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【『あさきゆめみし』キャラ解説】32回:源氏の忠実な部下であり幼馴染であり親友!縁の下の力持ち・藤原惟光

みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。

今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。

32回目となる今回は、ついにやってきた!

源氏の乳兄弟にして稀代の太鼓持ち、藤原惟光です!

いえ、太鼓持ちと言うとちょっと印象が悪いかもしれませんね。お詫びして訂正します。

幼い頃から源氏に真摯に仕え、けして目立ちはしないもののきめ細やかな心配りと持ち前のスキルでなにくれとなく源氏を世話する姿は、まさに縁の下の力持ち。

彼の存在がなければ、始まらなかったラブストーリーも一つや二つではありません。

源氏にとって唯一無二、なんだったら藤壺様より大事なんじゃないかと言いたくなるような存在。

今回はそんな惟光の解説ととともに、平安時代の【乳兄弟】についていつも以上に私個人の癖まるだしで解説していきますよ~!(なんせ惟光に関するそもそもの情報量が少ないのでね!)

 

このコラムの初回0回はこちらです↓

【『あさきゆめみし』キャラ解説】0回:コラム連載にあたっての前説~本作の魅力とキャラ解説に至った理由

2022年2月9日

 

こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!

 

また、55周年記念の新装版も発売しています。

 

1、『源氏物語』&『あさきゆめみし』における惟光

惟光は、本名を藤原惟光といいます。

彼は源氏の乳母の息子、つまり乳兄弟で、二人は生まれながらの主従関係でありながら幼馴染として育ちました。

惟光は常に源氏の傍近くに仕え、それゆえ惟光の存在あってこそ始まった・進展した源氏の恋物語がいくつもあります。

代表的なのは、夕顔との出会い。

【『あさきゆめみし』キャラ解説】5回:生きていれば最愛の女性だったかもしれない魔性の女・夕顔

2022年3月9日

中流貴族の夕顔は、身分の低い人間が行き交う市井に紛れて暮らしていました。(当時の京の都は、上流貴族の住む区域とそれ以外の区域で割と明確に分かれていました)

そんな夕顔の住まいの近くにたまたまやってきた源氏が、垣根に咲く美しい夕顔の花に魅せられたことから源氏と夕顔のストーリーは始まります。

そもそもなんで源氏が本来上流貴族が足を踏み入れないような町中に来たのかというと、体調を崩した乳母(めのと)=惟光の母のお見舞いのためだったんですね。

惟光の存在が、源氏と夕顔を引き合わせたのです。 

ほかにも、須磨から帰京後、久しぶりに末摘花の邸宅の近くを通ったときに「あれ?ここってあの姫君の邸では……?でも今更わざわざ訪ねるのもアレだな……もはや人が住んでるのかすら怪しいくらいボロイし……よし、ゆけっ!惟光!」と、惟光を使って邸内に探りを入れさせる場面も。

『あさきゆめみし』では殊勝な感じですが、『源氏物語』では「あの姫はまだひとりなのかな……訪ねないとだけどわざわざ別の日に来るのも大変だし……かといってとっく状況が変わっていて笑いものになるのも嫌だし……あーどうしたものか(チラッチラッ)」みたいな感じで惟光を行かせます。

(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)

察するに、物語中に描かれていないだけで、源氏が惟光を使って女性にアプローチした例はほかにもたくさんあるのではないでしょうか。

末摘花の例のように、源氏が直接声をかけるのは憚られる場面で惟光が声を掛けたりすることもしょっちゅうだったはず。

もちろん、源氏の意中の女性へ文や贈り物を届けたりなどの雑用も惟光がこなしてました。(ある程度年齢を重ねると惟光もそれなりの身分になるので、使いっぱしりのような仕事はもっと下の身分の者の仕事に)

それを頭の中将に見つかり……

健気に反論!従者の鑑ですね!(でも晩年は源氏のことをしっかり遊び人扱いしてます)

(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)

これだけでもわかる通り、惟光ってすごく有能なんですよね。

ただ源氏と女性の仲を取り持つだけではありません。

例えば、前述の源氏と夕顔のストーリーは夕顔の死という悲劇で終わってしまいますが、夕顔の亡骸を目の前に放心する源氏を支え、もろもろの後始末をすべてやってくれたのも惟光なんです。すごい、惟光。シゴデキ。(ちなみに源氏は悲しみの果てに山籠もりして、そこで幼い紫の上に出会っています。こらこら)

晩年は参議(宰相)にまで上り詰めており、もちろん源氏という後ろ盾あってこそではありますが、諸々の能力の高さやきめ細かな性格も無視できない要因でしょう。

溺愛する娘に男を近づけさせず、典侍として出仕させたうえで源氏の長男である夕霧と縁付かせるという見事な采配から、政治的能力の高さと野心も見て取れます。(これにより、惟光の一族はその子供の代まで安泰となりました)

この娘が後に夕霧の愛人となる藤の典侍です

(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)

ちなみに惟光、『源氏物語』作中で本名がはっきりとしている数少ない人物でもあります。(主人公すら本名わかりませんからね、この話)

そして「惟光」という名前には、「光(源氏)を惟(おも)う」という意味があるという説のほか、「惟」という字が「はい、承諾」の意であることから「源氏のイエスマン」という意味があるなんていう説も。

さりげない紫式部の遊び心が垣間見えるとともに、たぶん紫式部、めちゃくちゃ惟光のこと気に入ってるよな……!!とオタクはひとり噛みしめております。

余談ですが、『あさきゆめみし』ではちょっぴりコミカルに描かれることが多い惟光ですが、娘の典侍が美女であること、源氏が傍にずっと置いていたことからも、惟光もそれなりに美男なのだろうと予測できますね。(じゃなきゃ源氏が通っている先の女房と懇ろになれないだろうし)←さりげなくこういうこともやってるんですよ。源氏のお付きの役得ですね。

2、惟光の働きから見える平安時代の【乳兄弟】

さて。今回は惟光を媒介に【乳兄弟】というものにフォーカスしたいと思います。(以下、ライターayameの私見を大いに含みますのでご承知を)

前項でも述べた通り、乳兄弟とは同じ女性(乳母)の母乳で育てられた者同士のことを指します。

乳母(うば)というと、東西の歴史を問わず、赤ん坊に母乳を与える女性であることは知っている方も多いでしょう。

ただし、日本の乳母(めのと)は少し特殊な面があり、その職域は乳母(うば)よりも広く、ただ母乳を与えるだけではなく乳離れしても教育係としてお世話をするのが一般的

母乳を与えずとも、乳離れ後に教育・養育係として仕えるようになった女性を「乳母(めのと)」と呼ぶケースもあるほどです。

日本では「実際に乳を与える」行為と同じくらい「側近くに仕えて養育・教育する」という働きが重視されていたのかもしれないですね。

ちなみに、歴史上、乳母としておそらく一番有名なのが、3代徳川家光公の乳母の春日局です。

春日局ほど絶大な力を持ち歴史の表に出てくる乳母はさすがに稀ですが、乳母の親類縁者がその縁故で立身出世をすることはけして少なくなかったとか。

ちなみに、日本では身分の高い人物の乳母にはそれなりの身分を持つ乳母をつけることが多いのですが、ヨーロッパだと乳母が乳離れ後の養育に関わることが少ないせいか(乳母とは別の養育係=ナニーや、家庭教師=チューターやガヴァネスを雇う)庶民の乳母が選ばれことも少なくないようですね。

少し脱線してしまいました。

ここまでの説明で分かる通り、乳母は同時に何人もいたりしますが、子供にとっては実母にも近しい存在であり、時に実母とはまた違った深い絆で結ばれる存在です。

そんなわけで、乳兄弟というのも実際の兄弟やそれ以上の深い関係性を築くことになるわけですね。

惟光にとって源氏は、ともに育った兄弟であり、幼馴染であり、親友であり、そして何よりも優先すべき主なのです。

「同じ釜の飯を食う」という言葉がありますが、乳兄弟の場合は飯どころか同じ乳を飲んで育ってるわけですから、現代に生きる我々には想像も及ばないような絆があったのではないでしょうか。

きっと、乳兄弟の間には現代人から見ればロマンあふれるスト―リーがさまざまな形で織りなされていたはずです。(それが当時の文化においてなんら珍しくないことも含めてロマンなのです)

 

また、乳兄弟同士によるセンセーショナルな事件も実際に起こっています。

そう聞いてすぐに陽成天皇と源益を思い浮かべたあなた! さては平安オタクですね!?

ご存じない方に向けて説明すると、883年11月、宮中にて陽成天皇の乳兄弟である源益が殴殺されるという事件が起きました。

内裏での殺人事件(穢れ)などとんでもないこと。

これにより様々な行事が中止になりましたが、ことがことなだけに、事件の詳細はかたく秘められたとか。

そのため犯人ははっきりとしていないのですが、決して少なくない意見として、陽成天皇その人が候補に挙げられています。

血を分けた兄弟以上の絆を持つ相手を死に至らしめる、それも宮中という場で……。

一体二人の間になにがあったのか……不謹慎ではありますが、やはりオタクとしてはいろいろな想像が巡ってしまいますね。

もちろん、犯人が陽成天皇と決まったわけではありませんが、いちオタクとして、この本↓を読んで号泣したことだけはお伝えしておきます。

陽成天皇やその母である藤原高子(在原業平との恋物語(伊勢物語)で有名な彼女です)を中心としたお話です。陽成天皇のお話は、もしかしたら男性は少し敬遠するかも……(と言ったらちょっと内容わかるでしょうか……)

 

ところで、今回は惟光にばかりフォーカスしていますが、前述の通り乳母は必ずしも一人ではありません

身分の高い人ほど複数の乳母をもち、実際源氏にも複数の乳母がいます。

そして、作中、源氏の乳兄弟として登場するのが、惟光のほかにもう一人

それが、末摘花と源氏を縁付かせた美女、大輔の命婦。(この場合は乳兄妹というのでしょうか)

末摘花のストーリーで大活躍した彼女です

(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)

こうしてみると、平安時代の恋愛において手足として動いてくれる乳兄弟の存在の大きさというものを改めて感じますね。

 

ちなみに、いろんな文化圏で乳兄弟のようなものは散見され、なかには乳兄弟での結婚を明確に禁じているところもあるそうです。うーむ。禁断。(日本では暗黙の了解、って感じでしょうかね)

 

3、ロマンあふれる平安時代の【乳兄弟】……入門編に惟光がおすすめです!

というわけで、今回は惟光に注目しつつ、それ以上に平安時代の乳兄弟というものについて熱く語ってまいりました。

あまり『あさきゆめみし』の話ができなくてすみません。

それだけ、【乳兄弟】というものがロマンにあふれるということでひとつ……。

平安オタクとしては、惟光を入門編として平安時代の【乳兄弟】にもっと興味関心をもってくださる方が増えると嬉しいです!

 

ayame

 

 

最後に独り言。(腐女子的な発言するので拒否感のある方はスルーしてください)

 

なんとなくなんですけど……平安時代、源氏と惟光の関係性に如何ともし難い想いを抱えていろいろ想像とか妄想をめぐらせた女子もたくさんいたんじゃないかな……なんとなくですけど。

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ABOUTこの記事をかいた人

元研究職、現在は飼い猫を溺愛する主婦兼フリーライター。小さいころから漫画が好きで、実験の合間にも漫画を読むほど。 ジャンルを問わずなんでも読むけど、時代もの・歴史ものがとくに大好物。 篠原千絵先生大好きです!好きなタイプは『はじめの一歩』のヴォルグさんと『はいからさんが通る』の編集長。