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『異形編』に集約された火の鳥で手塚治虫が伝えたかったコトとは?

マンガタリライターじょにすけです。

「火の鳥」連載シリーズ第11話をお届けします。

※この連載シリーズは、[手塚治虫大先生のライフワーク「火の鳥」を通して、人生についていろいろ学んだり、あれこれ考えたり、、ときに「火の鳥」愛を語る]という、クールで魂の込もった企画です。

そもそも「火の鳥」ってどんな漫画?という人は、まずはこちらをどうぞ。

「火の鳥」はどんな漫画なのか?基本情報・あらすじを徹底解説

2017年10月10日

 

第11話『異形編』は、ループもの漫画の元祖とも言える作品です。

ループもの…タイムトラベルを題材としたSFのサブジャンルで、物語の中で登場人物が同じ期間を何度も繰り返すような設定を持つ作品のこと。

Wikipediaより引用

思い返せば、「火の鳥」全体もループものですね。

『未来編』で、「歴史は繰り返している」ということが壮大な物語の結末として描かれていました。

『異形編』では、1人の女の物語を通して「生と死のサイクル」が描かれています。

 

全12編からなる長編物語も、今回の『異形編』を含めてラスト2話!…と、佳境を迎えております。

ここまで数々の苦難を乗り越えて、複雑に絡み合い、壮大に描かれてきた「火の鳥」を通して、僕たちに伝えたかった手塚治虫の魂のメッセージとはなんなのか!?

興味深すぎですね!

全体像を把握して、細部を1つ1つ丁寧に観ていくことで、僕たちは理解を深めていくことができます。

今回は、『異形編』を丁寧に振り返りながら「火の鳥」に込められた手塚先生のメッセージの核心に迫っていきたいと思います。

どうぞご覧ください!

1.『異形編』基本情報

掲載誌 マンガ少年
連載期間 1981年1月〜4月号
時代設定 15世紀

『異形編』は、全国各地に存在する「八百比丘尼伝説」がモチーフになっていて、戦国時代初期の物語です。

あらすじ 〜殺す左近介と殺される八百比丘尼の無限ループ地獄〜

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

蓬萊寺(ほうらいでら)に住む尼(あま)を歌と踊りで讃える人たちの姿が描かれ、物語ははじまります。

そんな ほのぼのとした始まりも束の間、、

物語は急展開。木が倒れてくるほどの激しい雷雨の中、2人の男が蓬萊寺に向かっていました…

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

左近介(さこんのすけ)と、その従者 可平(かへい)です。

左近介は寺に着くなり、そこに居る1人の尼 八百比丘尼(はっぴゃくびくに)に告げます…

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

左近介に対して八百比丘尼は「存じております…」「かくごはできております…」と返答。

そして、「この場所がとざされた世界」であることと「時間が狂い 逆行もいたします」という謎の言葉を左近介に残しました。

何とも言えない表情を浮かべながら高笑いする八百比丘尼を、左近介は斬ります…

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

八百比丘尼を殺した左近介は、山越えで体がよごれたから、、と風呂に…

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

ここで左近介が女であることが判明します。

翌日…

八百比丘尼の遺体を供養した左近介と可平は、寺をあとにします。

寺は、琵琶湖のほとりにありました。左近介たちは船の方が早く帰れる、と船を出しますが、波もないのに寺に押し戻されてしまいました。しかたなく山道から帰ることにしますが、どれだけ進んでも、寺に戻ってきてしまう、という事態に。

八百比丘尼が残した言葉どおり、左近介は寺に閉じ込められてしまいました。。

  • なんで左近介は八百比丘尼を殺したのか?
  • 左近介は、なぜ寺に閉じ込められてしまったのか?
  • いったい八百比丘尼は何者なのか?

物語は進みます。。

 

2. 武士と尼。死と再生を繰り返す女の正体

物語が進むにつれ、左近介が八百比丘尼を殺した理由。謎に包まれた八百比丘尼の正体が明らかになっていきます。

[左近介]父親に無理やり男として育てられ、人を殺すことに勤める女武士

左近介は戦国時代に、武将として成り上がった父親の1人娘として生まれました。

父親の八儀 家正(やぎ いえまさ)は天下をとる、という自らの目的のために左近介を男として厳しく鍛えます…

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

残虐非道で、恋人、母親を次々と見殺しにしていった父を左近介は憎みます。左近介は父親を殺すことを決心しますが、なかなか実行できずに時は経っていきました。

そんな時、父が鼻の重い病いにかかり、歴代の猿田とおなじように鼻が大きく膨らみ、苦しみだします。そのまま父が死ぬことを祈る左近介でしたが、あるとき八百比丘尼が現れました…

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

そして、、

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

八百比丘尼が父を治すことができる、と知った左近介はそれを阻止するために八百比丘尼を殺したわけですね。

 

[八百比丘尼]自らの死を受け入れ、求めてやってくる人(生き者)の願いに応え続ける尼

「閉ざされた場所」「時間が逆行する」…謎の言葉を左近介に残して殺された八百比丘尼。。その正体は左近介でした。

八百比丘尼を殺したのち、、寺に閉じ込められた左近介のもとに大勢のけが人、病人が集まってきました。左近介は、八百比丘尼として登場し…

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

寺に隠してあった「光る羽根」で次々と村人たちの傷や病を治していきました。

しばらくすると、、湖から寺に戦死した人たちが流れ着いてきました…

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

死体と一緒に流れてきた旗を観て、左近介たちは、時が逆行していることに気づきました。

左近介は、悩み、苦しみます…

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

しかし、寺に救いを求めてやってくる大勢の人たちを前に、左近介は、八百比丘尼として生きることを決意

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

続々とやってくる人たちを次々と治していきました。そして、噂が噂を呼び、八百比丘尼のもとには次第に、人だけでなく妖怪まで集まるようになります。

左近介が、八百比丘尼として生きるようになって10年が経つ頃…

村人から「最近 ご領主さまにお世継ぎがお生まれあそばれまして…」という話を聞きます。

そう。左近介が生まれたんです。

八百比丘尼は自分の運命を理解します…

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

そして、悩める八百比丘尼の前に、火の鳥が現れました…

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

すべては火の鳥の仕業だったわけですね。

30年という時間の中で、生まれては殺される、を繰り返す左近介&八百比丘尼。

左近介&八百比丘尼は、この無限ループから抜け出すことができるのか?

物語はクライマックスへと向かいます。

 

3. 読んだ人たちの感想

実際に読んだ人たちの感想もご紹介させていただきますね。

ネット上では、与える罰が酷すぎて「糞ファッキンバード」と呼ばれたりもしている火の鳥ですが(笑)今作では、特に左近介&八百比丘尼に対する同情の声が多かったですね。

 

4. 『異形編』に込められた手塚治虫流「世界をより良くするために僕らのできること」を徹底解説

ここまで「火の鳥」を読み返してきて、僕が改めて強く感じている手塚先生のメッセージは、

  • 命の尊さ
  • 繰り返される歴史

これらを知って、、

命の使い道について考えてみたり、同じことの繰り返しから抜け出して、より良い世界にしていこうよ。

ということです。

「火の鳥」はこのメッセージを、壮大な時を超えた地球・宇宙規模の物語にして、僕たちに伝え続けているんだと思います。

手塚先生のメッセージを受け取った僕たち1人ひとりが、このメッセージをどう活かしていくのか?

今回の『異形編』では、左近介&八百比丘尼という1人の人間のループ物語を通して、、

  • 何に命を使うのか?
  • 何をどうやって良くしていくのか?

そのヒントとなる生き方が示されていました。。

 

その1 世のため、人のため、自分のため、が繋がることを一心不乱にやる。

『異形編』では、「功徳」という言葉がたびたび登場します。

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

くどく【功徳】

  1. 神仏からよい報いを与えられるような、よい行い。世のため、人のためになるよい行い。
  2. 神仏のめぐみ。御利益(ごりやく)。また、よい行いの報い。

Google検索より

まさに八百比丘尼がしていたことですね。

怪我や病気を治したいとやってくる人のため、さらには人だけでなく妖怪のためにも、限られた残りの人生を生きました…

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

当初は、左近介が自分の罪を赦すための行いでもあったわけなんですが、、

目の前の、自ら良くなりたいとやってきた人(生きもの)の想いに応え続けているうちに気づいたんじゃないでしょうか。

これが自分の使命なんだと。

個人的には、八百比丘尼のように、罪を背負って生きたり、朝から晩まで「世のため、人のため!」と身を粉にして働く必要はないと思います。(自分の時間も絶対ほしい!)

でも、仕事をしていく中で、誰かの役に立ってる。とか、誰かに喜んでもらえてる。という実感のないまま続けるのは、キツいです。。

仕事は、誰かの役に立って、喜んでくれる人がいたら、嬉しいし、、またがんばろう。次はもっと良くしてやるぜー。っていう活力も湧いてくるもんですよね。

がんばったり、工夫することで、自分も成長できる。

もっといい仕事ができるようになって、もっと喜んでもらえる。

良い循環ですね!

世のため、人のため、自分のため!八百比丘尼のように、まずは助けを求めている人の要望に応えることからはじめていこうと思います。

 

その2「歴史は繰り返す」ことを理解して、未来が良くなるように対応する。

『異形編』は、、

左近介が八百比丘尼を殺す→左近介が八百比丘尼になる→…殺す→…なる→

これがループし続ける物語として描かれています。

この悲劇的な物語を読んだあとの気分はあまりいいものではありませんでした。それに、1回読み返した時点では、正直、何が言いたいのか?よくわかりませんでした。

ただ、何回か読み返していくうちに、物語序盤とクライマックスにある左近介が八百比丘尼を殺すシーンが微妙に違っていることに気づきました。

1回目、物語序盤のシーンでは…

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

八百比丘尼は、左近介を挑発するようなことを言ったり、自分(左近介&八百比丘尼)の絶望的な運命をあざ笑うような、どこか投げやりな態度をしています。

それに対して、2回目のクライマックスのシーンでは…

「火の鳥 異形編」角川ハードカバー版より

これから左近介の身に起こる事実を淡々と伝えています。

結果はどちらも、殺し、殺されて終わりました。

ただ、、この小さな変化に気づいたことで、後味の悪かった気持ちが晴れて…

次のサイクルは、もっと良い結末になるんじゃないか?

そんな希望を感じることができたんです。

そして、「火の鳥」の結末である『未来編』のラストの言葉を思い出しました。

今度の人類こそきっとどこかで間違いに気づいて……

「火の鳥 未来編」角川ハードカバー版より

こうやって、1人ひとりの人生と世界はどこかで繋がってるんですよね。

そして、同じことの繰り返しに投げやりになるのではなく、同じ過ちを繰り返さないように、

できることから少しずつ変えていく。

その積み重ねが、より良い未来に繋がっていくんですよね!

うん。そういうことだと思います。

 

まとめ

いかがだったでしょうか?

あくまでも個人的な解釈ですが、『異形編』を通して、より鮮明になった手塚先生のメッセージ、感じていただけましたか?

命の使い道に気づいて、より良い人生、より良い世界になるように

  • 助けを求めている人の要望に応えることからはじめる
  • できることから少しずつ良くしていく

 

僕はここまでの火の鳥、今回の『異形編』を何回も読み返してきた中で、手塚先生のメッセージを感じながら、改めて思いました。

僕たちは生きてる限り、たとえ同じような失敗を何度も繰り返してしまったとしても…その過程で、大事なことに気づいたり、なにかを得ることで、理解を深め、成長していくことができます。

そう。いろんなものが詰め込まれた漫画を、1回で理解できなくてもいいんです…

「火の鳥 生命編」角川ハードカバー版より

少しずつ理解を深めながら、成長しながら、次へ行きましょう。

次回は、手塚先生の手で描かれた「火の鳥」最終章!『太陽編』です。

どんなクライマックスを迎えるのか !?

お楽しみに !!!!!

じょにすけ

 

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【「火の鳥」連載シリーズ】

第1話:【まとめ】火の鳥『黎明編』読んだ人の感想と見どころ3選を紹介

第2話:壮大すぎる火の鳥『未来編』を何度も読み返して辿り着いた1つの答え

第3話:歴史ラブロマンス 火の鳥『ヤマト編』に学ぶ幸せな死に方

第4話:誰一人報われない物語 火の鳥『宇宙編』の中で輝く手塚治虫の遊び心

第5話:火の鳥『鳳凰編』で学ぶ!心を動かすストーリーを作る3つのコツ

第6話:火の鳥『復活編』に観る人間の蘇生&ロボットと共存する明るい未来とは?

第7話:火の鳥『羽衣編』で気づく「信念をいろんな演出方法でしつこく伝えることの重要性」

第8話:火の鳥『望郷編』は混迷した思考がクリアになる漫画だ!

第9話:火の鳥『乱世編』から、新しい環境に焦らないで適応して自分の居場所を確立する方法を学ぼう

第10話:火の鳥『生命編』の此処に注目!生き方を考えさせられる青居の一生

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2 件のコメント

    • コメントありがとうございます!

      伝説上の人物「八尾比丘尼」ですが、福井県や福島県の一部の地方では「はっぴゃくびくに」、それ以外の地域では「やおびくに」と言われることが多いそうですね。
      ちなみに『火の鳥』の中では、「はっぴゃくびくに」が採用されています。

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    ABOUTこの記事をかいた人

    『火の鳥』に世界観を学び、自由に青春してる王道マンガの主人公たちに憧れ続けているイージュー☆ライター。漫画が大好きな二娘の父。当サイトの運営・デザインにも携わってます。