どうも。マンガタリライターの相羽です。
女子同士のしっとりとした関係性を描く作品から、ゆるカワイイ! な楽しい日常を描く作品まで、近年表現として豊かに親しまれている百合作品。
かくゆう僕も大好きで、かれこれ二十年くらいは百合作品を追ってるなという状態なのですが。
前回、
という記事を書かせて頂いたところ。
ありがたいことに、記事を公開してからこれまで、
- 良かったと感想を頂いた
- Twitterで沢山RTしたりふぁぼしたりして頂いた
- 記事を読んで、私としても『ピエタ』も『飴色紅茶館歓談』も外せない! と語り始めてくれる方に出会った
といった反応を頂きました。
おおむね好評だったようなので、引き続き年代別のおすすめの百合漫画について書かせて頂きます。
今回は前回からさらに時間が流れた、2010年代編をお贈りさせて頂きます。
2010年代という時代に想いを巡らせてみますと、前回の2000年代頃に比べて、我々が触れるメディアがとても多様化したな~というのがあります。いよいよ情報伝達の手段として、スマホ、SNS、電子書籍! などなどが本格的に普及する時代になってきます。
社会的な大きな出来事としては、2011年に東日本大震災があり個人的にも宮城県で被災しましたが、当時はスマホのTL上に伝わってくる暗いニュース・明るいニュースの合間に、漫画家さんがTwitterに投稿する応援イラストも流れてきてちょっとだけ前向きな気持ちになれたりしたのを覚えております。
Kindle(キンドル)の日本での最初の発売が2012年ですが、10年代を通して漫画を紙の書籍だけでなく電子書籍で読むという読書形態も、かなり一般的になってきました。
「いつでもどこでも」が普及してきた分、娯楽に関しても刹那(せつな)的でもありつつ、気軽で軽やかに触れられる状況が出現してきているように思います。
そんな2010年代も通して、長年「百合」ジャンルの近くに生息していた者からの簡単な作品回りの雰囲気なんかも、一言二言そえさせて頂きながら紹介させて頂きます。
へぇ~、2010年代、こんな百合漫画が(も)あったんだ~と思って頂けたり、できれば実際に手に取って紹介してる作品を読んで頂けたりしたらとても喜ぶのでした。
1、2010年代は『やがて君になる』など大作からネット発表作まで咲く百合漫画百花繚乱時代である
2010年代の『百合漫画』がどういう状況かというと、メディアが多様になった状況に合わせて、各メディアそれぞれで色とりどりな百合作品が咲いている状態と捉えたいです。
商業の漫画雑誌というこれまでの漫画の主戦場にも百合作品があれば、スマホのアプリゲーム内でもショート百合漫画が読め、SNSを開けばTwitterでサクっと読める百合漫画もタイムラインに流れてくる、右を向いても左を向いても「百合」くらいの勢いを感じる百花繚乱時代です。
なお今回の記事でも、「百合」に関しては恋愛関係なのか、友情の範囲なのかという点にはこだわらず女子同士の「関係性」を描いている作品……くらいのゆるめの定義で進めさせて頂きます。
(読み手側から感じられる範囲での「百合っぽい」作品くらいも取り上げさせて頂いております。)
しっとりとした心理描写に胸を掴まれる作品、明るくて幸せになれる作品、耽美な世界にトリップできる作品、などなどを、メディアの展開とリンクして百合が咲き乱れている頃のワクワク感と共に紹介できたなら幸いです。
2、2010年代の注目百合漫画5作品を大ヒット作からネットで人気の知る人ぞ知る傑作まで紹介
今回は、2010年代に本っ当に大きいムーブメントになっているからこれは押さえておきたいといった作品から、そこまで大きなウェーブの作品として認知されてはまだいないかもしれないけれど、僕が大好き過ぎるWEBを中心に展開されてる面白い漫画なので是非紹介したいという作品まで、バランスよく選ばせて頂いたつもりです。
2-1 『やがて君になる』雑誌連載からアニメ化で同時代人の共有体験を紡ぐ実存的な10年代の傑作
一つ目は、『やがて君になる』。通称、『やが君』。
著者 | 仲谷鳰 |
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出版社 | KADOKAWA |
掲載雑誌 | 月刊コミック電撃大王 |
掲載期間 | 2015年 – 2019年 |
巻数 | 単行本7巻(2019年9月時点) |
●『やがて君になる』ってどんな漫画?
『月刊コミック電撃大王』で連載されている、仲谷鳰(なかたに・にお)先生による百合作品です。
漫画が作り手から読者にどのように届いていくかという点では様々な手法・メディアが行き交っている2010年代において、商業漫画雑誌で連載からアニメ化でさらに知られるようになる……と、比較的王道の広がり方を見せてきた作品です。
メディアが様々になって、人それぞれが様々なものを見ているという2010年代は、逆に言うとお互い違うものを見ていて意外と共通の話題がないという状況が発生したりするのですが、僕の体感だと『やがて君になる』は百合ファンだとまずは読んでる人が多い。百合好きの人たちの今ではわりと貴重な「共有体験」になってる感じです。
(『やがて君になる』1巻 仲谷鳰/KADOKAWA より引用)
人に恋する気持ちが分からない――誰のことも「特別」と思うことができない小糸侑(こいと・ゆう)が、生徒会の先輩・七海燈子(ななみ・とうこ)と出会うところから物語は始まります。
生徒会の手伝いを続けていた侑はある日、燈子自身の戸惑いの中でキスと告白を受けます。侑は(たとえば燈子を愛するというカタチで)誰かを「特別」だと思うことはできるのか。「特別」であろうと孤高である燈子が背後に抱えているものは何なのか。
一見完璧な人間である燈子は、「特別」を求めない人間だからこそ侑を求めて。でも人を愛するということはその人の「特別」でありたいと願う気持ちと鏡合わせのようでもあり。二人の「関係性」を中心に物語は展開されていきます。
●おすすめポイント
繊細で細やかな心理描写、描かれる瑞々しい空気感・世界観だけで読んでいて満たされていくのですが、加えて個人的にはかなり哲学的な漫画でもあるよなという点を推したいです。
侑も燈子も、物語序盤では「自分とは」という点に課題を抱えていて、これは難しい言葉を使ってみるなら「実存」や「アイデンティティ」の問題です。
侑はおそらくは自身の本質として、誰のことも「特別」だとは思えない。
一方、燈子は「特別」であろうと努力を重ねてきたのですが、けっこう無理をしていて、自分自身を肯定できない。ゆえに「特別」を要求しない侑に惹かれていく……序盤だけでもとてもエッジが効いています。
(『やがて君になる』1巻 仲谷鳰/KADOKAWA より引用)
侑の誰かを「特別」と思えないにしろ、
燈子の本来の自分を肯定できないにしろ、
広くは孤独に根差しながら、2010年代を生きる同時代人の感覚を切り取っているのではないか、というのは飛躍した捉え方に過ぎるでしょうか。
瑞々しくて清廉で。でもどこか等身大で。そしてかなり哲学的でもあるこの美しい物語を、是非ぜひ追ってみて頂けたら嬉しいのでした。
2-2 『ちかのこ』Twitterで日々スマホに届く日常併走型の異種族同居百合ハーレムコメディ愉快作
二つ目は、『ちかのこ』。
著者 | らぐほのえりか |
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出版社 | 廣済堂出版 |
掲載雑誌 | pixivコミック(MANGA pixiv)/『E☆2(えつ)』 |
掲載期間 | 2015年 – |
巻数 | 単行本4巻(2019年9月時点) |
●『ちかのこ』ってどんな漫画?
らぐほのえりか先生が描く、「日常」と「非日常」が行き交うちょい百合ハーレムコメディ漫画です。
「pixivコミック(MANGA pixiv)」で話の区切りごとのまとめを連載しつつ、ほぼ毎日(土日以外)1PずつTwitterで更新されていた漫画で、日々スマホに届く楽し気なキャラクター達のちょい百合な日常が、日本の疲れた(え)社会人の皆さんの心のお守りになっていたりしたのでした。
【毎週月~金更新】
らぐほのえりか『ちかのこ』第501回@ragho_net #ちかのこ
▼最新話モーメントhttps://t.co/VMKosZ6TUT
▼まとめ読みhttps://t.co/wbQsZeMV5M pic.twitter.com/grKExtjvQi— MANGA pixiv (@mangapixiv) September 18, 2017
普段はちょっと陰キャな女の子である主人公の千条ノコ(ちじょう・のこ)ですが、数奇な運命か何かの縁か、東京都と埼玉県の間にありそうななさそうな謎の街「狭間町(はざまちょう)」にある通称「ノコハウス」で、いつの間にやら地底人のチカたちと少し不思議な異種族同居暮らしを始めていくことになります。
天上人のポイ、地上人(?)のマキナ、悪魔のメア、黒猫のクロ、などなど、徐々に一緒にいることになる種族の違う女の子が増えていって、かつ皆ノコのことが大好きになっていきます。
成功とか勝利とか大金とかとはそこまで縁がないかもしれないけれど、何となく「幸せ」を目指して大事な友達たちと一緒に過ごしていくちょっと不思議でかけがえのない日々が綴られていきます。
●おすすめポイント
女の子しか出てこない(ちょっと)エッチで百合百合してる日常系作品が読みたい! ……というらぐほのえりか先生と読者のみんなの愛の爆発の中心にいつも何となくある感じの作品です。
劇中で天上人のポイも叫んでいます。
(『ちかのこ』4巻 らぐほのえりか/廣済堂出版 より引用)
通称「ノコハウス」で一緒に暮らしてるキャラクターの面々は、「仲良し」なのがイイ感じです。
カロリーが高いシナリオや重い心理描写の作品ももちろんそれぞれ素晴らしいですが、僕など特にお疲れ気味な状態の時は、ただ何気なく明るく楽しく「仲良し」な風景に触れたいという気持ちになることもあります。
僕的に作中で「仲良し」度数が高い(気がする)名エピソードというと、こちらです。
ある日、おもむろにパリピみたいなことがしたいと言い出すノコ(普段は陰キャな子)。
(『ちかのこ』3巻 らぐほのえりか/廣済堂出版 より引用)
一人くらい斜に構えたり、真顔で突っ込みを入れたりする子がいそうなものですが、この時はみんなノリノリです。
仲イイな! という感じで、このキャラクター達が芯の部分で明るい感じは本作の大きな魅力です。
現在(2019年時点)はTwitterでの(ほぼ)毎日更新から、雑誌『E☆2(えつ)』でまとまったエピソードが掲載されるように移行しておりますが、メインエピソードの雑誌連載にとどまらず、WEBでのイラストの公開、即売会イベントでの同人誌版の頒布などなど……といった状態で。
作品の発表形態が天衣無縫(てんいむほう)になっていて、自由な感じはなおさら『ちかのこ』らしい! と個人的には思ってます。
ファンたちの間では、「日常」をチカたちと一緒に歩いてる感覚は今でも続いてたりします。
最近はいついつ更新とフォーマットが決まってるわけではないのですが、たとえばある日ある朝、おもむろにTwitterに『ちかのこ』1ページ漫画が投稿されたりします。最近話題になったものですと、「トルネード起床」です。
気持ちの上ではこんな感じの「グッドモーニング!」 pic.twitter.com/OoKgYDVwiw
— らぐほのえりか🌟9/16ガルフェス向島03 (@ragho_net) May 16, 2019
『ちかのこ』の主人公のノコ(普段は陰キャな子)が、ものすごい勢いで起床するというこの一枚一筆描き(たぶん)漫画。
意味は分かりませんが、何となく勢いは伝わってきます。
- らぐほのえりか先生が今朝は(たぶん気分的に)トルネード起床したということなのか?
- 野球の野茂英雄(のも・ひでお)投手の「トルネード投法」とは何か関係があるのか?
- 単に何か思いついちゃったから描いてみたのか?
様々にファンたちがざわめく中、沢山の反応がTwitterに寄せられていきます。
おはようございます!
私いつもこうですw— Nano🍊気分転換は大事よ♥️ (@YUI_RITSU_MUGI) May 16, 2019
おはようございます。
最近は朝になると勝手に目が覚めてしまって、目覚ましがなるまで何分あるか確認することが多くなったという…— さがしものさんはジムニー乗り? (@kouginikorasu) May 16, 2019
このベッドのバネが異常か…
ノコちゃんの能力が一時的に解放されているのか…寝るときも使えそう‼️
おはようございます
アラームがなると一瞬で目が覚めてしまうこの日々よ…— クリリン (@GINTAMAGATE) May 16, 2019
スマホで読んでた読者さんたちにも勢いは伝わって、ちょっとトルネード起床は無理かもって人たちも、少しだけ元気になって各々の一日を始めていったりするのでした。
『ちかのこ』はこの日常と共にある感じが、とても素敵な漫画なのです。
『ちかのこ』は現在(2019年9月時点)、
コミックス第4巻収録部分くらいまでは「pixivコミック(MANGA pixiv)」で無料で読むことができます。(コミックス用の描き下ろし漫画やおまけページなどはコミックス版のみの収録となっております)↓
●ちかのこ – pixivコミック(pixivへの登録が必要)
是非、この楽しくて自由な漫画に触れてみて頂けたらと思います。
また、『ちかのこ』に関しては同ライターが掘り下げた紹介記事も書いてますので、興味を持たれた方は合わせてお読み頂けたら幸いです。↓
2-3 『少女歌劇 レヴュー☆スタァライト』アプリ内のミニ漫画も充実な舞台少女を描く大型企画作
三つ目は、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』。
著者 | 脚本:中村彼方 漫画:轟斗ソラ |
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出版社 | KADOKAWA |
掲載雑誌 | 電撃G’sコミック |
掲載期間 | 2018年 |
巻数 | 単行本2巻(2019年9月時点) |
●『少女歌劇 レヴュー☆スタァライト』ってどんな漫画?
『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』自体は、「二層展開式少女歌劇」を謳い(リアルの)「ミュージカル(舞台)」と「アニメーション」の同時展開を軸とする大規模プロジェクトです。
スマートフォン用ゲームアプリ『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -Re LIVE-』(通称「スタリラ」)も人気で、非常に多方面でムーブメントになってる作品です。
当方は漫画メディアなので、プロジェクト全体は大きくかつ他分野に及ぶ『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』ですが、漫画関係の話中心で紹介させて頂きます。
まず、アニメ版の前日譚を描いた『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』が女学園ものの百合っぽい作品としても楽しめてとても素晴らしいので今回はそちらの話を中心に。
幼い頃にお互いの「運命」を交換した愛城華恋(あいじょう・かれん)と神楽ひかり(かぐら・ひかり)の関係を軸としつつ、未来の舞台女優「舞台少女」を目指す少女たちが集まる「聖翔音楽学園」を舞台に、それぞれに物語を抱えた九人の少女たちの細やかな人間関係劇が描かれていきます。
●おすすめポイント
『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』の話の前に一つ、今回「メディア」の話もしている観点から見逃せない、プロジェクトの中ではスマートフォン向けアプリ『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -Re LIVE-』の展開に含まれる、アプリ内一コマ漫画についても注目してみたいと思います。
『スタリラ』はゲーム自体やストーリーも百合(っぽい)的な視点からも素晴らしいのですが、基本的に漫画メディアである「マンガタリ」として触れたいのは、アプリ内に収録されている(ちょい)百合っぽい一コマ漫画です。
(アプリ『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -Re LIVE-』「コミック」 /株式会社エイチーム・TBS・BUSHIROAD・ブシモ より引用)
こういう一コマ漫画がユーザーはいつでも(基本)まとめて読むことができますし、ロード中のちょっとした時間にこういった百合(っぽい)一コマ漫画がスマホの画面に表示されたりもします。
いわゆる(マーケティングで言う)ユーザーの「隙間時間」まで「百合」が奪いに来ている!? この世界はどうなってるの!? という感じですが、ともかく気づけば「百合」は身近にあるくらいの勢いも感じる近年です。
2010年代に隆盛した、キャラクターを集めて、育成する……というスタイルのスマホアプリゲームと、沢山の女の子キャラクターが出てくるという事象とは相性がよく、その結果として女の子同士の関係性を描く機会が増え百合っぽい描写も増えたのではないだろうかと個人的には分析しています。
そんな傾向を代表してもらうカタチで、あとは単に僕が個人的に好きなので、少し『スタリラ』についても紹介させて頂きました。
さて、アプリの中でも一コマ百合(っぽい)漫画が展開されていれば、外でも『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』『舞台 少女☆歌劇 レヴュースタァライト ―The LIVE―』等々といった漫画も展開されています。
個人的なプッシュでもある『オーバーチュア』での星見純那(ほしみ・じゅんな)と大場なな(だいば・なな)の関係については、
の記事で書かせて頂いたので、今回は上で紹介したアプリの一コマ漫画にもでてきた愛城華恋(あいじょう・かれん)と露崎まひる(つゆざき・まひる)の関係について少しだけ紹介させて頂きます。
物語の主人公の華恋とルームメイトのまひるは、「聖翔音楽学園」の試験の日に出会います。
(『少女☆歌劇 レヴュースタァライト オーバーチュア』1巻 中村彼方・轟斗ソラ/KADOKAWA より引用)
無事二人とも合格した後、同室での寮生活の時間を通してまひるはかなり華恋に傾倒していくのですが(現時点:2019年……ではまひるが華恋に想いを寄せるようになる大きなイベントはアニメ版の方で描かれているカタチですが)。
え、でも華恋にはお互いの「運命」を交換した……という破格の設定のひかりという子がいるんじゃないの? と思ったあなた、そうなのです。使い古された言葉を使うなら、華恋、ひかり、まひるの「三角関係」も見所の一つの作品なのです。
「競争」で一つの「役」を争い合うという「舞台少女」の設定と、恋愛で一人の人(華恋)を奪い合うという状況は重ねて描かれていると個人的には解釈しています。
現実の方でも、「競争」で勝利している、自分は成功者で素晴らしい恋愛も成就した! みたいな人の方が少ないと思われるので、「競争」でどちらかというと劣勢のまひると華恋の関係の物語は、かなりのエッジと同時に優しさがあってオススメしたいところです。
あんまり言うとネタバレが大きくなるのでここで背景をあまり語らないでおきますが、舞台版とアニメ版が関係し合いながら、かなり遠大な世界観を作り上げている作品ということもあり。
マクロとミクロが関係し合ってるというか、ああ、宇宙はこんなにも広大なのに、この子にはこの子しかいないんだな……としみじみとしてしまいます。
当方は漫画メディアなので入口として今回『オーバーチュア』を紹介させて頂きましたが、舞台やアニメ、ゲーム等々どの入口から入っても、熱く、そして愛ある世界に繋がってると思うので、是非、各々のタイミングで触れてみて頂けたらと思います。
2-4 『ゆるゆり』アニメが3期作られるファンの熱量が高過ぎなゆる百合ライフを描いた大ヒット作
四つ目は、『ゆるゆり』。
著者 | なもり |
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出版社 | 一迅社 |
掲載雑誌 | コミック百合姫S /コミック百合姫 |
掲載期間 | 2008年 – |
巻数 | 単行本17巻(2019年9月時点) |
●『ゆるゆり』ってどんな漫画?
主に「コミック百合姫」で連載されてきた、なもり先生による「ごらく部」と「生徒会」のメンバーのゆる百合ライフを描いた漫画です。
今回紹介している他の作品と比べますと、特にアニメという媒体のパワーでブーストしてる割合が高めの作品であるという印象を持ってます。テレビアニメが3期作られ、OVAも制作されています。
キャラクターを担当する役者さん(声優さん)たちが出演されるリアルイベントが何回も開かれていて、足しげく通うコアなファンが沢山いる作品です。
私事で恐縮なのですが、僕の友人にも「ゆるゆり先輩」と個人的に呼んでる『ゆるゆり』が好き過ぎる人がいて、2018年末の10周年記念のOVAを盛り上げるためのクラウドファンディングの時に、「会社の帰りに車を運転しながら、最高額のコースに申し込もうと覚悟を決めた、でも、家に帰ってきた時には(最高額のコースは)もう売り切れていた」と仰っておりました(結局最高額のコースとは別のコースで支援したそうです。)。好きな人は、本っ当好き! という周囲に愛が溢れてる作品ですね。
2018年に行われたクラウドファンディング『【ゆるゆり10周年記念】OVA「ゆるゆり、」盛り上げプロジェクト!』は87,936,374円、4567人のパトロンが集まる(2019年9月確認時点)など大成功して、OVAの盛り上げ他(おそらく)様々な展開など、ムーヴメントは2019年現在も続いています。
「あらすじ……って必要かな?」……と単行本(新装版)の裏表紙に書いてある感じの作品で、タイトルの通り、女の子同士のゆるく百合な感じの日常が描かれながら、みんなが明日からも元気に生きていけることを祈念してる感じの作品です。
●おすすめポイント
個人的な推しポイントは、主人公近辺の「ごらく部」ではなく作中でのもう一つのコミュニティ「生徒会」のキャラクターとなりますが、古谷向日葵(ふるたに・ひまわり)と大室櫻子(おおむろ・さくらこ)の関係です。
向日葵と櫻子は普段はよくケンカしているのですが。
(『ゆるゆり』1巻 なもり/一迅社 より引用)
要所要所でお互いを大事にしているというか、何だか百合っぽい関係になります。
(『ゆるゆり』1巻 なもり/一迅社 より引用)
仲が悪いはずなのに、何故か一緒に帰ったりもします。(笑)
表面的には反目しているのだけど、深いところでは実は……(お互い好き!?)というのは古来からの胸キュンなシチェーションであるところかと思うので、存分に悶えたり癒されたりしてみて頂けたらと思います。
漫画本編ではないのですが、巻末(紙の新装版第1巻末)のこちらの広告にも『ゆるゆり』スピリットみたいなものが現れているような気がしております。
(『ゆるゆり』1巻 なもり/一迅社 より引用)
『ゆるゆり』という作品単体のというより、『コミック百合姫』という雑誌の心意気という感じですが。
前回の記事で2000年代に百合専門誌である『コミック百合姫』などが発刊され始めたという話を書きましたが、2000年代に萌芽した「コミック百合姫」的な想像力が一つ花開いてる印象があります。
この文章を書いてるライター本体も、けっこう大変なことはあるよな~という日々を生きておりますが、本当、「いいこと」はあるかもしれないので、『ゆるゆり』とか読みつつ生きていきたいと思っております。
2-5 『繭、纏う』SNS経由で女学園が舞台の伝統的な想像力も発展させてゆく清廉で謎めいた作品
五つ目は、『繭、纏う』。
著者 | 原 百合子 |
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出版社 | KADOKAWA |
掲載雑誌 | 月刊コミックビーム |
掲載期間 | 2018年 – |
巻数 | 単行本2巻(2019年9月時点) |
●『繭、纏う』ってどんな漫画?
原百合子先生が描くガールズラブ作品です。
導入部分を公開しているTwitterでの告知ツイートが、2019年9月現在、3万リツイートを超えています。
『ねぇ 制服が息する音 聞いたことある?』私たちの制服は…
少女×制服×??…① pic.twitter.com/hUFZ5iMAcy— 原百合子*繭、纏う9月12日発売 (@yurixxko) 2018年9月22日
同じ「百合」の伝統的な想像力である「女学園もの」というくくりで捉えるなら、前回の記事で紹介した2000年代の金字塔作品『マリア様がみてる』が「雑誌コバルト」と「コバルト文庫」という紙の文化で初期は展開されていたのに比べると、とても2010年代的な広がり方だな~という印象を持っております。
舞台は「星宮女学園」。
都心から電車で2時間。白樫の木に見守られる深い林に囲まれた「女学園」は、どこか「秘密」めいていて。
鈴を転がすような声、寄宿舎、歴史が感じられる制服・寄宿舎、少女たちを見守る白樫の木、全てが方正であるかのような「女学園」の世界ですが、ある「事件」をきっかけに、「学園」の「秘密」と少女たちの秘めたる熱情が動き出し、物語を紡ぎ始めます。
●おすすめポイント
制服、寄宿舎、先輩と後輩……といった伝統的な「女学園」もの作品のエッセンスを押さえながら、ミステリアスな雰囲気・作劇が魅力の作品です。
まず読者の興味をつかむキャラクターとして、現在では寮の部屋に引きこもっていて姿が目撃されない謎めいた不思議な生徒……「星宮さん」がいます。
物語としては第一段階として、その謎めいた「星宮さん」と学園の王子様である佐伯華(さえき・はな)に何か関係(因縁?)があるらしいという射程があり。
(『繭、纏う』1巻 原百合子/KADOKAWA より引用)
第二段階として、そういったミステリアスな学園の謎を遠景に、「今、ここ」で華に恋焦がれる横澤洋子(よこざわ・ようこ)のピュアな気持ちが浮かび上がってくる構成になっております。
(『繭、纏う』1巻 原百合子/KADOKAWA より引用)
今回引用させて頂いた2つのページも、「星宮さん」の背中と華の背中が対比表現になっているのだろうか? など、深読み好きとしては考察してみたくなったりもします。
台詞も「覚えてる」かどうか、記憶(過去から続いてるもの)として存在が認識されているかいないかといった部分に焦点があたっており、シンボル(象徴)表現などが多彩で、今回の記事の最初に紹介させて頂いた『やがて君になる』とはまた違った方向で哲学的なエッセンスが感じられる作品でもあります。
隙間時間にサクっと読める方向の簡易な作品ももちろん素晴らしいのですが、伝統的な想像力を含みながら土台に本格的な物語力がある本作のような作品にも触れてみて頂けたらと思うのでした。
3、まとめ
今回の記事では「百合」で「2010年代」の漫画作品を5作品紹介させて頂きました。
2010年代って沢山のメディアで沢山の百合作品が行き交ってるよねと、若干のメディア状況の分析的な語りなども交えながら、
- 繊細な感情描写が瞬く極上の百合作品を話題に充実した時間を過ごしてみるのもヨシ。
- 仲良し異種族の面々のちょい百合で楽し気な景色を眺めながら日常を歩んでゆくのもヨシ。
- 競争の中で情愛も生まれる舞台少女の生き様に熱情と優しさを感じてみるのもヨシ。
- ゆる百合ライフを眺めてることで元気が戻ってくるという真実に気づき直すのもヨシ。
- 謎めいたシンボル(象徴)に包まれた女学園が舞台の作品にため息をついてみるのもヨシ。
と、5つの作品をおすすめさせて頂きました。
メディアも作品も百花繚乱状態の中で、これは縁がありそうというピンとくる作品に出会って頂けてあなたの百合漫画ライフがますます充実してゆくきっかけになれたりしたなら、一百合漫画好きとしても幸いなのでした。
相羽裕司(あいばゆうじ)
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