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【『あさきゆめみし』キャラ解説】5回:生きていれば最愛の女性だったかもしれない魔性の女・夕顔

みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。

今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。

第5回は、不思議な魅力をもった儚なげ美女、夕顔ちゃんです!

(いや~なんとか5回までたどり着けた!笑)

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【『あさきゆめみし』キャラ解説】4回:大人の事情に振り回された時代錯誤なお姫様・葵の上

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↓『あさきゆめみし』完全版がこちら。美しいですね~。

↓こちらは55周年記念の新装版。かわいらしい!

1、『源氏物語』における夕顔

とある日、源氏は病みついた乳母の見舞いに赴きます。

乳母の住まいは源氏の住んでいる二条のあたりとは異なり、家々が密集し前栽なども情緒に欠け、行き交う人や隣近所の声なども開けっ広げないかにも「下々」な場所。

ふと、源氏は乳母邸の隣の家の垣根に、見たことのない白く可愛らしい花が咲いているのを見つけます。

源氏の「うち渡す云々」というのは古今和歌集にある和歌です。

「うちわたす遠方人にもの申すわれそのそこに白く咲けるは何の花ぞも(=あの白い花はなに?)」

何気ない日常会話のなかでも和歌が引用されていて、源氏はもちろんですが惟光も十分洗練された人物であることがわかります。(帝の皇子の乳兄弟ですもんね)

(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)

源氏が「あの花はなに?」と乳兄弟の惟光(病みついた乳母の息子)に尋ねると、「あれは夕顔の花です。こういったところに咲くような花ですから、お見かけしたことがないのでしょう」と。

惟光が夕顔を一枝もらいに行くと、可愛らしい女童が「手で持つと格好がつかないのでこれに載せてください」と、扇に夕顔を載せてくれます。

見舞いを終えた源氏がふと扇を見てみると、扇からはなんとも良い香りと、気の利いた和歌が一首。

幾人かの女性を知り、また親友との女性談義から中流以下の女性に興味を持ち始めていた源氏は、「案外こういうところにこそ、これはと思う女性がいるのかもしれない」と思い、普段であれば無視するところ返歌を出します。

そこから、源氏と不思議な魅力をもつ少女、夕顔との付き合いが始まるのです。

夕顔はとても不思議な女性でした。

素直で可愛らしく、子供のように見えることもあるけれど、男性を知らぬわけではない。

これといった特別な魅力があるようには思えないのに、朝に別れたら夜には恋しくして仕方なくなる。

互いに本名も素性も明かすことなく、源氏と夕顔は逢瀬を重ねていき、源氏はどんどん夕顔にハマっていきます。

源氏にしてはうかつなことですが、夕顔にハマるあまり他の恋人への訪問が疎かになるほど。

たまに思い出したように別の恋人を訪ねても、ついうっかり夕顔のことを思い浮かべてしまう始末です。

当然、他の女性たちにとってみれば面白くないですよね。

なかでも、つれない態度の源氏とそんな源氏を離さない夕顔に対して、強い憎しみを抱く女性がいたのです……。

そうとも知らず、源氏はとある秋の日に「こんな騒々しいところじゃなくて、もっと雰囲気のいいところに行こう」と夕顔を連れ出します。

ついた先は静かといえば聞こえはいいけれど、荒涼としていかにも「何か出そう」なボロ屋敷。

おびえる夕顔を抱き寄せかっこつける源氏ですが、その夜、とても恐ろしい経験をするとともに、夕顔を永遠に失ってしまうのです。

2、『あさきゆめみし』における夕顔~六条の御息所の対極にいるいじらしい女性~

『あさきゆめみし』で描かれる夕顔は、おっとりとしていて控えめで、それでいて不思議な魅力のあふれる少女として描かれています。

彼女を象徴するセリフが、「神さまのくださったぶんだけしあわせ」というもの。

夕顔というキャラクターをより深く描きだすセリフです

(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)

もっと幸せになりたくないの、という源氏の問いかけに対する答えで、控えめでいじらしい、愛さずにはいられないキャラクター性を表しています。

当時、源氏は六条の御息所という高貴な女性のもとにも通っていましたが、夕顔はそんな御息所とまさに対極にいるような女性です。

御息所は亡き東宮の妃という高貴な身分で、ものすごい美人で、住まいも風流で、洗練された暮らしをしていて、おまけに年上。

それに対して夕顔は身分も高くないし(そもそも素性がわからない)住まいに趣もないし、取り立てて美人というわけでもないし、どこか子供のようないとけなさの残る女性。

二人の対極性は明らか。

それゆえ、夕顔と過ごせば過ごすほど、御息所の難点も明らかになっていきます。

夕顔という女性は物語状において、ある意味六条の御息所の難点を浮かび上がらせるための存在であり、だからこそ当時ちょっぴり御息所が重く感じていた源氏にとってより夕顔が魅力的に見えたのでしょう。

その結果、嫉妬深く思い詰めやすい御息所の憎悪に触れ、その生き霊によって夕顔は命を落としてしまうのです。

『源氏物語』では生霊の正体はハッキリとは書かれていませんでしたが……

(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)

3、生きてさえいれば最愛の女性?そもそもなぜ源氏はそこまで夢中になった?

そもそも源氏はなぜそこまで夕顔に夢中になったのでしょうか?

理由はいくつか考えらえます。

まず一つ目は、前項でも述べた通り、当時ちょっとうっとうしく思い始めていた御息所と対極の存在だったから。

御息所はとても素晴らしい女性です。でも、なんとなく気疲れしちゃうんですよね。

都を代表する貴婦人中の貴婦人といわれる美しい女性を前にすると、ちょっとも気が抜けないというわけです。

でも、夕顔の前では緊張することもないし、変に大人ぶる必要もありません。ほっと気が抜ける、オアシスのような女性に思えたのでしょう。

二つ目は、夕顔が中流の娘だったから。

実は夕顔、亡き父に三位の中将をもつそれなりのお姫様だったのですが、父親を亡くして没落した女性です。(だからこそ源氏の目に適う最低限のたしなみがあった)

また、源氏の親友である頭中将の恋人であった過去もあり、娘ももうけています。

ただ、頭中将の正妻がなかなかこわい気性の女性で、夕顔に何かひどいことをしたらしく、それで夕顔は頭中将の前から姿を消して市井に紛れて暮らしていたというわけです。

というわけで、実際は中流というわけではないのだけれど、住んでいる場所が場所だったため、源氏にとっては朝に夕に驚きばかり。

近所の男たちの世間話する声が聞こえてきたり、布をうつ砧の音がすぐ近くから聞こえてきたり……。

こういう『非日常感』が源氏にとって思いもよらず楽しかったのでしょう。

そして三つ目は、お互いに身分と素性を明かさなかったことが大きいといえます。

ミステリアスだけど、それより可憐さや儚さが勝ってます

(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)

素性もわからなければ本名もわからない。どこから来てどこへ帰って行くのかもわからない。(『源氏物語』だと顔すらまともに見せない)

そんな状況でやることやっているんだからビックリですが、夕顔邸での『非日常感』にくわえて、『何物でもないただの男』になりきることが源氏にとってとてつもない開放感だったのだと思います。

普段は今上帝の皇子として、真面目にお仕えしている源氏です。

ちょっと遊ぶような女性にしたって、自分の正体を知らないものはいません。

そこへきて、何の制約もなく自由に、ただあるがままに振る舞っていい相手と巡り会えたのです。

多分、仮面舞踏会で積極的になっちゃうみたいなものでしょうね。(仮面舞踏会に出たことないのでわかりませんが)

さて、最後の四つ目。これは完全にライターのゲスな推測でしかないのですが、夕顔の手練手管が挙げられます。

『あさきゆめみし』ではそこまで描かれていませんが、『源氏物語』に書かれる「少女のように見えて男を知らぬわけではない」という描写は、まさしく夕顔の夜のふるまいを指していると思われます。(もちろんそれだけではなく、源氏のあしらい方や返歌の仕方なども含めて、だとは思いますが)

しかも、まだ若いとはいえ女性経験がそれなりにある源氏のこのハマりよう……。

昼は淑女で夜は娼婦、みたいなのが男心にはたまらないんじゃないでしょうか。黒沢年男もそう言ってますしね。(『時には乱れた娼婦のように』)

まさに魔性です。

そんなわけで、もし生きていれば源氏の最愛の女性の座は藤壺でも紫の上でもなく夕顔だったかもしれませんね

4、不幸に不幸を重ねながらも小さな幸せを大事にした女性・夕顔

父を亡くし、愛した男性の前から逃げるように姿を消し、ひょんなことから出会った源氏との恋ゆえに命を落とした夕顔……。

不幸ばかりの人生のようですが、『あさきゆめみし』ではそんな自身の身の上を嘆く姿はけして描かれません。

素性のわからない源氏との恋を大切に慈しみ、目の前の幸せを大切にする、儚げながら朗らかでとても可愛らしいキャラクターです。

せめて源氏が秘密の愛人扱いせず、もう少し丁重に接していれば……そしてボロ屋敷になんか連れ出さなければ……読者としてはやるせいない思いでいっぱいです。(『源氏物語』を読んだ当時の平安貴族たちも同じ思いだったのでしょうか……)

生きていれば源氏にとってかけがえのない人になっていただろう夕顔。

もしかしたら最愛の女性の座だったかも、とは前項で述べましたが……はてさて、相手は源氏ですからね。

夕顔の素性がすっかり明らかになって、源氏の愛人ではなく妻(側室)として正式に迎え入れていたら、その熱もすっかり冷めてしまうことは想像に難くありません。

源氏ってそういう男ですもの。

幸せの絶頂で摘み取られたからこそ、夕顔との思い出は源氏のなかで美しく花開くのでしょう。

 

ちなみに、夕顔の忘れ形見である頭中将との間にもうけた小さな女の子。

この少女は成長した後に物語に登場し、源氏の晩年に色を添えることになります。

とはいえ、この話もまたいろいろ後味が悪いんですが……いつかのコラムで語らせていただきますね。

 

(ayame)

 

 

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ABOUTこの記事をかいた人

元研究職、現在は飼い猫を溺愛する主婦兼フリーライター。小さいころから漫画が好きで、実験の合間にも漫画を読むほど。 ジャンルを問わずなんでも読むけど、時代もの・歴史ものがとくに大好物。 篠原千絵先生大好きです!好きなタイプは『はじめの一歩』のヴォルグさんと『はいからさんが通る』の編集長。