにか飲む? ときかれ「コーヒーブラックで」とドヤる青葉。
(『NEW GAME!』1巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
青葉のまえで先輩っぽくふるまおうとするも、財布を落として台無しになるはじめ。
(『NEW GAME!』1巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
上司らしくビシッと新人を叱ろうとして「いいすぎた~!」とへこむコウ。
(『NEW GAME!』1巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
青葉のまえで「彼氏ぐらいいたことありますが?」的な態度をとってみるひふみ。
(『NEW GAME!』1巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
などなど、青葉だけじゃなく、イーグルジャンプの皆が新人の入社に刺激をうけ、背伸びしようとして失敗する姿が描かれています。
でも、背伸びって悪いことでしょうか?
等身大の自分をみせられることは、たしかに成長のひとつの形だけど、いっぽうで背伸びが成長のきっかけになることもありますよね。
第4巻でも、コウとコンペで対決するにあたり「背伸び」してブラックコーヒーを飲みほす青葉の姿が描かれています。
(『NEW GAME!』4巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
『NEW GAME!』では、ある考え方や行動が描かれたとき「でも、べつなルートもありだよね」というオルタナティヴがセットで提示されることが多いんですよね。
等身大の自分を見せられることが成長なら、背伸びもまた成長につながる。
思いさだめた目標を一途に追いかけるのも尊いし、あせらず「なりゆき」にまかせるのも良い。
本作に登場する2組の旧友グループ「青葉・ねね・ほたる」と「紅葉・ツバメ」も、このような意味において対比関係にありました。
「お互いがんばっていれば、離ればなれになっても寂しくない」という信念のもとに、卒業後(いったん)進路がわかれた青葉たち。
(『NEW GAME!』5巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
いっぽう「一緒にいたい」という気持ちを大切に、ともにイーグルジャンプへの就職をきめた紅葉たち。
(『NEW GAME!』6巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
どっちもありだよね、という描き方をされています。
そもそも、第1~2巻で青葉たちがつくったゲーム『FS3』の主人公、ナイトとコナーが異なる信念をもっていたのも「ふたつのルート」の表現になっていました。
(『NEW GAME!』2巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
と、ちょっと話がひろがりすぎましたが、第1巻での背伸びの失敗の数々にも、ネガティヴな含みはないと思うのですね。
キャラクターたちが成長へとふみだした「しるし」として描かれているような暖かみがあります。
これから13巻にわたって描かれる『NEW GAME!』成長ストーリーの、はじめの一歩をとらえたスナップショット。
それで、そのような背伸びもむなしく(?)ねねと行った映画館でも「子供あつかい」されてしまう青葉ですが……
(『NEW GAME!』1巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
そのあと、第1巻最後の4コマで「背伸びしていない」素の状態の青葉をみた母が「お父さんに似てきたわね」という感想をもらす。
お父さんに似てきた=「ちょっとは成長したんじゃない?」です。
(まあその、ポジティヴにとらえれば!)
(『NEW GAME!』1巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
記念すべき第1巻の背骨となったテーマの総括ともとれるし、シンプルにくすっと笑えるオチにもなっている。
とても秀逸な台詞だとおもったので、第1位に選んでみました。
4、まとめ
今回は『NEW GAME!』のキャラクターたちが成長する瞬間を、そのシーンに登場する印象的な台詞とともに振りかえってみました。
この記事を書くにあたって『NEW GAME!』を何周か読みかえしたのですが、あらためて驚かされたのが、キャラクターを大事にする姿勢の徹底。
作者の得能 正太郎先生は、あとがきのなかで「キャラクターは増やしたくない」という話をされているのですが、
(『NEW GAME!』8巻 得能 正太郎/芳文社 より引用)
「テコ入れのためになんとなく」みたいな新キャラ投入が一切なくて、いったん登場させた以上はきっちり面倒みます! という感じで、ほんとうに全員が丁寧に扱われているんですよね。
けっこう大勢のキャラクターが登場する作品だけど、長期連載でたまにある「あのキャラ最初しか出なかったな」とか「あのキャラどうなったんだっけ?」みたいなことがほとんどない。
出番や成長の度合いなどを管理するのも大変だったんじゃないかと思うのですが、読み手側としては、安心して推しキャラをつくれるキャラクター愛にあふれた作品でしたよね。
「この子の成長に注目してもう1回読みかえしてみよう」
そんなふうに、この記事が『NEW GAME!』をさらに楽しむきっかけになれたとしたら、とても嬉しいです。
柚木 央
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