みなさんこんにちは、野球大好き! なマンガフルライターの神門です。
個人的な野球漫画のバイブルといえば
『ドカベン』
です。
甲子園の時期が来ると思い出しますが、連載開始より半世紀が過ぎた今なお最高に面白い野球漫画だと思っています(『ドカベン』の連載開始は1972年です!)
『ドカベン』では主人公の山田太郎が県大会から甲子園まで大活躍しますが、山田太郎の活躍が輝くのも、山田の前に立ちはだかる数多くの強力なライバルたちがいてこそです。
今回の記事では、打倒・山田太郎、打倒・明訓高校に燃えた個性的なライバルたちとの数々の名勝負をご紹介します。
皆さんも是非、再び熱い戦いを思い出してください!(未読の方は、面白そう! と興味を持っていただければ!)
※今回はあくまで『ドカベン』の中から選出しており、『大甲子園』以降は対象外としているので、その点、前提としてご理解お願いします
目次
- 1、ドカベンってどんな漫画?
- 2、発表!これがライター神門が選んだ『ドカベン』名試合ベスト9!
- 9位 甲府学院戦(1年秋):次々と現れる柔道時代の仲間、ライバル達の一番手!怪力で立ち塞がる「野球は腕力だ!」
- 8位 信濃川高校戦(1年秋):常勝・明訓の基礎を作り上げた徳川監督が打倒・明訓を掲げ山田と読みあいの勝負!
- 7位 赤城山高校戦(1年秋):柔道時代の仲間・わびすけが”対山田専用機”として登場!
- 6位 クリーンハイスクール戦(1年秋):”秘投・背負い投法”が熱い影丸との真っ向勝負が見所!
- 5位 弁慶高校戦(2年夏):弁慶高校の策に嵌った明訓高校。”弁慶の仁王立ち”に”義経の八艘跳び”が明訓高校立ちはだかる!
- 4位 通天閣高校戦(1年夏):下手な小細工なしの真っ向勝負の好勝負!
- 3位 いわき東高校戦(1年夏):初の決勝戦は初回から波乱含み!ドラマ性満載の一戦
- 2位 土佐丸高校戦(1年秋):まさに死闘!四天王の過去と思いと意地、全てが重なり合って引き出された熱戦
- 1位 白新高校戦(2年夏):山田太郎最大のライバル、白新高校の不知火が山田を最も苦しめる投手になった戦い
- 3、まとめ
1、ドカベンってどんな漫画?
著者 | 水島新司 |
出版社 | 秋田書店 |
掲載雑誌 | 週刊少年チャンピオン |
掲載期間 | 1972年~1981年 |
単行本巻数 | 全48巻 |
ジャンル | 野球漫画 |
『ドカベン』は水島新司先生により描かれた、山田太郎を主人公とした野球漫画です。
1972年に連載が開始されてからしばらくは「柔道編」が描かれていましたが、中学時代の後半から「野球編」が始まり、山田が明訓高校に進学してからは本格的な高校野球漫画として人気を博していきます。
主人公の山田太郎だけでなく、
- 悪球打ちの岩鬼
- 秘打男の殿馬
- 小さな巨人・里中
の、いわゆる明訓四天王という魅力あふれる仲間達とともに常勝・明訓高校を率いてライバル達と熱い戦いを繰り広げます。
秘打や悪球打ちなどを描きつつも、いわゆる魔球のような現実味のない必殺技は用いず、配球や心理戦での読みあいといった駆け引きを主軸とし、ロマンあふれる野球と現実的な野球を非常にバランスよく組み合わせて読者を虜にしました。
続編に
- 大甲子園
- ドカベン プロ野球編
- ドカベン スーパースターズ編
- ドカベン ドリームトーナメント編
があり、今もなお愛されている作品です。
2、発表!これがライター神門が選んだ『ドカベン』名試合ベスト9!
それでは早速、独断と偏見(=つまりはライター好み)の名試合の発表にうつります!
今回はライター独自の評価項目として
- 白熱度
- 駆け引き
- ドラマ性
- vs山田太郎
- 総合
上記5つの要素を星(★)5段階で評価しました!
そして、それぞれの試合展開の紹介とあわせて、
- この試合を選んだ最大のポイント
- ライターが選ぶこの1球/1打席
をご紹介しますので、是非、ご覧ください。
さあ、まず9位はこの試合だ!
9位 甲府学院戦(1年秋):次々と現れる柔道時代の仲間、ライバル達の一番手!怪力で立ち塞がる「野球は腕力だ!」
「ドカベン」 23巻 水島新司/秋田書店 より引用
白熱度 | ★★★☆☆・・・熱戦に水を差すようなことも(甲府学院のせいじゃないですけどね) |
駆け引き | ★★☆☆☆・・・駆け引きじゃない、野球は腕力だ! |
ドラマ性 | ★★★☆☆・・・柔道から野球へというのが一つのドラマ |
vs山田太郎 | ★★★★☆・・・このために柔道から野球に転向したわけですから |
総合 | ★★★☆☆・・・堂々と真っ向勝負を掲げて見せるのが男らしいです |
9位に選んだのは山田太郎が1年の時の秋の関東大会で戦った甲府学院戦(山梨県代表)です。
この一年秋の関東大会といえばとにかく燃える展開!
中学の柔道部時代にしのぎを削ったライバルや仲間達が、打倒・山田を掲げて野球に転向して山田に、明訓高校に立ちはだかってくるのですから。
「ドカベン」 23巻 水島新司/秋田書店 より引用
そんな柔道時代のライバル一番手として山田太郎の前に立ちふさがって来たのが、賀間剛介率いる甲府学院です。
賀間といえば柔道時代、その剛腕で山田を倒しましたが、その時山田は腕を怪我していたため対等の勝負で勝利したと賀間は思っていませんでした。
柔道一筋でやってきた賀間が、野球に転向したからといってそう簡単に一流の野球選手になれるわけもありません。
しかし賀間は柔道時代に培い、鍛え上げた剛腕を更にパワーアップさせて野球に活かします。
投手としての賀間は、球種とか関係ありません。
「ドカベン」 23巻 水島新司/秋田書店 より引用
ボールをわしづかみにして、鍛え上げた腕力をボールにのせることで、打者が打つ時にはまるで鉛の球のような重さを持つようになります。
打ち頃の球を打者は「とらえた」と思いますが、あまり重さに打球はボテボテの内野ゴロばかりです。
この剛腕・賀間の「砲丸投法」により明訓高校は苦戦します。
さらに打者の賀間です。
お世辞にも野球センスがあるとはいえない賀間は、普通にやっても里中のキレのあるボールは打てないと理解しています。
そこで賀間は不格好なバントの格好をして里中に対します。
「ドカベン」 23巻 水島新司/秋田書店 より引用
とにかくバットにきっちり当てることを最優先にしたバント打法で放った打球は、なんとフェンスを越えてホームランに。
投球も打球も、全て剛腕による力押し。
「バッティングは腕力だ」
というバッティングの常識をぶち壊す打法で見事に明訓から先取点を奪うのです。
「ドカベン」 23巻 水島新司/秋田書店 より引用
ファミコンゲーム「燃えろ!プロ野球」の“バントでホームラン”を地でいく打席でした(なお、燃えプロは1987年発売で、この試合は1976年頃に書かれているので、ドカベンの方が先です!
その後、明訓も反撃を行いますが、山田のホームランと思われた打球が、ホームランボールを取ろうとした観客の手に当たって二塁打止まりになったり(実際は、明訓に対する妨害でしたが)、スクイズを失敗したりと、なかなか明訓に流れがいきません。
むしろ夏の優勝校の苦戦に、スタンドは甲府学院を応援する流れになっていきます。
スタンドの異様な雰囲気の影響もあり、焦った里中の悪送球で甲府学院に追加点を許してしまいます。
その後の1死2,3塁のチャンスも、殿馬のチョンボでダブルプレーと、らしくないプレイの連続で明訓高校は窮地に追い込まれます。
「ドカベン」 24巻 水島新司/秋田書店 より引用
それでも簡単に終わらないのが明訓高校です。
最終回、岩鬼、殿馬の連打もあり1死1,2塁で打者は山田、ホームランが出ればサヨナラの場面を迎えます。
勝利することを考えれば、山田を歩かせて満塁にしても5番の微笑と勝負も十分にアリですが、賀間は山田との勝負を選びます。
賀間の渾身の一球は山田によって打ち返されて右中間を破るスリーベース。土壇場でついに明訓高校が同点に追いつきます。
更に5番、微笑のスクイズによって苦しみながら明訓高校が勝利をおさめたのでした。
【この試合を選んだ最大のポイント】:山田との勝負にこだわる執念
柔道時代のライバル、仲間との対戦は皆そうですが、打倒・山田太郎のために柔道から野球に転向した意地と執念が炸裂しています。
野球センスに優れているとはいえない賀間が、怪力という武器だけでジャイアントキリングをしようかというところまで追い詰めたことを評価しました。
「ドカベン」 24巻 水島新司/秋田書店 より引用
【ライターが選ぶこの1球/1打席】:山田との勝負にこだわった賀間vs山田の最後の打席
最終回に2点差で1、2塁。サヨナラのランナーになるので常識なら歩かせることはありません。
ですが、賀間の砲丸投げと他の選手との対戦を考えれば、例え山田を歩かせて満塁にしてもせいぜい1点止まり。勝つ確率が高いのは山だと勝負を避けることです。
それでも賀間は山田と勝負を選びます。
わびすけの言葉「賀間さんはこの場面のために野球に転換したのですから」、これが全てを示しています。
「ドカベン」 24巻 水島新司/秋田書店 より引用
甲府学院の仲間達も、賀間がいたから甲子園まで来られたことは分かっていますし、賀間が山田を抑えてくれると信じているからこそ、勝負を選んだ賀間に託したのだと思います。
8位 信濃川高校戦(1年秋):常勝・明訓の基礎を作り上げた徳川監督が打倒・明訓を掲げ山田と読みあいの勝負!
「ドカベン」 29巻 水島新司/秋田書店 より引用
白熱度 | ★★★☆☆・・・決勝点が意外とあっさり入っちゃう |
駆け引き | ★★★★★・・・徳川監督と山田の読みあいであり騙し合い |
ドラマ性 | ★★☆☆☆・・・最後はややあっさりか? |
vs山田太郎 | ★★☆☆☆・・・山田との勝負ではなく、あくまで打倒・明訓高校 |
総合 | ★★★☆☆・・・こういう試合も面白いと思わせてくれる |
8位は、1年春の選抜大会で対戦した信濃川高校(新潟県代表)との一戦です。
信濃川高校には他の高校と違って圧倒的なエースや、豪打を誇る打者はいません。
代わりに、一年夏の大会で明訓高校を率いていた徳川監督が、信濃川高校の監督として打倒明訓として勝ち上がってきました。
「ドカベン」 29巻 水島新司/秋田書店 より引用
投手も打者もコレといったタレントは存在せず、徳川監督の戦術によって接戦を勝ち抜いてきました。
明訓高校との戦いも、当然ながら徹底的に明訓の弱点を突いてくる作戦を立ててきます。
- 悪球打ちの岩鬼にタイミングを狂わせた状態であえて悪球を打たせたり
- リズム打法の殿馬にはリズムを狂わせる投球をしたり
「ドカベン」 29巻 水島新司/秋田書店 より引用
明訓高校を知っているからこそであり、山田との対戦にもこだわりを見せません。
そして徳川監督が徹底的に突いてくるのは里中です。
意外と短気でカッカしやすい里中を精神的に揺さぶるように、本来なら全員右打者なのに左打席に立ち、バント作戦、相手の隙を突く作戦で、信濃川高校はノーヒットで2点を奪います。
更にそのホームでのクロスプレーの際、里中は突き指をしてしまいます。
「ドカベン」 29巻 水島新司/秋田書店 より引用
徳川監督の作戦に苦戦する明訓ですが、苦労の末になんとか1点を勝ち越します。
突き指をした里中を懸命にリードする山田と、徳川監督の読みあい。
最終的に徳川監督の裏をかいた山田が一枚上回り、なんとか明訓が逃げ切り勝利したのです。
【この試合を選んだ最大のポイント(駆け引き)】明訓を倒すべく抉ってくる徳川監督の策謀
他の試合と異なり、この試合は徳川監督vs明訓高校といってもいいくらい、徳川監督との駆け引きを描いた試合でした。
試合自体は短い部類に入りますが、作品全体の中でも駆け引きに重点をおいた珍しい試合でもありました。
「ドカベン」 29巻 水島新司/秋田書店 より引用
【ライターが選ぶこの1球/1打席】常に相手の隙を窺うべし!
初回、2点目を奪った信濃川高校の4番、万代の打席。
万代は意表をつくスリーバントをして明訓のエラーを誘い一気に3塁に到達しますが、なんとその後、まだタイムがかかっておらず尚且つホームのベースカバーがいないことを見た万代は、ホームを陥れます。
いつまでがインプレーか、きちんと必要なベースカバーをしているか、それを怠るとどうなるかと、隙を突く走塁を示してくれました。
「ドカベン」 29巻 水島新司/秋田書店 より引用
怠慢はダメ!
7位 赤城山高校戦(1年秋):柔道時代の仲間・わびすけが”対山田専用機”として登場!
「ドカベン」 26巻 水島新司/秋田書店 より引用
白熱度 | ★★★☆☆・・・山田を封じられて思った以上に苦戦する明訓高校 |
駆け引き | ★★★★☆・・・いかに山田を倒すか? 双方のせめぎ合いアリ |
ドラマ性 | ★★☆☆☆・・・柔道時代のライバルではなく仲間が敵になるのはちょっと意外性 |
vs山田太郎 | ★★★★☆・・・山田を倒すため執念の両投げは山田を狂わせた |
総合 | ★★★☆☆・・・左右投げに全振りしたような試合でした |
7位は、1年秋の関東大会決勝戦、赤城山高校(群馬県代表)との一戦です。
この試合では9位の賀間に続き、柔道時代の仲間であるわびすけこと木下次郎が、打倒・山田太郎として立ちはだかります。
赤城山高校は国定がエースで4番というワンマンチームで、木下はショートでスタメン出場しています。
試合は初回、国定がさっそくタイムリーを放って赤城山が1点を先取して進行します。
絶好調に見える国定ですが、それだけで山田を打ち取れるほど簡単なものではありません。
2回の表、さっそく山田を打席に迎えたところで赤城山はピッチャーの国定とショートのわびすけを交代し、山田に対し木下をワンポイントで投入します。
そのわびすけの武器は、“左右両投げ”です。
兄が左利きで、兄のグローブを使用して遊んでいたわびすけは右利きながら野球は左投げという異色の育ち方をし、元が右利きのため右でも投げられるようになり、スイッチバッターならぬスイッチピッチャーとなったのです。
「ドカベン」 26巻 水島新司/秋田書店 より引用
投げる構えに入る時も両投げ用の特殊グラブを体の後ろに隠し、振りかぶる時も体は正面を向いたまま、投げる瞬間まで左右どちらで投げるか分からない投法に、山田はタイミングを取ることが出来ません。
打撃はタイミングが合わなければまともな打球を飛ばすことが出来ず、なすすべなく山田は三振に倒れてしまいます。
その後も山田はスイッチ投法になんとかくらいつき、右か左かヤマを張るなどして対応しますが、赤城山のシフトにもはまり、ダブルプレーにライトゴロと、その鈍足もあって悉く裏目に出てしまいます。
「ドカベン」 27巻 水島新司/秋田書店 より引用
赤城山が1点リードで迎えた最終回の明訓の攻撃、2死ながら1、2塁の場面において、なんと赤城山は3番の山岡を敬遠して、満塁で山田と勝負を選びます。
山田の前に立つのは当然ながらわびすけ。
今まで3度の打席で凡退している山田を見ていた3塁ランナーの岩鬼は、山田は打てないと独断でホームスチールを敢行します。
ホームに走ってくる岩鬼を見た山田は、とっさの判断でセーフティバントをすると、それが相手の意表をついて1塁もギリギリセーフに。
「ドカベン」 27巻 水島新司/秋田書店 より引用
更にその隙をついて2塁ランナーの殿馬がホームを陥れて明訓高校は逆転し、そのまま勝利したのです。
【この試合を選んだ最大のポイント(vs山田)】驚愕の左右投げのアイディア
なんといってもスイッチ投手のわびすけ。
「ドカベン」 26巻 水島新司/秋田書店 より引用
柔道時代のライバル達は高校から野球を始めるので、特殊な武器や能力を活かすことで山田に対峙するわけですが、左右投げは完全に意表を突かれました。
水島先生の凄いところは、魔球などを出すわけではなく、現実でも起こり得る投球や試合を見せてくれるとろこで、そのアイディアがまた一つ炸裂したライバルでもありました。
【ライターが選ぶこの1球/1打席(vs山田)】山田を抑えるにはタイミングは外すことと気付かせる打席
わびすけと山田の最初の対決となる第一打席。
剛速球もなければ凄い変化球もない投手でも、打者のタイミングさえ外せば決して強打を許すことはないことを示してくれた打席です。
これは、山田が今後苦戦することを表した打席でもあります(タイミングを崩す投球は、今後、他の投手でも出てくることになります)
「ドカベン」 26巻 水島新司/秋田書店 より引用
6位 クリーンハイスクール戦(1年秋):”秘投・背負い投法”が熱い影丸との真っ向勝負が見所!
「ドカベン」 26巻 水島新司/秋田書店 より引用
白熱度 | ★★★☆☆・・・延長戦に入ってからが本当の勝負! |
駆け引き | ★★★★☆・・・山田が捕手で守り出してからの駆け引きの妙 |
ドラマ性 | ★★★☆☆・・・記憶喪失の山田を試合に出させるのは良いのでしょうか |
vs山田太郎 | ★★★★☆・・・背負い投法vs山田は熱い |
総合 | ★★★☆☆・・・色々な因縁が入り込んだ試合は最後まで熱い |
6位に選んだのは山田太郎が1年の時の秋の関東大会で戦ったクリーンハイスクール戦(千葉県代表)です。
千葉県代表のクリーンハイスクールは出来立てほやほやの新設校です。
そのため野球も全く強豪ではないのですが、投打に超高校級の選手をそろえることで甲子園出場して知名度を上げようとしていました。
投が影丸隼人、打がフォアマンです。
影丸は賀間、わびすけと同じく、柔道時代にしのぎを削ったライバルです。柔道時代から抜群の身体能力を誇り、野球に転向してもその運動能力からあっという間に投手としての素質を伸ばしました。
「ドカベン」 23巻 水島新司/秋田書店 より引用
しかしこのクリーハイスクール戦はちょっと異質でした。
肝心の山田太郎が前の甲府学院との一戦で頭を強打し、一時的な記憶喪失によってスタメンを外れていたのです。
当然のように苦戦する明訓高校は、投げては影丸の前に1得点のみ、一方でフォアマンにホームランを打たれて敗戦の一歩手前まできていました。
しかし最終回、どうせ敗戦するならば悔いのないようにと、監督の土井垣は記憶喪失の山田を代打で打席に送るという賭けをしました。
「ドカベン」 25巻 水島新司/秋田書店 より引用
場面は2死満塁、点差は4点、HRが出れば同点という場面で、山田は本能のみでバットを振るとなんと打球はスタンドイン。
土壇場で同点に追いついた試合は延長戦へと突入します。
「ドカベン」 25巻 水島新司/秋田書店 より引用
延長に入った10回の表、ライトの守備に入った山田にフォアマンの打球が襲います。
懸命に追いかけてフェンスに激突しながら捕球した山田は、その衝撃で記憶を取り戻すことが出来、そこから捕手として試合に出場します。
延長11回、2死1,2塁のチャンスで山田に打席が回り、記憶の戻った山田と本気の影丸がいよいよ対戦します。
ここで影丸がセットポジションで見せるのは、柔道の構えです。
そこから繰り出されるのは、まさに柔道の“背負い投げ”でした。
全身のバネを活かし、柔道の背負い投げをする要領で投じる“背負い投法”により、山田は三球三振に倒れます。
「ドカベン」 26巻 水島新司/秋田書店 より引用
両者譲らぬ試合は延長13回に突入しますが、この回、フォアマンのこの日3本目のホームランによりクリーンハイスクールが再びリードを奪います。
しかしその裏、明訓高校も2死2,3塁と一打サヨナラのチャンスで打席に山田を迎えます。
1塁は空いており、1点差なので1塁ランナーは関係ないので、勝利するなら敬遠一択です。実際、クリーンハイスクールの徳川監督も敬遠を指示します。
しかし影丸は敬遠の指示を無視し、再び背負い投法で山田と勝負します。賀間と同じ、ここで勝負を避けたら柔道から転向した意味がないからです。
「ドカベン」 26巻 水島新司/秋田書店 より引用
渾身の一打はライト前のヒットとなり、特別ランナーとして2塁の代走に出ていた岩鬼は3塁を回ってホームを目指します。
ライトのフォアマンからのバックホームを受けたのは、柔道時代に岩鬼に借りのある影丸でした。
悠々アウトのタイミングでしたが、岩鬼から体当たりを受ける形になった影丸は、反射的に柔道時代の”バックドロップ投げ”を放ってしまいその衝撃で落球、明訓が劇的なサヨナラ勝ちを収めたのでした。
「ドカベン」 26巻 水島新司/秋田書店 より引用
【この試合を選んだ最大のポイント(駆け引き)】:延長戦に入ってからの駆け引き
延長戦に入るまでは山田不在でしたが、延長に入り山田の記憶が戻ってからのガチの勝負では、山田の相手打者の様子を見てのリードであったり、影丸と山田の真っ向勝負や敬遠と思わせての勝負であったり、幾つもの駆け引きが描かれた勝負だったと思います。
「ドカベン」 26巻 水島新司/秋田書店 より引用
【ライターが選ぶこの1球/1打席】秘投、背負い投法での真っ向勝負!
なんといっても、延長戦に入って最初の影丸vs山田の打席です。
ここでついに繰り出す秘投・背負い投法vs8割打者の山田。
いわゆる野茂秀雄投手の“トルネード”投法ともいえる、打者に背中を見せた状態から体の捻りで投球に勢いをつけるこの投法が炸裂し、山田と真っ向勝負で三球三振に打ち取った打席は見ごたえ十分でした。
「ドカベン」 26巻 水島新司/秋田書店 より引用
漫画で背負い投法を初めてみた時に”こんな投げ方できるのか”と思った方も、野茂投手が登場した時に驚いたのではないでしょうか。
5位 弁慶高校戦(2年夏):弁慶高校の策に嵌った明訓高校。”弁慶の仁王立ち”に”義経の八艘跳び”が明訓高校立ちはだかる!
「ドカベン」 39巻 水島新司/秋田書店 より引用
白熱度 | ★★★★☆・・・先頭打者HRから敬遠HR、八艘跳びなど熱い |
駆け引き | ★★★★☆・・・試合前から駆け引きは始まっていた! |
ドラマ性 | ★★★★★・・・まさかまさか、明訓高校が・・・!? |
vs山田太郎 | ★★★☆☆・・・山田というよりは明訓を倒すための執念 |
総合 | ★★★★☆・・・明訓高校の唯一の黒星をつけた試合でした |
5位は2年の夏の甲子園で戦った弁慶高校戦(岩手県代表)です。
弁慶高校は怪人・武蔵坊弁慶と剛腕・義経光の二人が牽引する高校です。
その戦いでは、何か不思議な力が働いているとしか思えないようなことが発生していて、明訓高校との試合も異様な雰囲気の中で始まります。
エース、義経は試合前から初球はストレートど真ん中を投げると宣言しており、それを受けた明訓の土井垣監督は1番に山田を起用します。
「ドカベン」 39巻 水島新司/秋田書店 より引用
この起用により、宣言通りにストレートど真ん中を投じた義経の初球を山田は見事に捉えて先頭打者ホームランを放ちます。
主導権を握ったかに見える明訓高校ですが、これこそ弁慶高校の作戦でした。
打順には意味があり役割があります。
1番には1番の、4番には4番の役割がある中、いつもは4番の山田を1番に、1番の山田を4番にしたことで明訓の攻撃の歯車は狂い始めます。
山田が1番として塁に出ても、鈍足過ぎて塁を進めることができませんし、逆に4番の岩鬼は悪球打ちで弱点が明らかなだけに、ランナーが溜まったら岩鬼勝負をされて追加点を奪うことが出来ない悪循環に嵌ります。
明訓高校の流れが悪い中、弁慶高校は武蔵坊弁慶が、里中が敬遠するためにウエストしたボールを強振してホームランにして2-1と試合をひっくり返します。
「ドカベン」 40巻 水島新司/秋田書店 より引用
追いつめられる明訓高校ですが9回表、山田の打順を1番に変更したことで山田まで打席が回ると、山田は期待に応えて同点ホームランを放ち土壇場で同点に追いつきます。
9回裏の弁慶高校の攻撃を凌げば延長戦、追いついて勢いに乗る明訓高校に分があるところ、弁慶高校は義経、弁慶の連打で1死1,2塁とサヨナラのチャンスを迎えます。
続く5番、安宅のセンター前へ抜けようかという打球でしたが殿馬がダイビングキャッチ、そのままショートの石毛にバックトスしてゲッツーかと思った次の瞬間、石毛のファーストへの送球がランナーの弁慶に直撃します。
「ドカベン」 40巻 水島新司/秋田書店 より引用
それを見てホームに向かう義経、バックホームする殿馬。
山田は三塁方向に逸れたボールをキャッチしそのまま義経にタッチしようとしますが、義経は山田をジャンプして飛び越える“八艘跳び”を見せてサヨナラのホームを踏みました。
山田太郎達が在籍している間、唯一の敗戦を喫した相手がこの弁慶高校でした。
「ドカベン」 40巻 水島新司/秋田書店 より引用
【この試合を選んだ最大のポイント(ドラマ性)】明訓高校は負けるべくした負けた
勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし、という言葉があります。
実際に明訓高校も不思議な形で勝ちを拾った試合もありました。
そして唯一の敗戦を喫したこの試合は、あるべき形を崩してしまったことが敗戦を招いたはずで、明訓高校とて負けに不思議の負けなし、を体現した一戦だったと思います。
「ドカベン」 40巻 水島新司/秋田書店 より引用
【ライターが選ぶこの1球/1打席】小手先の策にハマった明訓高校運命の一打席
山田の先頭打者ホームラン。
初球ストレートど真ん中と宣言され実際に投じられたとして、簡単にホームランを打てるものではありません。
それを当たり前のように打った山田は凄いですが、この瞬間から明訓が狂いだした一球でもありました。
4位 通天閣高校戦(1年夏):下手な小細工なしの真っ向勝負の好勝負!
「ドカベン」 14巻 水島新司/秋田書店 より引用
白熱度 | ★★★★☆・・・白熱の投手戦! |
駆け引き | ★★★★☆・・・駆け引きというか真っ向勝負! |
ドラマ性 | ★★★★★・・・思いがけない脇役が活躍する、珍しい試合 |
vs山田太郎 | ★★★☆☆・・・山田太郎だけを特別視する試合ではない |
総合 | ★★★★☆・・・良い試合 |
4位は1年の夏の甲子園大会での初戦、通天閣高校戦(大阪府代表)です。
通天閣高校は優勝候補の一角、エースの坂田三吉が投打で引っ張るチームです。
坂田といえば長身、長い手足で、その長い左腕から放たれる快速球が武器で、両チームとも打開策が見えないままイニングは進んでいきます。
「ドカベン」 14巻 水島新司/秋田書店 より引用
試合が動いたのは7回、殿馬が左打席に立つなどして坂田のリズムを狂わすと、意表をつくセーフティバントを成功させ、しかも2塁を陥れます。
この好機に、山田が期待に応えるタイムリーを放って明訓高校がついに1点を先取します。
里中は1点を死守するべく好投して、いよいよ9回裏の通天閣高校最後の攻撃となります。
最後の打者は4番の坂田。
坂田は最初打席から極端なアッパースイングを繰り返しており、その打ち方をしている限り内野の頭を越えることはないと思われています。
この最後の打席でもピッチャーの真上に上がる凡フライをとなりますが、そのフライは極端に高く上がるフライで、地上に近づけば近づくほど広がっていく“通天閣打球”でした。
「ドカベン」 14巻 水島新司/秋田書店 より引用
落球したのを横目に坂田はホームまで達し、最後の一人というところで同点に追いつきました。
延長戦に入りますが、前の回でランニングホームランを放ち呼吸の整わない坂田を明訓は攻め立て、土井垣、山田の連打で無死1,3塁のチャンスを作ります。
しかし後続の打者が倒れて2死となり、打席にはお世辞にも打撃が良いとはいえない8番の北が入ります。
緊張する北ですが、バックネットで応援する妹の妙子を見つけます。
病気で床に臥せているはずの妹が甲子園まで見に来てくれた、そのことで力を得た北は、センターへ勝ち越しのタイムリーを放ちます。
「ドカベン」 14巻 水島新司/秋田書店 より引用
北の一打が決勝打となり、明訓高校は勝利したのでした。
【この試合を選んだ最大のポイント(駆け引き)】
通天閣高校とは2回戦っていますが、いずれも描かれた話数としては短いです。
それは、通天閣高校との戦いが真っ向勝負だからです。坂田も勝利に対し異様な執念を持つ男ですが、その投球は相手が山田でも常に真っ向勝負。
奇策や奇抜な試合ではないだけに派手さは少ないのですが、だからこそ挙げておきたい対戦だと思いましたし、メインキャラではない脇役キャラが活躍するなど、高校野球らしい良い試合だと思いました(そのため、弁慶高校戦よりも上位にしています)
「ドカベン」 47巻 水島新司/秋田書店 より引用
【ライターが選ぶこの1球/1打席】殿馬の秘打よりむしろこちらを真似した打法
9回裏、坂田の最後の打席の“通天閣打球”
「ドカベン」 14巻 水島新司/秋田書店 より引用
そんな馬鹿なことあるんかいと思ったこの打球ですが、実際にプロ野球でも“リアル通天閣打球”みたいなものがいつ頃からか結構出ています。強く振る選手が増え、フライボール革命が起きたからではないかと思います。
殿馬の“秘打”は真似するのが難しいと思いますが、この“通天閣打球”は打ち方も含めて子供心に真似しやすく、決めてみたい一打だった人も多いと思います。
3位 いわき東高校戦(1年夏):初の決勝戦は初回から波乱含み!ドラマ性満載の一戦
「ドカベン」 16巻 水島新司/秋田書店 より引用
白熱度 | ★★★★★・・・最後のタッチアップシーンとか熱いわぁ |
駆け引き | ★★★★★・・・いわき東のフォークボールと足技に対する明訓高校 |
ドラマ性 | ★★★★★・・・幻のホームランから最後のシーンまでドラマ性満載 |
vs山田太郎 | ★★★☆☆・・・山田個人ではなく明訓全体で緒方に挑んだ試合 |
総合 | ★★★★☆・・・ドラマ性もあり、幕引きも良い試合でした |
3位は1年夏の甲子園の決勝戦、いわき東高校(福島県代表)との試合です。
決勝戦で明訓高校の前に立ちはだかったのは、超高校級のフォークボールを投じる緒方勉です。
大きな落差、そしてコントロールも良いフォークボールですが、ワンバウンドするほどのフォークは岩鬼にとっては絶好球です。
「ドカベン」 16巻 水島新司/秋田書店 より引用
プレイボールホームラン!
かと思われた岩鬼の一打でしたが、なんと3塁ベースを踏み忘れて幻のホームランになるという、初っ端からとんでもない形で試合は始まりました。
「ドカベン」 16巻 水島新司/秋田書店 より引用
超高校級のフォークボールに対し、明訓高校はバッターボックスの一番前に立つことでフォークボールをとにかくバットに当てることで緒方を動揺させる作戦を取ります。
一方のいわき東高校は俊足の1番打者、足利がなんとかして出塁し、その足で1点を取って緒方で逃げ切ることを図ります。
明訓高校は、スチールしたり、スクイズをしかけたりしてくる足利の足を必死のプレイで防いでいきます。
「ドカベン」 17巻 水島新司/秋田書店 より引用
両校無得点で迎えた8回裏、いわき東高校は足利がセーフティバントで三度、塁に出ると、盗塁、そして次の打者の内野安打の間に足利がホームを陥れてついに1点をもぎ取りました。
あとは緒方が1点を守りきれば優勝となる9回表、明訓高校最後の攻撃です。
1死1塁で打者は岩鬼ですが、フォークを投げずにど真ん中にストレートさえ投げれば安全なところ、太陽が目に入って何も見えなくなったことが悪球となり、ど真ん中の球をとらえて逆転2ランホームランとなりました。
「ドカベン」 17巻 水島新司/秋田書店 より引用
9回裏、今度はいわき東高校が追い詰められた状況での攻撃となります。
先頭打者は緒方。地元の炭鉱が廃坑となり甲子園を最後にチームメイトとバラバラになるため、優勝して優勝旗を持ち帰ると誓っています。
緒方の執念の一撃は二塁打となり、その後の送りバントで1死3塁と同点のチャンスを迎えます。
5番打者の打球は力なく3塁スタンドに入るファウルフライとなりますが、岩鬼がフェンスによじ登ってフライをキャッチしてしまいます。
無茶な体勢でフライを捕った岩鬼を見て、3塁ランナーの緒方はタッチアップでホームに突入します。
「ドカベン」 18巻 水島新司/秋田書店 より引用
岩鬼の決死の返球はベース手前でワンバウンドしそうな微妙な低い送球でしたが、山田は一か八か前に出て捕球し、緒方をホームでタッチアウト、優勝を飾ったのでした。
【この試合を選んだ最大のポイント(駆け引き)】フォークボールと足攻に焦点を当てた試合
- 緒方のフォークボールvs明訓打線
- 足利の足vs明訓守備陣
というのが明確な試合であり、その二つに焦点を当てて両チーム、選手が駆け引きを行う、実に見所のある試合でした。
「ドカベン」 17巻 水島新司/秋田書店 より引用
【ライターが選ぶこの1球/1打席】運命のファウルフライ
最後の緒方がタッチアップしたファウルフライ。
捕球できるか分からず、捕球できたとしてもその後に送球するのが難しい打球で、セオリー通りならファウルにしておくものです。
「ドカベン」 18巻 水島新司/秋田書店 より引用
ですが、結果としてこの捕球によってゲッツーとなって試合終了となりました。
里中は準決勝の土佐丸高校戦で負った頭の怪我から限界に近い状態で、その後の打者を抑えられたか分からない状態でした。
実際、緒方には失投を二塁打されており、スクイズや外野フライも十分にあり得る展開だったと思いますし、同点となったら里中の限界から明訓高校の方が厳しい状況でした。
試合の状況としては岩鬼の判断が正しいとは思いませんが、結果として里中を救ったプレイになったのがなんとも面白いところです。
2位 土佐丸高校戦(1年秋):まさに死闘!四天王の過去と思いと意地、全てが重なり合って引き出された熱戦
「ドカベン」 30巻 水島新司/秋田書店 より引用
白熱度 | ★★★★★・・・互いの意地と執念がぶつかり合う、最後の最後まで熱い試合 |
駆け引き | ★★★★☆・・・誰もがあらゆる手段を試合にこめるけど、殺人野球はダメ(今の時代) |
ドラマ性 | ★★★★★・・・明訓四天王の過去、そして劇的な幕切れ |
vs山田太郎 | ★★★★☆・・・山田殺しの犬神の策略が炸裂 |
総合 | ★★★★★・・・まさに作品随一の”死闘” |
2位は1年秋の選抜の決勝戦、土佐丸高校(高知県代表)との試合です。
土佐丸高校といえば“殺人野球”と、現代なら炎上必至のスタイルで明訓高校を苦しめてきます。
夏の大会で敗れてから打倒・明訓のために特訓を重ね、今大会では準決勝まで全員が眼帯をつけて片目だけで試合を行い、この明訓との決勝戦で眼帯を外して両目を使用することで里中の球を見やすくする、なんていう戦法を繰り出してきます。
「ドカベン」 30巻 水島新司/秋田書店 より引用
里中は前の試合の信濃川高校との試合で指を痛めていたこともあり、初回から状態が上がらず4番の犬養武蔵に豪快な先制3ランを打たれてしまいます。
しかし明訓高校も譲らすその裏、すぐさま山田の3ランで同点に追いつきます。
武蔵では山田に通用しないと判断した土佐丸高校の犬養小次郎監督は、山田の2打席目に対山田の秘密兵器、犬神をワンポイントでマウンドに送り出します。
犬神の武器はアンダーシャツを活用して腕が伸びたように見せる変幻投法。
犬神の投球に惑わされた山田はチャンスに三振を喫してしまいます。
「ドカベン」 30巻 水島新司/秋田書店 より引用
怪我をして本来の投球が出来ない里中を山田は必至のリードで土佐丸打線を抑えていきますが、5回に犬神がセーフティバントで出塁して2死ながら3塁のピンチを迎えます。
ここで打者への投球がワンバウンドとなって山田がボールを弾いている間に犬神がホームに突入してセーフとなり、土佐丸高校に1点を勝ち越されます。
しかしその裏、明訓高校もすぐに反撃を行い2死満塁のチャンスで山田を打席に迎えると、対する土佐丸高校は当然ながら犬神をワンポイントに送ります。
犬神に惑わされる山田ですが、打席の中でアンダーシャツのからくりを見破り、ファウルで粘りながら徐々にタイミングをあわせていきます。
次こそ打てる、そう山田が思ったとき、犬神が行ったのはなんと“背面投げ”のスローボール。
「ドカベン」 31巻 水島新司/秋田書店 より引用
タイミングを外された山田の打球は力ないピッチャーライナーに終わるのでした。
ちなみにこの“背面投げ”はプロ野球でもかつて中日の小川投手が実際に使用しており、不正投球ではありません。
その後は両軍無得点で試合は進み9回裏、1死1塁で打席に立つのは岩鬼。
悪球さえ投げなければ大丈夫という場面で岩鬼が考え出したのが、極端に度の強い眼鏡をかけることでど真ん中の球を無理矢理悪球にしてしまうというもの。
この策が功を奏して岩鬼の打球は同点の2塁打となって試合は延長戦に入ります。
「ドカベン」 31巻 水島新司/秋田書店 より引用
延長10回、またしても内野安打で出塁した犬神は、山田が前の打席で死球を受けて送球できない事を見透かし、盗塁で3塁まで到達します。
さらに里中がワインドアップで投げるのを見た犬神はホームスチールを敢行します。
凄まじい勢いでスライディングする犬神でしたが、山田はそれを上回るブロックで犬神を弾き飛ばしてホームを死守しました。
「ドカベン」 31巻 水島新司/秋田書店 より引用
延長12回表、犬養武蔵が詰まった当たりながら力でフェンスを越える勝ち越しホームランを放ちます。
怪我をして山田に期待できない明訓高校は12回裏、ランナー1塁で殿馬が打席に立ちます。
殿馬はこの打席、実はひと際長いバットを持っていましたが、わざと短く持ってそれを悟られないようにしてきました。
そして最後の一球、バッターボックスの端で離れて構える殿馬を見てアウトコースに投じたストレートを、バットを目いっぱい長く持って振りぬいた打球はライトへ高々と上がります。
「ドカベン」 31巻 水島新司/秋田書店 より引用
ライトを守っているのは、ホームスチールの際に山田に弾き飛ばされて全身打撲で動くことの出来ない犬神です。
しかしチームメイトの声に動かされ、動けない犬神が必死に打球を追います。
やがて犬神はフェンスに飛びつき、落ちてくるボールを執念でキャッチするもそのままラッキーゾーンに落ちていく、と思いきやここも執念で両足をフェンスに引っかけて落ちるのを必死にこらえます。
センターの犬王が、犬神が落ちる前に助けるべく全力で向かいますが、犬王の手が届く直前に犬神は力尽きてラッキーゾーンに転落、殿馬の劇的なサヨナラホームランとなったのでした。
「ドカベン」 31巻 水島新司/秋田書店 より引用
【この試合を選んだ最大のポイント(白熱度)】両校の思いがこれまでかとぶつかり合う死闘
この試合終盤では明訓四天王と呼ばれる山田、里中、岩鬼、殿馬の四人の過去について、順々に描かれていきます。
- 岩鬼の幼少時を見守ってくれていたお手伝いのおつるとの関係
- 山田の両親の事故
- チビといわれ、小林に勝つためにアンダースローに転向した里中
- ピアノの道がありながら、山田と出会ったことで野球に転向した殿馬
「ドカベン」 31巻 水島新司/秋田書店 より引用
その描写が試合の白熱度に拍車をかけます。
“殺人野球”を掲げる土佐丸高校とのまさに死闘だからこそ、四天王の思いが勝負に乗り移ったのではないかと思います。
両校の幾度にもわたり繰り広げられる様々な攻防、そして劇的な結末は、まさに手に汗握る試合でした。
【ライターが選ぶこの1球/1打席】
殿馬は数々の秘打を放ってきましたが、この打席ほどきっちり布石を置いた打席はないのではないでしょうか。
非力で長打はないと思わせ、長いバットを短く見せ、追い込まれた後にバッターボックスの端で背を向けて構えてアウトコースを誘う。
誘いにのって投じられたアウトコースの直球に対し、体の回転と長いバットの遠心力を利用してライトへの決め打ち。
「ドカベン」 31巻 水島新司/秋田書店 より引用
全て思惑通りに、加えてピアノから野球に転向した思いも乗せたからこそ、打球はフェンスを越えたのではないかと思います。
1位 白新高校戦(2年夏):山田太郎最大のライバル、白新高校の不知火が山田を最も苦しめる投手になった戦い
「ドカベン」 34巻 水島新司/秋田書店 より引用
白熱度 | ★★★★★・・・不知火があってこその灼熱の試合 |
駆け引き | ★★★★☆・・・策略なし、真っ向勝負! |
ドラマ性 | ★★★★★・・・あんな決勝点の入り方とか! |
vs山田太郎 | ★★★★★・・・不知火の執念と実力をまざまざと見せられます |
総合 | ★★★★★・・・奇策なしに明訓を苦しめられる最大のライバルとの試合 |
1位に選んだのは、2年夏の神奈川県予選での白新高校戦(神奈川県)です。
白新高校の不知火といえば山田の最大のライバルです。
1年の夏から3年の夏まで5回も明訓高校と対戦したのは不知火だけです。
3年夏の予選も死闘で選びたかったのですが、そちらは『大甲子園』に収録のため対象外としました。
不知火といえば速球を武器にする本格派投手ですが、ただ速い球だけでは明訓高校に、山田太郎には勝てないということを今までの試合、及び明訓高校と戦った他の高校との試合を見て理解しています。
そんな不知火が辿り着いたのが、“超・遅球”です。
「ドカベン」 34巻 水島新司/秋田書店 より引用
速球と同じフォームで繰り出せるよう、鋼鉄のような肩、弓の腕、カマのような手首を鍛え上げ、不知火が山田の前に立ちふさがります。
このスローボールの凄いところは、ヤマを張られても、相手の狙いを見て即座にスローボールから速球に、また逆に速球からスローボールに変えられるところです。
手首一つで変更できるように不知火は鍛え上げて来たのです。
「ドカベン」 34巻 水島新司/秋田書店 より引用
不知火と里中の投げ合いで両軍、無得点のまま回が進みます。
7回裏には不知火が強烈な打球を放ち、レフトの微笑みがダイビングキャッチを試みますが、ダイレクトで捕球したかワンバウンドしたかを判断する審判が暑さで倒れてしまうというハプニングも発生します(結果は、アウト)
「ドカベン」 35巻 水島新司/秋田書店 より引用
不知火がパーフェクト、里中がノーヒットノーランという投手戦は延長に突入します。
延長10回表、明訓高校は不知火が苦手とする殿馬の活躍もあり、1死1,2塁のチャンスで山田が打席に立ちます。
山田はこの打席でも超スローボールにまるでタイミングが合いませんが、苦肉の策であるプッシュバントが意表をついて内野安打となって1死満塁となります。
ここで打席には5番の微笑、ホースプレイとなるため満塁でスクイズはやりづらいところですが、不知火の球は普通には打てないと判断し明訓高校はスクイズをします。
しかし微笑のスクイズは小飛球となり、不知火がダイビングして直接キャッチ。塁を飛び出していた山田は戻ることが出来ずダブルプレーでチェンジとなります。
「ドカベン」 35巻 水島新司/秋田書店 より引用
チャンスを逸したと思われた明訓高校ですが、スコアボードには「1」が。
憤る不知火たち明訓高校ですが、これは間違いなく明訓高校の得点でした。
「ドカベン」 35巻 水島新司/秋田書店 より引用
この得点、初見ではなかなか理解し辛いですし、ライター自身も最初は分かりませんでしたが、以下のようになります。
これは、守備側がフライを捕球する前に進塁したランナーをアウトにするのは、守備側のアピールプレイになるためであり、守備側がアピールしない限りプレイは認められます。
今回であれば不知火が小フライをキャッチして2アウト、そして1塁から飛び出した山田をアウトで3アウトとなりましたが、山田がアウトになる前に3塁ランナーの岩鬼がホームインしており、この岩鬼の走塁に対しアピールがなく次のプレイに移ったため(この場合はチェンジと判断した白新高校がフィールドラインを越えたこと)岩鬼のホームインも正式に認められたのです。
これが例えば岩鬼がホームインする前に山田がアウトになっていれば3アウト目の方が先に成立するためホームインは認められませんでしたし、3塁に投げていれば岩鬼をアウトにすることが出来たのですが、そのどちらでもなかったのです。
山田はこのルールを知っていたため、岩鬼がホームに突入したことを見て、帰塁を遅らせたのです。
難攻不落と思えた不知火から思いがけない方法で得点した明訓高校は、その裏の白新高校の攻撃を抑えて見事に勝利したのです。
【この試合を選んだ最大のポイント(ドラマ性+vs山田)】勝ちに不思議の勝ちあり
なんといっても野球のルール上の盲点をついた形で決勝点を奪って明訓高校が勝利したということ。こんな勝ち方もあるのかと驚かせてくれました。
こんな方法で得点することが出来るなんて、『ドカベン』で知りましたし、これは実際の夏の甲子園でも再現されています(2012年の済済黌高校vs鳴門高校の試合)
それだけではなく、打倒・山田太郎として不知火が考えに考えて編み出したのは奇策でもなければ剛球でもなくタイミングを外して打たせないという超・遅球。
一人で山田に、明訓に立ちはだかる不知火の飽くなき執念が分かる試合でもありました。
「ドカベン」 35巻 水島新司/秋田書店 より引用
【ライターが選ぶこの1球/1打席】山田を倒すには速球ではない、遅い球だ!
山田と不知火の第一打席での超・遅球を見た時です。
山田を倒すためには速球ではなく遅い球、というところに辿り着き、それを成し遂げる努力をした不知火の凄さを見ました。
このスローボールを手にして以降、不知火は山田に対して抜群の強さを誇るようになったくらいです(ただ、それでも明訓高校には勝てなかったのですが・・・)
「ドカベン」 34巻 水島新司/秋田書店 より引用
3、まとめ
9試合をご紹介しましたが、あくまでもライター独自の評価です。
- いやいや、この試合はもっと順位が上だろう?
- あの試合が入っていないのはおかしい!
- 自分だったらもっと違うランキングになる!
- 『大甲子園』も入れてくれよ!
などなど、読者それぞれで思い入れのある試合や名勝負はあると思います。
そんなことも考えていると、また読み返したくなっちゃうと思いますが、そう思ったら是非、読み返してみてください!
何回読んでも、野球の楽しさ、面白さを味あわせてくれる作品だと改めて実感すること間違いありません。
この記事を寄稿するため「ドカベン」を再読しようとしたところ、「大甲子園」が見つからず悲嘆に暮れたマンガフルライター・神門でした。
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