こんにちは、マンガタリライターのいまいです。『プラネテス』に触発されて宇宙にロケットを飛ばそうと思いましたが、僕の学力ではコーラとメントスによるエンジンしか開発できませんでした。
数あるSF漫画の中でも異色と言われる『プラネテス』。その理由は作品が持つテーマ、「愛」にあります。
本質的には宇宙に限ったものではない身近なテーマですが、この作品はあえて宇宙を舞台としてそれを描きました。最後まで読んで作品のメッセージを理解した時は、「SF漫画だと思っていたのに、やられた!」と思い、深く感動したのではないでしょうか?
今回は、そんな異色SF『プラネテス』のメッセージ性あふれた名言を、テーマと絡めつつまとめていきます! 当時の感動と一緒に思い出してくださいね!
1、 『プラネテス』ってどんな漫画? テーマとは?
『プラネテス』は幸村誠先生による漫画です。
プラネテス1巻より引用
著者 | 幸村誠 |
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出版社 | 講談社 |
掲載雑誌 | モーニング |
連載期間 | 1999年 ~ 2004年 |
ジャンル | SF |
舞台は2074年の近未来。「デブリ」と呼ばれる宇宙ゴミ(機械の破片など)を拾う仕事に就くハチマキ(本名:星野 八朗太)が主人公です。
彼の仕事は「宇宙のゴミ拾い」とも呼べるようなもので、ハチマキは「この仕事、頭金だけは良いからさ」と言います。
彼の目的は「自分専用の宇宙船を持つ」こと。しかし宇宙船は非常に高価なので、給料の良い仕事に従事しています。
プラネテス1巻より引用
そんなハチマキに、ある転機が訪れました。それは前人未到の木星往還船に乗船すること。
ハチマキは「木星に資源採取基地を造れば大手柄だぜ、ヒーローだ!」と言いながらその実績で大手宇宙企業に天下りをしようと考えます。こうして文字に起こすと全然主人公っぽくない人生設計ですね……。
しかし、作品の魅力はここから。自分の夢のため他者を顧みずに突き進むハチマキの前に、ことあるごとに「愛」という言葉を口にするタナベが現れます。
プラネテス2巻より引用
タナベとの出会いをきっかけに変わっていくハチマキを通し、読者である我々に「愛とはなんなのか?」というメッセージを伝えてくるのがこの『プラネテス』という作品です。そう、作品のテーマは「愛」です。
「愛」の正体は宇宙にしかないようなものではありません。しかし、身近な生活では気づかないような「愛」だからこそ、広すぎる宇宙において強く輝いて見えるのです。
ちなみに、幸村先生は現在『ヴィンランド・サガ』を執筆中です。そちらはSFとはまったく違う中世のヴァイキングを描いた作品ですが、こちらもまた「愛」について語る素晴らしい作品ですので、良かったらぜひ読んでみてください。
2、宇宙に愛を見る『プラネテス』名言ベスト5!
「愛」という普遍的で、定義の曖昧なものをテーマに据えた本作。
恋愛漫画で数多く取り上げられてきたテーマですが、SF漫画で、宇宙を舞台にするからこそ語れるメッセージが作品にはありました。
そんな『プラネテス』から、厳選された5つの名言をご紹介します!
2-1「Please save Yuri.」……愛とは何か。そのひとつの答え。
『プラネテス』はもともと一話完結の要素が強い物語です。特に第1巻はそのような話が多く、第1話も1話完結(後のお話しにもつながっていますが)の形式。
第1話は作品紹介的な側面があるため、一般には主人公の出番が多くなりがちです。しかし『プラネテス』では主人公こそハチマキに任せながらも、真の主役は彼の同僚、ロシア人のユーリが担いました。
プラネテス1巻より引用
ユーリはハチマキ同様、デブリ(宇宙のゴミ)拾いとして働くサラリーマン。ハチマキは彼を「へんな奴」と評します。
無口だし、ヒマさえあればずっと宇宙空間を眺めてる。そんな彼にハチマキは「なんでここにいるんだ?」と問いますが、返ってくるのは「別に」という答えだけ。
もちろん本当に「別に」なんて思っているわけではありません。ユーリは宇宙で死に別れた妻の遺品を探していたのでした。
プラネテス1巻より引用
その遺品であるコンパスは、彼の妻が生前見せようとしなかったもの。デブリ衝突により宇宙船が大破してしまったのですが、そのコンパスだけが回収された遺品にありませんでした。
ぼーっとしているように見えるユーリですが、ずっと今は亡き妻のことを考えてデブリ拾いを続けていたのです。
そして、彼はついにそのコンパスを発見します。彼の妻が決して見せようとしなかったコンパスに書いてあったのは……
プラネテス1巻より引用
「Please save on Yuri.(ユーリを守って)」。
他者を思いやる「愛」のひとつの形であることを示唆する、『プラネテス』らしい名言です。
余談ですが、幸村先生によると、第1話は読み切りのつもりで書いたそうです。
ただ、ハチマキが主役にならなかったのは、作品がテーマとする「愛」について、この時点の彼を主役にしてはまだ描くことができないし、彼の成長によって描きたいという思いが幸村先生にあったのではないかな、と個人的には思っています。
2-2「フォン・ブラウンの後を継ぐものに、できないことなんて何もねェのさ」……他者を顧みない、愛と対極にある人々の姿。
第1巻はほとんどが1話完結だったのですが、第2巻からはいよいよ物語が動き出します。
というのも、ハチマキの転機となる木星往還船プロジェクトが開始され、乗員募集がかかったからです。
宇宙船の開発担当はロックスミスという人物でした。
プラネテス2巻より引用
自分の宇宙船を手に入れるため乗船テストに受かりたいハチマキ。必死に努力しますが、その矢先、ロックスミスが多数の人命を犠牲にする事故を起こしてしまいます。
エンジン臨界試験のトラブルにより、エンジンが大爆発。居合わせた研究員はおそらく全員死亡しました。
当然、担当であるロックスミスは記者会見を開きます。しおらしく謝罪をするべきはずが、なんと彼は背筋を伸ばしたままこう言い放ちました。
プラネテス2巻より引用
悪魔のような男。ハチマキの父、ゴローはそう言いました。しかし良い仕事をするとも言及します。
一方、ハチマキが残したのがこの言葉。
プラネテス2巻より引用
フォン・ブラウンとは実在の人物です。第二次世界大戦のとき、ナチスの協力によりロケット兵器を開発した科学者として知られています。
戦時下において大量の人命を奪った彼の開発ですが、しかしそのロケット兵器が完成した時、フォン・ブラウンの仲間はこう言いました。
「今日は宇宙船が誕生した日だ」。
彼らにとってその開発は兵器ではなく宇宙船のためのものだったのです。もちろん大勢の人命が失われたわけですが、そういったことは究極的には関係なかったのでしょう。
大量の人命が失われようと、自分がしたいこと、すべきことをする。そういう人物こそ「フォン・ブラウンの後を継ぐもの」。
プラネテス2巻より引用
そしてハチマキは、「たぶんオレもそーゆーやつなんだよね」と言いました。
この名言は作中のテーマである「愛」と対になる関係ではありますが、実は最後の最後までこうしたエゴイズムそのものは否定されていません。
作品のメッセージ自体とは方向性を異にするものの、本来のメッセージを際立たせるために重要な言葉です。個人的には欠かせない名言だと思います。
記事の後半で、「なぜこの名言が重要なのか」という点について詳しく解説します。
2-3「宇宙は独りじゃ広すぎるのに」……あまりに広大な宇宙だからこそ際立つ、生きる理由を考えさせる言葉。
ヒロインのタナベですが、登場は第2巻7話と実は遅め。
彼女は木星往還船への乗船テストを受けるハチマキの後継として、彼らの船にやってきました。
プラネテス2巻より引用
「訓練校でたてのホヤホヤ」とハチマキが評する通り、宇宙での彼女の行動はまだまだ未熟。無重量空間でグルグル回ったり、推進剤を上手に扱えずに船に激突したりします。
そんなタナベを船に迎えた時、彼らは宇宙でミイラを発見しました。
それは、「宇宙葬」と呼ばれる葬儀によって送り出された宇宙船員の遺体です。遺体の生前の名はファンドラン。
こうした遺体を見つけたら地球に戻すのかと思ったところ、そうはなりませんでした。
遺族(ファンドランの娘)はファンドラン本人が宇宙を漂うことを望んでいた、と言い、地球に戻さずとも良いと判断。
しかしタナベは「そんなパパの言うこと聞いてあげることないですよ!」と言い放ちました。なんと宇宙服を着てハチマキから遺体を奪い取ります。
プラネテス2巻より引用
これに怒ったのはハチマキ。
彼は、死者の気持ちがわかると言いました。自分(フォン・ブラウンの跡をつぐもの)と同類だというのです。
プラネテス2巻より引用
少し落ち着いてから、「地球の上で満足できる人間じゃねえんだよ」とハチマキはタナベを諭そうとしました。
しかし、タナベは小さく答えるのです。
「独りで生きて、死んで、なんで満足できるんですか。バカみたいですよ」
プラネテス2巻より引用
余談ですが、宇宙葬が認められていたのは2024年までとのこと。2019年現在、宇宙葬が実施される気配はありませんね(笑)。
2-4「結婚しよう」……ハチマキの帰る場所が生まれた瞬間。
さて、こうしてタナベと出会ったハチマキは、ゆっくりと変わっていきます。
「独りで生きる」と決めたはずの自分に対し、母は「必ず生きて帰ってこい」と言いました。
ですが「生きてるだけならゾウリムシにでもできる」という彼は、ただ生きて帰ってくることに価値を見出せずにいたのです。
しかし現実として、自分の帰りを待つ人がいる。それはなぜだろうと考えた結果、「宇宙は全て繋がっている」という結論に至ります。
プラネテス2巻より引用
「オレですらつながっていて、それではじめて宇宙」。すなわちそれは、地球すらも宇宙の一部であるということ。そしてハチマキや、ハチマキ以外のすべての人もまた宇宙であるということです。
自分は他者とつながっている(他者が他者を思うのはそのため)。あまりのスケールの大きさに、彼は一時期「はしか」にかかります。
プラネテス3巻より引用
その「はしか」は「それまでの価値観が崩れてなくなったことに驚いている」状態を指していました。食欲もない、性欲もない、何も欲しくない。言わば「生きながらにして死んでいる」ような状態でしたが、それを救ったのもハチマキの心に残るタナベでした。
プラネテス3巻より引用
ハチマキはタナベに会いに生き、彼女と話すことで、崩れ去った価値観を新しく築いていきます。
どこへ行っても、必ず生きて帰って来ようと言う彼は、もう以前までの彼ではありませんでした。
プラネテス3巻より引用
こうして元気を取り戻したハチマキ。木星往還船プロジェクトのトレーニングの合間を縫って、タナベに会いに行くようになりました。
それはなんでもないことをたくさん話すだけの時間。例えば、彼らがしりとりに興じているシーンが描かれていましたね。
ハチマキ「毛虫」
タナベ「し……塩じゃけ」
ハチマキ「け? け……けんばんハーモニカ!」
タナベ「かみのけ!」
ハチマキ「まーた”け”かい!」
タナベ「もうないでしょ?」
ハチマキ「……あるよ」
プラネテス3巻より引用
ハチマキ「“う”だよ?」
タナベ「うん」
ハチマキ「よっしゃ、おまえの負け」
2-5「愛し合うことだけが、どうしてもやめられない」……宇宙は全て繋がっている――ハチマキの出した答え!
なんとタナベと結婚してしまったハチマキ。「独りで生きて独りで死ぬ」と言っていたはずなのに、すごい変わり様ですね。
最終回では、これだけ変わった彼が何を思っていたのかが語られます。
ハチマキたちが乗った木星往還船は、ついに木星へと到達します。距離にして地球から7億5,000万キロメートル、地球一周のだいたい2万倍くらいの距離です。例えてみたは良いものの、スケールが大きすぎて結局わかりませんね……。
人類史に残る偉業、木星到達。その第一声をハチマキが担うことになりました。
プラネテス4巻より引用
ハチマキは「思ったことをそのまま話します」と前置きし、地球の人々へ語り掛けました。
「金を貯めたら、宇宙船を買って、この宇宙を自由に駆け回るんだ。宇宙船があればどこへだって行ける。本当の、本当の自由だ」
「だからオレはそれ以外のことをいっさいしないと決めた。それ以外のことを考えるのもやめようと思った」
「でも」
プラネテス4巻より引用
かつて他人を顧みずに一心に自身の自由のために生きてきたハチマキ。独りで生きて、独りで死ぬ、とは他人を顧みずに生き、そして死ぬということでした。
しかし、タナベと出会い、結婚した今、もうそうは思いません。「愛は強い力だ。核融合なんて目じゃない」と言い放ちます。
プラネテス4巻より引用
彼にはもはや、宇宙船を買って本当の自由と言うものを手に入れるつもりはありません。帰りを待つ仲間のもとに帰っていきます。
ラストシーン。物語はタナベの視点に移り、いつものデブリ拾いの風景が写されます。
ユーリが指さした先を見ると、そこにはハチマキがいるであろう木星がありました。
タナベはそれを見て、もう一度呟きます。
「愛し合うことだけが、どうしてもやめられない」
3、『プラネテス』の名言にはどんな意図が含まれているのか?
お話しした通り、『プラネテス』のテーマは「愛」です。
身近なテーマですが、本作ではそれをあえて広大な宇宙を舞台に伝えようとしています。「宇宙というとまるで別の場所のように思ってしまうものの、実は地球だって宇宙の一部」という解釈をベースに、「全てはつながっている」ことを教えてくれます。
「愛」とは「つながる力」のことです。ハチマキとタナベが手をつなぐシーンが印象的ですね。
これを前提に『プラネテス』の名言の意図について解説しましょう。
幸村先生の別作品『ヴィンランド・サガ』に関してインタビューをされた際、幸村先生はこう語っています。
「『ヴィンランド・サガ』で「暴力が嫌い」を描きたかったら、その世界は暴力に満ちたほうがいい」
【インタビュー】『ヴィンランド・サガ』幸村誠「『暴力が嫌い』を描きたかったら、描く世界は暴力に満ちたほうがいい。」【アニメ化&22巻発売記念!】より引用
ヴィンランド・サガ7巻より引用
『ヴィンランド・サガ』は、暴力で満ちたヴァイキングの世界で、暴力を嫌う人間がどう生きるかというストーリーの漫画です。それをどう描くかを考えた時、「逆算の考え方」で作っていこう、と決めたとのことです。
『プラネテス』連載時点で同様の考えがあったかどうかはわかりませんが、本作でも同様の描かれ方に見えるシーンは多々あります。幸村先生は「闇の中でこそ光は輝く」と言いました。
例えば、ハチマキが木星往還船に乗船する際、一時期同僚となったレオーノフ。
プラネテス2巻より引用
彼もハチマキと同様、他者を顧みず「とにかく遠くへ行く」ことを目的に独りで生きていました。
他にも遺体となって現れたファンドランや、事故の責任者でありながら全く謝罪しないロックスミスなど、本作には大量に「他者を顧みない人物」、すなわち愛を知らない人物が現れます。
こうした人物たちはみな「闇」と言えます。作品のテーマである愛を目立たせるためのものなのです。ハチマキすら闇を象徴する人物の一人でしたね。
プラネテス2巻より引用
『プラネテス』の名言には、すべて「闇に対する光」である「愛」を輝かせる意図が含まれています。
名言として挙げた「フォン・ブラウンの跡を継ぐもの」は紛れもなく「闇」側に属する言葉ですが、作品としてはあくまで「愛」がどういうものかを示唆する言葉として登場させたのでしょう。その証拠に、発言したハチマキ本人が「愛」を体現する一人に成長しましたからね。
読んでいると、「あ、これ名言だな」と感じる言葉が上記以外にもあると思います。そうした名言には全て、本作のテーマである「愛」がどういうものかを示す意図が含まれているのです。
4、 まとめ
以上、『プラネテス』名言ベスト5でした。
本作は「愛」をテーマに描かれています。名言からは「愛」がどういうものなのかを察することができますね。
コミックス自体は全4巻と少ないですが、ストーリーは極厚。メインとなるハチマキのストーリー以外の話や言葉からも、「愛」とはどういうものなのかを推し量ることができますよ。
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