みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。
今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説、なんと今回で30回目となりました!
そんな記念すべきメモリアル回で紹介するのは、髭黒の右大将です!
もしかしたら「え?だれ?」と思う人もいるかもしれません……。
まさかライター自身、30回目が彼の紹介記事になるとは思いもしませんでしたが……なにはともあれ、いつも通り始めていきましょう!
髭黒の右大将は、源氏の養女である玉鬘の夫であり、つまりは源氏にとって娘婿にあたる人物です。
そんな彼が玉鬘と結婚するまでの道のりと、表からはわからない苦悩やその人柄について詳しく解説していきます!
このコラムの初回0回はこちらです↓
こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!
また、55周年記念の新装版も発売しています。
目次
1、『源氏物語』における髭黒の右大将
髭黒の右大将は、源氏の養女である玉鬘に求婚する男性の一人として登場します。
玉鬘に恋した男性といえば、源氏による蛍の演出が印象的な蛍兵部卿の宮(源氏の弟)に、内大臣(頭の中将)の嫡男である柏木(まだ実姉と知らない頃)、そして源氏の息子である夕霧(姉でないと知った後)に今上である冷泉帝などなど、いずれも劣らぬ優雅で美しい男性ばかり。
対して、髭黒は血筋や身分は文句のつけようもありませんが、名前の通り色黒で顔じゅう髭だらけであり、とても若い女性が好むような容姿ではありません。
源氏が玉鬘の将来を真剣に考えたとき、当然髭黒の右大将も婿がねとして名前が挙がったのですが、そもそも髭黒にはすでに北の方(正妻)がおり、子供も数人います。
おまけに、この北の方は紫の上の姉にあたる人で、ただでさえ源氏&紫の上は彼女の実家と折り合いが悪いのに、さらに関係を悪化させかねないとして、婿がねからは外されてしまいました。
平安貴族社会はとても狭いので、結婚となると四方八方へ気を使います
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
しかし、それで諦めないのが髭黒です。
なじみの女房に手引きさせ、無理やり玉鬘を自分のものにしてしまいます。(このあたりのことは『源氏物語』には詳しくは書かれていません。玉鬘の将来についていろいろ検討した結果「藤袴」の帖で出仕が決まるものの、続く「真木柱」の冒頭ではすでに黒髭と玉鬘の男女関係が成立しています)
『あさきゆめみし』では事の顛末までしっかり描かれています。
「何もしないから」と拝み倒して垣間見した結果……。恐ろしい……。
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
これをきっかけに、北の方との仲は決定的に壊れてしまい、北の方は娘(真木柱)を連れて実家に帰ってしまうのです。
しかし、その後の彼の人生は順調そのもの。
始まりこそ強引で野蛮ではあったものの、玉鬘との間には数人の子が生まれ、源氏との仲も良好であり、どんどん出世して太政大臣にまで昇り詰めます。
玉鬘ともよい関係を築きます
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
物語の中では、それ以降の髭黒についてはあまり語られていません。
しかし、彼の子供たちやさらにその子供たちの活躍は宇治十帖で描かれており、冷泉院や春宮に入内するなど、末を広げているのがわかります。
2、『あさきゆめみし』における髭黒の右大将~恋に惑う髭黒に見る玉鬘の恐ろしさ~
『あさきゆめみし』での髭黒は、それほどむさくるしい感じではないものの、立派なお鬚のごつい男性として描かれています。
田舎育ちとはいえ、都に来てからは源氏の間近で暮らし、蛍兵部卿の宮や内大臣家の男子など、雅やかな男性を目にすることの多かった玉鬘にとって、そのビジュアルは衝撃だったでしょう。
大原野への御幸の際のワンシーン。冷泉帝を見た直後なので、よけいに……
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
それゆえ、唐突に襲われたときのショックは計り知れません……。
髭黒は思い続けた若く美しい女性を手に入れご機嫌ですが、反して玉鬘は失意のどん底。
また、髭黒には非常に嫉妬深い面もあり、晴れて尚侍として出仕した玉鬘を早々に内裏から退出させ、騙すような形で邸に連れ帰ってしまうのです。
度重なる蛮行を目にし、玉鬘に同情すると同時に髭黒に対して悪感情を抱いた女性読者も多いのではないでしょうか。
しかし、本来の髭黒の右大将という人は、けしてそんな野蛮な人ではありません。
現春宮の母である承香殿の女御を姉妹にもつその血筋は高貴であり、おまけに真面目で実直、帝からの信頼は源氏や内大臣に次ぐほどです。
また、正妻と子供たちをとても大切にし、夫としても父としても責めるべき点などない人でした。
ちなみに、老けた見た目(失礼!)に反して年齢は実のところまだ32、3歳です。
髭黒と玉鬘の結婚のエピソードでは、遅れてきた初恋に浮かれる髭黒の目も当てられない言動ばかりが目立ちますが、それは周囲はもちろん、髭黒本人にとっても予想外のこと。
髭黒、初めて惑う恋の路
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
実のところ、あの髭黒をそこまで狂わせた玉鬘の魅力の空恐ろしさこそ見どころであると言えるでしょう。
さすがは、あの夕顔の娘、としか言いようがありませんね。
3、髭黒が抱える重い事情と受けた報い~隠された優しさと強さが玉鬘と読者の心を溶かす~
いい歳して若い女にうつつを抜かして……と呆れられそうな髭黒ですが、彼にもそうならざるを得ない深い事情があるのです。
彼の正妻は式部卿の宮の長女で、美しくおっとりとしたやんごとないお姫様。
しかし、実はやっかいな持病を抱えていて、いったん物の怪にとりつかれると発作を起こし、別人のように暴れて暴言を吐くのです。
現在でいうところの、双極性障害や統合失調症、解離性同一性障害などではないかと察せられます
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
母屋の中は散らかり放題だし、妻の容貌はすっかり衰え、見る影もありません。
髭黒は妻のケアに追われ身も心も憔悴しきっている状態ですが、身分や家柄を考えれば、そんなことを外でチラとでも漏らすことはできなかったでしょう。
消耗し続ける髭黒のなかでは長年培ってきた妻への愛も薄れつつあり、それでも家族としての情で必死に夫婦としての形を保っていたわけですが……。
(ちなみに、『源氏物語』の髭黒は、玉鬘に恋してから家族をほとんど顧みません。正妻のことも3、4歳年上なだけで「ばあさん」呼ばわりし、口では彼女を大切にしていると言いながらもさっさと別れたがっています。また、愛する子供たちに関しても、このときばかりはほとんど眼中にありません)
そんなときに出会ったのが玉鬘。
彼女の存在は、髭黒にとって心の栄養剤であり、何物にも代えがたいものなのです。
結果だけ見れば、病に苦しむ妻を捨てて若い女に逃げたしょうもない男、と言えなくもありませんが、彼にも同情すべき余地があったのは事実。
また、髭黒自身も【溺愛する娘との別れ】という報いを受けています。
このエピソードは髭黒の悲哀と娘である真木柱のいじらしい姿が涙を誘うと同時に、当時の女性と子供の無力さが際立つ印象深いものであり、髭黒編のクライマックスといえるでしょう。
なにはともあれ、彼の抱えた重荷と、それをけして人前で吐露しない強さと優しさが、玉鬘の頑なな心を開いたのも事実。
これも一種のギャップ萌えですかね
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
不相応と思えるほどの幸福の裏にある想像を超えた悲しみと苦しみを思うと、髭黒への悪感情も少し和らぐライターなのでした。
余談ですが、ちょっと興味深いのは髭黒の正妻の心の病について。
紫式部が物語に描いているのですから、当然、平安当時にもそういった病があったことがわかり、何やら考えさせられてしまいます。
当時の対処法が僧を呼んでの加持祈祷で、暴れる人を抑えつけ、ときに打ったり引き倒したり……なので、そりゃあ治るわけないよな、むしろ悪化するよな、と同情を禁じ得ません。
精神医学の領域は日進月歩であるものの、その歴史はかなり古いものです。
しかしそれは、同時に病気そのものの歴史がさらに古いものであり、想像もできないほど昔から多くの人が苦しんできたのだと、思いもよらぬところで気づきを得たライターなのでした。
(ayame)
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