どうも。マンガタリライターの相羽です。
漫画の世界でも一大ジャンルになってきた「百合」。
女子同士の繊細な人間関係を描いた作品群は、読む者のハートを細やかにくすぐります。
中でも、乙女の園、全寮制、同級生同士、先輩と後輩、などなどといった言葉を聴くと独特の耽美な世界を想像して胸が高鳴ってしまうという、いわゆる「女学園」ものの百合は、また特に琴線に触れるという方も多いのではないでしょうか。
空想的で、そして学園の中という閉鎖的な場で描かれる女子同士の人間関係劇には独特の美しさがあります。
今回の記事では、20年以上百合作品を追ってきたライターが、「百合」でかつ「女学園」が舞台という作品でおすすめのものをピックアップしてみました。
読み進めていくうちに、ピンとくる作品と出会えて頂けたらなら、ライター冥利につきるのでした。
目次
- 1、「百合」で「女学園」ものってどんな漫画?
- 2、清廉な乙女の園にトリップできるおすすめ女学園もの百合漫画5作品を紹介
- 2-1 『繭、纏う』~“ねぇ 制服が息する音 聞いたことある?”……3万リツイートに至った美麗な筆致で描かれるWEBで話題の最新女学園もの百合作品
- 2-2 『マリア様がみてる』~お姉さま、姉妹(スール)、ロザリオ……メガヒットした00年代百合作品の金字塔を漫画でも
- 2-3 『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』~宝塚ファンも注目の「舞台少女」を描くアニメ作品のコミカライズ
- 2-4 『野ばらの森の乙女たち』~「なかよし」で連載されていて人気を博した全寮制の学舎で繰り広げられる女子同士の繊細な三角・四角関係劇
- 2-5 『ひみつの階段』~ファンタジー要素もアリの90年代女学園もの作品の傑作にして俊英・紺野キタの代表作
- 3、まとめ
1、「百合」で「女学園」ものってどんな漫画?
「百合」とは何かという部分は突き詰めていくと難しい部分ですので、今回の記事では女子同士の「関係性」を描いている作品……くらいのゆるめの定義で進めさせて頂きます。
恋愛関係なのか、友情の範囲なのかという点にもこだわらず(最近ですと、恋愛か恋愛じゃないかの二分法で区分するのがそもそも乱暴なのだといった議論もあったりします)、かなり広い意味での女子同士の人間関係劇を描いている作品から選ばせて頂いております。
その上で「女学園」ものというのは、ざっくりとは「女子校を舞台にしている作品」としてとらえて頂けたらと思います。
気になる先輩、同級生、ロザリオ、寄宿舎、揺れるタイとプリーツスカート……といったイメージの女子校が舞台の作品も、漫画の前に少女小説にまで遡ることができる歴史が古いジャンルですが、今回は昔のものから最近のものまでバランスよく選ばせて頂いたつもりです。
2、清廉な乙女の園にトリップできるおすすめ女学園もの百合漫画5作品を紹介
鋭く突き刺さってくるような作品、温かい気持ちになれる作品、大事なことを教えてくれる作品、愛を信じたくなるような作品、歴史を感じられる作品……と色とりどりに取りそろえてみました。
これは! とピンとくる作品に出会って頂けたら幸いです。
2-1 『繭、纏う』~“ねぇ 制服が息する音 聞いたことある?”……3万リツイートに至った美麗な筆致で描かれるWEBで話題の最新女学園もの百合作品
一つ目は、『繭、纏う』。
著者 | 原 百合子 |
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出版社 | KADOKAWA |
掲載雑誌 | 月刊コミックビーム |
巻数 | 単行本1巻(2019年3月時点) |
●『繭、纏う』ってどんな漫画?
原百合子先生が描くガールズラブ作品です。
導入部分を公開したTwitterでの告知ツイートが、2019年3月現在、3万リツイートを超えています。
『ねぇ 制服が息する音 聞いたことある?』私たちの制服は…
少女×制服×??…① pic.twitter.com/hUFZ5iMAcy— 原百合子*繭、纏う9月12日発売 (@yurixxko) 2018年9月22日
繊細かつ強い描線で、謎めいた物語と、絡み合う少女たちの想いが描かれていきます。今、イチ推しの作品です。
舞台は「星宮女学園」。
都心から電車で2時間。白樫の木に見守られる深い林に囲まれた「楽園」には、ある「秘密」があります。
鈴を転がすような声、寄宿舎、歴史がある制服、少女たちを見守る白樫の木、完成されているかのような「女学園」の世界ですが、ある「事件」をきっかけに、「学園」の「秘密」と少女たちの秘めたる想いが動きだし、絡まり出します。
一ページ、一ページに凝縮されている絵の「純度」のようなものに、息を呑む作品です。
●おすすめポイント
ちょうどTwitterでも話題になった箇所ですが、この1ページ目に、本作の魅力が十全に詰まっています。
(『繭、纏う』1巻 原百合子/KADOKAWA より引用)
「髪」が大事なモチーフの作品なのですが、髪と髪が擦れ合う音まで聴こえてきそうな、絵という媒体に音や匂いまで閉じ込めてしまったかのような技巧が垣間見える作品です。
加えて、ミステリアスなストーリーと魅力的なキャラクターたちが読者の心を掴みます。
印象的な登場人物が多い本作でも、物語を、そして読者の興味を引っ張っていくのは、現在では寮の部屋に引きこもっていて姿が目撃されない謎めいた生徒、「星宮さん」。
(『繭、纏う』1巻 原百合子/KADOKAWA より引用)
学園長の孫娘だという彼女が何者なのか? が物語のけん引力の一つになっています。
なんと、第1巻時点では「星宮さん」は顔・表情が明確には描かれないという徹底した「謎のキャラクター」っぷりです。
学園の「王子様」である佐伯華(さえき・はな)と、「星宮さん」が邂逅する場面は第1巻の山場の一つです。
左:佐伯華、右:「星宮さん」。
(『繭、纏う』1巻 原百合子/KADOKAWA より引用)
出会うべくして出会ったような印象もある華と「星宮さん」。
女学園での女子同士の人間関係劇を描くという、女学園ものの百合作品としてはオーソドックスなストーリーとも捉えられるのですが、本作を唯一無二足らしめている点に、徹底した「髪」というモチーフへのこだわりがあります。
やや、内容のネタバレになりますが、本作は舞台となる「星宮女学園」では「制服が少女の髪で作られている」というのが一つのキーになる作品だったりします。
「髪」を「少女性」のシンボル(象徴)と読み解いてみるなら、この設定には「少女が少女を纏う」というような意味合いがあるのではとライターは解釈していたりします。
(『繭、纏う』1巻 原百合子/KADOKAWA より引用)
個人的に百合の魅力は、表層的な男女の性差を超えて存在と存在が共鳴していく感じにあるんじゃないかと思ってたりしますが。
本作は「髪」というシンボルを媒介にした、「少女」にまつわる哲学的な存在論のような趣さえあります。
ちょっとエッジが効いた百合を読みたい方に、自信をもっておすすめしたい一作です。
2-2 『マリア様がみてる』~お姉さま、姉妹(スール)、ロザリオ……メガヒットした00年代百合作品の金字塔を漫画でも
二つ目は、『マリア様がみてる』。
著者 | 原作:今野緒雪 漫画:長沢智 |
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出版社 | 集英社 |
掲載雑誌 | マーガレット |
巻数 | 単行本11巻(2019年3月時点) |
●『マリア様がみてる』ってどんな漫画?
原作は、今野緒雪先生が書かれた2000年代に大ヒットしたコバルト文庫の小説作品です。
アニメ化もあり一大ブームになったので、お姉さま、姉妹(スール)、ロザリオの授受……などといった要素はかなり有名で、一昔前だと「百合」というとこの作品だという方も多いと思います。
今回紹介する漫画版は、原作小説のコミカライズ版という位置づけになります。
舞台は、幼稚舎から大学までの一貫教育が受けられる、純粋培養の乙女たちが集う伝統校「私立リリアン女学園」。
清く正しい学園生活を受け継いでいくために、高等部には「姉妹(スール)」と呼ばれるシステムが存在しています。
ロザリオを授受する儀式を行って「姉妹(スール)」となることを誓い合った二人は、学園生活を共にし、姉である先輩が後輩の妹を指導していきます。
比喩としての「婚姻」も意識されるような「姉妹(スール)」という関係を基軸に、思春期の女子同士の人間関係劇が描かれていきます。
●おすすめポイント
舞台は東京都下、武蔵野の面影が残る「私立リリアン女学園」。
(『マリア様がみてる』1巻 今野緒雪・長沢智/集英社 より引用)
僕が『マリア様がみてる』で好きなのは、人間関係が構築されていく過程がとても丁寧に描かれている部分です。
お互いがいきなり分かりあえた! とかではなく、少しずつ人間関係が進展していく様子が漸進的に描かれていきます。
ロザリオの授受を交わした姉妹(スール)を中心に沢山のカップルが登場する本作ですが、人間関係の進展の過程はおおむね次の3ステップで捉えられます。
- 1. お互いにお互いを表面的なイメージでしか見ていない段階
- 2. お互いに相手に当初イメージしていたものとは違う部分があったと気づいていく段階
- 3. お互いに表面的なイメージだけでなく、その人の本来の姿をありのままに理解した同士で信頼関係が構築されていく段階
です。
第1巻の主人公の福沢祐巳(ふくざわ・ゆみ)と小笠原祥子(おがさわら・さちこ)の姉妹(スール)が成立するまでの過程を、この3ステップで見ていくと、とても丁寧に描かれているのが分かります。
左:福沢祐巳、右:小笠原祥子。
(『マリア様がみてる』1巻 今野緒雪・長沢智/集英社 より引用)
まず、最初のステップ。祐巳から見て、小笠原祥子さまへのイメージはとても高貴で気高いものに偏っています。
(『マリア様がみてる』1巻 今野緒雪・長沢智/集英社 より引用)
ですが、少しずつ祐巳にも、祥子さまの完璧じゃない部分・けっこう面白い人な部分も見えてきます。2つ目のステップですね。
(『マリア様がみてる』1巻 今野緒雪・長沢智/集英社 より引用)
いくつかのイベントを少しずつ重ねて、祐巳は(完璧じゃない部分も含めて)祥子さま本来の姿が見られるくらいにまで……3つ目のステップにまで辿り着きます。
ロザリオの授受が行われるのは、だいたいこの3ステップ目の段階ですね。
(『マリア様がみてる』1巻 今野緒雪・長沢智/集英社 より引用)
『マリア様がみてる』は色々と読者さんたちの間で考察もさかんだった作品で、ロザリオの授受は、現実でいうなら結婚や婚約の比喩なのだろうという考察・解釈も『マリア様がみてる』のファンの間では有名だったりします。。
現実の恋愛(異性同士、同性同士を問わず)の過程に当てはめながら読んでみるのも面白いかもしれません。
祐巳と祥子以外にも、本作にもたくさんの魅力的なキャラクター&カップルが登場します。
それぞれのカップルが、どのような心情の変化を辿りながら、ロザリオの授受にいたるのか。
徐々に距離感が進展していく瑞々しい過程の全てを、堪能して頂けたらと思います。
2-3 『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』~宝塚ファンも注目の「舞台少女」を描くアニメ作品のコミカライズ
三つ目は、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』。
著者 | 脚本:中村彼方 漫画:轟斗ソラ |
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出版社 | KADOKAWA |
掲載雑誌 | 電撃G’sコミック |
巻数 | 単行本2巻(2019年3月時点) |
●『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』ってどんな漫画?
『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』自体は、「二層展開式少女歌劇」を謳い(リアルの)「ミュージカル(舞台)」と「アニメーション」が同時展開する大規模プロジェクトです。
スマートフォン用ゲーム『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -Re LIVE-』(通称「スタリラ」)へとも展開は広がっていますし、一方舞台版の方は宝塚歌劇団で多くの演出を手掛けた児玉明子氏が演出として参加されていることもあり、従来のアニメファンのみならず宝塚ファンも観劇にくるなど、幅広くムーブメントになっている作品です。
(アニメーション版でキャラクターを演じる声優さん本人が、舞台版でも同じ役(キャラクター)を演じているのが話題のプロジェクトだったりします。)
(画像は舞台『少女☆歌劇 レヴュースタァライト-The LIVE-#2 Transition』フライヤー より)
今回紹介する漫画『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』は、その中でアニメ版の「前日譚」いう位置づけになっている漫画作品です。
プロジェクトの全容は「物語」としてもかなり壮大なものになっているのですが、漫画『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』に関しては、本作単体でも百合っぽい女学園もの作品として楽しめるテイストなので、今回選ばせて頂きました。
未来の舞台女優「舞台少女」を目指す少女たちが集まる「聖翔音楽学園」を舞台に、それぞれに物語を抱えた九人の少女たちの人間関係劇が描かれていきます。
●おすすめポイント
まず、本作は「舞台」が題材ということもあり、劇中の「聖翔音楽学園」に所属する「舞台少女」たちは、(舞台の)「役」という限られた椅子を「競争」で争い合う関係にあります。
(『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』1巻 中村彼方・轟斗ソラ/KADOKAWA より引用)
女子同士の百合っぽい人間関係が描かれるといっても、ただ仲良くしているだけでもいられない……という舞台設定が物語のスパイスになっています。
一方で、「舞台少女」たちは競争相手として敵対しているだけでもありません。同じ学園、同じ寮に住む仲間として、情愛のような感情もお互いに持っています。
舞台少女たちは争い合う関係でありながら、同時にお互いへの親愛のような横の繋がりも持っている。この一見矛盾する感情を抱かざるを得ない環境に「舞台少女」たちはいるという状況だけでも、かなり繊細な人間関係が描かれていくのだろうというのが伝わるかと思います。
各話ごとにメインの登場人物が変わるオムニバス形式の本作ですが、今回は作品のエッセンスが詰まっている星見純那(ほしみ・じゅんな)と大場なな(だいば・なな)のエピソードを軽く紹介させて頂きます。
クラスの「委員長」に純那と。
(『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』1巻 中村彼方・轟斗ソラ/KADOKAWA より引用)
ななの二人が立候補するのですが。
(『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』1巻 中村彼方・轟斗ソラ/KADOKAWA より引用)
これは、純那とななで「委員長」という一つの「椅子」を「競争」で奪い合うというシチェーションと捉えられます。ちょうど、「舞台少女」たちがオーディションで一つの「役」を「競争」で奪い合うように。
なのですが、幼稚園での実習中。
ななが、純那が集団からあぶれていた(これもある意味「競争」で敗れていた)一人の女児を気にかけていたのにハっとする場面が描かれます。
(『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』1巻 中村彼方・轟斗ソラ/KADOKAWA より引用)
この女児にななは「かつての孤独だった自分」を重ねます。
(『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』1巻 中村彼方・轟斗ソラ/KADOKAWA より引用)
この出来事を通して、ななは「委員長」を辞退します。(「競争」からは自分から降りたということ。)
(『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』1巻 中村彼方・轟斗ソラ/KADOKAWA より引用)
「競争」し合う者同士であるという立場を超えて、(かつての自分のような)孤独を見過ごせない……という点で共感し合ってしまうという、純那とななの独特の関係。本作ではこういった叙情的な女子同士の関係を堪能して頂けたらと思います。
2-4 『野ばらの森の乙女たち』~「なかよし」で連載されていて人気を博した全寮制の学舎で繰り広げられる女子同士の繊細な三角・四角関係劇
四つ目は、『野ばらの森の乙女たち』。
著者 | 白沢まりも |
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出版社 | 講談社 |
掲載雑誌 | なかよし |
巻数 | 単行本2巻(2019年3月時点) |
●『野ばらの森の乙女たち』ってどんな漫画?
『なかよし』で連載されていた、まさに本記事で注目しているところのストレートな「百合」で「女学園」な雰囲気の作品です。
作者の白沢まりも先生もコミックス第1巻のコメントで「ずっと描いてみたかった女子校が舞台のお話。テーマ的には「なかよし」で描けるとは思ってなかったのですが…(^_^;)」と述べられており、当初から「百合」(という言葉を直接は使ってませんが、少女同士の友情・恋愛)を『なかよし』でやってみようというコンセプトもあったと思われる作品です。
舞台は広い敷地を野ばらが埋め尽くすように咲いている、明治から続く由緒ある名門お嬢様校「私立音羽女学院」。
主人公の西園寺初美(さいおんじ・はつみ)と幼馴染の穂波さくら(ほなみ・さくら)が学園に入学するところから物語は始まります。
右:西園寺初美、左:穂波さくら。
(『野ばらの森の乙女たち』1巻 白沢まりも/講談社 より引用)
初美は先輩の三条泉(さんじょう・いずみ)と出会い、徐々に惹かれていって……というところから物語が始まり、瑞々しく入り組んだ女子同士の人間関係劇が描かれていきます。
●おすすめポイント
今回紹介している作品の中では、描かれる少女同士の人間関係がけっこうドロドロしている作品です(笑)。
まず、主人公の初美は「王子さま」のような先輩の泉に憧れを抱きます。
(『野ばらの森の乙女たち』1巻 白沢まりも/講談社 より引用)
そんなこんななうちに、泉先輩が同じ「音羽の華(ソーシャライツ)」という称号で呼称されている旧華族の令嬢・白川繭子(しらかわ・まゆこ)さんとキスしてる現場を初美とさくらの二人で目撃しちゃったりします。
(『野ばらの森の乙女たち』1巻 白沢まりも/講談社 より引用)
ちょっと面白いのは、泉先輩と繭子さんがキスしてる現場を目撃して、興奮して(たぶん)初美とさくらの方が盛り上がっちゃったりとか。
(『野ばらの森の乙女たち』1巻 白沢まりも/講談社 より引用)
表面的には平静を装いつつ、初美の幼馴染のさくらは初美のことが好きで、初美が泉に憧れを抱くのは内心快く思いません。
(『野ばらの森の乙女たち』1巻 白沢まりも/講談社 より引用)
序盤のこの辺りまでを見ても、けっこう人間関係がドロドロです。
ただ、本作の三角関係・四角関係的なドロドロ部分はそんなにも嫌な感じのニュアンスはなく、年相応の少女としての弱さや心の揺れ、時にズルさなどから生まれる人間関係劇を、素朴に描いているという印象です。
黒を描けば、白が映えるわけでして。
ドロドロパートは、黒の部分に相当します。つまり最後に、きらめきのような美しい白が描かれます。
黒の混迷の後に、純粋な白に気づくというような。
だいぶ終盤のシーンになってしまいますが。
(『野ばらの森の乙女たち』2巻 白沢まりも/講談社 より引用)
『野ばらの森の乙女たち』は、ドロドロの果てに真実の愛にいたる物語だと熱を持って語りたいと思います。
最後に初美が辿り着く「真実の愛」の相手が誰なのか? コミックス二巻分で描かれる百合を通した愛の話を目撃して頂けたらと思います。僕は泣きましたよ……。
2-5 『ひみつの階段』~ファンタジー要素もアリの90年代女学園もの作品の傑作にして俊英・紺野キタの代表作
五つ目は、『ひみつの階段』。
著者 | 紺野キタ |
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出版社 | ポプラ社 |
掲載雑誌 | コミックFantasy |
巻数 | 単行本全2巻 |
●『ひみつの階段』ってどんな漫画?
俊英の少女漫画家、紺野キタ先生の代表作の一つです。
祥華女学院という学校の寄宿舎を舞台に、幻想、少女たちの想いなどが描かれている短編の連作作品です。
寄宿舎自体が主役といった趣もあり、寄宿舎に見守られる少女たちが時に時空を超えて邂逅したり、幻想的な物語が繋がりながら綴られていきます。
作品の発表は90年代ですが、コミックスも版を変えて何回か出版されており、「女学園」を舞台にした作品としては既に歴史に残る名作的な位置づけになっている作品です。
●おすすめポイント
百合作品に焦点をあてた今回の記事で紹介しておりますが、作品のコアは「現実」と「空想(幻想)」(そしてその「境界」)のようなテーマを描いている部分にある作品です。
女学園の寄宿舎を舞台に、作品のタイトルにもなってる「階段」あるいは「扉」のような場所が、「現実」と「空想(幻想)」の「境界」のような場として描かれます。
(『ひみつの階段』1巻 紺野キタ/ポプラ社 より引用)
作品全体で中心的に描かれるキャラクターたちは共通しながらも、各話ごとに焦点があたる登場人物は変わるオムニバス形式の本作ですが、今回は収録作の中でも文芸的な百合エピソードとして名高い「Diary~ダイアリー~」を軽く紹介させて頂きます。
舞台は「祥華女学院」。
エピソードの主人公・大西洋海(おおにし・ひろみ)が遅れて入学してくるところからエピソードは始まります。
(右:エピソードの主人公の大西洋海)
(『ひみつの階段』1巻 紺野キタ/ポプラ社 より引用)
洋海が「祥華女学院」を目指すきっかけになった従妹の叶(かの)ちゃん。
ある日、洋海は叶ちゃんが昔「祥華女学院」に通っていた頃、恋していた少女がいたという話を聞きます。
この叶ちゃんの同級生の少女への恋心を述懐している部分が、「百合」というものを詩情的に言葉にしている点で名文なので引用してみます。
(『ひみつの階段』1巻 紺野キタ/ポプラ社 より引用)
切ないのは、これだけ美しい恋心を抱いていた叶ちゃんも、今では大人になって間もなく結婚する……という部分です。
そして、ややエピソード後半のネタバレになりますが、主人公の洋海自身が、実は叶ちゃんに恋心を抱いているのが明らかになります。
(『ひみつの階段』1巻 紺野キタ/ポプラ社 より引用)
そして、ここからが真骨頂ですが、洋海と「叶ちゃんが恋心を寄せていた少女」が、「祥華女学院」内の不思議な空間で邂逅します。
(『ひみつの階段』1巻 紺野キタ/ポプラ社 より引用)
叶ちゃんが「祥華女学院」に在籍していたのは「過去」なので、「恋心を寄せていた少女」が在籍していたのも「過去」。本来であれば「今」を生きている洋海が出会うはずがありません。
ですが、『ひみつの階段』では他のエピソードも含めて、しばしば学園内に時々現れる幻想的なファンタジー空間で、時間を超えて人と人が出会う、というのが描かれます。
こういったファンタジー的な要素が立ち現れる幻想空間は、別のエピソードではケルト神話の「ティル・ナ・ノーグ」になぞらえられており、幻想的な世界を生きる少女のことが「ティル・ナ・ノーグの住人」と表現されていたりします。
(『ひみつの階段』1巻 紺野キタ/ポプラ社 より引用)
子どもの頃の空想と現実の境界が曖昧だったような、フワフワとした感覚を切り取っているような表現で、「現実」に「空想」的なファンタジーが、不意に、だけど自然に貫入してくる独特の感覚に酔ってほしい作品です。
百合要素に関しては、少女同士の恋を、一時の「幻めいたもの」としてそういった「現実」と「空想(幻想)」(とその「境界」)という作品のテーマに重ねて描いているのだと個人的には解釈しております。
「今」を生きる洋海と「過去」の少女が邂逅して、何が起こるのか? 洋海の叶ちゃんへの恋心はどうなるのか? エピソードのラストがとても美しいので、是非「Diary~ダイアリー~」本編を読んで頂けたらと思います。
3、まとめ
今回の記事では「百合」で「女学園」ものな漫画作品を5作品紹介させて頂きました。
- 美少女の長い黒髪で、心まで絡めとられるのもヨシ。
- 「姉妹(スール)」という「特別」な繋がりに想いを馳せるのもヨシ。
- 「舞台少女」たちの克己と情愛に胸躍らせるのもヨシ。
- 野ばらの森に咲く秘密の恋を見守るのもヨシ。
- 幻想と現実の境目がフワフワしていた子供時代の感覚に酔い直すのもヨシ。
どれか一つでもピンとくる作品に出会って頂けて、あなたの百合漫画ライフがますます満ち満ちてゆくきっかけになれたりしたなら、一百合漫画好きとしても幸いなのでした。
相羽裕司(あいばゆうじ)
実は、今回の記事がけっこうご好評頂きまして。
引き続き、「百合漫画」でおすすめの作品を紹介する記事を同ライターが書かせて頂いております。
次は年代別編で、まずは2000年代編がこちらとなります。
時間の流れが今よりもまだゆっくりだった頃の百合作品を、有名な大ヒット作から、僕が推したい知る人ぞ知る傑作まで紹介させて頂いておりますので、合わせてお読み頂けたら幸いです。↓
そして、
「女学園もの」作品のように一定の様式(モード)にのっとって優美な世界が描かれる百合作品も良いですが、時にはあらゆる形式を吹っ飛して自由自在でユニークな作品を読んでみたくなることもあります。
「百合」漫画に関して、同ライターが、
- 「地底人や悪魔が出てくる!?」
- 「時空を超えたりもしちゃう!?」
- 「でもとても温かくて幸せな日常を描いてる話!?」
な超展開百合ハーレムコメディ漫画『ちかのこ』の紹介記事も書いていたりしますので、合わせてお読み頂けたら喜びます。↓
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