みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。
今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。
第19回目となる今回は、作中屈指の性豪・源の典侍です!
重苦しいストーリーの中で数少ないコメディ枠として登場する老女。
でも、ただの「笑われ役」じゃないんです!
彼女のキャラクターが作中でどのような意味をもつのか、ライターの個人的見解もりもりで解説していきます!
このコラムの初回0回はこちらです↓
こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!
また、55周年記念の新装版も発売しています。
目次
1、『源氏物語』における源の典侍
源の典侍(げんのないしのすけ)は内侍司を務める高級女官。
源氏の正式な恋人というわけではありませんが、関係をもった女性のひとりです。
ちなみに、内侍司とは帝の日常生活のお世話や奏請・宣伝などを行う官職。
内侍は蔵人などの男性官人とのやりとりも多かったので、高い教養が求められました。
長官は尚侍(ないしのかみ)ですが、摂関期には尚侍は后妃化したため、次官である典侍が実質的責任者となっています。
后妃化した尚侍といえば朧月夜ですね。
源の典侍は桐壺帝時代に宮中で働いた女性で、家柄もよく才気あふれ、帝からの信任もあつい人でした。
そんな彼女が初めて物語に登場するのは紅葉賀の帖で、源氏18~19歳、典侍は57歳のころ。
ちょっと想像が難しいほどの歳の差ですね。
この時代の平均寿命がだいたい30歳前後なんて言われているため、彼女がすでにとんでもない高齢であることがわかります。(とはいえ、この平均寿命の低さは乳幼児の死亡率の高さも大きいと思いますが)
物語中でも扱いは「老女」そのもの。なので、以下、彼女を「老女」と表記することが何度かありますが、けして現代の同年齢の方には当てはまらないのであしからず。
さて。年老いてはいるものの、優秀で美しい源の典侍。
だがしかし、いかんせん彼女は色好みで有名。
高齢ながら源氏に恋をし、また、源氏も物珍しさから彼女と関係をもってしまいます。
とはいえ、源氏にとって彼女はあくまでも「ちょっと試しに手を出してみただけ。実際それほど……」的な存在で、恋人にする気なんてサラサラありません。
すっかりその気の源の典侍をあの手この手でかわしますが、老人に冷たくしすぎるのも気が引ける源氏。
いざ会ってしまえば年齢こそ重ねてはいるものの美声と琵琶の腕は一級品だし、あふれる才気も高級女官ならではで申し分ない。
おまけになんとも色気があり、話をしているとうっかりほだされてしまうわけで……。
気品や知性は女性を魅力的に見せるものです
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
またしても関係をもつ二人の褥に踏み込んできたのが、源氏の親友でありライバルである頭の中将。
常日頃から一見お堅く見せている源氏の艶聞をつかんでやろうと躍起の彼は、深夜の褥で源氏と大立ち回りを繰り広げます。
お茶目な中将とそれに付き合う源氏。仲良しですね。
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
男子二人、装束までボロボロになってから、なんだかおかしくなって笑いながら退出。
翌日もすまし顔で仕事をしている相手を見ては、互いに昨夜の醜態を思い出してクスクスと笑いあうのでした。
このように、年齢からは考えられない好色ぶりや源氏にすげなくされてもしつこくアプローチをかける様、そして結局は若い男子二人の笑いのタネにされてしまうなど、彼女は完全なる「笑われ役」。
年齢に合わない真っ赤な扇に「大荒木の森の下草老いぬれば駒もすさめず刈る人もなし(大荒木の森の下草は老いているから、馬も食べないし刈る人もいない)」など認め、悪趣味だと苦笑する源氏に「君し来ば手なれの駒に刈り飼はむさかり過ぎたる下葉なりとも(あなたになら刈って愛馬にも食べさせましょう♡盛りが過ぎた下草だけど!)」と詠う場面もあり、源氏の引きつる顔を想像させられるとともに笑いを誘います。
あからさますぎて赤面ものです
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
彼女が絡むストーリーにシリアスさはなく彼女は70歳前後まで健在で、源氏に「良い人ほど早死にして、そうではない人ほど長生きするものだ」なんて思われるほどなのでした。(ちょっとひどくない……?)
2、『あさきゆめみし』における源典侍~男子二人を手玉にとる作中屈指の性豪~
『あさきゆめみし』ではヴィジュアルも老女そのものな源の典侍。
それでも自分の容姿に対する自信は確固たるもので、若い女官を「嘴の黄色い小娘」扱いし、「我こそは源氏の恋人!」と主張します。
そんなことを声高に言うものだから、噂は当然頭の中将の耳にも。
そして驚くことに、頭の中将も彼女と関係をもってしまうわけですね。
源氏と頭の中将、都を代表するイケメン貴公子二人を老女に取られてしまったわけですから、女性たちも黙っていません。
「いったいどっちが本命なの?!」と詰め寄る女性陣に、「あ~ん、選べない!」と悶える源の典侍……。
彼女の年齢を考えればこそ成り立つギャグ展開です(笑)
また、『あさきゆめみし』のオリジナル要素として、源の典侍の長年の恋人である修理の大夫(すりのかみ)の登場シーンがあります。
深夜の大立ち回りの末にそれぞれ端袖と帯を置いて行ってしまうのですが、それを持ってきてくれたのが修理の大夫でした。
浮気男のもとに本命(典侍は違うと言ってますが)自らお出ましという展開に気まずい雰囲気が漂いますが、修理の大夫はおおらかに笑って見せます。
彼は恋人である典侍の奔放さを良しとし、彼女が新しい恋に色めく姿を見るのも積年の恋人の楽しみであると豪語するのです。
結局は、源氏も頭の中将も老人二人の手のひらで転がされたようなものというわけですね。
若い二人は恋の道の奥深さをこれでもかと痛感したのでした。減の典侍は良い(?)指南役でもあったわけですね。
亀の甲より年の功ですね
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
しかし、源の典侍、57歳にして20歳そこそこの男子を相手にするとは。しかも二人も!
これを性豪と言わずして、いったい何を性豪とするのか……!
モブキャラの女官による「この道の達人」とは言い得て妙。
けしてあやかりたいわけではありませんが、彼女の「生きるパワー」の強さには感服してしまいますね。
また、直後に藤壺の懐妊・出産というシリアスな展開が待っていることもあり(『源氏物語』では藤壺の出産直後ですが)、ストーリーにメリハリがついて彼女の存在が一層印象的なものになっています。
3、苦い経験も青春の1ページ!振り返ればいい思い出に……
若い二人にとってはちょっぴり苦い思い出となった、源の典侍とのすったもんだ。
でも、その苦さこそ青春の味。
この頃、政治的立場もまだそれほど強くなく、よきライバルであり従兄弟であり、もっとも親しい友として交流していた源氏と頭の中将。
一人の老女を巡って大いに騒ぎ、大いに笑い、真面目くさった顔で互いの醜態を思ってこっそり笑ったあの日。
親友ならではの空気感に典侍はおいてけぼりです
昨夜のことは二人だけの秘密です
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
晩年、外戚政治で対立する二人を知っていればこそ、源の典侍とのエピソードが愛しく思えます。
そしてなにより、源の典侍こそ、彼らの青春を象徴する存在と言えるでしょう。
『源氏物語』なり『あさきゆめみし』なり、一度全部読み終えてから再び典侍のエピソードを読むことで、なんともいえず胸が締め付けられる人も少なくないはず。
それはきっと、青春の刹那の輝きに覚える切なさでしょう。
しかし、青春を象徴するのが老女というのもなんとも滑稽で、思わぬところに笑いが隠れているのも『源氏物語』の魅力といえますね。
(ayame)
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