みなさんこんにちは!お久しぶりです!
ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。
名作『あさきゆめみし』キャラ解説、かなり間が空いてしまいましたが、今回は30.5回の番外編。
これまで通り、番外編ではキャラ解説はちょっとお休み。
今回は五節の舞姫について解説したいと思います!
2024年の大河ドラマでも話題になったあのシーン、『あさきゆめみし』ではどのように描かれているのか?
ちょっと文字多めになってしまいますが、さっそく解説していきましょう~!
(今回は(も?)番外編なのをいいことに平安オタクがノリノリで蘊蓄垂れ流します。ご容赦を)
このコラムの初回0回はこちらです↓
こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!
また、55周年記念の新装版も発売しています。
目次
1、そもそも「五節の舞姫」とは
ところでみなさん、2024年大河ドラマ『光る君へ』は見ていますか?
返事は聞かずに話を進めると、『光る君へ』の第4話で、主人公のまひろがなんかいい感じに気になりつつある男と憎き母の仇が兄弟だという衝撃的な事実を知ってしまうあの場面。
あれが五節の舞ですね。まひろは五節の舞姫の1人を務めていました。
そもそも五節の舞(姫)とはなんなのか?と疑問に感じている方もいるでしょう。
ざっくり簡単に言いますと、例年11月に催されるわりと大き目のイベントのしめくくりですね。(ざっくり)
ここからはやや細かい説明になりますが、なるべくかみ砕いて分かりやすくそのイベントの全容を解説します。
(『あさきゆめみし』について早く知りたい方は「2、『あさきゆめみし』における五節の舞姫」までササっと進むことをおすすめします!)
1-1 五節ってどんなことをするの?~主上、見学してる場合じゃないんじゃない?~
毎年11月には、新嘗祭(にいなめさい:収穫祭的なもの)をメインとする4日間のイベントがあり、これをまとめて五節といいます。
イベントの詳細は、以下のとおり。
●【丑の日】五節の舞姫の参入と帳台の試み
丑の日の夜、お供を連れた舞姫が内裏の常寧殿(五節所)に集合します。
そこで舞姫たちは舞の最終稽古を行ない(それまでは各自家で練習)、そんな舞姫たちを主上が割とラフな格好で見学。
これを「帳台の試み」といいます。(こうやって書くと「なんじゃそのイベント」って感じですね)
●【寅の日】御前の試み
翌日の寅の日、清涼殿で五節の淵酔という宴が行われます。
そしてその夜、清涼殿にて舞姫たちは舞の最終リハ!
これを「御前の試み」といい、またしても主上が見学します。(主上どんだけ見学するの)
●【卯の日】童女御覧と新嘗祭
さらに翌日。
卯の日の昼には、円融天皇以降、舞姫の介助約の女童を清涼殿に集めて主上が御覧になる「童女御覧」が行われます。(また見学してる……)
それから新嘗祭が行われ、主上は入浴したり手を清めたり奉献したり神様とお食事したりと、さまざまな細かい儀式を深夜までこなし、ここまでかなりハードなスケジュールです。(見学してる場合ではないのでは?)
●【辰の日】豊明節会と五節の舞
お待たせしました!やっと最終日!
翌日の辰の日は豊明節会(とよあかりのせちえ)という主上主催の宴です。
新穀を主上が食べ、臣下にふるまい、大歌(日本古来の楽である催馬楽など)を奏し、お酒を飲み……と儀式的ではありますがイベントは大盛り上がり。
そしてついに舞姫が本番の舞を披露します!(主上、見るの3回目だね)
こうして五節は大盛況のうちに終わりを告げるのです。
1-2 舞姫ってどうやって選ばれるの?~名誉か恥かどちらを選ぶ?~
五節のメインどころでもある舞を踊る姫たち。
この舞姫は、基本的に4人と決まっています(天皇即位後初の新嘗祭=大嘗祭ではどどんと豪華に5人)。
そしてこの4人は、公卿(位階が三位以上の貴族)から2人、殿上人(五位以上)から1人、受領(地方官の長)から1人出す決まり。(大嘗祭の場合は公卿から3人)
古くは舞姫がそのまま後宮にとどまって后妃になることもあったとか……。(ただし、10世紀以降、つまり源氏物語の頃には廃れたようです)
さぁ、あなたが貴族の娘だったとして、ある日親から「うちから舞姫出さなきゃいけなくなったから、お前今年出ろ!」と言われたらどう思いますか?
「雲の上の存在である主上にお近づきになれる絶好の機会!うまくいけばそのまま妃に?!」
「さらに、殿上人のイケメンたちも盛りだくさん!良いご縁につながるかも~!」
なんて思うのは、現代人だけかもしれませんね。
ここで忘れてはいけないのが、平安貴族の女性たちの普段の暮らし方。
彼女たちは、邸の奥の奥、御簾や几帳の内側にいて、そうそうその姿をさらすものではありませんでした。
成人していれば、たとえ親族であっても基本的には御簾や几帳越しで対面します。
そもそも自分の家から出ること自体が稀であった彼女たちに、「さぁ、都中の殿上人が集まる宴のなかに設えられた大舞台で踊っておいで」なんて言ったらどうなるでしょう。
おそらく、少なくない割合の女性が恥ずかしさで「NO!」と言うのではないでしょうか。
そんなわけで、舞姫は辞退者が少なくなかったとか。
大嘗祭であれば舞姫を献上することで叙位があったものの、通常の新嘗祭ではそれもなく、衣装代やら準備にお金ばっかりかかったのも大きなネックだったようです。
その対応策として「実子じゃなくてもOK!(だから舞姫出して~!)」という対策が取られ、舞姫は徐々に高位の貴族の娘から受領の娘がメインになっていきました。
(『光る君へ』でも、主人公のまひろ(父親は六位)は公卿の娘である倫子の代わりに舞姫を務めていましたね)
1-3 舞姫の美しさは天女の如し!経験豊富な色男もノックアウト
そんなわけで、舞姫に選ばれた女性はきっと恥ずかしさでいっぱいいっぱいな状態で舞台に上がったのであろうと推察されます。
普段はおいそれと姿を拝むこともできない高貴な女性が、顔を隠すこともせず恥じらいながらも厳かな舞を踊ってみせるのです。
男性陣が内心どれだけ盛り上がっていることか……想像に難くありません。
百人一首に、こんな歌が残されています。
天つ風 雲の通ひ路 吹きとぢよ をとめの姿 しばしとどめむ
これは五節の舞姫の舞う姿を見た僧正遍昭(良岑宗貞)が読んだ歌で、現代語では「空を吹く風よ、雲の中にあるという天女の通り道(帰り道)を塞いでくれ、美しく舞う乙女たちをもう少しここに留めておきたい」といったところです。
舞姫たちを天女に見立てた、とーってもロマンチックな歌ですね。(もともと五節の舞は、天武天皇が目撃した天女の舞姿からインスパイアされたものです)
作者である良岑宗貞は、高貴な血筋に優れた容姿、女性関係もなかなか華やかな人。
年代的には源氏物語よりだいぶ前の人物ですが、まるで光源氏のような男性です。
そんな百戦錬磨のイケメン男性もメロメロにしちゃった舞姫たち。
いかに神々しく、華やかで、大勢の目を奪う美しさだったのかーー、想像は尽きませんね。
(個人的には、その場でこの歌を詠んだ良岑宗貞の優れた歌の才能とセンス、秘めたる情熱やそもそもの人柄なんかもグッとくるのですが、その辺は『あさきゆめみし』どころか源氏物語すら関係なくなるので割愛しますね)
2、『あさきゆめみし』における五節の舞姫
お待たせしました!やっと『あさきゆめみし』のお話です。
(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)
『あさきゆめみし』では、源氏が舞姫を出すことになり、自身の乳兄弟である惟光の娘を選出しました。
この娘がなかなか美しい子で、源氏の息子である夕霧は一目見ただけで彼女が気になって仕方ありません。
特別に源氏の前で舞の試演をすることになり、夕霧はその際に彼女を垣間見ます
(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)
惟光の息子(おそらく夕霧にとっては幼馴染のようなもの)に「彼女に文を届けてくれる?」と聞いてみたところ、「妹は典侍(ないしのすけ)として出仕することが決まっている」と言われてがっくり……というエピソードです。
(典侍:内侍司の次官。内侍は主上に伺候して、表向きの仕事はもちろん日常のお世話なんかもする秘書的な役割。長官である尚侍(ないしのかみ)は后妃的な存在だったので、典侍は実質的な内侍司のトップ)
しかし、父親である惟光自身がこの話にノリノリで、なんやかんや夕霧は惟光の娘と繋がることに成功。
やがて彼女は、夕霧の正妻である雲居の雁に唯一許された側室として、内裏に出仕しながらも末永く夕霧との縁を続けていきます。
ここからはあくまでも想像ですが……。
いくら惟光の娘が美しいからといっても、所詮は下級貴族の娘です。
「五節の舞姫」という箔がついていなかったら、夕霧はアプローチしなかったのではないでしょうか。
当時、雲居の雁と離れ離れになってしまって寂しくて悲しくて仕方なかったとはいえ、もともと雲居の雁ぞっこん一直線、真面目一本槍の夕霧くん。
極端な話ですが、惟光の娘と普通に内裏で出会っていたら、とくに気にすることなく全力スルーだったんじゃないかなと思います。
普段なかなか見ることができない貴族の娘の顔を、じっくりじっとり気兼ねすることなく見られるのが五節の舞の醍醐味。
しかも、きらびやかな舞台の上で、厳かな音楽が鳴り響く中、華やかな衣装を着て、天女のように優雅に舞っているわけです。
そんな特別なシチュエーションなら、普段はスルーしちゃう女子のことだって「友達の妹だし、イケるかも?」と思っても不思議ではありません。
そんなわけで、『あさきゆめみし』の五節の舞では【あの真面目な夕霧君が特別なシチュエーションでついついラフスタイルに転じる姿】にクスリとしつつ、そこから【彼の抱えた寂しさ】と【いかに五節の舞姫が特別な存在か】が、少ない描写ながらもしっかり読み取れます。
源氏物語を書いた紫式部としては、「そういえば五節について何も書いてないなぁ、せっかくの華やかな大イベントだし、いっちょ軽く触れとくか」くらいの気持ちで書いたのかもしれませんが(まさかそんな)、キャラの心情と当時を語る舞台装置として、しっかり機能しているのが憎いところですね。
(ayame)
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