みなさんこんにちは、マンガフルライターの神門です。
ジャンプといえば「友情」、「努力」、「勝利」です。
では2020年代、もっとも“ジャンプらしさ”を体現している作品は何かと問われたらこう答えます。
『2.5次元の誘惑』
だと。
タイトルだけ耳にすると、「え、マジで?」と思う人もいるかもしれませんが、マジです。
とにかく熱く、皆で協力し、頑張って、燃えて、欲しいものをつかみ取る、そういうことを描いているのです。
本作の魅力はまさに王道をいく“ジャンプらしさ”だと思います。
ということで今回は『2.5次元の誘惑』のジャンプらしい魅力とはどんなところか、登場するキャラクター達それぞれごとに繰り広げられたジャンプらしい熱い名場面を選択してご紹介します!
キャラクター紹介にもなる感じになっていますので、まだ『2.5次元の誘惑』を読んだことがない方も興味を持っていただけたらと思います(但しその場合、少しネタバレにもなりますのでご注意を!)
目次
- 1、『2.5次元の誘惑』ってどんな漫画?
- 2、『2.5次元の誘惑』が持つ“ジャンプらしさ”とは? 仲間の協力とともに自己肯定を高め自分自身に打ち克つ姿が共感を呼ぶ!
- 3、『2.5次元の誘惑』のジャンプらしい熱さ溢れる9つの名場面を紹介!
- 3-1 奥村 正宗(おくむら まさむね):リリサのリリエルが世界一可愛い!奥村の熱い思いがリリサのネガティブを破壊した作品の転換点となった場面
- 3-2 天乃 リリサ(あまの りりさ):挫折してなお再び立ち上がり、コスプレ四天王の一人753に真っ向から立ち向かう姿が熱血少年漫画すぎる!
- 3-3 橘 美花莉(たちばな みかり):恋も友情も!美花莉のピュアすぎる想いが炸裂する海でのリリサとのシーン
- 3-4 乃愛(ノノア):初めての友達のリリアにも真っ向からぶつかっていく姿を見せた、激熱な友情シーン
- 3-5 喜咲 アリア(きさき ありあ):取り戻す父娘の絆。心を閉ざしていた相手に届かせるのは、全力の気持ちしかない
- 3-6 安部 まりな(あべ まりな):ありのままの自分を受け入れてほしい!真実をさらけ出す勇気を見せる
- 3-7 華 翼貴(はな つばき):狂気にも似た燃える情熱で自分を縛る鎖を解き放つその瞬間に刮目!
- 3-8 753(なごみ):忘れていた大切なことを思い出し、不屈の魂で立ち上がる!
- 3-9 星月 夜姫(ほしづき よき):炎上してなお心の底から反省して立ち上がる姿に、四天王も認めたその瞬間
- 4、まとめ
1、『2.5次元の誘惑』ってどんな漫画?
著者 | 橋本悠 |
出版社 | 集英社 |
掲載雑誌 | ジャンプ+ |
掲載期間 | 2019年6月~ |
単行本巻数 | 既刊16巻(2023年5月時点) |
ジャンル | コスプレコメディ |
『2.5次元の誘惑』は橋本悠先生がジャンプ+で連載している作品です。
物語は、漫画研究部の部長で2次元のキャラクター・リリエルに愛情を注ぐ奥村のもとに、リリエルのコスプレをしたいと願う女子高校生のリリサがやってくることから始まります。
初めは奥村と二人だけのコスプレ活動でしたが、本格的なイベントへの参加などを続けていくうちに多くのコスプレ仲間と出会い、共に活動をするようになっていきます。
そしてその活動をする中で、仲間たちと共に様々な困難や問題を乗り越えていくという、コスプレを題材とした熱血青春スポ根部活漫画です。
ぱっと見、コスプレをする美少女を楽しむちょっとエッチなラブコメ、というようなものを想像しやすいかと思いますが、実は「友情・努力・勝利」を前面に押し出した、実にジャンプらしい作品なのです。
連載を続ける中で確実に読者の人気を掴んでいき、アニメ化も決定しました(2023年5月現在、放映時期未定)
美少女に加えて熱く、燃える展開を楽しむことができるのでとてもお薦めです!
2、『2.5次元の誘惑』が持つ“ジャンプらしさ”とは? 仲間の協力とともに自己肯定を高め自分自身に打ち克つ姿が共感を呼ぶ!
『2.5次元の誘惑』は沢山の美少女たちが可愛くセクシーなコスプレ姿を見せてくれる、コスプレを題材とした作品です。
バトルでもなければスポーツでもないコスプレがなぜ、「友情」、「努力」、「勝利」というキャッチコピーを掲げるジャンプ作品らしいのか。
その大きな要素というかキーワードは、「自己肯定」にあります。
『2.5次元の誘惑』に登場するキャラクター達の多くに共通しているのは、自己肯定感の低さです。
- コンプレックスを抱えている
- 現実世界の生活や人間関係でうまくいかない
- 自分自身に自信が持てない
など、キャラによってそれぞれ問題を抱えています。
「2.5次元の誘惑」 5巻 橋本悠/集英社 より引用
そしてそれらの問題をコスプレ活動を通して解決していくのですが、今まで自分一人で抱えてきて解決できなかったことをそう簡単に解決できるわけがありません。
そんなとき、周囲のコスプレ仲間達が協力してくれるのです(友情)
それも単に周囲の人間が助けて解決してあげるというものではありません。
課題を抱える本人の自己肯定感を高めさせ、課題を抱える本人自身が自分の力で立ち上がり、立ちふさがる壁を破壊しようともがきながら成長します(努力)
そしてその努力の結果、自分が抱えていた問題を解決します。問題を抱えて前に進むことのできなかった過去の自分に打ち克つのです(勝利)
「2.5次元の誘惑」 6巻 橋本悠/集英社 より引用
読者も様々な悩みや問題を抱えていると思いますが、そう簡単に勇気を持って踏み出せないのが現実だと思います。
だからこそ、自己肯定感を高めて立ち上がる姿に、また本人が立ち上がるために全力を尽くす仲間の姿に、熱い気持ちを重ね合わせることになります。
悩みや問題の中身は違えども、抱えている本質は同じ。だからこそ、そういったキャラクター達の姿により強く同調し、キャラクターや作品が放つ熱さを何倍にもして感じるのだと思います。
バトルやスポーツのような分かりやすさではないかもしれませんが、紛うことないほど実にジャンプが掲げる「友情」、「努力」、「勝利」を熱く描いている作品なのです。
3、『2.5次元の誘惑』のジャンプらしい熱さ溢れる9つの名場面を紹介!
『2.5次元の誘惑』には多くのキャラクターが登場し、そのキャラクター毎に様々なジャンプらしい「友情」、「努力」、「勝利」の姿を見せてくれます。
その姿が実に魅力的です。
ここではキャラクター毎に魅力を放つ熱い名場面を紹介します。
3-1 奥村 正宗(おくむら まさむね):リリサのリリエルが世界一可愛い!奥村の熱い思いがリリサのネガティブを破壊した作品の転換点となった場面
「2.5次元の誘惑」 1巻 橋本悠/集英社 より引用
奥村正宗は本作の主人公で高校二年生の少年です。
奥村はまさに生粋のオタクで、3次元の女には興味がないと断言し、実際に女の子から分かりやすい好意を向けられても、興味を示すどころか気が付きもしません。
実は過去のトラウマで女性に忌避感を抱いたことが原因にあって、女の子が少し大胆なアプローチを見せたり露出の高い姿を見せたりしても、“虚無の目”で見ることしかしません。
「2.5次元の誘惑」 7巻 橋本悠/集英社 より引用
奥村は真面目な性格で、オタク趣味に関しても非常に真面目であり、リリサをはじめとする仲間たちのコスプレにも全力で関わります。
「2.5次元の誘惑」 2巻 橋本悠/集英社 より引用
主人公だけに、奥村が関わったジャンプらしい魅力を放つエピソードは沢山あるのですが、やはり外せないのはリリサと一緒に初めてのイベントに参加したエピソードです。
奥村とリリサは二人でコスプレ撮影を続け、素材が貯まったところでROMを作成して初めてイベントに参加する決意をします。
しかしイベント初参加ということもあって、現地に入ってから色々と準備不足が露呈してしまいます。
また、リリサもせっかくコスプレの準備もしましたが、初めてのイベント参加でしかも周囲には可愛いコスプレイヤーも多くいることから、緊張して萎縮してしまいます。
自己評価も低いリリサは、参加している他のコスプレイヤーと自分自身を比較して、「自分なんかがコスプレするのなんて畏れ多い」と思ってしまいます。
「2.5次元の誘惑」 2巻 橋本悠/集英社 より引用
自信を失い、どうせROMも売れないしこのまま帰ってしまおうと言い出したリリサを目の当たりにして、奥村はこのまま終わらせてはいけないと思います。
リリエルになった姿を皆に見てもらいたい、というリリサの夢を叶えるために協力を惜しまないと誓った奥村は、「こんな可愛いレイヤーがいる中でコスプレなんかできない」と言うリリサに対して叫びます。
はあ?
可愛い!! リリサのリリエルが世界一可愛いんですけど!?
「2.5次元の誘惑」 2巻 橋本悠/集英社 より引用
奥村は周囲の人に聞こえるのも構わず、大きな声で自分自身の本当の思いを伝えました。
ただのオタクではない、真っ正直で折れることのない奥村の熱さを始めて見せてくれたシーンでした。
イベントに参加するために毎日のように夜遅くまで全力で準備をする努力。
リリサにコスプレしてイベントに参加してもらいたい、初めてのイベントでリリサの自信を失わせたくない、リリサのリリエルを皆にみてもらいたいという奥村の思い(友情)
そして、そんな奥村の思いを受けてリリサは生まれて初めてイベントでコスプレをして、撮影をしてもらい、他のコスプレイヤーさんとも仲良くなって楽しくイベントを終える。
努力と友情が結びついて初イベント参加を成功体験で終わらせることができたのです(勝利)
『2.5次元の誘惑』という作品そのものの方向性を位置づけるほどの、大きな転換点となるエピソードだったと思います。
3-2 天乃 リリサ(あまの りりさ):挫折してなお再び立ち上がり、コスプレ四天王の一人753に真っ向から立ち向かう姿が熱血少年漫画すぎる!
「2.5次元の誘惑」 1巻 橋本悠/集英社 より引用
天乃リリサは本作のメインヒロインで、奥村より一つ下の高校一年生の少女です。
リリサも生粋のオタクで、特に『アッシュフォード戦記』のリリエルをこよなく愛し、リリエルになりたいからコスプレを始めたくらいのめりこんでいます。
眼鏡っ娘でクラスでは全く目立たない地味な女の子ですが、オタク趣味やコスプレに関すると人が変わったようになります。
そんなリリサが魅力を放ったエピソードは幾つかあるのですが、私が選んだのは横須賀コスストです。
横須賀コスストにはコスプレ四天王の一人・753(なごみ)が企業ブースで参加をしていました。
753はコスプレが好きでコスプレイヤーが好きで、プロのコスプレイヤーになることでコスプレそのものを目的でもあり手段にもしています。
同じコスプレイヤーでも、リリエル愛が行き過ぎてコスプレをするようになったリリエルとは、ある意味で真逆のスタンスでもあります。
リリサはイベント開始前に753からコスプレ愛に対する疑問を呈され、自分自身を信じられなくなり落ち込んでしまいます。
「2.5次元の誘惑」 4巻 橋本悠/集英社 より引用
だけどリリサは、まゆり先生と奥村に励まされ、自分がコスプレをするのはリリエルが好きだから、リリエルになれるコスプレが好きだから、何よりコスプレが楽しいからこそ好きなのだと自覚し、立ち上がり、コスプレ会場に向かいます。
そしてリリサを迎え撃つ753。
これはまさに、一度は叩き落された主人公が再起し強敵に立ち向かう姿に他なりません。
「2.5次元の誘惑」 4巻 橋本悠/集英社 より引用
この勝負における勝利とは、コスプレイヤーとしてどちらがより多くの観客を得ることが出来るか、ということではありません。
一度は753の言葉でコスプレをする意味が分からなくなったリリサが、再び立ち上がり自分がコスプレする意味を再確認できたこと、それこそがリリサにとっての勝利だったと思います。
3-3 橘 美花莉(たちばな みかり):恋も友情も!美花莉のピュアすぎる想いが炸裂する海でのリリサとのシーン
「2.5次元の誘惑」 2巻 橋本悠/集英社 より引用
橘美花莉はリリサと同学年の高校一年生の女の子です。
誰もが認める美少女で、モデルとしても活躍していて同年代の女の子たちからも絶大な人気を誇っています。
そんな美花莉は奥村と幼馴染で小さい頃から奥村のことが大好きで、奥村に好かれるために可愛くなったという健気な女の子です。
美花莉はオタクではないためコスプレに興味はありませんでしたが、奥村の好きなアニメやゲームのキャラにコスプレすることで奥村の気を惹くことができると気が付き、コスプレをするようになります。
美花莉は今のところ「努力」と「友情」に特化したようなキャラクターと感じており、美花莉らしさが出ていたのが海でのエピソードです。
奥村のことが好きだけど、奥村は2次元のキャラクターを愛していて3次元には興味がなく、美花莉のことも一人の女の子として見てくれません。
それが分かっていながら好きでいることの苦しさで心が弱っていた美花莉は、奥村に対する好意をうっかりとリリサに告げてしまいます。
「2.5次元の誘惑」 9巻 橋本悠/集英社 より引用
リリサも奥村のことが好きだと気がついていた美花莉は、こんな伝え方は卑怯だと思い、リリサに対し忘れてほしいと告げました。
リリサであれば、美花莉の思いを知ればきっと奥村に対して一歩引いてしまう。美花莉の奥村への好意を知ることで遠慮をしてしまうと分かるからです。
狡い女の子であればこの機会を利用してリリサの奥村への思いを封じてしまうかもしれませんが、美花莉はそれを望みませんでした。
モデルで忙しく周囲の生徒からも大人気の美花莉にとって、リリサは奥村を間に挟んで対等にやり合える何よりも大事な初めての友達だったのだと思います。
「2.5次元の誘惑」 9巻 橋本悠/集英社 より引用
恋と友情のどちらを選ぶのかという命題はいつの世もありますが、美花莉は苦しい恋を諦めるわけでなく、かといってリリサとの友情をなくすわけでもない。
そしてリリサもまた美花莉の思いを受け取り、どちらも手放さないことを二人で誓い合います。
奥村に対する消せぬ思いを抱えたまま、それでも友情を大事にしたい美花莉のピュアな思いが出ていたシーンでした。
3-4 乃愛(ノノア):初めての友達のリリアにも真っ向からぶつかっていく姿を見せた、激熱な友情シーン
「2.5次元の誘惑」 9巻 橋本悠/集英社 より引用
乃愛(以降、ノノア)は奥村やリリサとは異なる学校に通う高校一年生の女の子です。
ノノアは小さい頃からアニメやゲームが好きでしたが、成長して友達が他のことにも興味を持ちアニメやゲームから卒業していく中、ノノアだけが変わらぬ熱量で好きであり続けたために友人がいなくなってしまいました。
元々コミュニケーションが苦手だったもののアニメやゲームでコミュニケーションを取れていたのが、そのアニメやゲームのことでコミュニケーションが取れなくなり、それ以来、陰キャでボッチなオタク活動を続けていました。
そんなノノアが勇気を出してリリサと友達になったエピソードももちろん良いのですが、個人的には夏コミで見せたノノアの熱さを推したいと思います。
夏コミではアリアを父親と会わせるために気合を入れて参加するのですが、コスプレ初心者の美花莉とアリアが一緒ということもあり、リリサは自分が頑張らないといけないと思って一人気負ってしまいます。
その結果リリサは、一日目は熱中症で倒れてしまい、二日目に向けても自分がなんとかするからと、一人で背負い込もうとします。
「2.5次元の誘惑」 7巻 橋本悠/集英社 より引用
ノノアはそんなリリサに対して声を荒げてぶつかっていきます。
この日のリリサは確かに気合が入っていましたが、全責任を自分一人で背負い込もうとしていました。
それは即ち、リリサが仲間に頼ろうとせずに一人の完結した世界で、自分だけで考えて動いていたということです。
同じ場所でリリサと一緒にコスプレをしていたのに、ノノアは孤独を感じていたのです。
そんなのは仲間でもないし友達でもない。友達なら、仲間なら巻き込んで欲しい。
ノノアの身も心も巻き込んで一緒に戦ってほしい、それが友達であり仲間じゃないかと叫びます。
「2.5次元の誘惑」 7巻 橋本悠/集英社 より引用
少し前までは自分の思いを口にすることもできなかったノノアが、初めて友達になったリリサに声を荒げてぶつかっていったとき、ノノアは本当の意味で過去の自分に打ち克ったのではないかと思います。
本当に大切な友達なら、ただ言うことに従うだけではなく、相手が間違っていると思えば正面からぶつかり、そして分かち合っていくものだからです。
仲間とバチバチして乗り越えていく激熱の友情シーンであり、まさにジャンプらしい熱い王道展開だと思います。
3-5 喜咲 アリア(きさき ありあ):取り戻す父娘の絆。心を閉ざしていた相手に届かせるのは、全力の気持ちしかない
「2.5次元の誘惑」 6巻 橋本悠/集英社 より引用
喜咲アリアは奥村たちとは異なる学校に通う高校二年生の女の子です。
見た目通りに派手で陽気なギャルであり、オタク趣味など全くありません。
アリア本人はオタク趣味ではありませんが、オタクを馬鹿にすることはありませんし、奥村たちに進められて観たアニメが面白ければ素直に面白いと感じハマったりもします。
オタクとは相いれなさそうなギャルのアリアがコスプレをしようと考えたのは、父親にアリアのことを見つけてもらいたいと考えたためです。
離婚して今どこにいるか分からないアリアの父親は漫画家で、唯一単行本が出版された作品キャラのコスプレをして目立って有名になれば、父親が見つけてくれて会えるかもしれないと考えたからです。
「2.5次元の誘惑」 6巻 橋本悠/集英社 より引用
アリアのエピソードは、アリア自身というよりもアリアを物語の起点としたアリアの父親の物語でもあると思います。
アリアの父・キサキ先生は漫画家デビュー作の「ヴァルキリー戦線」が不人気でファンレターも一通しか来ず、コミックス一巻分で打ち切りになっています。
そしてこの「ヴァルキリー戦線」の打ち切りを機に家族の関係がおかしくなってアリアの両親は離婚、アリアと父親は喧嘩別れをしたまま音信不通となりました。
キサキ先生にとって「ヴァルキリー戦線」は黒歴史でありトラウマなのです。
「2.5次元の誘惑」 8巻 橋本悠/集英社 より引用
だけど、作者にとってはトラウマの作品でも、作品の受け取り手である読者の奥村やアリサにとってはとても大事な作品です。
- アリアは父親の「ヴァルキリー戦線」が大好きで今もなお大事に持ち続けています
- 奥村は幼少期の辛い時に「ヴァルキリー戦線」という作品に巡り合って救われています
作者がなんと言おうと「ヴァルキリー戦線」があったからこそ今のアリアと奥村が存在しているのです。
「2.5次元の誘惑」 8巻 橋本悠/集英社 より引用
アリアは「ヴァルキリー戦線」に出てくるアリアに似たキャラクターのコスプレをしてキサキ先生に再会して自分の思いを伝えます。
そのコスプレ衣装はアリアの努力の結晶であり、また作品を、キャラクターを愛していると伝える手段でもあります。
ただ再会するだけではなく、自分の気持ちを伝えてそれを父親の心に届かせ、仲直りをして父親と娘の関係を取り戻す。
またキサキ先生の産み出した「ヴァルキリー戦線」を肯定することイコールキサキ先生を肯定することであり、キサキ先生を救っています。
アリアが一方的に伝えるだけでなく、キサキ先生に正しく届いて初めて報われるものであり、アリアの努力や仲間たちの友情が正しく報われたシーンでした。
「2.5次元の誘惑」 8巻 橋本悠/集英社 より引用
3-6 安部 まりな(あべ まりな):ありのままの自分を受け入れてほしい!真実をさらけ出す勇気を見せる
「2.5次元の誘惑」 9巻 橋本悠/集英社 より引用
安部まりなは奥村と同じ学校に通う高校三年生の女の子です。
学校では生徒会の副会長の役職につき、生徒達に献身する姿から「聖母」とも呼ばれているほどです。
実はまりなは奥村の初恋の相手であり、小学校時代にフラれた相手でもあります。
成績優秀、品行方正、容姿端麗で生徒会の副会長と、まるで生徒の見本のようなまりなではありますが、実際には隠れオタク、しかもリリサに劣らない重度のオタクです。
部屋にはオタクグッズが溢れ、二次創作で漫画も描いていたりしますが、そんな姿は学校ではもちろん、家族たちにも秘密にしています。
「2.5次元の誘惑」 10巻 橋本悠/集英社 より引用
というのもまりなの母親は教育ママであり、母親の期待を裏切りたくない、母親に褒められたいという思いからオタクを隠したまま成長してきたのです。
だけど、いつまでも隠し続けていたいわけではありません。
自分の高校三年間を嘘にしないため、慕ってくれた生徒の皆や両親に本当の自分を見て、知って欲しいと願います。
「2.5次元の誘惑」 10巻 橋本悠/集英社 より引用
そのため、文化祭での生徒会の出し物のコスプレ喫茶の衣装デザインを考え、その衣装(猫耳メイドナース)を身につけ、両親や生徒たちの前のステージでショーをやり切ったのでした。
同じオタクでもリリサとノノアはオタクを隠していませんでしたが、優等生で知り合いも多いまりなは完全な隠れオタクであり、そのことに負い目のようなものを感じていました。
本当の自分を知ってもらいたい、でも曝け出して失望されるかもしれないと考えると怖い。
だけど、本当のまりなを出しても大丈夫だよと奥村やリリサ達に受け入れられ、文化祭のステージのために衣装を作り、踊りの練習をして、そして最後には両親や生徒達の前でカミングアウトをし、全員から受け入れられます。
それまでひた隠しにしていた、真実を知ってもらいたくてもできなかった自分自身の弱い心に打ち克つのです。
「2.5次元の誘惑」 11巻 橋本悠/集英社 より引用
ただ真実を見せるだけではありません。
まりなの、それまでの行動があったからこそ、皆が心から受け入れてくれたのだと思います。
それら全て込みで、まりなは勝利したのではないかと思います。
3-7 華 翼貴(はな つばき):狂気にも似た燃える情熱で自分を縛る鎖を解き放つその瞬間に刮目!
「2.5次元の誘惑」 15巻 橋本悠/集英社 より引用
奥村たちが進級した新年度に漫研に入部してきたのが華翼貴です。
翼貴は新年度から新たに設立された「特進」に所属する生徒で、お金持ちのお嬢さまです。
幼少期より様々な稽古ごとや趣味を嗜み、容姿端麗、成績優秀、運動神経もよしと、非の打ち所のないような女の子です。
完璧に見える翼貴ですが、翼貴には他の人には分からない悩みがありました。
翼貴の両親は幼いころから翼貴に好きなことをさせ、興味を持ったことは何でもやらせてくれました。
しかし、様々なことを体験してきてみても、自分が自信を持って「好き」だと言えるものがないことに気がつきます。
「2.5次元の誘惑」 15巻 橋本悠/集英社 より引用
そんな翼貴が漫研に入部したいと思ったのは、目を輝かせてアニメを観ている奥村の姿を目にしたからです。学園で一番、奥村が輝いて見えたからです。
何故、あんな風に目を輝かせてアニメを観ることができるのか、それを知りたくて、また翼貴自身もそうなりたくて漫研の扉を開きました。
だけど翼貴には、生産性も何もなく「ただ好きだから」アニメを観たり漫画を読んだりゲームをしたりというのが理解できません。
「2.5次元の誘惑」 15巻 橋本悠/集英社 より引用
翼貴は常に物事を合理的に見て、行動に対しては何か将来的な見返りがあるべきものと考えているからです。
思い悩む翼貴を、リリサ達はどうにかしてあげたいと考えます。
翼貴の悩みは、好きなことを見つけられない自分自身が不甲斐なくて自分を認められないことです。
仲間たちは翼貴を悩みから解放するために頑張り、翼貴は自分の夢を見つけることを諦めず、翼貴を縛っている鎖を解き放つためコスプレをしてコスストに参加します。
「2.5次元の誘惑」 15巻 橋本悠/集英社 より引用
そして翼貴を開放したのはやっぱり奥村でした。
なぜ翼貴が悩んでいるか?
それは翼貴が小さい頃から色々なことを知り賢い子だからこそ、周囲の人間の評価や社会の常識や固定観念といったものに囚われ優先してしまい、自分で自分の思いを縛り付けてセーブをしていたのです。
頭では分かっていてもできなかったこと、それを奥村の狂気ともいえる実体験と思いを伝えることで、翼貴は自分を縛っていた鎖を解いて自由になれたのでした。
- コスプレして何か良いことあるの?
- 将来なんの役に立つの?
そういう声を打ち壊し、ただ「楽しい」だけを捉えるようにする。
シンプルな思考に辿り着くことで、翼貴は過去の自分に打ち克つことが出来たのでした。
「2.5次元の誘惑」 16巻 橋本悠/集英社 より引用
3-8 753(なごみ):忘れていた大切なことを思い出し、不屈の魂で立ち上がる!
「2.5次元の誘惑」 3巻 橋本悠/集英社 より引用
753(なごみ)はプロのコスプレイヤーで、コスプレ四天王と呼ばれている四人のうちの一人です。
753も当然ながら生粋のオタクで、2次元のキャラクターに恋をして、恋した人に釣り合うため2次元で最強の美少女を目指してコスプレをしています。
リリサがリリエルというキャラを愛してリリエルになりたいためにコスプレをしているの対し、753はコスプレが好きだからコスプレをしています。
753とリリサは横須賀コスストで初めて同じ会場でコスプレを行います。
そこで753がリリサに見たのは、純粋にコスプレを楽しむ姿です。
753自身、コスプレを始めた時は自分自身が2次元のキャラになれたこと、そして自分のコスプレを見た人が可愛いといってくれることを純粋に楽しんでいました。
ですが、いつからか売上とか囲みの多さとかで他の人より勝ちたいという意識が強くなっていきます。
さらにプロとなってからは、周囲から様々な悪意をぶつけられるようになります。
純粋に好きで楽しかったコスプレが次第に苦痛を産むようになり、だから自分を守るために心を殺すようになっていました。
「2.5次元の誘惑」 4巻 橋本悠/集英社 より引用
そんな753に対し、リリサは真っ向からコスプレをする楽しさでぶつかっていきます。
753に勝つとかそういうことではなく、ただ753と同じ場でコスプレを楽しみたいという気持ちです。
753はリリサの姿を見て、自分が一番大切なことを忘れていたことに気づかされます。
だけど、753も自分の過ちに気がついて傷つき落ち込むだけでは終わりません。
コスプレを好きなのは自分、コスプレを愛しているのは自分、そのことだけは負けられないと再び立ち上がるのです。
「2.5次元の誘惑」 4巻 橋本悠/集英社 より引用
プロレイヤーとなって人気を誇るほど努力をし続け、そしてプロとしての矜持を持ちながら純粋に楽しむことを思い出し新たな段階に入った753もまた、ジャンプらしさを体現したといってよいと思います。
3-9 星月 夜姫(ほしづき よき):炎上してなお心の底から反省して立ち上がる姿に、四天王も認めたその瞬間
「2.5次元の誘惑」 12巻 橋本悠/集英社 より引用
星月夜姫もまた753と同様にコスプレ四天王と呼ばれている四人のうちの一人です。
SNSを活用して熱狂的な信者を持ちますが、その実体はブラック会社で社畜として働いているOLです。
幼いころから決して恵まれているとは言えない家庭で育ち、社会人となった今も決して恵まれているとはいえない状況です。
そんな夜姫がコスプレを始めたのは、コスプレをして褒めてもらいたい、チヤホヤしてもらいたい、という承認欲求が多くを占めています。
人気を得るためならなんでもする、愛のないコスプレイヤーなどと様々な噂を立てられている夜姫ですが、本当の夜姫はそんな女性ではありません。
コスプレを始めた時は適当な衣装とメイクでヘイトを集め、ネットでボコボコに叩かれて恐怖に震えていました。
「2.5次元の誘惑」 13巻 橋本悠/集英社 より引用
ですが、753やまゆらのコスプレを見て、まるで二次元が現実に出てきたみたいだと衝撃を受けます。
夜姫は自分のコスプレが間違っていたと認識すると、どうすれば良い衣装を作れるのか、どうすれば良いコスプレが出来るのか、753やまゆらに教えを請い、裁縫の勉強をして、炎上してやらかしたことを反省してコスプレに真摯に向き合うようになりました。
その原動力は、なんだかんだいってやはり作品への、キャラクターへの愛でした。
作品内で死んだキャラを自分が現実に蘇らせてやる、という思いが夜姫を奮い立たせます。
「2.5次元の誘惑」 13巻 橋本悠/集英社 より引用
その姿を753もまゆらも見ていて知っていますし、リリサも夜姫のコスプレを直に目にすることで、夜姫が愛のあるコスプレイヤーだと気がつきます。
人気さえ出ればよいと考えるヒールのレイヤーに見えた夜姫ですが、実は壁にぶつかって落ち込み心の奥から反省し、目標を見つけて真っ当に地味に努力を重ね、友人の協力を得、今の位置を勝ち取っているという、ジャンプらしいエピソードのキャラクターだったのです。
そして、それを誰よりも見ていて評価しているのが753だった、というのもまた熱いと思います。
「2.5次元の誘惑」 13巻 橋本悠/集英社 より引用
夜姫のエピソードが好きだ、と言う人が多いのも頷けると思います。
4、まとめ
『2.5次元の誘惑』の各キャラクターがみせた、ジャンプらしい熱い場面をご紹介しました。
自分自身の劣等感や、不甲斐なさや、隠し事など、抱えている悩みは人それぞれながらも、どれも本人自身に関わる問題であり、自分自身に打ち克つことで成長し前に進んでいることが分かるかと思います。
お色気コメディから熱血部活モノに転身することで魅力を増して勢いに乗った『2.5次元の誘惑』、熱い話を望んでいる人は是非、手にとってみてください!
以上、神門でした。
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