みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。
今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。
第17回は、夏の嵐のような激しさで源氏を破滅させかけた奔放美女・朧月夜です。
源氏が勘勅をこうむって須磨に流れたことはこのコラムでも何度かお話ししましたが、その決定的な原因となったのがこの女性。
源氏にとっては政敵の娘であり、彼女と通じ合ったことで彼は身を滅ぼしかけてしまいます。
それでも愛し合うことはやめられず、晩年まで断続的に関係を持ち続けるのですが……。
果たして、何が源氏をそこまで衝き動かしたのか?
解説&考察していきます!
このコラムの初回0回はこちらです↓
こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!
また、55周年記念の新装版も発売しています。
目次
1、『源氏物語』における朧月夜
朧月夜は桐壺帝の御代の右大臣の六番目の姫君で、弘徽殿の女御の妹です。
右大臣といえば、具体的な職掌をもつ最上位の官職である左大臣に次ぐ存在。
また、弘徽殿の女御は当時の東宮(後の朱雀帝)の生母であり、朧月夜は京の都でも屈指のお姫様というわけです。
しかし、血筋に似合わずその性格は奔放。
東宮に入内するはずでしたが、とある宴の夜にたまたま出会った源氏と関係をもってしまい、激しい恋に落ちます。
東宮の即位後も懲りずに関係を続けていましたが、ついには右大臣に密通がバレ、入内は取りやめに。
源氏は右大臣の政敵である左大臣派ですし、なにより弘徽殿が(個人的な私怨から)源氏を毛嫌いしており、「これは朱雀帝への謀反!」と大騒ぎ。
これを受け、源氏は藤壺との愛の証である東宮を守るためにも、無位無冠となり須磨への隠遁を決意します。
朧月夜自身は正式な后妃ではなく、尚侍として後宮に入ることに。
(尚侍(ないしのかみ)……天皇の日常生活のお世話や奏請・宣伝などを行う内侍司という女官組織の長官。平安中期には后妃化)
遠い須磨をさすらう源氏を恋しく思いつつも、朱雀帝からの寵愛は深く、長く朱雀帝とともに過ごすのでした。
晩年、朱雀帝が出家した後に再び源氏と関係を持ってしまいますが、徐々にフェードアウトし、最後は朱雀帝の後を追って出家しました。
2、『あさきゆめみし』における朧月夜~刮目せよ、モダン女子の底力!~
『あさきゆめみし』で描かれる朧月夜はとても艶やかな見た目が特徴。
満開の桜がよく似合います
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
気難しい姉・弘徽殿に向かってジョークを飛ばすようなところもあり、見た目はもちろんマインドも当世風(モダン)で、イマドキ女子感が強めです。
また、進歩的かつサッパリしたものの考え方をしていて、名門貴族に生まれた自身の使命もしっかり理解しています。
弘徽殿の女御も苦言を呈するほど
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
これぞ平安のサバサバ系女子!
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
うっかり源氏の毒牙にかかってしまいましたが、しかしその毒も自ら食らうようなところがあり、源氏を翻弄しゲームを楽しむようなところも。
名も教えず去った朧月夜でしたが、この後源氏は見事彼女を探し出します
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
源氏との恋は人生に物足りなさを感じていた朧月夜によって、まさに求めていた【本物の情熱】だったのでしょう。
そんな彼女ですが、源氏への恋心を抱きながらも朱雀帝に仕えることを決意。
当然周囲からの視線は冷たく、後宮での日々は彼女にとって針のむしろです。
仕方の無いこととはいえ……キツい……
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
それでも、自分が選んだ道だと心を強く持つ姿は当世(モダン)女子としての気概を感じられます。
朧月夜の一番の見せ場といっても過言ではないでしょう!
とはいえ、晩年にも源氏と関係を持ってしまうんですよねぇ……。
朱雀帝が出家し、ずっと張り詰めていた気持ちがゆるんだせいなのでしょうか。
あるいは、源氏の毒は年数を経てなお効果がある、むしろ効果が増してしまうということなのかもしれませんね。
(実際のところは、晩年の源氏のダメ男っぷりと紫の上の悲惨さをつくるのに体よく利用された感がありますが)
余談ですが、朧月夜を見ていると源氏の正妻である葵の上を頻繁に思い出してしまうのは私だけでしょうか。
2人とも都を代表する名門貴族の娘であり、東宮への入内が望まれていたという点はとても似ています。
ただ、葵の上はクラシカルな見た目で生真面目かつ堅い性格。
源氏を愛していながらそれを伝える術を知らず、冷たい態度をとり続けたことで夫婦仲は冷え切っていました。
一方、朧月夜は派手で今風の見た目をしたサバサバ系女子。
内面には熱い情熱を持っていて、源氏との激しい恋でそれが爆発し、色んな意味で炎上しました。
似た境遇にありながらまるで対極の存在だった2人……。
どちらも源氏との恋は悲劇に終わるというのも、なんだか感慨深いものがあります。
3、源氏を衝き動かしたのは幼い敵愾心!その犠牲になった哀れな女性
源氏と朧月夜は夏の嵐のように激しい恋に落ちました。
それは互いに許されない相手だからこそかもしれません。まさに、平安のロミオとジュリエットですね。
しかし、源氏の心の裡を見てみると、そこには右大臣優位の世の中に対する子供っぽい反抗心のようなものが見えます。
それまで帝に愛された皇子として、何不自由なく暮らしていた源氏。(女性関係のゴタゴタは除く)
望めば叶わないものはなく、無意識のうちに傲慢な生き方をしていました。
しかし、桐壺帝が薨去し朱雀帝が即位したことで、世の中は一変。
それまで源氏にすり寄ってきていた人々も、波が引くように離れていってしまいます。
人としても男としても、邪悪な思考ですね……
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
おまけに、永遠の初恋相手である藤壺がこのタイミングで出家し、俗世を離れることに。
源氏の恋はこれで永久に叶わなくなってしまいました。
こうなりゃ源氏だってもうヤケです。
朧月夜の寝所に踏み込んできた右大臣相手に、取り繕うどころかあえて挑発するような態度を示すなど、破滅的な行動をするようになります。
気まず過ぎる……!まるで昼ドラのような展開……!
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
正直いって、あまりにも幼稚ですよね。
そんなことをすれば朧月夜はどうなるのか?朱雀帝はどう思うか?源氏自身はどうでもいいとしても、源氏を頼りに生きている紫の上をはじめとした女君たちは?
考えが及ばなかったのなら、あまりにも自分本位すぎます。
朧月夜は源氏のこの幼稚さの犠牲になり、その報いを真っ正面から受けた哀れな女性とも言えます。
ただし、そんな源氏を選び、あえて茨の道を進んだのは朧月夜本人。
「哀れ」と評価するのは少し違うかもしれませんが、名家に生まれたがゆえに自由恋愛もままならず、おまけにもっとも愛した人を破滅させかけてしまったことは悲しいことですね。
4、苦い恋の思い出を糧に成長する大輪の花
朧月夜にとって救いであると同時にさらなる苦しみとなったのが朱雀帝でした。
気性の激しい母・弘徽殿に似ず穏やかで優しい性格の朱雀帝は、源氏と密通した朧月夜をけして責めることはしません。
それどころか、「あんなに魅力的なのだから、源氏を好きになるのも無理はない」なんてことまで言い出します。
その優しさこそが、まるで真綿で締め付けるように朧月夜を苦しめるのです。
わざとやってるなら恐ろしいですが、天然なんですよね、朱雀帝……
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
けれど、彼のおかげで朧月夜は本当に自分を愛してくれる存在に気づき、また、自分がどれほど愚かなことをしたのかも思い知ることができました。
源氏が朱雀帝ほどには自分を愛していないことにも気づいたでしょう。
朧月夜にとって、これらの気づきは人として・女性として大きく成長する糧になったはずです。
結果的に、朱雀帝からはその後も永く愛され続け、彼女は大輪の花として後宮に君臨し続けたのでした。
読者の中には「スッキリしない」と感じる人もいるかもしれませんが、朧月夜が内面にもつ強いパワーがこの結果を引き寄せたのでは?と思わずにはいられません。
彼女はもともと「生きる力」そのものがとても強いのだと思います。
源氏と関わる女君のなかでは珍しいタイプであり、また、源氏の須磨流しへと物語を大きく動かすのにぴったりなキャラクターだと言えるでしょう。
深く読み込めば読み込むほど、魅力がにじみ出るキャラクターですね。
(ayame)
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