みなさんこんにちは、マンガフルライターの神門です。
学生時代、『MASTERキートン』を友人達と夢中になって回し読みをした記憶が今も強烈に残っています。
様々な印象深い話が展開されており、読み終えた後には
- このエピソードが良かった!
- あのセリフが心に残った!
- キートン格好良い!
などと思うことも非常に多かった記憶があります。
保険調査員という立場から、キートンが関わる事件ではキートン本人はもちろん、多くの人が苦しんでいたり、悩んでいたり、迷っていたりします。
そして、心が折れそうになったり、逃げそうになったりしたときに、弱い心を奮い立たせてくれるようなエピソードが数多くあり心に残っています。
今回はそんな、心を奮い立たせるエピソードを、その中で使われる名言とともにご紹介します。
目次
1、『MASTERキートン』ってどんな作品?
著者 | 浦沢直樹、勝鹿北星、長崎尚志 |
出版社 | 小学館 |
掲載雑誌 | ビッグコミックオリジナル |
掲載期間 | 1988年-1994年 |
単行本巻数 | 全18巻(完全版全12巻) |
ジャンル | ドラマ、ミステリー |
浦沢直樹先生、勝鹿北星先生、長崎尚志先生というお三方による脚本、浦沢直樹先生作画という体制でビッグコミックオリジナルに連載されていた作品です。
主人公の平賀・キートン・太一は主に保険会社ロイズの保険調査員(探偵業)として働いていますが、他に日本の大学講師、そして元SASのサバイバル教官という顔を持っている男です。
キートン本人は考古学で自説の論文を作成、発表することを目標にしていますが、大学講師だけで生計をたてるのは難しく、保険調査員を行っています。
本人の意向とは反対に、保険調査員としての仕事の方が順調で、元SASの能力も活かして様々な依頼をこなしていきます。
冷戦終結前後の社会情勢に考古学を絡め、更に様々人間ドラマを描いており、読んで楽しいだけでなく色々なことを学び、考えさせられる作品です。
2、『MASTERキートン』の、読み手の心を奮い立たせる7つのエピソードを名言とともにご紹介
それではさっそく、MASTERキートンの、心を奮い立たせるエピソード7選を、単行本で発表された順にご紹介します。
皆さんにとっても思い入れのあるエピソードがあるかもしれません。
是非、お楽しみください!
その1 【砂漠のカーリマン】あいつは、カーリマンだ
おそらく作品の中でも1,2を争う、有名で人気の高いエピソードです。
このエピソードは続きものになっています。
もともとは、古美術商のトマス・ブラウンから、“投石するダビデ像”の贋作鑑定を依頼され、その報酬としてタクラマカン砂漠の遺跡で見つかった遺物をプレゼントされたことが契機でした。
どのような用途で使用されていた遺物なのかを知りたいキートンは、ロイズの仕事でタクラマカン砂漠での遺跡発掘の話があったことを思い出し、タクラマカン砂漠に飛びます。
「MASTERキートン完全版」 1巻 浦沢直樹/小学館 より引用
この遺跡発掘はウイグル族の同意があって初めて実現できたものですが、発掘隊の高倉教授は限られた期間で発掘をしなければならないため、ウイグル族が大切にしている発掘現場にあった壁を破壊してしまいます。
ウイグル族の長老は、調査隊が壁を破壊する現場を見て衝撃を受け、命を落としてしまいます。
ウイグル族の怒りをかった調査隊の一行は、タクラマカン砂漠の真ん中に置き去りにされてしまいます。
「MASTERキートン完全版」 1巻 浦沢直樹/小学館 より引用
タクラマカンとは、ウイグル語で“生きては戻れぬ死の砂漠”という意味。
直射日光のあたる日中になれば、あっという間に水分を失って死んでしまいます。
そのような死の砂漠にあっても、キートンは自分だけではなく調査隊全員を生かして返そうとします。
- 穴を掘って日中は日光を避け
- わずかでも水分を補給し
- 火をおこし、砂漠の動物を捕まえて食料にして
そしてついにキートンたちは街道まで3キロのところまで到着します。
限界に近い状態ですが、アバスに向けて槍を構えて戦う姿勢を見せるキートンを目にして、ウイグルの族長アバスはキートン達に水を飲ませて助けるよう指示し、こう言います
あいつは、カーリマンだ
「MASTERキートン完全版」 1巻 浦沢直樹/小学館 より引用
十世紀の伝説の人物、サーディクは部下が誤って子供数十人を処刑してしまったことに対するアッラーの裁きを受けるため、腰布一枚で生きて砂漠から戻れるか否かを神に問いました。
四日後、サーディクは砂漠の英雄(カーリマン)として生還しました。
アバクは、キートンの姿に伝説の英雄を重ねて見たのです。
どんな苦境においても諦めず、冷静に自分ができることをして、なおかつ仲間たちも見捨てずに立ち向かうキートンの姿に、心震わせた人は多かったと思います。
私の友人たちも、このエピソードを読んだ後は「あいつはカーリマンだ」という台詞がはやりました(笑)
その2 【屋根の下の巴里】人間は一生、学び続けるべきです
キートンは保険調査員だけでなく、講師としても働いています。
日本の大学をクビになったキートンは、パリのシモンズ社会人学校の冬期講座の講師に呼ばれたのですが、学校は冬期講座を最後に閉校してしまいます。
学校が、講座が終了してしまうことを、生徒たち皆も残念に思う中、最後の講義の日は近づいてきます。
最後の日を前にしてキートンは、ロンドン大空襲の中でも瓦礫の上で授業を行ったという恩師のことを思い出します。
「MASTERキートン完全版」 2巻 浦沢直樹/小学館 より引用
そしてついに最後の講義が始まります。
キートンは講義を受ける生徒に語り掛けます。
例え学校がなくなるとしても、学び続けてほしいということを。
そして問います。
人間はなぜ、学ばなければならないのか。
キートン自身が問いに対して答えます。
人間は一生、学び続けるべきです。
人間には知る喜び……好奇心がある。
「MASTERキートン完全版」 2巻 浦沢直樹/小学館 より引用
さらに続けます。
それが人間の使命だからです。
「MASTERキートン完全版」 2巻 浦沢直樹/小学館 より引用
色々な事情で学校に通えなくなったり、学ぶ場がなくなったりすることがあります。
でも、学校がなくなっても、学ぶことはできる。
人は情熱、好奇心がある限り学び続けることができるし、学ぶべきである。
恩師から言葉にされなくても教わったことを、今度はキートンが生徒たちに伝えたのだと思います。
エピソードではその後、生徒の皆がキートンへのお礼として、音信不通になっていた恩師のユーリー・スコットと引き合わせてくれるのも良い終わり方でした。
その3 【瑪瑙色の時間】あの海の色は瑪瑙色だ
英国のコーン・ウォールで列車に乗っている時、キートンは幼少時の夢を見ました。
少年のキートンは、バスの運転手クリス・ワトキンズと友達になります。
両親が離婚して祖母の屋敷に一人で来ていたキートンは、クリスに教えてもらった場所でコーン・ウォールの海を眺めることが好きになりました。
「MASTERキートン完全版」 5巻 浦沢直樹/小学館 より引用
バスの運転手として働いている時はしゃんとしているクリスですが、実は妻とはうまくいかず離婚し、子供とも離れて暮らしていました。
酒を飲み、駄目な自分のことを卑下し、そのことを少年であるキートンにも吐露します。
ですがキートンと接し、もう一度立ち上がろうとクリスは決意します。
クリスはコーン・ウォールの海を眺める、とっておきの秘密の場所をキートンに教えて、二人は並んで海を眺めます。
クリスは、人生の達人は自分らしく生き、自分色の人生を持つと言います。
そしてコーン・ウォールの海を見て言いました。
あの海の色は瑪瑙色だ。
俺たちは瑪瑙色の時を共有している。
「MASTERキートン完全版」 5巻 浦沢直樹/小学館 より引用
今までクリスは自分色の人生を持っていなかったけれど、これからはコーン・ウォールの瑪瑙色を持っていくとキートンに伝えたのではないでしょうか。
その時をキートンと共有することで、クリス自身の誓いにしたのではないかと思います。
私たちもよく、「自分の色を出せ」などと言われることがあります。
どんな色でも構わない。
それでも、その色を思い出すことで自分自身の行動の原動力になる、そんな色が見つけられると良いなと思いました。
その4 【シャトーラジョンシュ1944】今こそこれを飲むのに・・・
フランスのブルゴーニュ地方といえばワインで有名な地です。
その地で、奇跡の名酒と呼ばれる「シャトーラジョンシュ1944」が産み出されました。
歴史ある醸造所、シャトーラジョンシュで産み出された名酒ですが、自然任せの伝統的な造り方であり、効率の良いものではありません。
奇跡的な超高級品が偶然生まれるのを待つのではなく、多くの人が満足する高級品を科学的に醸造する方針に会社は転換することに決めました。
「MASTERキートン完全版」 6巻 浦沢直樹/小学館 より引用
経営難に陥っていたシャトーラジョンシュは、1本だけ残っていた「シャトーラジョンシュ1944」を抵当に融資を受けて再生をかけることにしたのです。
しかし、「シャトーラジョンシュ1944」は戦争中だった当時、若かりし当主ヴィクトールと使用人リベロが戦場の中に飛び出して命がけで摘んだブドウで造られたものであり、リベロが命がけで守ったものだったのです。
「MASTERキートン完全版」 6巻 浦沢直樹/小学館 より引用
いよいよ「シャトーラジョンシュ1944」引き渡しの時、ヴィクトールは故意に手を滑らせてワインを落とし、割ってしまいます。
融資の話もなくなり全てを失ったヴィクトール。
しかし、最後の別れにとリベロがヴィクトールとキートンに出したワインこそが、「シャトーラジョンシュ1944」でした。
ヴィクトールの行動を予想したリベロが事前に入れ替えていたのです。
リベロは言います。
今こそこれを飲むのにふさわしい時です。
「MASTERキートン完全版」 6巻 浦沢直樹/小学館 より引用
と。
古きを捨てて新しいことを始めるのは決して悪いことではありませんし、むしろ生き残るためには当たり前のことです。
でも、人には決して捨てられないものもあるのだと思います。
また新たに立ち上がる時、原点に回帰した彼らの言葉には重みがありました。
その5 【帰郷】それが資本主義ってもんだろう
東西ドイツ統一後の旧・東ドイツのとある村でのことです。
西ドイツの資本主義が東ドイツにも流入して社会が変革しつつある中で、その村でも資本家が出るようになりました。
しかしその資本家フランツの父親ヨーゼフは、筋金入りの共産主義者です。
当然ながら、簡単には息子のことを受け入れられません。
二人は十年前に袂を分かっていたのです。
「MASTERキートン完全版」 7巻 浦沢直樹/小学館 より引用
しかし、資本家として成功しているように見えるフランツですが、実は会社の資金繰りで苦労して倒産寸前であり、村に帰ってきたのも母親の形見の指輪を奪うためだったのです。
借金の山で闇シンジケートにも金を借り、生命保険で借金返済を迫られているフランツは命の危機にあります。
会社の経営状態は村民にも知られて投資も得られず、進退窮まったフランツの前に姿を見せたのは父親のヨーゼフでした。
ヨーゼフは、妻の形見の指輪をフランツに渡して言います。
その指輪はやるんじゃない、貸したんだ。
しっかり働いてちゃんと返せ。利子をつけてな。
それが資本主義ってもんだろう。
「MASTERキートン完全版」 7巻 浦沢直樹/小学館 より引用
息子の全てを受け入れたわけではない。
だけど、金のために命を落とすなど馬鹿馬鹿しいと、形見の指輪を渡して「資本主義ってもんだろう」と放つヨーゼフの背中は、まさに頑固親父を思わせるものでした。
その6 【臆病者の島】勇気ある臆病者
キートンは、かつて共に戦ったグレイブス少将が退役後に経営していたホテルに訪れていました。
そこには三年前に亡くなったグレイブス少将の息子エリックがいて、キートンと話に花を咲かせます。
エリックは勇敢な軍人であった父、そしてキートンに憧れ、いつか必ずSASに入ると決意をしています。
「MASTERキートン完全版」 9巻 浦沢直樹/小学館 より引用
そんなところに、ポーランド・マフィアが秘密の取引に訪れてきました。ポーランド・マフィアは取引相手を殺し、追いかけてきていた刑事も銃で撃って重傷を負わせます。
残されたのはエリックとキートン、そしてウエイトレスのヘレンとグレイブス少将の知り合いという飲んだくれ親父のフォスターです。
若いエリックはマフィアを倒して強行突破しようと主張しますが、フォスターは無謀だといいます。
エリックは消極的なフォスターに対し、命が惜しいだけの臆病者だと言い放ちますが、フォスターは臆病者だということを認め、臆病者だからこそ今まで生き延びてこられたと言います。
「MASTERキートン完全版」 9巻 浦沢直樹/小学館 より引用
エリックは一人でどうにかしようと動き出しますが、マフィアに見つかり殺されそうになります。
それを助けたのはフォスターでした。
フォスターはエリックを裏切るふりをしてマフィアを油断させ、キートンと共にマフィアを撃退したのです。
勇敢と無謀は違う。
そのことを身をもって知ったエリックは言いました。
キートンさん、僕は臆病者になれるでしょうか
あの人のような、勇気ある臆病者に
「MASTERキートン完全版」 9巻 浦沢直樹/小学館 より引用
臆病な人ほど生き延びるとも聞いた記憶があります。
でも、ただ臆病なだけではいざというときに何もできません。
動くべき時には動くことのできる、勇気ある臆病者。
そんな存在になりたいですね。
その7 【学者になる日】人間はどんなところでも学ぶことができる
東都大学に論文が認められ、念願の大学講師となるチャンスが巡ってきました。
自分の大好きな考古学の研究を続けるために、なんとしてでもこの機会をつかみたいとキートンは考えます。
「MASTERキートン完全版」 12巻 浦沢直樹/小学館 より引用
しかし日本の大学では、派閥があったり、自分の意見をはっきり言うと疎まれたり、ゴルフや飲み会などの付き合いが重要だったりと、研究とは関係ないさまざまな面倒ごとがあります。
それでも好きな研究を続けるためと、苦手なことにもキートンは耐えます。
しかしある日、キートンの出した論文を、大学に入れば自分が師事することになる藤林教授の名義で発表したいと言われます。
「MASTERキートン完全版」 12巻 浦沢直樹/小学館 より引用
悩むキートンのもとに、かつてキートンに学ぶことの喜びを教えてくれたユーリー先生が亡くなった知らせが届きます。
異端児とみなされ学会を追放されてなお、独力で研究を続けたユーリーの言葉をキートンは思い出しました。
人間はどんな所でも学ぶことができる。
知りたいという心さえあれば
「MASTERキートン完全版」 12巻 浦沢直樹/小学館 より引用
影響力の強い藤林教授に逆らえば、今後、日本の大学に籍を置くのは難しくなる。
それが分かっていても、キートンは自分の論文を渡すことを拒否しました。
真に大事なことは何かを、キートンは再確認したのだと思います。
亡き師父が残した言葉を胸に、キートンはまた歩き出したのでした。
3、まとめ
今回は、『MASTERキートン』から、心を震わせるような名エピソード7選をご紹介しました。
- 困難に立ち向かうときに思い出したいエピソード
- 挫け、再び立ち上がる時に思い出したいエピソード
- 大事なことは何か再確認したいときに思い出したいエピソード
などなど、どれも読んでいて胸に残るものばかりでした。
もちろん、今回ご紹介したエピソード以外にも、多くの名エピソードが『MASTERキートン』には描かれています。
何が心に響かは、人それぞれだと思います。
皆さんも是非、『MASTERキートン』を手にとって読んでみてください。
きっと、あなたの心に響くエピソードがあるはずです。
以上、マンガフルライターの神門でした。
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