どうも。マンガタリライターの相羽です。
女子同士の瑞々しい関係性を描く、百合作品。
僕も大好きで、かれこれ二十年くらいは百合作品を追ってるなという状態なのですが。
半年ほど前、
という記事を書かせて頂いたところ。
ありがたいことに、記事を公開してからこれまで、
- 良かったと感想を頂いた
- 相羽さんは百合ソムリエっぽいと言われた
- 「記事読んだよ……」と前置いた上でおもむろに(その人その人の)マイ『マリみて』ヒストリーを語り出す人に複数人出会った
といった反応を頂きました。
おおむね好評だったようなので、引き続きおすすめの百合漫画について書かせて頂きます。
今回は年代別のおすすめ編で、まずは「百合」が爆発的に隆盛していった、個人的にもっとも熱かった時期だと思ってる2000年代編をお贈りさせて頂きます。
ちなみに2000年代に気持ちをワープさせてみると、我々が日常的に使ってるメディアが今とはだいぶ違っていたな~と思い至ったりします。
社会的な大きな出来事としては、2001年に「9.11」のアメリカ同時多発テロ事件がありましたが、当時はスマホもSNSもなかったので、テレビと新聞とダイヤルアップ接続で繋いだインターネットで情報を追ったりしておりました。
iPhone(アイフォーン)の日本での最初の発売が2008年ですので、みんなモバイル端末としてはいわゆるガラケーがまだ主流で、YouTubeも今ほど一般的でなく、映像のような大きい容量のデータのやり取りはまだまだインターネットでは少なかった頃です。
情報が限られていた分、娯楽とも一人一人が地頭での想像力(妄想力)をフル回転させながら向かい合っていたな~というのはいささか郷愁的な趣が過ぎるでしょうか。
そんな2000年代も通して、長年「百合」ジャンルの近くに生息していた者からの簡単な当時の雰囲気なんかも、一言二言そえさせて頂きながら紹介させて頂きます。
へぇ~、2000年代頃はこんな百合漫画が(も)あったんだ~と思って頂けたり、できれば実際に手に取って紹介してる作品を読んで頂けたりしたらとても喜ぶのでした。
1、2000年代は『マリア様がみてる』が大ブームな中専門誌も発刊され始める百合漫画隆盛期である
2000年代の『百合漫画』がどんなだったかというと、やはり影響力が大きかった作品として『マリア様がみてる』の波が様々な方面に伝播しながら発展していっていたと振り返りたいです。
ジャンルとしての「百合」の隆盛と共に百合専門コミック誌なども発刊され、作品の数も豊富になり、内容も色とりどりになっていった頃です。
なお今回の記事でも、「百合」に関しては恋愛関係なのか、友情の範囲なのかという点にはこだわらず女子同士の「関係性」を描いている作品……くらいのゆるめの定義で進めさせて頂きます。
(読み手側から感じられる範囲での「百合っぽい」作品くらいも取り上げさせて頂いております。)
瑞々しい作品、温かい作品、ちょっとおバカな作品、などなどを、ジャンルが発展していって百色に咲いていた頃のワクワク感と共に紹介できたなら幸いです。
2、2000年代の注目百合漫画5作品を世を動かした大ヒット作から知る人ぞ知る傑作まで紹介
今回は、あの頃(2000年代)本っ当に大きいムーブメントになっていたからこれは押さえておきたいといった作品から、そこまで大きい知名度は獲得してなかったかもしれないけれど、僕が大好き過ぎる知る人ぞ知る傑作なので是非紹介したいという作品まで、バランスよく選ばせて頂いたつもりです。
2-1 『飴色紅茶館歓談』喫茶店の女店主とお手伝いの女学生の穏やかな時間を描く百合専門誌掲載作
一つ目は、『飴色紅茶館歓談』。
著者 | 藤枝雅 |
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出版社 | 一迅社 |
掲載雑誌 | コミックZERO-SUM増刊WARD コミック百合姫 |
掲載期間 | 2003年 – 2011年 |
巻数 | 単行本全2巻 |
●『飴色紅茶館歓談』ってどんな漫画?
主に『コミック百合姫』に掲載されていた、藤枝雅先生による紅茶館(喫茶店)を題材とした百合作品です。
百合専門の漫画誌が発刊され始めたり、「百合」を中心に描いてる漫画家さんも増えてきたのも2000年代の特徴でした。
閑静で緑が多い街の一角にひっそりとある喫茶店「飴色紅茶館」を舞台とする、女店主の犬飼芹穂(いぬかい・せりほ)と彼女を慕う女学生の琴織さらさ(ことおり・さらさ)との関係劇。二人が過ごす優しい時間、お互いの恋心などが描かれていきます。
●おすすめポイント
お話はある程度(喫茶店の)「経営もの」の趣もあり、経営がピンチになって、どう立て直していくのかといったストーリーラインがあったりします。
喫茶店の女主人とアルバイトの女学生の百合ですが、経営再建などにあたっては、参謀のポジションを務めるのは女学生のさらさの方なのも面白いです。
(『飴色紅茶館歓談』1巻 藤枝雅/一迅社 より引用)
街の人たちの心安らげる居場所を作りたいというビジョンを描いていたちょっとおっとりとした女マスターと、そのビジョンを大切だと思って支える女子高生との百合。これは、熱熱です。
一方で全体のテイストは熱血「経営もの」といった方向ではなくて、本作の魅力の神髄は「飴色紅茶館」で芹穂とさらさとが穏やかで愛ある時間を過ごしてる場面にあると思います。
(『飴色紅茶館歓談』1巻 藤枝雅/一迅社 より引用)
ブレイクタイムに紅茶を飲んでホっとするような時間を、百合と漫画という表現の道具を使って紙の中に封じ込めているような作品です。
本作を手に取って、一時、リアル社会の喧騒と忙しさを離れ、森の近くに佇む紅茶館にエスケープしてみて頂けたらと思います。
2-2 『マリア様がみてる』お姉さま、姉妹、ロザリオ、大ブームとなった00年代の金字塔作品
二つ目は、『マリア様がみてる』。通称、『マリみて』。
著者 | 原作:今野緒雪 漫画:長沢智 |
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出版社 | 集英社 |
掲載雑誌 | マーガレット 別冊マーガレット ザ マーガレット |
掲載期間 | 2003年 – 2007年 2010年 – |
巻数 | 単行本11巻(2019年9月時点) |
●『マリア様がみてる』ってどんな漫画?
『マリア様がみてる』は、今野緒雪先生の原作小説を中心としながら、漫画、アニメなど様々にメディアミックスされながら2000年代に展開され、日本の「百合」というジャンルそのものに与えた影響も大きい金字塔的な作品です。
お姉さま、ロザリオの授受、姉妹(スール)といった要素はかなり有名で、一昔前だと「百合」というとこの作品という方も多いかと思います。
「私立リリアン女学園」を舞台に、ロザリオで誓いを結んだ上級生と下級生の繋がりである「姉妹(スール)」という制度を軸に、丁寧に展開されていく女子同士の人間関係劇、主人公の祐巳ら登場人物たちの成長……などが綴られていきます。
●おすすめポイント
様々にメディアミックスされつつも、作品のコアは何と言っても今野緒雪先生によるコバルト文庫の原作小説なのですが。
- 長沢智先生がコミカライズされた漫画版も素晴らしく
- あまりに影響が広範囲に及んだ作品で、おそらく百年経っても「百合」について語られる時には言及される作品である
点から、今回は一節とって紹介させて頂きます。
「姉妹(スール)」という設定を媒介にした、漸進的な女子と女子との関係性の進展の物語が魅力の作品なのですが。
(『マリア様がみてる』1巻 今野緒雪・長沢智/集英社文庫 より引用)
登場人物がとても多い中、メインとなるカップル(「姉妹(スール)」)の系統は、「紅薔薇(ロサ・キネンシス)」姉妹、「黄薔薇(ロサ・フェティダ)」姉妹、「白薔薇(ロサ・ギガンティア)」姉妹、作中で通称「薔薇様」と呼ばれてる、生徒会関係の三つです。
さらに「薔薇様」は代替わりしていくので、もう少し複雑になります。
僕個人の話をすると、推しを表現するには「志摩子(しまこ)と乃梨子(のりこ)の代の『白薔薇』姉妹が好きで、特にロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンの乃梨子推し!」といった言い方になります。
まだ読んでない方からすると、「何かの暗号かな?」という感じかと思いますが、ようは、それくらいハマっていくと豊かな世界が待ってる作品でもありますよということです。
主人公のカップル(「姉妹(スール)」)である、福沢祐巳(ふくざわ・ゆみ)と小笠原祥子(おがさわら・さちこ)、いわゆる「紅薔薇」姉妹についてはこちらの記事で書いてしまったので。
今回は、「黄薔薇」姉妹について軽く紹介させて頂きます。
今、振り返ってみるとストーリーもけっこうロックです。
前回の記事で紹介した、原作小説第1巻相当の祐巳と祥子のファーストエピソードでは、少しずつ二人の関係性が構築されていき、ようやくロザリオの授受を行い「姉妹(スール)」になるまでが描かれていました。
ですが、続く原作小説第2巻「黄薔薇革命」相当のセカンドエピソードは、島津由乃(しまづ・よしの)と支倉令(はせくら・れい)の「黄薔薇」姉妹が、「姉妹(スール)」関係を解消する……由乃が令にロザリオを返してしまうという展開からはじまります。
(比喩として現実に当てはめるなら、結婚するカップルもいれば、離婚するカップルもいる、みたいな!)
そこから、一度「姉妹(スール)」関係を解消した由乃と令の関係性の再構築が描かれていくのが「黄薔薇革命」なのですが、由乃は自分が心臓の病気で病弱であることに関して、令に引け目、難しい言葉でいうなら非対称性を感じているというのが感情面のドラマのコアだったりして、物語も叙情的です。
以下は、「黄薔薇革命」で僕が一番好きなシーンです。
病弱だった由乃が心臓の手術に挑む前に、友人になった主人公の祐巳に「私、死ぬ気がしないから大丈夫よ。」って言うんですね。
何気ないシーンなんですが、しんみりした話にもなりそうなところ、由乃の根底にある明るさ・強さが感じられて、とても印象に残ってます。
(『マリア様がみてる』1巻 今野緒雪・長沢智/集英社文庫 より引用)
こういった作品の根底にある明るさこそが、単純に大ヒットしたことのみにとどまらず、本作に普遍性をもたらしているのだろうなと個人的には思っております。
一度「姉妹(スール)」を解消した由乃と令がどうなるのか、人間関係において「対称」であるとはどういうことなのか。是非、作品を手に取ってみて頂けたら幸いなのでした。
2-3 『けいおん!』軽音楽部女子5人の輝いた日常を描き青春の期間限定性も題材にした大ヒット作
三つ目は、『けいおん!』。
著者 | かきふらい |
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出版社 | 芳文社 |
掲載雑誌 | まんがタイムきらら まんがタイムきららキャラット |
掲載期間 | 「けいおん!」2007年 – 2010年 「けいおん!college」2011年 – 2012年 「けいおん!highschool」2011年 – 2012年 |
巻数 | 「けいおん!」全4巻 「けいおん!college」全1巻 「けいおん!highschool」全1巻 |
●『けいおん!』ってどんな漫画?
主に「まんがタイムきらら」にて掲載されていたかきふらい先生による、軽音楽部の女子五人の青春・日常を描いた作品です。
京都アニメーションによって制作されたアニメ版が大ヒットしたこともあり、広範囲にムーブメントを起こした作品です。
何気なくて。でも楽しくて。大切な人たちと一緒にいる日々。
平沢唯(ひらさわ・ゆい)、秋山澪(あきやま・みお)、田井中律(たいなか・りつ)、琴吹紬(ことぶき・つむぎ)、中野梓(なかの・あずさ)、五人の女子高生の輝いた「日常」が綴られていきます。
●おすすめポイント
『けいおん!』が「百合」かというと、読んでる人からすると別に「百合」という感じではないのでは……という人もおられるかと思います。
一方、そういうことを言うと、ええ!? 唯と梓は「百合」でしょ!? というような人が現れたりもします。
(『けいおん!』3巻 かきふらい/芳文社 より引用)
それくらい、語り始めると(「百合」談義に限らず)ちょっと議論的に熱が入っちゃうのが、それくらいエネルギーがあって、一大ムーブメントを引き起こした作品である証左かとも思います。
今回は「百合」の定義論のような話はしない方向でありますが、取り上げておきたいなと思ったのは、このあと2010年代になると、『きんいろモザイク』『ご注文はうさぎですか? 』『あんハピ♪』などなど、「日常」もので、ちょっと「百合」っぽい要素も見いだせる……という作品がいよいよ百花繚乱に咲き乱れていきます。
それらのタイトルの中心には芳文社の「まんがタイムきらら」系列の作品があるということになりますので、2000年代で「百合」という視点で漫画の世界をみる時は、「まんがタイムきらら」発で爆発的ムーブメントを引き起こした金字塔的な作品、『けいおん!』については紹介しておきたいなと思ったのです。
全体的に、「日常」の何気ないものや人や場所にも「幸せ」や「楽しさ」が見つけられる……という話が多いのですが。
僕が一番好きなシーンを紹介させて頂きます。
(『けいおん!』3巻 かきふらい/芳文社 より引用)
最後の「甘い。」……のところ。
- 梓は本当は唯が大好きなこと。
- やがて(唯の)「卒業」と共に唯とはお別れになるかもしれないことに梓は気づきはじめていること。
という文脈が背後に加わっていたりします。
あっという間に消費されて消えゆく飴玉一つに過ぎないんだけど、「大好きな先輩から貰った飴玉」という意味が付加されて、そこには「幸せ」や「輝き」を見つけられる……ということを切り取っている一コマで、個人的には日本の漫画史に残るくらいの勢いの名シーンだと思ってます。
ゆるやか「日常」ライフを描きつつ、物語の後半は、
- 「青春」も輝いた「日常」も一時のものに過ぎなくて、人は色褪せた大人になっていくしかないのか。
- ずっと一緒にいられる仲間、なんて幻想なのか。
といったテーマにも焦点があてられながら物語が進んでいきます。
果たして、「輝いた」軽音楽部五人の物語の終わりは。
わりと有名なラストですが、まだ読んだことがない方もけっこういると思います。
唯、澪、律、紬、梓の「放課後ティータイム」の結末を、是非見届けてみてください。
2-4 『はやて×ブレード』バカ乙女たちが剣戟で熱も鼻血も迸らす全てが自由な特異点的な一作
四つ目は、『はやて×ブレード』。
著者 | 林家志弦 |
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出版社 | 集英社 |
掲載雑誌 | ウルトラジャンプ |
掲載期間 | 「はやて×ブレード」2003年 – 2013年 「はやて×ブレード2」2013年 – 2017年 |
巻数 | 「はやて×ブレード」全18巻 「はやて×ブレード2」全6巻 |
●『はやて×ブレード』ってどんな漫画?
「ウルトラジャンプ」で連載されていた、林家志弦先生による剣戟百合アクションコメディ漫画です。
作品の舞台となる天地学園には剣待生たちによる「星奪り」という制度があり、女性徒たちが剣術で戦いながらランキングの上を目指して切磋琢磨しています。
「星奪り」はペアで行うため、女生徒たちは「楔束(けっそく)」を交わした「刃友(しんゆう)」という特別な関係を二人で結んでいます。
姉のナギの替え玉として天地学園にやってきた主人公・黒鉄ハヤテ(くろがね・はやて)と、訳アリの女生徒無道綾那(むどう・あやな)が「楔束」を交わしたのを起点に、バカで、熱く、情念も鼻血も迸る乙女たちの百合剣戟バカ騒ぎが始まっていきます。
●おすすめポイント
作品を象徴するキーワードは「バカ」です。
作中の全話のサブタイトルに「バカ」という言葉が入ってるくらいで、本作ではどちらかというと肯定的なニュアンスで使われております。
僕としては、本作における「バカ」は「自由」である、くらいの意味合いなのかなと解釈しております。
2000年代に百合作品(っぽい作品含む)の内容が豊かになってきた証左であるように、『はやて×ブレード』は二人の女生徒が「楔束」を交わすなんていう百合百合しい設定がありながら、従来のしっとりとした百合のイメージというよりはバカで明るく、勢いがある感じに振り切っており。
キャラクターたちは鼻血を出しながら興奮したり。
性的なこともけっこう大らかにアピールしたりします(全員ではないですが)。
(『はやて×ブレード』4巻 林家志弦/集英社 より引用)
作中でもっともバカ(自由)なのはやはり主人公のハヤテで。
ハヤテが、周囲にバカさ(自由さ)を誘発していって、閉塞していた事柄が自由になっていくというストーリーラインもあったりします。
僕が好きなのは、作中でもトップクラスの強キャラである神門玲(みかど・あきら)がけっこう生きづらさを抱えていて、ある重要局面でハヤテのバカさ(自由さ)を思い出して救われるくだりです。
(『はやて×ブレード』15巻 林家志弦/集英社 より引用)
ヴィヴィッドでおバカな作風なのに、泣ける漫画でもあります。
なんか最近元気が出ないなぁ、噛み合ってないなぁ、といったことを感じてる方にこそ手に取って頂いてバカの(自由の)風を感じて頂きたい作品です。
『はやて×ブレード』に関しては、ライター神門さんによる広範囲でご好評を頂いている紹介記事がマンガタリにはありますので、そちらの方も合わせてお読み頂けたら幸いです。
2-5 『ピエタ』喪失、死、永遠の愛、鋭利な筆致で描かれる百合と文芸の架け橋的な作品
五つ目は、『ピエタ』。
著者 | 榛野なな恵 |
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出版社 | 集英社 |
掲載雑誌 | ヤングユー 別冊ヤングユー |
掲載期間 | 1998年 – 1999年 |
巻数 | 単行本全2巻 |
●『ピエタ』ってどんな漫画?
『Papa told me』で有名な榛野なな恵先生による、鋭利な作品です。
雑誌掲載は1998年~1999年ですが、コミックス第1巻の発売が2000年で『Papa told me』とは少し違う側面の榛野なな恵先生の傑作として知られるようになってきたのは2000年代に入ってからということで、今回紹介させて頂きます。
当時胎動し始めた百合ムーブメントに乗ってみようといった経緯があったのかは定かではありませんが、もともと、「普通」、「スタンダード」側ではいられなかった人間の実存を描いてる作家さんです。
(一見するとのどかな『Papa told me』にもこのようなエッジは含まれています。)
ありのままでは世界に居場所がなかった女子同士の関係性と実存の触れ合いを描いている本作は、榛野なな恵先生のコアが反映されているのではないかとも思ったりします。
高校三年生の賢木理央(さかき・りお)と比賀佐保子(ひが・さほこ)は、それぞれの背景から世界に対して「生きづらさ」を抱えており。
二人が出会い、触れ合い、惹かれあっていく過程の遠景に「喪失」や「死」といったものを瞬かせながら、「愛」についてある種文芸的に描かれていきます。
●おすすめポイント
理央と佐保子という二人の関係性を描いている作品ですが、僕が特に好きなのは佐保子というキャラクターが持ってる気高さのようなものです。
(『ピエタ』2巻 榛野なな恵/集英社 より引用)
物語の折り返しで、ある大きな「破綻的な出来事」が起こります。
その大きな喪失的な出来事から続く物語の後半。謎の能力が発動するとか奇跡が起こったとかではなく、佐保子が非常に現実的な手段の積み重ねで再生をはかっていくのがとても好きです。
(『ピエタ』1巻 榛野なな恵/集英社 より引用)
劇中でも心に負荷を負った人間の(ある種の)療法的な過程が綴られていますが、本作自体が何らかの心がつらい状態の人への処方箋となってるような趣も感じる作品です。
何かとリアルの方の世の中が大変であるからこそ、全二巻分の糧となるような物語に触れてみて頂けたらと思います。
3、まとめ
今回の記事では「百合」で「2000年代」の漫画作品を5作品紹介させて頂きました。
2000年代頃の百合作品熱かったですねという、若干の郷愁的な語りなども交えながら、
- 森閑とした紅茶館での女店主と女学生の百合に、ホっと一息を感じるのもヨシ。
- 金字塔的な作品の根底にある明るさに触れて、現在まで続いている歴史の朗らかな繋がりを感じてみるのもヨシ。
- 女子高生五人のゆるやかライフを追いながら、日常の中の何気ない輝きを捉えなおしてみるのもヨシ。
- もっと自由でもイイのかもしれないと、剣戟乙女バカ騒ぎにテンションを上げていくのもヨシ。
- 確かなものが揺らいで生きづらい最近だからこそ、文芸的に愛について思いを巡らせてみるのもヨシ。
と、5つの作品をおすすめさせて頂きました。
どれか一つでもピンとくる作品に出会って頂き、少し前(2000年代)の作品も面白そうだな~とあなたの百合漫画ライフに歴史の視点も加わり始めて、ますます充実してゆくきっかけになれたりしたなら、一百合漫画好きとしても幸いなのでした。
相羽裕司(あいばゆうじ)
今回の記事では、2000年代の百合漫画でおすすめの作品を紹介させて頂きましたが。
ここからさらに十年ほど時間は流れまして。
2010年代のおすすめ百合漫画を紹介する記事も、引き続き同ライターが書かせて頂いております。
メディアが多様化して『やがて君になる』のようなアニメ化もされた大作からSNSを中心に展開されるWEB漫画まで、色とりどりの作品が咲いている百合百花繚乱時代の注目作を紹介させて頂いております。
合わせてお読み頂けましたら喜ぶのでした。↓
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