こんにちは!料理は好きだが量は食べられないアラフォーマンガフルライター、中山今です。
毎週日曜連載のこの「最近読んだ漫画感想」、本日は『作りたい女と食べたい女』の感想を書きたいと思いますー!
このレビューでは作品を以下の3つの項目でご紹介していきます。
- 簡単なあらすじ
- レビュー
- 『作りたい女と食べたい女』のジャンル「シスターフッド」を論文を参照して考える
日曜の昼下がり、漫画レビューをサラッと楽しんでもらえれば幸いです。
目次
1、『作りたい女と食べたい女』のあらすじ。作りたい女の住む階に、食べたい女が住んでいた!
著者 | ゆざき さかおみ |
出版社 | KADOKAWA |
掲載雑誌 | コミックウォーカー(WEB) |
掲載期間 | 2021/01/08-(連載中) |
単行本巻数 | 既刊1巻 |
ジャンル | シスターフッド×ご飯×GL |
料理を作るのが趣味。契約社員の一人暮らし女性、野本さん。
目下の悩みは「デカ盛り料理を作りたいけど自分は少食」なこと。
ある日、イライラして料理を作り過ぎてしまった野本さん。
食べきれない量を前にして、思い出したのは春日さんのこと。
春日さんはアパートの同じ階に住む女性。
会話もろくにしたことがないけれど、先日すれ違ったときはなんと「一人で食べる用のフライドチキンのバケツ」を抱えていた逸材!
(『作りたい女と食べたい女』1巻 ゆざき さかおみ/KADOKAWAより引用)
彼女なら食べてくれるんじゃないか?
野本さんが勇気を出して声をかけたことから、「作りたい女」が作り、「食べたい女」が食べる爽やかな関係が始まる・・・
2、『作りたい女と食べたい女』レビュー!ごはんモノで食べ方がきれい!そしてあまりに麗しい、体の大きなレディ春日さん(個人の想い)
『作りたい女と食べたい女』の一番の喜び、それは食べシーンがきれいなこと!
グルメ漫画の食べシーンは、食欲以外の何かが潜む場合が多々あります。
その場合、性表現に近いものだったり、あえて荒々しく汚く食べたり、本能に即した生々しいビジュアルであることが多いです。
さらに『作りたい女と食べたい女』の主人公、野本さんは「デカ盛り料理」を作るのが夢です。
「デカ盛り」を食べきるシーンに期待されるのは「汚いけれどうまそうに食べる」という表現だと思います。
しかし本作の食べ手、春日さんの食べ方は湿度を感じさせない大変クリーンなイメージ。
(『作りたい女と食べたい女』1巻 ゆざき さかおみ/KADOKAWAより引用)
春日さんは多弁でないタイプ。食べながら食レポをすることも無く、ただただ食に没頭します。
性的な表現も荒々しさも借りず、シンプルに食欲を満たしているのを見るのはとても気持ちがいいです!
そして春日さんというヒトそのものの魅力がもうたまらんです!!(この項はライターの私感9割でお届けします)
『作りたい女と食べたい女』ジャンルに含まれる「GL」(ガールズラブ)。野本さんと春日さんの恋未満の関係性も楽しみどころです。
が、ここは春日さんの魅力を全推しさせていただきたいッ!
春日さんは食べる量に比例して体も大きな女性。
寡黙、そして大きな車を運転する男性的なハンサムのイメージがまずあり、
(『作りたい女と食べたい女』1巻 ゆざき さかおみ/KADOKAWAより引用)
野本さんが生理痛で寝込んでいるときは代わりに買ってきてくれる頼れる友人のようなイメージもあり、
(『作りたい女と食べたい女』1巻 ゆざき さかおみ/KADOKAWAより引用)
そして「クリスマスと年末を一緒に過ごしたい」という野本さんの提案に、少し頬を染める面はゆいレディのイメージもあって・・・ッ!
(『作りたい女と食べたい女』1巻 ゆざき さかおみ/KADOKAWAより引用)
なにこれ!?ハンサムで頼れてかわいいって殺す気!?
ライターは元から「体の大きい女性キャラ」が大好きでして。百合漫画でそういうキャラが出てしまったら一発でした!ハイ!春日さんが好きだーーーー!!!(個人の想い)
3、『作りたい女と食べたい女』の抑圧と願い。シスターフッド論文を参照しながら「分かち合いの結束」を読み取る
ところで、『作りたい女と食べたい女』のジャンル名として記載されている「シスターフッド」。
女の子同士の友情映画などで聞くことの多いワードですが、これはいったいどんなジャンルのことなのでしょうか?
今回は、元恵泉女学園大学理事長 一色義子氏の論文「Sisterhood(シスターフッド)論 : 河井道子とその弟子たちの場合から」を基に考えてみたいと思います。
一色義子氏の論文では、シスターフッドの概念は「血族関係のない女性どうしの関係」を指すとあります。その起源は女性神学から発生しているとも記載されています。
しかし『作りたい女と食べたい女』に直接関連するシスターフッドの定義は、「1970年代ごろから英語圏で注目されていた」と書かれているものに由来しそうです。
1970年ごろのシスターフッドのイメージは「女性差別への怒り」。
差別された怒りを持つ女性たちが連帯し、共闘するイメージでした。
しかし1980年ごろにその概念が変わり、分かち合いと結束というイメージに変化します(以下論文を引用します)。
しかし1980年代になって、そういうシスターフッドSisterhoodに批判的な見方も出てきた。B.フークスは、黒人女性の背景に立ちながら
「このように互いに自分たちが犠牲者だということで結束することはこれらの女性たちにとって心的品性引き下げになる。女性たちが他の女性たちと力と資料をわかちあいつつ結束することに意義がある」一色 義子 (1996-01-20)
恵泉女学園大学人文学部紀要8,129 – 143
Sisterhood(シスターフッド)論 : 河井道子とその弟子たちの場合から
※この論文中で言う「資料」とは”Document”=記録、伝聞などの意味ではないかと思われます
まとめると、
- 血族関係のない女性どうしの関係
- 差別された怒りがある
- しかし怒りではなく、分かち合いをする
という3点を持つと「シスターフッドである」と言えそうです。
1はすでに満たしているので、2と3について検証したいと思います。
結論から言うと、『作りたい女と食べたい女』にも怒りと分かち合いが存在します。
まず、野本さんと春日さんは二人とも女性であることに社会的なストレスを受けています。
野本さんは趣味の料理(お弁当作り)を、職場の男性に「いいお母さんになりそう」と評価されてもやもやを募らせます。
(『作りたい女と食べたい女』1巻 ゆざき さかおみ/KADOKAWAより引用)
また春日さんは食に対しての自由を「女性である」ということで勘違いや制限を受け、訂正する日々を送っています。
(『作りたい女と食べたい女』1巻 ゆざき さかおみ/KADOKAWAより引用)
野本さんも春日さんも女性であるという理由で自分の欲求を(勝手なイメージに)決めつけられてしまいます。
属性によって(この場合は女性)、イメージで誰かの思考を決めつけるのは差別です。
野本さんと春日さんは被差別の怒りを持っていると言えます。
しかし二人をつないでいるのはそれら「被差別の怒り」ではありません。
二人は願いを共有し、分かち合う関係に至っています。
二人の怒りは「自分の欲求を勝手に決めつけられること」だとして、二人の間に決めつけは存在しません。
野本さんは作りたいとシンプルに願い、春日さんは食べたいとシンプルに思っています。
その願いを認め合い、お互いの願いが叶う瞬間に立ち会うこと。
それが野本さんと春日さんの関係です。
怒りの気持ちではなく、素直な願いを共有する関係性です。
(『作りたい女と食べたい女』1巻 ゆざき さかおみ/KADOKAWAより引用)
被差別の怒りを持っていても、それをきっかけとした結束ではなく、お互いの気持ちを分かち合う結束をすること。
これがシスターフッドなら、シスターフッド、めちゃくちゃいい関係じゃあないですか・・・・!
4、今週のまとめ。爽やかで前向きで春日さんがレディで幸せ
今回はシスターフッドという概念を論文参照文から照らしつつ、『作りたい女と食べたい女』のレビューをお届けしました。
シスターフッド、最近だと映画の情報でたまに聞く用語だなと思っていました。
今回調べてみて、とても幸せそうな概念だなあと嬉しくなってしまいます。
『作りたい女と食べたい女』も、二人が幸せそうでニコニコしてしまう漫画です。
先日1巻が出たばかり。二人の爽やかな関係性&春日さんの素敵さをぜひ読んでみてください!
それでは今週もありがとうございました。
来週は『Final Phase』の話をしたいと思います!
1巻完結の医療モノ、扱うのは「パンデミック」・・・!
そしてこちら、フューチャーサイエンスという科学誌に掲載されていたのです。
今(2021年7月)に読むのにぴったりじゃあないか、というところでオススメレビューをいたします。ゾクゾクしますよ・・・!
↓前回のレビュー記事はこちら↓
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