みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。
今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。
第28回目は、夕霧の初恋の人であり正妻の雲居の雁です!
雲居の雁は頭の中将の娘。
夕霧とは従兄妹同士であり、幼馴染です。
紆余曲折ありながら結婚した二人ですが、やがて穏やかな結婚生活に暗雲が……?!
詳しく解説します!
このコラムの初回0回はこちらです↓
こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!
また、55周年記念の新装版も発売しています。
目次
1、『源氏物語』における雲居の雁
雲居の雁は頭の中将の娘。
幼くして両親が離婚し、祖母である三条の大宮のもとに預けられました。
そこで出会ったのが、源氏の息子である夕霧。
従兄妹同士の二人は互いの存在で両親のいない寂しさを埋め、仲良く育ちました。
そして、雲居の雁も裳着(女性の成人の儀)を間近に控えたころ。
内大臣に昇進していた頭の中将は娘である弘徽殿の女御の立后争いに敗れ(中宮に選ばれたのは源氏が親代わりとなっている秋好中宮)、あらたに娘を春宮に入内させようと考えます。
雲居の雁は年頃もちょうどよく、別れたとはいえ母親は王族、顔も可愛らしいため、「この娘なら!」と入内の希望を抱くのですが……。
雲居の雁はすでに夕霧と恋仲。(三条の女房達はみんな知っている)
それを知った内大臣は激怒し、雲居の雁を引き取って二人を離れ離れにしてしまうのです。
とはいえ、すでに恋人がいる娘を入内させるのは外聞が悪く、内大臣は雲居の雁の扱いに頭を悩ませます。
その間も、ひっそりと文をやり取りし、着実に恋を育てていく若い二人。
それから六年。
内大臣と夕霧の間にある溝は埋まらないままですが、娘の婿にもはや夕霧以上の相手はいないと悟った内大臣もついに折れ、夕霧と和解。
雲居の雁との結婚を許し、晴れて夕霧と雲居の雁は結ばれました。
夕霧は雲居の雁のほかには妾を一人つくっただけで、この時代の貴族にしては珍しく、雲居の雁をとても大切にします。
幼いころを過ごした三条の邸に住んだ二人は、大勢の子供に恵まれ、幸せに暮らしました。
しかし、そんな生活が一転する出来事が起こったのです。
きっかけは、夕霧の親友である柏木の死。
夕霧は故人の遺志を酌み、柏木の未亡人・落葉の宮を頻繁に訪ねるようになります。
最初はただのお見舞いでしたが、やがて夕霧の心は徐々に落葉の宮に移っていき……。
雲居の雁は夫の不実を責め、夕霧の大切な文を奪って困らせたり、面と向かって不満を漏らしたり、なんとか夕霧の恋路を邪魔しようとしますが、勢いのついた夕霧は止まりません。
ついには落葉の宮と正式な結婚の場まで整え、怒った雲居の雁は三条の邸を出て行ってしまいます。
犬も食わないどころか犬も逃げ出す夫婦喧嘩です
(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)
その後は冷戦が続きますが、最終的に夕霧は雲居の雁と落葉の宮をきっかり1日おきに通うことで落ち着くのでした。
2、『あさきゆめみし』における雲居の雁~想えば想うほど遠ざかる夫への歯がゆさ~
『あさきゆめみし』での幼いころの雲居の雁は、心優しく、おっとりとしていて可愛らしい雰囲気で描かれています。
大人の都合で心細い思いをしている描写や、夕霧と二人、手を取り合って健気に過ごす日々などは、痛ましくも微笑ましいものです。
このときから、お互いがかけがえのない存在になりました
(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)
この時代、女性や子供にとって頼りになるのは、家(家格、とくに身を置いている家)と両親の後ろ盾。(時と場合によりますが、血筋そのものは意外と重視されません。宮家の姫でありながら世間から忘れ去られた末摘花がいい例です)
これらは時に生死にも直結し、そのどれも曖昧である二人にとって、幼い日々の暮らしは私たちが想像する以上にとても心細いものだったでしょう。(頭の中将はめったに会いに来ないし、源氏は須磨に隠棲するし、祖母である大宮は二人を可愛がりましたが、あくまで祖母でありずっとそばにいられるわけではありませんしね……)
そんな二人の初恋が引き裂かれるシーンはあまりにも哀れで、読んでいて胸が痛むほど。
『力』を持たない子供たちの無力さが描かれています
(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)
対して、成長してからの雲居の雁はやや意固地な印象。
不運なすれ違いによって一時はあきらめかけた恋が実るその瞬間ですら、雲居の雁はかたくなです。
内大臣の許しを得てついに雲居の雁の部屋を訪れますが、締め出されてしまいます。
(夕霧、落葉の宮との結婚の際にも締め出しくらってるんですよね……)
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
(でも気持ちはわかります。女である自分は奥に引っ込んだまま、男たち(父親と夕霧)だけで勝手に話をすすめて、急に夜這いにきたんじゃね……)
また、夕霧との結婚生活で描かれるのも「おっとりと雅な妻」ではなく、今でいう肝っ玉母ちゃんのイメージ。
夕霧は彼女のいないところで「鬼みたいな女」とまで言い張る始末です。(もちろん茶化してですが)
印象的なのは、月が美しい夜に帰宅した夕霧が格子を上げさせるシーン。
雲居の雁と女房、そして子供たちはとっくに寝入っていたのですが、落葉の宮の邸から帰宅してきて上機嫌の夕霧は「あんなに美しい月を見ないなんてもったいない!ほらほら起きて、一緒に月を眺めましょう」と語りかけるわけですが……。
雲居の雁は完全スルー。当たり前だ!
(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)
夕霧は落葉の宮と雲居の雁とを比べ、がっかりします。
けれどこれ、女性目線で見ると夕霧が最低すぎるエピソードですよね。
現代だったらこんなエピソード炎上間違いなしです。(深夜に帰宅した夫がガチャガチャ大きな音を立てて電気をつけ、さらには「面白いテレビやってるからみんな見ようぜ!」と子供を起こす。さぁ、どうなるかはおわかりですね)
所帯じみてしまうのは大勢の子供を抱えていれば仕方のないこと。
とくに、上流貴族の姫でありながら直接子供に乳をふくませるシーンは(しかも夕霧の目の前で)、雲居の雁が「女性」から「母」に変わってしまったことをよく表しています。
柏木の亡霊が夕霧の夢枕に立った直後のワンシーン。
このとき、雲居の雁の母乳は止まっているのですが(母乳をあげるのは乳母の役目)、ぐずる子供をあやすためだけにくわえさせているのです。
(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)
夕霧はそんな雲居の雁をも「愛しい」と思い、嫉妬のままに乱暴な言動をしたとしても、彼女を見捨てはしません。
しかし同時に、雅やかで優美な落葉の宮への想いは募るばかり。
雲居の雁が夕霧を想えば想うほど、夕霧の心が落葉の宮に向いていく様は、女性読者ならみな歯がゆさを覚えるところでしょう。
3、なぜ雲居の雁は平安貴族の『常識』から外れているのか?
雲居の雁にとって、夕霧の浮気は晴天の霹靂。
自分ひとりを愛し(例外として藤の典侍はいますが)、誰からも羨まれる夫婦生活を送っていたのに、突然の裏切りにあうわけです。
現代の感覚ならそんな夕霧なんて四肢を牛馬に括り付けて「いっせーの」で引き裂いてやりたいほどですが、しかし舞台は平安時代。
位の高い男性ほど多くの妻を持つのが当然であり誉れでもあり、そんな夫を支えられない女性は狭量かつ不器量で、貴族女性として失格というのが『常識』です。
とはいえ、貴族女性だって夫の浮気に嫉妬しないわけではありません。
紫の上は源氏に何度も泣かされてきましたし、槿の姫君は嫉妬に苦しむことを厭うあまり、源氏を拒絶しました。
嫉妬は誰しも避けられないもの……だけど、それをいかにうまくやり過ごすかが大切。
さらにいうなら、男性に「可愛らしい」と思われる程度に小出しにするのがポイントです。
それでいうと、雲居の雁は完全にNGというわけですね。
可愛くみせるどころかヤル気満々です
(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)
では、なぜ雲居の雁は夕霧の心移りに際して、もっとうまく立ち回れなかったのでしょう。
読者の中には、「夕霧が甘やかしすぎたせい!」「一夫一妻を当たり前だと思わせた夕霧の落ち度」と考える人もいるかもしれませんが、ライターの意見は少し違います。
雲居の雁の性質には、生まれ育った環境が影響しているのではないでしょうか。
雲居の雁は幼いころに両親が離婚しました。
この時代、両親の離婚の際、通常であれば女の子は母親についていきます。
けれど、雲居の雁の母親は按察使の大納言と再婚したうえ都を離れてしまい、雲居の雁はついていくことができませんでした。
母に捨てられ祖母の邸に預けられ、父親にもたまにしか会えず(そもそもこの時代、父親は育児に参加しません)、とても寂しい思いをしたことは言うまでもありません。
彼女が意識してか無意識か、ひどく家族の愛に飢えていたことは想像に難くないでしょう。
だからこそ、『ユニットとしての家族』に固執したのではないでしょうか。
平安時代の『常識的夫婦』であれば、浮気をしようがほかに妻をつくろうが、関係性は容易に変わりはしません。(通ってくるのが間遠になることはあるでしょうが)
けれど、夕霧の浮気は『ユニットとしての家族』を崩壊させるものです。
そのため、雲居の雁は夕霧の裏切りが許せなかったのでしょう。
雲居の雁の「鬼嫁」と言われる言動には、幼いままの寂しさと夕霧への深い愛があるのだと思うと、胸がぎゅっとしてしまいます。
あらためて、「雲居を渡る一匹のはぐれた雁」という彼女の名の切なさも胸に染み入るようですね。
最終的にはなんとか丸くおさまったものの、おそらく雲居の雁は納得したわけではなく、しかたなく受け入れただけなのでしょう。
愛する夕霧の裏切りは、雲居の雁に一生消えない心のしこりを残しただろうと考えられます。
余談ですが、父親である内大臣は雲居の雁の入内を望んでいたこともありましたが、雲居の雁もこういう性格なので、入内して一人の寵を大勢で争うなんてきっとうまくは立ち回れなかったでしょうねぇ。
(ayame)
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