みなさんこんにちは、マンガフルライターの神門です。
いつごろからか、異世界転生してチート能力や現代知識・技術を活用して無双する作品が人気になっています。
だけどそれって主人公としたらあくまで受け身であり、自分自身がそうなろうと、そうなりたいと願って苦労して達成したわけではありません。
フィクションの世界でくらい強く爽快な物語を望むのは当然のことですが、現実が大変だからこそ、ただ自分の夢だけを追いかけて突き進む、燃える冒険譚をもっと読んで欲しいと思います。
そこで今回ご紹介するのが、燃えるスぺオペ!
『宇宙英雄物語』
です。
懐かしい!
と思われる方も多いのではないかと思います。
この物語は主人公が冒険を、ロマンを求めて前向きに、熱く、ひたすらに燃えて突き進みます。
閉塞感に満ちつつある今の時代にこそ、こういう作品に触れるのが良いに違いない!
ということで今回は、『宇宙英雄物語』の魅力、“燃える” ポイントをお伝えしたいと思います。
目次
1、『宇宙英雄物語』ってどんな作品?
著者 | 伊東岳彦 |
出版社 | KADOKAWA/ホーム社 |
掲載雑誌 | コミックコンプ/ウルトラジャンプ |
掲載期間 | 1988年~1996年 |
単行本巻数 | 全5巻(コミックコンプ、未完)/全8巻(ホームコミックス) |
ジャンル | ファンタジー・スペースオペラ |
『宇宙英雄物語』は、伊東岳彦先生が月刊コミックコンプで連載し、後にウルトラジャンプに移籍して完結しました。
主人公の護堂十字は、魔法やエーテルの存在する異世界『真なる太陽系』の英雄だったキャプテン・ロジャー・フォーチュンを祖父に持ちます。
幼い頃よりロジャーの冒険譚を聞いて育っており、それゆえに宇宙を自由に冒険することを夢見ています。
十字は祖父の遺産である「星詠み号(フォーチュナー号)」を受け継ぐため、恒星高校USA分校から日本の恒星高校に転入してきます。
「星詠み号(フォーチュナー号)」を受け継いだ十字は、さらわれた同級生の椎原咲美を追いかけて『真なる太陽系』へと飛び立ちます。
トラブルメイカーで悪運の強い十字が、行く先々でトラブルを巻き起こしながら突き進んでいく、全編ドタバタコメディで送られるスペースオペラです。
熱く燃える作品なのですが、連載当時は
6巻はいつになったら発売されるんだ!?
と、本気で叫びたくなりましたね。
コミックス派だったこともあり、角川書店分裂の際に連載中断していたことなど知らず、当時はインターネットなんて一般に普及する前のこと、情報は入ってきませんでしたから。
『風の谷のナウシカ』の5巻がようやく発売されたと思ったら、『宇宙英雄物語』が5巻で止まるという皮肉な状況となっていました。
『風の谷のナウシカ』
- 4巻発売:1987年3月
- 5巻発売:1991年6月
『宇宙英雄物語』
- 5巻発売:1991年12月
- 6巻発売:1996年6月
『宇宙英雄物語』を追いかけていた方なら共感していただけるかと思います!
2、作者、伊東”燃える”岳彦先生について
作品に入る前に、伊東“燃える”岳彦先生について書かないわけにはいきません!
「宇宙英雄物語」 1巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
この辺はもう完全に趣味の世界で、コラムみたいなものなので、作品の話に早く入りたい方は読み飛ばしていただいても構いません。
伊東岳彦先生はこの『宇宙英雄物語』で連載デビューを果たし、一躍有名となりました。
伊東岳彦以外にも複数の名義を保有しており、有名なのは“BLACK POINT”名義ですね、またの名を“黒点老師”。
老師、とも呼ばれています。
更にアニメのキャラデザも行っていて、アニメでは“伊東岳彦”名義と“幡池裕行”名義を使い分けています。
有名どころでは「NG騎士ラムネ&40」や「覇王大系リューナイト」(いずれも伊東岳彦名義)、「デトネイター・オーガン」や「ゼーガペイン」(“幡池裕行”名義)などがあります。
私の個人的な話でいえば、初めて先生の作品と出会ったのはこの『宇宙英雄物語』だったか、『聖エルザクルセイダーズ』だったかちょっとうろ覚えです。
もしかしたら『聖エルザ』でBP(BLACK POINT)氏の存在を知り、そこから『宇宙英雄物語』に辿り着いたのかもしれません。
「宇宙英雄物語」 1巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
『聖エルザクルセイダーズ』は松枝蔵人先生の小説で、挿絵をBP氏が担当しており、その挿絵に惚れました。
作品も、ミホ、姫、オトシマエ、チクリン、コックリさんの五人を主役に、5人の視点+カメラ・アイによる視点でスピーディに物語が展開していく様に引き込まれました。
ミッション系スクールの存在とか、“クルセイダーズ”なんて言葉を知ったのも本作がきっかけで、当時まだ”ライトノベル”が存在しない時代に「ロードス島戦記」と並んでライトノベル黎明期で大きな存在感を放っていました。
全4巻とコンパクトで、「なんで5巻以降を出さないんだ!」と文句を抱いていたものですが、2019年からカクヨムで『聖エルザ Anniversary〈記念日〉― GradeUp Version ―』が30年後の現在を描く続編として発表されているので、かつて『聖エルザ』にはまった方は是非、こちらも読んでみてください!
※ちなみに今、某密林を見たら1巻に超プレミアがついていました・・・!?
ということで、ほとんど『聖エルザ』の話になってしまいましたが、『聖エルザ』の魅力の一つはBP氏の描く魅力的なキャラクター達のイラストであったことは間違いなく、ライターにとってもBP氏の存在は一つの分岐点となっています。
願わくは、もっと沢山、表に出るような作品を発表していただけると嬉しいですけどね。
3、『宇宙英雄物語』を読むうえで注目すべき4つの「燃える!」ポイントをご紹介
『宇宙英雄物語』の連載が開始されたのが1988年と、30年以上も昔の作品をなぜ今更紹介するのか?
そんな疑問を持つ方もいるかもしれません。
その疑問にお答えするなら、今の世の中で持ちにくくなったように感じる、夢や冒険に対する熱さがあるからです。
作品全体を通してのキーワードは「燃える!」です。
3-1 設定に燃える! スペースオペラとスチームパンクを高度に融合させた世界観が素敵すぎる
SFやファンタジーは設定が命!
ここを適当にやってしまうと途端に説得力がなくなります。
かといって緻密に凝りすぎたところで読者がついてこられなくなります。
なので、読み手を納得させるだけの内容で、なおかつある程度の簡単さや分かりやすさを持ち、読者を惹きつける勢いのある設定が必要になります。
そして『宇宙英雄物語』といえば、
SFとファンタジーの融合!
「宇宙英雄」といいつつ魔法が跋扈する世界が読んでいて熱い!
作品タイトル「宇宙英雄」の通り、主人公の冒険は宇宙の彼方へと広がっていくのですが、その宇宙というのが「真なる太陽系」ということで現実の太陽系とは別世界です。
「宇宙英雄物語」 1巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
そして「真なる太陽系」は魔法が進化した世界です。
宇宙船はエーテルや魔力で動き、銃も魔力を放つものだったりします。
魔力や魔法で機械が動くというのはスチームパンクに近いものがあり、我々の住む世界とは異なる並行進化した別世界が存在するというのが燃えます!
スチームパンクはレトロフューチャーの中の一つと言われていますが、『宇宙英雄物語』の副題も“THE FUTURE-RETRO HERO STORY”ですから、まさに一致するといってよいでしょう。
「宇宙英雄物語」 1巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
完全なスチームパンクの場合、蒸気機関の発展による世界となりますが、本作は真空管やエーテルといったレトロ要素を残しつつ、魔力で、いわゆる“なんでもあり”な世界観を作り上げています。
「宇宙英雄物語」 1巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
こうした、魔法を下地にしたファンタジー要素の強いスチームパンクは、ゲームの「ファイナルファンタジー」シリーズであったり、コミックであれば「鋼の錬金術師」であったりと、世の人に好まれ大ヒットをかましており、多くの人が好きな世界観だと思います。
スペースオペラでありつつ、ファンタジーなスチームパンク風味の世界を世に出した一作でもあるのが、この『宇宙英雄物語』だったのではないかと思います。
3-2 王道でありつつ一筋縄でいかない!冒険の旅に出るまでの厚みが燃える
世界観の次は、物語です!
世界観がよくてもストーリーが悪ければ盛り上がることなどできません。
ですが『宇宙英雄物語』ならその点もお墨付き!
王道な物語展開でありながらそう簡単には進ませず、加えて伊東岳彦先生の勢いとテンポの良いコメディ展開が読み手を飽きることなく燃えさせてくれます。
「宇宙英雄物語」 1巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
十字は伝説的な英雄であった祖父のロジャーから宇宙船「星詠み号」を引き継ぎます。
一方、「真なる太陽系」にて星海王ブラス・マナフは覇権を握り太陽系を滅ぼさんと、大いなる精霊の力を宿した“秘星球”を欲しようとしています。
偶然、“秘星球”の入った人形を十字から渡されたことでさらわれたヒロイン・咲美を助けるため十字は「真なる太陽系」へ冒険の旅に出発します
という感じで物語の大筋は、
- 世界を滅ぼそうとする敵がいて
- ヒロインがさらわれて
- ヒロインを助けるため主人公が冒険の旅に出て、様々なアクシデントを乗り越えていく
と、実は非常にわかりやすいもの。
ですが本作、4巻からようやく「真なる太陽系」での冒険となります。
全8巻の実に3巻分は冒険に至る前段階で、その間もちょいちょい宇宙船に乗って宇宙に出てはいますが、学園などでドタバタしています。
何をやっているかといえば、当然、宇宙に出るために奮闘しているわけですが、
- 陸上部に所属することになって体力強化したり
- アルバイトしてお金を稼いだり
- 後に共に宇宙に行くことになる仲間と出会って戦ったり
- 敵の姿や目的が徐々にあらわになったり
といったことを積み上げているわけで、
冒険とは自分の意志で掴むもので、お手軽に始めるものでもないし簡単に無双できるものでもないのだと描いているよう。
おいおい、いつになったら「真なる太陽系」に冒険に行くんだよと思いつつ、地上でのドタバタ劇の期間こそがこの作品で最も輝いていたのではないかとも思えるほど。
「宇宙英雄物語」 1巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
冒険が燃えるのはある意味で当然のこと。
だけど、その冒険に出る前をきっちりと話数を使い、しかも冒険ではないのに盛り上がる展開にするところにこそ、伊東先生の力を見せられていると思います。
3-3 全て属性の異なるバラエティに富んだ仲間、アクの強いヒロインに燃える!
世界観や物語がどんなに良いものだとしても、中を動きまわる登場人物がしょぼいと魅力は一気に損なわれてしまいます。
しかし『宇宙英雄物語』にその心配はありません!
主人公とその仲間たちから敵まで、見た目も種族も言動も個性に溢れすぎた面々がそろっています。
そんな個性的な登場人物たちと、その「燃え」ポイントをご紹介します。
護堂 十字(ごどう じゅうじ):正義や人助けより燃える冒険こそが最優先!
属性:主人公、地球人
「宇宙英雄物語」 1巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
本作の主人公で、ロジャーと日本人のクォーターであり、赤毛が特徴です。
十字の燃えポイントは、もう十字の存在そのものです。
なんといっても十字本人が宇宙を冒険することに情熱の炎を燃やしており、そのために生きているといっても過言ではないからです。
- ヒーローになること
- 正義
- 人助け
それらのことよりも、十字にとっては冒険こそが燃えるのです。
何か目的や目標があるわけではなく、単に未知の世界への自由な冒険を求める、ワクワクだけを求める、そんな十字の姿こそ、読者が忘れてしまった何かを思い出させてくれるような気がします。
「宇宙英雄物語」 3巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
椎原 咲美(しいはら さくみ):手も足も速い、プロレス女子のヒロイン
属性:ヒロイン
「宇宙英雄物語」 1巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
本作のヒロイン、咲美です。
強いヒロイン、というのは今までも存在したかと思いますが、咲美の場合は
- 巻き込まれ型ヒロインながら
- 順応性が高くすぐに適応し
- 手よりも早い脚技とプロレス技で男共をも圧倒してしまう
という、キャラクターの強さが際立っています。
ミッション系の学園、聖エルザの中等部を卒業したから信心深く、十字架を持ち歩いてことあるごとにお祈りを捧げ、でも実は酒癖が悪くてお酒が入ると戦闘力は格段に増加する隠しスキルを保有するなど、これでもか! というくらいにぶち込まれています(あと、貧乳、というステータスも・・・)
「宇宙英雄物語」 1巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
ヒロインの魅力がないと作品の魅力も落ちてしまうので、咲美という魅力的なヒロインの存在はとても大きかったと思います。
ロジャー・アドレアン・グリフィス:主人公の祖父は生きている脳
属性:生きてる脳
「宇宙英雄物語」 1巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
十字の祖父であり、『真なる太陽系』の英雄でもありましたが、事故にあって今や脳だけの存在となってしまいました。
この『脳だけで生きる』存在ってのが、もうSFチックで素敵です。
普通にビジュアル化するとエグくなるものを、伊東先生の絵によってコメディなキャラクターに見事に転化されています。
アゼル・アズリナ・アゼランティ:自爆属性を持つグラマラス魔女
属性:魔法使い
「宇宙英雄物語」 1巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
宇宙へと冒険するSF作品なのに、仲間に魔法使い!
SFとファンタジーは相性が良い部分もありますが、堂々とやってくれるのが本作。
さらにアゼルときたら
- 銀髪
- 赤い肌
- 一人称は「あたい」
- 極度のメカ嫌いでメカに触れると魔法が暴走
と、咲美に負けず劣らず様々なものがぶち込まれています。
「宇宙英雄物語」 1巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
魔法vs科学技術
は、なろう系の作品が多数存在する昨今では珍しくありませんが、1980年代に本作で展開されていたのですよ。
ゴート:地球の料理界を侵食すべくやってきたロボット
属性:ロボット
「宇宙英雄物語」 2巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
ファンタジー・魔法使いのアゼルに対し、がっつりSFロボットのゴートです。
コメディタッチの笑えるロボットと思うなかれ。
そもそもゴートは、
「宇宙レストラン“星雲雀(すたーらーく)”の支店長で、地球の料理界を掌握して地球全土の農場化」を図るためにやってきています。
ある意味で、ディストピア世界を創ろうとしていた侵略者です。
面白いのが、やはりロボットなので、「自分自身の存在価値」を定義することが必要で、十字に敗れて店長資格をはく奪された後は、自身の存在価値のため十字に従うことになるのが、実にSFらしさを出していると思います。
コメディなので笑わせる表現の方向が多いですが、その中にこういったSFを感じさせる要素が詰め込まれているのもまた、燃える一因となっていると思います。
劉 紅竜(リュウ コウリュウ):十字の前に立ちふさがる悪の天才科学者
属性:悪の科学者
「宇宙英雄物語」 1巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
恒星高校で十字や咲美の担任であり、十字のライバルでもあり常に敵対する存在がが紅竜先生です。
実は十数の博士号を持つ天才科学者であり、またそれに加えて中国拳法の達人でもありと、実に文武両道にスーパーマン的な実力を持っています。
負けず嫌いで、十字に対してとかくライバル心を燃やして十字から「星詠み号(フォーチュナー号)」を奪い取ろうとしたり、「星詠み号」を奪えなくても敵と手を組んで『真なる太陽系』にも突き進み、十字の行く手に立ちふさがります。
十字に対する敵対心だけでなく、
- 異世界の超技術でこの世界を支配したい
- 世界が変わる様を自分の目で見届けたい
という思いを本気で持っており、この辺はまさにマッドサイエンティストというか、常軌を逸した奇人だと理解させてくれます。
「宇宙英雄物語」 2巻 伊東岳彦/KADOKAWA より引用
主人公が光るのは、良き敵役がいるから。
この紅竜先生の存在も、非常に大きなものでした。
ゾハルやデュランがなぜ紹介されない!?
とお嘆きの方、すみません、今回は一旦ここまでで!
3-4 様々なパロディ、オマージュに燃える!
そもそもがこの『宇宙英雄物語』という作品自体が、SF小説『キャプテン・フューチャー』をオマージュして作られています。
当然ながら作中には様々なオマージュが描かれており、そのオマージュを探して見つけることでSFファンは燃えることが出来ます。
※SFだけに限った話ではないと思いますが
私もとても全部わかるわけではないのですが、登場人物たちの多くは『キャプテン・フューチャー』からのパロディです。
また他にも
- すたーらーく ⇒ 『宇宙のスカイラーク』のパロディ
- 火星王家特有の赤い肌 ⇒ 『火星のプリンセス』のパロディ
- 攻撃、回避に当たり判定があり、ダイスロール魔法で向上可能 ⇒ テーブルトークRPG?
といった、『キャプテン・フューチャー』以外のパロディも随所に盛り込まれています。
マニアックというか、SF好きの人はともかく単に漫画好きの人だとなかなか分かりづらいところもあるパロディやオマージュだからこそ、わかった時には嬉しくなる部分も多いと思います。
皆さんも是非、どんなパロディやオマージュが描かれているのか探してみてください!
4、まとめ
懐かしい一作、『宇宙英雄物語』を今こそ読むべきだというその魅力をご紹介しました。
令和になってからコロナ禍が始まり、景気もなかなか良くもならず、閉塞感が続いているようにも感じる昨今。
だからこそ前向きに、能動的に、自分の意志で冒険を求める『宇宙英雄物語』のような作品こそが求められる気がします。
皆さんの心の中にも、”燃える” 何かが眠っているはず。
是非是非、本作を手にとって、心のうちに燻っている炎を大きく燃え上がらせてみてください。
以上、マンガフルライターの神門でした。
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