みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。
今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。
第15回は、源氏の従兄であり義兄であり親友でありライバルでもある頭中将です!
これまでのキャラ解説でもちょこちょこその名前が登場した頭中将。
『源氏物語』然り『あさきゆめみし』然り、どうしても男キャラの存在感が薄くなりがちですが、彼だけは別です。
女ばかりのストーリーのなかで、彼の存在がどのような役割を果たしているのか? また、彼の魅力とは?
詳しく見ていきましょう!
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こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!
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目次
1、『源氏物語』における頭中将
紅葉賀にて源氏と青海波を舞う頭中将
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
頭中将は桐壺帝の御世の左大臣家の長男。
母親である大宮は桐壺帝の妹にあたるので、源氏とは従兄弟同士になります。
また、源氏が頭中将の同腹の妹である葵の上を正妻にしたため、義兄弟の間柄にもなるわけですね。
頭中将は背がすらりと高いイケメンで、和歌や詩作もお手の物。
スポーツもできるし、和琴の演奏は名人級の腕前です。
同世代の男性のなかでは源氏と肩を並べられる唯一の存在であり、都の女子の人気を二分する存在といっていいでしょう。
貴い身分に優れた才能、恵まれた容姿などなど、なにかと源氏と共通点の多い頭中将ですが、違いを挙げるとすれば「女性関係」。
具体的には、女性との関係の持ち方が二人は大きく異なります。
源氏が一見生真面目で物堅く見せている(実際は選り好みが激しいと言える)のに対し、頭中将はわりと来る者拒まずなタイプのいわゆるプレイボーイ。
もちろん、彼にも女性に対するこだわりはいろいろとあるのですが、純粋に女性との恋を楽しめるタイプであり、苦い経験も自身の糧にできる人です。
ゆえに、年長者として人生の楽しみ方や恋の道について源氏に語ってきかせるなんていう場面も。(このことは源氏の考え方や行動に大きな影響を与えます)
『あさきゆめみし』では源氏が少し近寄りがたい雰囲気なのに対し、頭中将は気さくで親しみやすい人物として描かれています
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
そんな頭中将、正妻は右大臣の四の君。
『源氏物語』は桐壺帝の死をきっかけに政局が大きく動き、左大臣優位の世の中から右大臣がもてはやされる世へと変化します。
諸々の事情もあり、右大臣一派と敵対していた源氏は須磨に隠遁することになりますが、右大臣の婿君である頭中将はめでたく出世することに。
妻の血筋ひとつで明暗が大きく分かれる平安貴族……頭中将は運が良いというか要領が良いというか、とにかくこの源氏の須磨流しによって、親友である二人には距離と立場に大きな隔たりができてしまいます。
だからといって源氏と頭中将の友情にヒビが入ることはなく、わざわざ源氏に会いに須磨までやってくるなんていう友情に篤い面を見せることも。
わざわざ遠い須磨まで会いに来てくれたのは頭中将だけです
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
その甲斐あってか、源氏の帰京後も変わらず良き競争相手としてあり続け、二人はさらに友情を深めます。
しかし、ある程度歳を重ねると、競争の場は徐々に変化。
若い頃は恋や蹴鞠、詩作、弓矢などで競争を楽しんでいましたが、二人揃って朝廷の重要人物となってからは外戚政治に乗り出すようになり、ちょっと険悪になってしまうことも……。
それでも彼が源氏にとってかけがえのない存在であることは確かであり、源氏に良きにつけ悪しきにつけ影響と刺激を与えたことから、『源氏物語』のストーリー展開に置いても重要なキャラクターと言えるでしょう。
また、源氏の元服後~晩年まで物語に登場しつづけ、おそらくもっとも長く『源氏物語』で活躍したキャラクターであることも言い添えておきます。
ちなみに、「頭中将」とは蔵人頭と近衛の中将を兼ねた人の通称であり、彼の名前ではありません。(余談ですが、頭中将という官職は当時の出世コースの入り口みたいなものです)
彼は頭中将から権中納言、右大将、内大臣、太政大臣と出世していきそのときどきの職名で呼ばれますが、この記事では「頭中将」で統一させていただきます。
2、『あさきゆめみし』における頭中将~シリアスとコメディのバランスメーカー~
『源氏物語』では時と場合によって描かれ方が大きく変わり、「キャラクター性が見えない・統一性がない」などと評価されることもある頭中将。
一方、『あさきゆめみし』での彼を一言で表わすならば、「バランスメーカー」という表現がちょうどいいでしょう。
基本、彼が登場するシーンはコメディ要素が多めです。
こちらは忍び歩きをする源氏を尾行するお茶目なエピソード。源氏も驚くやらあきれるやら。
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
そのせいか、頭中将と一緒にいるときは源氏も朗らかによく笑っていることが多く、普段は暗く沈みがちな源氏に歳相応の若者らしさが見えます。
女性関係のドロドロばかりのストーリーのなかで、ちょっぴりお茶目でカラッとした人柄の頭中将の存在は一服の清涼剤のようなもの。
シリアス展開をコメディに転換させ、ストーリーのバランスをとってくれます。
また、コメディ担当と見せかけて、時にはがっつりシリアスに徹することも。
須磨を訪れたときのワンシーン。おどけながらさりげなく源氏を励まします
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
徹頭徹尾コメディだとただのピエロですが、見せるところはしっかり見せるーーそれが『あさきゆめみし』の頭中将なのです。
そんなメリハリのある人物だからこそ、源氏も好ましく思い一緒にいるのでしょう。
頭中将と一緒にいるときの源氏は、女君と過ごしているときよりも人間味があるように見えます。
頭中将の前なら肩肘張らず、等身大のまま伸び伸びとした自分でいられるからかもしれないですね。
源氏の従兄であり義兄であり親友でありライバルであり、源氏に朗らかさをもたらしてくれる頭中将。
ストーリーのバランスメーカーであるのと同時に、源氏の精神的バランスメーカーといってもいいかもしれません。
3、ただの当て馬ではない!源氏と比較することで見えてくる頭中将の魅力は「人間力」
先述の通り、頭中将は良い競争相手ですが、実際は「源氏にとって」という枕詞が必要になります。
並外れた才能を持つ源氏と肩を並べられるような公達は都広しといえどなかなかいるものではなく、唯一近いレベルで争えるのが頭中将だったわけですがーー。
実際のところ、彼は何においても源氏にあとちょっとのところで敵いません。
元服以降、官位も源氏よりずっとワンランク下で、文武はもちろん末摘花の一件のように恋の勝負でも負けてしまいますし、外戚政治でも苦い思いをさせられます。
自分の娘を中宮にしたかった頭中将ですが、中宮に選ばれたのは源氏が後見を務める梅壺の女御でした
(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)
一時は険悪になってしまった二人でしたが、若かりし日の思い出が二人を隔てていた氷を溶かしていきます
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
そんな頭中将はときに源氏の魅力を引き立てる「当て馬」と見なされることもありますが、『あさきゆめみし』を読んでいると「ただの当て馬じゃない」ことがわかります。
そもそも、ちょっと考えてみてください。
『何においてもあと一歩届かない相手』に対し腐ることなく競争心を持ち続け、さらに友情を保ち続けられるって、すごいことだと思いませんか?
実際、こんなことできる人ってどれだけいるでしょう……。(ライターは無理です。心がやられます)
「源氏と肩を並べられるのは自分だけ」という頭中将の自尊心の高さも見て取れますが、僻んだり姑息な手段を取ったりすることはなく、真っ当に源氏とやりあう姿には爽やかな好感を覚えます。(もちろん、それなりに嫉妬したりイタズラしたりはありますが)
恐らく、その気質は血筋や彼の地頭の良さ、忍耐力や自律心などに基づいたものであり、頭中将はとても人間力が高い人物であるといえるでしょう。
誰もが遠慮してしまう源氏と対等に付き合えることからも、頭中将のプライドの高さと人間力の高さがうかがえます
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
また、源氏と頭中将との違いとして「女性関係」を挙げましたが、二人には女性に対する敬意や誠意の有無でも違いが見られます。
源氏の恋といえば辛く悲しく苦しいことが多いですが、そもそも根底にあるのが「理想の女性(藤壺)の追求」であり目の前の女性に対する誠意や敬意が足りないことも原因であるといえます。
一方、頭中将はもっと奔放に恋を楽しんでいるような印象があり、またそれを隠そうともしていないため、ある意味源氏よりも女性に誠実です。
(これはあくまでもライターの個人的な意見ですが、恋人にするなら頭中将のほうが断然良いと思います。(結婚となると源氏も頭中将もちょっと……ですが))
そう考えると、人間としてだけではなく、実は男性としても頭中将のほうが魅力的に思えてきませんか?
とはいえ、頭中将も源氏に負けず劣らずの浮気性。
あくまでも「源氏と比べた場合」「遊びで付き合うなら」という前提が必要ですが、こうして源氏と比較することで見えてくる魅力があるのも事実です。
漫画という媒体であるがゆえに、『源氏物語』よりもキャラクター性が強く描かれている『あさきゆめみし』。
おかげで、頭中将もただの当て馬では終わらず魅力たっぷりなキャラクターとして表現されていて、その生き生きとした姿に読者も魅力を感じずにはいられないのです。
4、源氏を引き立てながらストーリーのバランスを整えてくれる大切な存在
『源氏物語』における頭中将のキャラクター性の曖昧さを考えると、もしかしたら紫式部は彼をあまり重要視しておらず「ちょっと登場頻度の高いモブ」程度の扱いだったのかもしれません。
おそらく彼女は源氏とその女君の物語に集中していて、頭中将はストーリーを展開させたりバランスを取ったりするのに便利なキャラというだけで、あまり関心がなかったのではないでしょうか……。
そんな頭中将だからこそ、後世の後付けやキャラクター性の肉付けでより魅力を増すことができたとも考えられます。
それは『あさきゆめみし』でも言えることで、頭中将という”親友キャラクター”を生き生きと描くことで源氏に人間らしさが生まれ、同時に源氏の魅力を引き立てることにも成功しています。
もちろん、ストーリーのバランスメーカーとしても優秀なのは言うまでもありません。
紫式部は後の世で頭中将がここまで注目されることは想像していなかったかもしれませんが、間違いなく頭中将は『源氏物語』において大切な存在です。
そんなわけで、実は密かに頭中将を主人公にした作品なんか面白いんじゃないかなぁと思っているライターなのでした。(もしすでにあったら作品名とか教えていただけると嬉しいです!)
(ayame)
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