みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。
今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。
第23回目は、周囲を困惑と笑いで包み込む哀しきピエロ・近江の君です!
え?誰?と思った人も少なくないのではないでしょうか……。
彼女は何を隠そう、源氏のライバルである頭中将の落とし胤。(※頭中将はこの時点で内大臣ですが、今回は「頭中将」呼びで固定します)
源氏が玉鬘を引き取ってしばらく後に頭中将に引き取られ、物語を面白おかしく彩ります。
作中では完全なピエロですが、冷静に考えると意外と笑えず……!?
『あさきゆめみし』における彼女の役割や魅力、実父である頭中将とのちょっと普通じゃないコミュニケーションも紹介します!
このコラムの初回0回はこちらです↓
こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!
また、55周年記念の新装版も発売しています。
目次
1、『源氏物語』における近江の君
話は源氏が玉鬘を引き取ってしばらく経った頃。
外戚政治に乗り出していた頭中将は、玉鬘の評判を噂で聞いて優れた娘をもつ源氏を羨みます。
しかし、夢占によると、頭中将にも「忘れられた娘がいる」とのこと。
慌てて方々探させたところ、近江国で見つけたのが近江の君でした。
出会いから衝撃的
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
容姿は頭中将に似て愛嬌があるものの、母親の身分がかなり低く、市井に混じって暮らしていたため教養の部分が一切ダメ。
恐ろしいほど早口で雅さのかけらもなく、美しく優れた娘を入内させたいと考えていた頭中将にとって物悩みの種となります。
そんな父親の悩みを知ってか知らずか、近江の君は異母姉である弘徽殿の女御に支離滅裂な和歌を送って笑われたり、身の程をわきまえず夕霧を誘惑しようとして失敗して笑われたり、宮仕えを夢見るあまり便所掃除までしたりと大活躍(?)。
噂の玉鬘と比較されるたびに、玉鬘の優美さと近江の君の滑稽さが浮かび上がるのです。
紫式部はそんな彼女を「完全な笑われ役」として描いています。
とはいえ、父である頭中将に疎まれ、兄弟姉妹から嘲笑され、噂の玉鬘と比較されては周囲からバカにされる日々……。
思いがけず父に拾われた嬉しさから気に入られようと必死になった結果だと思うと、その姿には悲壮感が漂うし、とても笑えません(ちなみに母親は早くに亡くしています)。
玉鬘の引き立て役として登場したキャラクターですが、父の愛を求めた結果として道化になってしまったのだと思うと、哀しいですよね……。
2、『あさきゆめみし』における近江の君~頭中将と近江の君だから成り立つ父娘コミュニケーション~
『あさきゆめみし』にで描かれる近江の君は、おおよそ『源氏物語』と変わりません。
ただ、読者に与える悲壮感のようなものは大幅にカットされているように感じられます。
漫画になることでコメディ要素に磨きがかかっているからとも言えますが、一番大きいのは父親である頭中将の彼女への接し方でしょう。
近江の君が悩みの種になっていることは変わりませんが、もともとちょっと性格がよろしくない頭中将、彼女をからかって楽しんでいるところがあります。
頭中将曰く、「落ち込んだ時は近江の君を見るに限る!」だそうです
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
信頼して頼りにしている父親にからかわれバカにされているなんてそれこそ悲惨なのですが、当の近江の君がそれに気づいていません。
そうしてあらためて二人のやり取りを見てみると、頭中将は楽しそうだし、近江の君は父親と交流できて嬉しそうだし、なんだかんんだ良いコミュニケーションを取れているように見えます。(もちろん、父娘の関係性としては褒められるものではないのですが)
邪険にされるより、ずっといいですよね。
彼女の飾らない性格や実は健気な部分に、頭中将も絆されたのかもしれません。(なんといっても実の娘なのだし)
顔だけはそっくりなんですよね、これが
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
ちなみに、卑しい身分の姫君として蔑まれる近江の君ですが、読み書きができ支離滅裂ながらも和歌っぽいものが詠め、誕生の折には産屋にお坊さんが呼ばれていたことや乳母がいたことから、けして下賤とは言えない生まれ・育ちであると推測できます。
引き取られた先が内大臣家ではなく、受領や地方の豪族などであれば、もっと馴染みやすかったかもしれませんね。
3、玉鬘との一方的なライバル関係と平安貴族女性の密かな憧れ
近江の君は自分と似た境遇で、なにかと比較される玉鬘のことをライバル視します。
玉鬘が宮仕えするかもしれないと聞けば、自分も尚侍になりたいと大騒ぎ。(念のため言いますが、内大臣家の娘といえどそう簡単になれるものではありません……)
もちろん、ライバルとして見ているのは近江の君だけで、玉鬘自身は近江の君のことなどまったく意識していません。
言うまでもなく、この試合は玉鬘の圧勝でしょう。
けれど。
結局、玉鬘は宮仕えの夢破れ涙ながらに望まぬ結婚をします。
対する近江の君はというと、「貴族の暮らしなんてつまんない!」と言って内大臣家を出ていき、もとの気楽な暮らしに戻るのです。
多分、内大臣家の人たちも誰も探したりしなかったんでしょうね……
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
賤しい暮らしから一転して上流貴族の仲間入りをした二人の姫君は、まったく対照的な結果を迎えました。
こうして結末だけ見ると、性に合わない暮らしから抜け出して自由を手に入れた近江の君は、思い悩み泣き暮らすことの多い玉鬘よりも明らかにQOLが高いといえるのではないでしょうか。
試合には負けて勝負に勝つとはまさにこのこと。
近江の君は玉鬘の比較対象として作られたキャラクターですが、玉鬘を引き立てると同時に、その人生のままならなさを強調するキャラクターだったのです。
彼女を通して見ることで、玉鬘の物語はいっそう人々の心を引き付けます。
また、玉鬘がいるからこそ、近江の君の健気さや飾らない愛嬌、自由気ままな気性が”異質なもの”として映り、同時になんともいえない魅力となっているのです。
ちなみに、大臣家を元気いっぱい出ていった近江の君ですが、その後元気に双六遊びをする姿が描かれています。
何気に表着の模様が可愛いです
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
やっぱり、彼女は伸び伸び自由に暮らすのが性に合っているようです。
身分や位に縛られてばかりの上流社会の中で、自分を偽らずありのままで生きることを貫いた近江の君。
その逞しい姿は、もしかしたら紫式部を始めとした当時の貴族女性が無意識に抱いてた、自由への憧れが具現化したものだったのかもしれませんね。
(ayame)
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