みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。
今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。
第29回目は、源氏と藤壺の宮の密かな愛の結晶・冷泉帝です!
表向きは桐壺帝の第十子で源氏の弟ということになりますが、実は神をも欺く源氏の罪の証である冷泉帝……。
彼自身にはなんの罪もありませんが、親の因果が子に報いとでもいうのか、なかなかにハードな人生を送ることになります。
そんな彼の人生を、源氏の罪と絡めつつ解説します!
このコラムの初回0回はこちらです↓
こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!
また、55周年記念の新装版も発売しています。
目次
1、『源氏物語』における冷泉帝
冒頭で述べた通り、冷泉帝は源氏と藤壺の宮の不義の子でありながら、桐壺帝の第十皇子(末子)としてこの世に生を受けました。
幼くして父帝を亡くし、わずか5歳で朱雀帝の春宮の位につきます。
その後、ほとんど間を置かず母である藤壺の宮が出家をし、後見人である源氏は須磨に隠棲。
春宮という位についているだけでも常人には計り知れない重いものを背負っているわけですが、そのうえ両親の愛情も十分に受けられず、寂しい幼少期を過ごしたことが察せられます。
そして、源氏の帰京後、朱雀帝の退位によって11歳で即位し、源氏の養女である斎宮の女御(のちの秋好中宮)や、頭の中将(この時は権中納言)の娘の弘徽殿の女御を妃としました。
幼い帝を支えるため、源氏も力を尽くします
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
しかし、その治世は終始穏やかとはいいがたく……。
即位後まもなく、若帝である彼を支えてくれた重鎮の太政大臣が亡くなり、朝廷は大きく揺れます。
この人は前の左大臣で(つまりは源氏の舅)とてつもない人望があり、そのため都中が大きな悲しみに包まれたのです。
さらに、天空にもいつもとは異なる日、月、星、雲なども出現(おそらく日蝕や月蝕、彗星など)。
『あさきゆめみし』ではさらに詳しく描写されています
(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)
こういった天候の変異を含む自然災害は、政治が乱れることの暗示や政治が正しく行われていないことの証であるとされていました。
つまり、みな表立っては口にしないながらも、今上である冷泉帝にその責任があると感じ取っている状況です。
年齢よりも大人びた冷泉帝ですが、このことは彼にとって大きな試練となりました。
さらなる追い打ちは、愛する母・藤壺の死。
長く患っていたとはいえまだまだ若い盛り(37歳)での崩御には、冷泉帝だけではなく多くの人が悲しみに暮れました。(もちろん、源氏に関しては言うに及ばず)
この母の死をきっかけに冷泉帝は己の出生の秘密を知ることになり、「臣下の子である自分が帝位についている」ことに深く思い悩みます。
ついには源氏に帝位をほのめかすものの、源氏はそれを強く固辞。
源氏は己の罪を恐れ、冷泉帝の提案を強く拒否するのです
(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)
それを受けて、冷泉帝は口には出せずとも少しでも孝行になればと、源氏の養女である斎宮の女御を中宮に選び、さらに臣下では最高位である准太上天皇の位を源氏に贈りました。
その後は比較的穏やかに暮らし、29歳で譲位し、以降は冷泉院と呼ばれます。
后妃は前述の斎宮の女御(秋好む中宮)と弘徽殿の女御、式部卿の宮の娘の王の女御(紫の上の異母姉妹)にくわえ、ほかにも数人の女性を迎えました。
また、一時は源氏の養女である玉鬘に執心し、尚侍にまで選定しましたが、出仕直前に髭黒の右大将と結婚してしまい、想い叶わず。
後に、玉鬘と髭黒の娘を妃に迎えて寵愛し、2人の子をもうけました。
2、『あさきゆめみし』における冷泉帝~キラキラ度マシマシの王子様~
『あさきゆめみし』で描かれる冷泉帝は、誰が見てもわかるほど源氏にそっくり。
ですが、そもそも母である藤壺の女御と源氏の生母である桐壺の更衣が瓜二つなため、周囲からその出生を怪しまれることはありません。(というより、まさか藤壺と源氏が……なんて恐ろしいことは誰も考えない)
また、『あさきゆめみし』では譲位後の冷泉帝のエピソードはかなりカットされていて、宇治十帖に関してはまったく登場しません。
そのため、印象的なのは比較的若いころの彼の姿。
まだまだ甘えたい盛りに母宮に会えない寂しさを抑えられない幼気な姿や、自分の出生の秘密を知って深く苦悩する姿などは、胸がぎゅっと苦しくなります。
夜居の僧によって密かに真実が打ち明けられました
(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)
また、玉鬘に想いを寄せ、玉鬘自身も冷泉帝に強く惹かれるエピソードも見どころのひとつ。
むさくるしい髭黒の右大将と比較させるためか、このエピソードでの冷泉帝は普段の3割増しくらいキラキラしており、『理想の王子様』感が半端ないです。
玉鬘と冷泉帝はまさに理想のカップルといった雰囲気
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
冷泉帝が自ら望んだ女性はこの時点で彼女ひとり(少なくとも『あさきゆめみし』で描かれている限りは)であり、深く思い悩むことの多い彼の支えになってくれればと期待した読者も多いのではないでしょうか(ええ、私もその一人です)。
残念ながら冷泉帝の想いは叶わず、個人的には冷泉帝への同情心と髭黒に対する悪感情が強まったわけですが……彼が重すぎる責務から解き放たれた後に玉鬘の娘を寵愛し、穏やかに暮らしたという事実があることはしっかりお伝えしておきます。
これは全く余談ですが……。
幼い紫の上を妻にした源氏はもちろん、まだ少女といっても差支えのない藤壺の女御を寵愛した桐壺帝といい、当時13、4歳の斎宮の女御に一目ぼれした朱雀帝といい、そして想い叶わなかった玉鬘の娘を寵愛した冷泉帝といい、どうして彼らは揃いもそろって幼い少女に目を付けるのか……。
当時は年の差結婚も女性の低年齢での結婚も当たり前だったのでしょうけれど、源氏の弟である蛍兵部卿の宮もずいぶん年の離れた真木柱の君(髭黒の右大将の長女)を後妻にしているあたり、やはり血筋か……?と思ってしまうライターなのでした。
3、『あさきゆめみし』と『源氏物語』における冷泉帝の扱いの違いから見える源氏の罪の証
『あさきゆめみし』では、冷泉帝の子供についてはほとんど触れられません。
『源氏物語』を読んでいないと、冷泉帝に子をもうけたことを知るのはちょっと難しいでしょう。
源氏自身も冷泉帝に子ができないことを惜しんでいます
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
実際は譲位後、源氏が亡くなった後に3人もの子をもうけるわけですが、このタイミングと『あさきゆめみし』でのスルーっぷりこそが注目するべき点。
『あさきゆめみし』では、源氏と藤壺の宮の不義の証である冷泉帝のその末が芽吹かぬことこそ、彼自身が源氏の罪の証であることを強調している、とライターは考えています。
(源氏にとって)父であり(藤壺の宮にとって)夫であり、帝である桐壺帝への裏切りと、不義の子を帝位につけたことは、神意に背く恐ろしい行為です。
源氏も藤壺も大いに罰を受けたわけですが、結果として本来なんの罪もないはずの冷泉帝もその影響を受けてしまったというわけですね。
帝の位を降りてからの穏やかな生活もまた、その根拠になると言えるでしょう。
冷泉帝が穏やかでいることは源氏にとっても救いです
(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)
また、冷泉帝に着目して物語を読み進めていくと、『源氏物語』において、帝という存在がいかに不自由で悲しみを抱えた人であるかを思い知ります。
まず源氏の父である桐壺帝は、愛するままに振る舞い、位に応じて后妃を待遇する義務を怠ったために最愛の女性を失ってしまいました。
続いて朱雀帝は、実権を母と祖父に握られたも同然であり、愛した女性の心は手に入らず、さらには敬愛する亡き父に亡霊になってまでお叱りを受ける始末。
そして、親の罰のとばっちりを受けた冷泉帝ーー。
人の上に立つものだけが抱える特有の不自由さは、彼らを強く縛り付け、ときに理不尽に罰することさえもあります。
「すまじきものは宮仕え」なんていう言葉もありますが、上に人がいてこそ成り立つ不自由さとは比べものにならない苦労を知ってみると、また『あさきゆめみし』も一際違った視点と味わいで楽しむことができますね。
(ayame)
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