みなさんこんにちは、大河ドラマって実はあまり観ていないマンガフルライターの神門です。
戦国時代を題材にすることが多い大河ドラマの中で、平安時代を舞台にした作品ってあまり記憶にありません。あっても『義経』、『平清盛』等の平安時代も後半のもので、平安時代前半の文化が花開いた頃を描いた作品はありません。
そんななか、2024年の大河ドラマ『光る君へ』は紫式部を主人公にして、まさに平安時代を舞台にして、尚且つ大きな戦もない1000年頃!
紫式部といえば源氏物語、源氏物語といえば『あさきゆめみし』ということでマンガフルでもライターのayameさんがコラムを執筆して好評をいただいております。
となれば、紫式部のライバル、清少納言側の作品も記事にしないわけにもいくまい!?
ということで今回は
『姫のためなら死ねる』(きみのためならしねる)
を題材にしました!
しかもなんと今回は先述したayameさんとの共同記事で、「平安時代に詳しくないライター(神門)」、「平安時代に詳しいライター(ayameさん)」の2つの観点で作成しております!
異なる2つの観点から、宮中を舞台にした絢爛たる平安百合コメディ絵巻の中身や魅力を少しでもお届けできればと思います。
目次
1、『姫のためなら死ねる』ってどんな作品?
著者 | くずしろ |
出版社 | 竹書房 |
掲載雑誌 | まんがライフWIN |
掲載期間 | 2010年~ |
単行本巻数 | 既刊13巻(2024年3月現在) |
ジャンル | 4コマ漫画、百合、GL |
『姫のためなら死ねる』は、くずしろ先生がウェブコミック配信サイト『まんがライフWIN』で掲載している4コマ漫画です。
平安時代を舞台に、主人公の清少納言がそれまでのニート生活から一念発起して中宮定子の女房に任官し、定子や宮中で出会った人達と様々な騒動を巻き起こしていきます。
リアルな平安絵巻のコミックス化ではなく、あくまで想像(妄想)を膨らませた百合コメディ作品ですので、その辺のところはお間違えのないように!
2、清少納言を中心に作品の主要登場人物4人と簡単な人物相関図
ここでは『姫のためなら死ねる』に登場する人物のうち、主な4人をご紹介します。
なお、年齢、性格を含めた人物を説明している文章はあくまで本作品内における人物の紹介です。
史実における実際の人物像ではありませんので、ご注意下さい!
実際にはそんな年齢とかじゃありませんから、ここで書かれたことを史実ととらえて周囲に話したりしたら恥をかきますからね!
2-1 清少納言:引きこもりニートから中宮定子の女房になった才気あふれる変態
「姫のためなら死ねる」 くずしろ 1巻/竹書房 より引用
本作の主人公です。設定年齢は27歳。
中流貴族の家に生まれたことで何不自由なく成長し、特に仕事をするでもなく趣味の物書きをするだけの生活(ニート)をしていました。
見かねた友人の弁官に薦められて中宮定子の家庭教師の面接を受けて見事に合格、定子の女房となりました。
定子の綺麗さ、可憐さに一目ぼれし、欲情したり邪な気持ちを抱いたり(同じことか?)、あっという間に変態的な人間になりました。
学はありますが一般常識に疎く、周囲の人間を困らせてばかりいます。
2-2 中宮定子(藤原定子):清少納言を慕う純真華憐な少女
「姫のためなら死ねる」 くずしろ 1巻/竹書房 より引用
藤原道隆の娘です。設定年齢は13歳。
主上(一条天皇)の皇后です。
頭の回転がはやくて学があり、素直で可憐で純真な心を持つ少女です。
清少納言から変態的な目と気持ちで見られていることに気づかず、純粋に清少納言のことを慕っています。
むしろ清少納言ともっと親しくなりたい、近づきたいという気持ちを抱き、意外と独占欲の強さも見せます。
そういう定子の態度が、清少納言をより一層の変態にさせていくことに本人は気がついていません。
2-3 藤原彰子:紫式部を必要以上に崇拝する少女
「姫のためなら死ねる」 くずしろ 1巻/竹書房 より引用
藤原道長の娘です。設定年齢は12歳。定子の従妹にあたります。
主上(一条天皇)の皇后です。
片目を隠す髪型、紫式部に依存した危ない言動で、ヤンデレ系というか厨二系というか、そういう雰囲気を感じさせるキャラクターになっています(そうだとは言っていません)
紫式部を異常に慕い評価しているため、そのライバル的存在である清少納言のことを目の敵にしています。
慕っていた従妹の定子が中宮となったことで距離が出来たと感じ、彰子自身も中宮になりたいと考えるようになりました。
2-4 紫式部:彰子の女房であり清少納言のライバルな巨乳
「姫のためなら死ねる」 くずしろ 1巻/竹書房 より引用
下級貴族の家に生まれ、非常に学に優れた女性であります。設定年齢は24歳。
彰子の家庭教師として働いています。
紫式部といえば清少納言に対してかなり辛辣に評していたと言われています。
本作でも清少納言を嫌っているように見えますが、単に清少納言が変態過ぎて迷惑をこうむっているから嫌だというだけにも見えます(笑)
なぜか、作品きっての巨乳であり、その胸をひけらかすような格好をしています。
しばしば、清少納言にその胸を揉まれたりします。
2-5 清少納言と定子など主な登場人物の相関図
この辺の登場人物の関係性について詳しくない方(私も)のために、簡単な相関図を作成しましたのでご確認ください。
本当に主要登場人物で紹介した4人の周辺だけなので、もっと知りたい方は更に調べてみてくださいね!
3、『姫のためなら死ねる』はこうやって楽しむべし! 読む際のポイント4つを非平安オタクライターがご紹介
それではここからは、実際に『姫のためなら死ねる』の魅力をご紹介します!
まずは私、神門が「平安時代に詳しくない」立場から作品を読んだ魅力をお届けします!
ポイントは4つ挙げました。
キーワードは、”なんとなく平安時代” + ”百合” でございます。
3-1 楽しみながら“なんとなく”平安時代が学べそうで学べないけどちょっと学べる漫画
気分はまさに『戦国鍋TV』!(分かる人います?)
以前、『戦国鍋TV~なんとなく歴史が学べる映像~』という人気番組があったのですよ(ローカル放送ですが。でもこの番組から間宮祥太朗さんとか出ていますからね!)
まあそれに限った話ではありませんが、歴史を題材にした漫画で歴史を学び、好きになるというのはオタクの常道!
例えて言うなら私が「女神転生」で神話に入っていったように、時代に応じて人は漫画やゲームからオタクになっていくのです。
神話や伝承にハマるなら他に「聖闘士星矢」なのか「3×3EYES」なのか「Fate」なのか、そういった違いはあれども。
歴史にはまるなら国や時代によって、「薔薇王の葬列」なのか「三銃士」なのか「あさきゆめみし」なのか、そういった違いはあれども。
皆、同じだと思います。
作品が面白いからその背景や史実に興味を持ち、更に深い沼に嵌っていく。
そういった意味で本作『姫のためなら死ねる』はうってつけです!?
平安時代に詳しくなどなくても百合コメディとして楽しめますし、詳しくない人でも清少納言や紫式部、藤原道長など名前くらいは聞いたことあると思いますので、彼らの立ち位置や関係性を“なんとなく”学んだ気になれます。
「姫のためなら死ねる」 くずしろ 4巻/竹書房 より引用
清少納言や紫式部の名は知っていても、それぞれが中宮定子と中宮彰子の女房だったということは知らない人も多いと思いますが、そういったことを知ることができます。
そうなると更に、中宮とはなんぞやとか、定子と彰子ってそもそも誰なのかとか、そういったことに興味を持ち知るようになることもあります。
最初から興味をもったり、深く知ろうと思ったりするのはなかなか難しい事ですが、漫画なら入りやすい(まんが日本の歴史などもそういうのですね)
しかも4コマ漫画なので、すっと入りやすくもあります。
ただ危険なので間違いないように何度も言っておきますが、「気になれる」だけですのでそこだけはご注意を!
でも、楽しく興味をもてるっていうのは、物事を始めていくうえで凄く重要なことだと思います。
3-2 “なんとなく”から始まり、漫画と史実の差異を知ってよりハマっていける
3-1で“なんとなく”学んだ気になって興味を持つと、実際にもう少し知りたくもなってきます。
そうして実際に調べ始めると、
「史実と漫画で全然違うところも(多々、かなり)あるじゃない!?」
ということに気がつきます。
当然です、この作品は歴史を参考にしつつ作り上げたフィクションです。
作者のくずしろ先生が、
- こうしたほうが面白いだろう
- 物語を作るうえでこっちの方が読んで楽しいだろう
- 自分の趣味だし(え?)
というのを盛り込んで描いているわけですから、異なるのは当然なのです。
本作は歴史を伝えるのが目的ではなく、読者に面白さや楽しさを伝えることを優先としたエンタメ作品だからです(少なくとも私はそう思っています)
「姫のためなら死ねる」 くずしろ 1巻/竹書房 より引用
だからこそ、漫画から歴史に入り、漫画との違いを知ることでより歴史にも詳しくなれる、かもしれません。
例えば年齢設定。
当時の人の正式な年没年は不詳なことが多いですが、だとしても大きく異なります。よく言われている生年は以下の頃だというのが通説です。
- 清少納言 966年
- 紫式部 970年説/973年説
- 中宮定子 977年
- 中宮彰子 988年
特に彰子は全く異なりますからご注意を!
性格やキャラクター同士の関係性(絡み)の多くは、当然ながらくずしろ先生が面白おかしく描いている部分も多いですが、『源氏物語』や『枕草子』はもちろん『紫式部日記』や『更級日記』(菅原孝標女)、『和泉式部日記』(和泉式部)等をインプットにして想像を膨らませている部分も含んでいます。
それら平安時代の作品に興味を持ち、読み、より理解したうえで本作品を読むことで、キャラ同士の絡みや言動に新たな意味を見つけることも出来たりもします。
『光る君へ』でも描かれている藤原道長と紫式部の関係性とか、そういったものも作品内で見ることが出来て楽しめます(まあ、描かれ方は全然違いますけれど)
「姫のためなら死ねる」 くずしろ 4巻/竹書房 より引用
3-3 現代の思考も交えた新たな考え方で、古典でもより受け取りやすく描かれている
漫画という表現方法で“なんとなく”伝わるものだとしても、結局は平安時代という遥か昔の時代のことであり、古典でもある文学作品のことで、なんだかんだ分からないことばかりじゃないのかとも思えます。
だけど安心してください、本作は歴史を学ぶ作品でなければ史実を描いた作品でもありません。
あくまで楽しいエンタメ作品ですので、現代的な思考を取り入れて読者に受け入れやすい形で色々と表現されています。
たとえば
- 『枕草子』は幼女萌え日記
- 『源氏物語』はハーレムエロラノベ
- 『更級日記』はオタ日記
- 『和泉式部日記』は自伝的恋愛小説
という具合で非常に分かりやすいですね!?
「姫のためなら死ねる」 くずしろ 4巻/竹書房 より引用
人物に関しても、『更級日記』の菅原孝標女は『源氏物語』が大好きすぎるおバカなオタクっ娘であり、『和泉式部日記』の和泉式部は恋愛脳のビッチなリア充女という風に変換されて描かれています。
これなら、どんな人だったのかイメージしやすく、そんな人の作品なら読んでみたくなるのではないでしょうか。
いや、実際は違うと思いますが・・・
※なお、『土佐日記』の紀貫之はネカマないし男の娘と評されています
他にも『源氏物語』の葵の上をツンとデレと言及したりして、そう言われるとなんか興味がわいてきたりしますよね。
「姫のためなら死ねる」 くずしろ 4巻/竹書房 より引用
そういうバランスやセンスが良いので、古典の世界で興味がない人や苦手な人にも受け入れやすい内容になっているのです。
またそういった作中で、『枕草子』内の一節や、紫式部が詠んだ有名な歌の1シーンが描かれていたりもして、ドキッともさせられます。
「姫のためなら死ねる」 くずしろ 2巻/竹書房 より引用
こういうのは文章だけよりも、絵で描かれるとその意味や意図が分かりやすい部分もあるかもしれないと感じられました。
3-4 色気とテンションの高い百合コメディが、華麗な平安時代と想像以上によく合う!
平安時代といえば、日本古代史の中で最も華麗な時代とも言われています。
平安時代の初期、桓武天皇によって中国の長安をモデルにした新たな都市、平安京が作り出されました。平安京により様々な施設が整備されることで、政治と文化がより大きく発展していきました。
時代の有力貴族の藤原氏は文化や芸術も庇護し、その中で特に多くの優れた文学作品が生み出され今日まで受け継がれています。
- 『土佐日記』
- 『蜻蛉日記』
- 『枕草子』
- 『源氏物語』
- 『和泉式部日記』
- 『更級日記』
等々、ちょっと考えるだけでもこれくらい浮かんできます。
※もちろん、華麗というのは平安時代の一側面であり、華やかな貴族たちの一方で階級社会の酷さ、治安の悪さ、貴族たちのドロドロ政治など多々あります
それでもこの時代に日本の文化や社会が発展したのは確かだと思いますし、そういう華麗な部分がくずしろ先生の描く百合のイメージと思った以上にうまくマッチしています。
まず何より、「後宮の妃に仕える私的な女房」という関係性が実に良いですよね。
“妃”の“私的”なというのが今の時代のGLとして魅力的に響きます。
そこに加えて、同じ立場である清少納言と紫式部という日本を代表する平安時代の女流作家がライバル同士であるということ。
よく考えてみれば、いやよく考えなくても、これほど百合を連想させるものはないのではないでしょうか!?
「姫のためなら死ねる」 くずしろ 1巻/竹書房 より引用
くずしろ先生もよくそこに着目し、本作を生み出してくれたものだと感嘆します。
ということで神門パートはここまで、次からは深いですから、歴史好きの方はお楽しみに!
歴史好き、平安好きのライターayameさんにバトンタッチです!
4、平安オタクのライターayameが考える『姫のためなら死ねる』の魅力
こんにちは。ほんのり歴女のライターayameです。
歴史モノ・時代モノが大好物な私がもっとも愛するのが、そう、平安時代。
神門さんからバトンタッチし、ここからは平安オタクの私が性癖をこの作品の魅力を語らせていただきます。
神門さんが書かれたことと一部内容が重複してしまいますが、ご容赦を。
4-1 平安初心者にも玄人にも楽しめるほどよい「なんちゃって感」が布教しやすい!
世の中の人間は2種類に分けられます。
それは、「平安モノが大好き!」な人間と、「平安時代ってとっつきにくい」と感じる人間です。
そこで断言します。
『姫のためなら死ねる』は、どちらの方にもおすすめです!
なぜなら、すでに神門さんが「リアルな平安絵巻のコミックス化ではなく、あくまで想像(妄想)を膨らませた百合コメディ作品」と書いているように、平安モノといってもかなり「なんちゃって」だから。
コメディ百合4コマに、気持ち多めに平安要素をトッピングしているだけともいえるでしょう。
もちろんその平安要素こそが舞台設定として重要なわけですが、そもそもこの作品、現代に置き換えても十分面白い設定だと思いませんか?
「両片思いの元ニート変態痴女家庭教師×純情可憐な箱入りお嬢様(実は既婚者)とライバル百合っプルがおりなすほんのりエロス漂うドタバタ女子校ライフ」といったところでしょうか……。
身分差とか年齢差とか学園モノとか両片思いが好きな私としては、平安抜きでも設定だけで白米3杯いけそうです。
そんなわけで、平安マニアの私は「平安苦手でも面白いよ☆」と布教しやすく、あわよくば平安沼へ引きずり込むとっかかりとして強く魅力を感じる次第であります。
4-2 たとえ「なんちゃって」でも散りばめられた平安要素は本物
「なんちゃって」でも侮るなかれ!
この作品、トッピングとして散りばめられた平安要素は本物です。
実際に例を挙げると数が多すぎるのですが、私が特に推したいのは定子と清少納言の出会いのシーン(定子視点バージョン)。
定子は、母である貴子の教えに従い、文字の印象で女房を選びました。
「姫のためなら死ねる」 くずしろ 1巻/竹書房 より引用
定子は清少納言の書いた字を見て、「今まで見た中で一番綺麗な字」と好印象を抱き、彼女を御簾の内に招きます。(=女房として採用)
これ、平安時代ならではのお約束すぎるし、平安マニアの私としては滅茶苦茶エロくてグッとくるんですよ……!
平安時代、身分のある女性は家の中のさらに奥、御簾や几帳の内にいて、おいそれと顔を出すものではありませんでした。
もちろん、見知らぬ男女が気軽に顔を合わせることなんてそうそうありません。(状況によって例外あり)
それじゃあどうやって恋愛するんだ!と問われれば、「文(字)」です。
男性は女性の噂を聞き、「好ましい~たまんねぇ~!」となったら、まずイカした文(もちろん和歌つき)でアプローチするのです。
文を受け取った女性は、書いてある内容はもちろん、字の上手い・下手、墨の濃さ・薄さ、墨の色、使われる紙の種類や色、文に付けられた付属品などなど、あらゆるポイントから差出人を評価します。(当時、文は木の枝や花に結び付けたり、素敵な文箱に入れたり、しゃれた扇に書き付けたりと、ただの手紙にはおさまらず贈り物に近い面がありました)
家の中に籠りきりで外界から隔絶された状態の女性にとって、「文」は他人と自分を結ぶツールであり、「字」はその人物を象徴する唯一のものだったのです。
つまり、当時の人々は「字」で恋愛をしていたわけですね。
そして文のやり取りを続けて互いに気持ちが高まったら、ついには家を訪れ、御簾の内に入って対面……まぁつまりはそういうことです。
『姫のためなら死ねる』で定子が清少納言を選んだシーンを男女に置き換えるなら、メチャクチャ好印象な文(字)で堕ちた女性が、「あなたならいいわよ♡」と寝所に相手を招き入れるようなものなのです。
はい、エロい!なんかもう平安時代がエロい!(「相手は字で選びなさい」っていう指導が母親からっていうのも平安ならでは感ある!)
エロいついでにもう一つマニアおすすめの平安要素を挙げるなら、清少納言と定子が碁を嗜むシーンでしょう。
作中、清少納言は碁を打つ定子を目の前にし、伏せた目にかかる長いまつ毛や綺麗な手に悶絶するのですが、これ、実はなかなかリアルなのではないかと。
碁石を弄ぶ指先の動きに欲情したりするなど
「姫のためなら死ねる」 くずしろ 3巻/竹書房 より引用
平安時代の装束って、基本露出少なめです。(夏はかなり開放的な恰好もしていましたが)
足元胸元はもちろん、袖も長めなので普通にしていたら手元もほとんど露出しません。
高貴な女性は何かを持って手ずから運ぶなんてことも少なかったでしょうし、あくまでも私の想像にすぎませんが、対面で女性の白くて綺麗な手をじっくり見られるのなんて碁を打つときくらいだったのではないでしょうか。(対面・近距離でなければ、手習いしているときとか楽器を弾いているときとかがあるとは思いますが)
普段見えないもののチラ見えがエロスになるのは時を超えたお約束です。
そう考えると、作中ではあそこまで興奮できる清少納言がギャグ扱いですが、平安マニアとしてはさもありなんと頷いてしまうわけです。
4-3 夢の共演は美しきファンタジー!一瞬のきらめきを切り取ったような儚さが尊い
ここからは、ほんのり歴女ライターayameの性癖を丸出しさせてください。
歴史モノ・時代モノって、史実を知っているからこその楽しみ方があると思うのです。
ゴールを知っているからこそその過程がどのように描かれるのか気になるし、「こうくるだろうな」と予測していたのが裏切られて「やられた!」ってなるし、お約束の展開が楽しみだったり。
そして、史実と異なる部分をファンタジーとして楽しめるのも、歴史モノ・時代モノのいいところ。
『姫のためなら死ねる』は、そんなファンタジーとして楽しむのにぴったりな作品です。
史実では、清少納言と紫式部の出仕期間はかぶっていません。
そして、紫式部・彰子コンビは道長のもとで栄華を極めますが、清少納言・定子コンビは……。
だからこそ、清少納言・定子・紫式部・彰子の4人が後宮でイチャイチャわちゃわちゃしている姿が、なんとも胸にくるんですよね。
本来あり得ないからこそ、4人の進む先を知っているからこそ、夢の共演がファンタジーとして輝く。
そこには儚さと切なさがあって、一瞬で消えてしまう大輪の花火のような、切り取って閉じ込めておきたいような尊さと美しさを感じます。
同時に、このまま物語が進んだら……という焦りと危うさもあり、「どうかこのまま幸せが永く続きますように」という思いが強まって、もうどうしたって4人から目が離せません。
私、そういうの大好きなんです。(告白)
清少納言と紫式部が一夜を明かした後の、4人+主上の修羅場シーンはファンタジーの極み!てぇてぇ!
「姫のためなら死ねる」 くずしろ 3巻/竹書房 より引用
とはいえ、『姫のためなら死ねる』はあくまでもコメディです。
今後ストーリーがどう展開していくかわかりませんし、そもそも始まりからして史実からかけ離れているので、あくまでも「史実を頭の片隅においておくと、ちょっとしたエッセンスになって違った視点でも楽しめるよ」というお話です。
4-4 ギャグ風味の強い作品タイトルに隠された儚さと情熱=「もののあはれ」
最後にもう一つ、平安ならではの儚さと尊さを感じる推しポイントが、この作品のタイトルです。
『姫のためなら死ねる』。
「死ねるだなんて大げさな」と思う方もいるでしょう。
実際、百合コメディのタイトルとしては、おそらくギャグ方面に振り切ったものなのだと思います。
しかし、私のような平安マニアになると、こんなタイトルにもグッときてしまうのです。
平安時代は、さまざまな理由から平均寿命が今よりもとても短いです。
当たり前ですが現代の感覚でいう十分な医療技術も知識もなく、ちょっとした病気が命取りになりました。
物語や和歌の世界では「恋煩いで死にそう」なんていうエピソードは頻出です。
実際、ストレスから体調を崩し……っていうことはあったようなので、それこそ恋煩いや失恋が命にかかわったケースもあるのでしょう。
当時の人にとって、恋愛は短い命を燃やして情熱を注ぐことだったのだと思います。
百人一首に、こんな和歌があります。
「君がため 惜しからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな」
現代語に訳すと「あなたのためなら命を捨ててもいいと思っていたけれど、想いを遂げた今となっては、あなたに逢うために少しでも長く生きたいと思うようになった」といったところです。
20歳という若さで亡くなった藤原義孝による熱烈な恋の歌ですが、個人的には彼がずば抜けて熱烈だったのではなく、平安時代の人の多くが恋愛に対して「死んでもいい」と言えるレベルの熱量を持っていたのではないかと考えています。
そうしてあらためて『姫のためなら死ねる』というタイトルを見てみると、大げさなギャグではなく、清少納言が定子に向ける(当時の人として当たり前のレベルの)深く、心を穿つような情熱がうかがえます。
現代の感覚だと「恋愛に命を持ち出すのとかメチャクチャめんどくさい!」って感じですが、平安時代のそれは趣深く雅びなもの。
『姫のためなら死ねる』というタイトルは平安らしい命の儚さと恋の尊さにあふれており、まさしく「もののあはれ」だといえるでしょう。(そこ「をかし」じゃないんかい、というツッコミは置いておいて)
まとめ
ということで、2人のライターの異なる観点から『姫のためなら死ねる』の魅力をお伝えしてきました!
- なんとなく平安時代が分かった気になれるようでなれないから興味が持てるかも!?
- 純粋に百合コメディとして面白い!
- なんちゃってのなかにちりばめられた平安要素は本物!
- 平安ならではの儚さと尊さを感じられちゃう!
色々と魅力はありますが、以上のように主だったところをお伝えしました。
平安時代? 清少納言? と、聞いてちょっと構えてしまう人もいるかもしれませんが、そんな必要は全くありません!
むしろ歴史にあまり詳しくない人の方が楽しく読めるのではないかと思います(何せ全然違うので)
歴史と関係なくコメディ作品として面白いので、興味を持たれたら是非手に取ってみてください!
もちろん、歴史好き、平安時代好きの人なら更に一歩踏み込んで楽しむことも出来ます。
要は、誰が読んでも楽しめるってことですので読まない理由がありませんね!
以上、神門&ayameでお届けしました。
なお、『あさきゆめみし』のコラム連載はこちらから。実に興味深く且つ楽しいですので、是非に!
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