こんにちは!ツイ廃の漫画ライター(1日のスマホ使用時間13時間)、マンガフルライター中山今です。
本日は『100日後に死ぬワニ』の感想を書きたいと思いますー!
Twitterで華々しい評価、そして炎上した『100日後に死ぬワニ』。
2019年の年末~春ごろに日本語でTwitterをしていた方なら一瞬であっても目にしたと思います。
ライターもまさにその期間にTwitterをしていた一人です。盛り上がりも、そして炎上もリアルタイムで見ています。
しかし今回はそういったTwitterの声は度外視して、『100日後に死ぬワニ』は漫画本としてどうなのか?を漫画ライターとして分析してみたいと思います。
このレビューでは作品を以下の3つの項目でご紹介していきます。
- 『100日後に死ぬワニ』のデータ
- 漫画としての分析。センスある余白が読者を強烈に共感させる
- ライター個人の感想。
それではまずは『100日後に死ぬワニ』のそもそものデータを確認しましょう。
目次
1、『100日後に死ぬワニ』のデータ。Twitter発、小学館発行。100日後の後日譚28P(描きおろし)を含む1,100円
著者 | きくちゆうき |
出版社 | 小学館 |
掲載媒体 | |
掲載期間 | 2019/12/12-2020/3/20 |
単行本巻数 | 全1巻 |
ジャンル | 日常 |
『100日後に死ぬワニ』は、漫画家・イラストレーターのきくちゆうき先生がTwitterで配信した4コマ漫画の連作です。
2019年12月12日~2020年3月20日の100日間にわたって、ツイートのつぶやきに4コマ漫画の1枚絵を添付する形で配信されました。
「100日後に死ぬワニ」 pic.twitter.com/RUblRfVWTs
— きくちゆうき (@yuukikikuchi) December 12, 2019
ストーリーは「ワニくんの日常」です。
- どこかの一人暮らしのフリーターであるらしいワニくんが、
- ともだちのネズミくんやモグラくんと交流したり
- 気になる先輩を意識したり
といった、何気ない生活をしていく様子がつづられています。
ただし、ツイートの下部には必ず「死まであと○○日」と記載されます。
読者はタイトルと日数カウントにより、いつでもワニくんが死ぬことを意識させられます。
のんびりとした日常の「生」と、非日常であり圧倒的な悲劇の「死」を常に意識しながら読む日常漫画です。
2、『100日後に死ぬワニ』漫画としての分析。センスある余白が読者を強烈に共感させる
『100日後に死ぬワニ』、とにかく共感できた漫画でした!
ワニくんが死んだ100日目、読者はなんとも言えない悲しみに打ちひしがれることになります。漫画なのに!
なぜこんなに共感できるのか?ライターは以下2つが要因ではないかと思っています。
- 「余白のある演出」
- 「身近な小道具や言葉遣いのセンス」
『100日後に死ぬワニ』の共感、まず「余白のある演出」が大きいなと思ってます。
例えば、40日目と41日目を見ていただきたいのですが、
40日目、ワニくんは気になるセンパイに嫌われていると勘違いし、他にもいろいろあってバイトを辞めてしまいます。
『100日後に死ぬワニ』 きくちゆうき 小学館より引用
その次の41日目、4コマは言葉もなく、ただ「道端に缶が落ちてるのを一度スルーして捨てる」ことが示されています。
『100日後に死ぬワニ』 きくちゆうき 小学館より引用
もちろんこれはワニくんがフラれた(と勘違いしている)辛い気持ちが表現されているのですが、ここで説明がないのがいいなと。
ここに説明がないことで、読者は「とても考えの近いワニくん」に出会えるからです。
例えばなのですが、ライター中山は40日目をこう読みました。
って感じです。
失恋の辛さが「ボーっとする」形で現れたワニくんですね。
これはきっと、読者の数だけワニくんがいます。
例えば、
- 涙をこらえまくってて缶に気づかなかったエモーショナルワニくん
- 普段は道端の缶をわざわざ捨てるタイプじゃないけど今日は捨てる気になった感傷ワニくん
- 缶捨てたらひょっとしてなんかいいことあるかもなあ、なんて思った願掛けワニくん
など、読んだ人数だけワニくんがいると思います。
こういった余白のある表現が繰り返され、余白を【私】の考えで補足して読んでいくと、なんとワニくんが、ネズミくんが、モグラくんが、とても【私】と近い考えを持ったキャラクターのように思えてきます。
『100日後に死ぬワニ』のラスト、ワニくんが死んだときに哀しくもなるよなあ、と思います。
また、余白のある表現を支える「身近な小道具や言葉遣いのセンス」も大切なところだと思います。
19日目、20日目のページを例にしたいのですが
『100日後に死ぬワニ』 きくちゆうき 小学館より引用
『100日後に死ぬワニ』 きくちゆうき 小学館より引用
20日目の1コマ目、「ゴーンゴーン」という大きな音が響いているのが分かります。
これは19日目の最後のコマ、センパイの「大みそかもお仕事なの」という流れがあれば、「除夜の鐘であること」はピンときます。
しかし、この「ピンとくる」のは日本在住の人限定です。
また20日目3コマ目、ネズミくんがワニくんを「ドゥクシ」とぶちます。
これも日本の小学生(特に男子)あるあるの「ぶつ時の擬音」で、「あーーーーわかるわかる」という表現です。
最後、20日目4コマ目のネズミくんのはよ告「れし」というセリフも、日本語としては崩れているわけですが「若い人は使うかも!」と受け入れられます。
そのため20日目は
「大晦日の0時、若い友だちが子どもっぽいじゃれ合い的にぶってきて、告白しろってせっついてきた」
という風に読めます。
除夜の鐘も、ドゥクシも、「○○れし」という言葉遣いも、どれも読者は知っています。実際自分が使うか?本当に使われているか?というのはさておき、「あ、身近なヒトたちだ」と感じるのに十分な小道具です。
『100日後に死ぬワニ』は、「あるある」のアイコンを選ぶセンスがいいなと思います。
41日目、「失恋後、缶ごみをスルーするワニくん」のページを思い出してほしいのですが、ここで例えばワニくんが
- 「リトアニアに住む布製品の卸問屋」
- 「地中深くに生きる謎生命体」
とかだと、「いや多分こいつ私が想像できるようなことしないだろうし」と、缶ごみを一度スルーしたのに捨てた理由が全く思いつかなくなると思います。
でもワニくんは、除夜の鐘を聞き、友達にドゥクシとぶたれ、「はよ告れし」と言われるワニくんです。
身近な小道具、言葉を使うから、余白のある表現の時に自分の考え方に近いワニくんになり、まるで友達のように感じるんだろうなあと思うのです。
友達と過ごす毎日、友達の死。
『100日後に死んだワニ』は余白のある表現によって本の中に友達を作るし、思い切り感情移入のできる漫画です。
この項では、『100日後に死んだワニ』の漫画技術的な分析をしました。
次の項目で、ライターの個人的な感想を書きたいと思います。
ライターにはとてもとても思い出深い漫画になったんです。
3、『100日後に死ぬワニ』のライター個人の感想。死ぬことを意識する時間は現実に侵食した
ライター中山には、『100日後に死ぬワニ』は死について深く考える作品になりました。
現実と創作の区別はついているつもりです。例えば歴史モノとか、実際の事件をモチーフにしているなど「登場人物が死ぬこと」が分かっている創作はたくさんあります。
レッド 1969~1972 山本直樹 講談社より引用
それでも死についてとても心に残ったのは、ライター個人も2019年に友人を亡くしていたからです。
20年来の友達だったけど、事故であっけなく死んでしまいました。
もちろん、ワニくんは友人ではないし、ライターはネズミくんではないです。
ライターの友人は「○○れし」とか言わなかったし、大酒呑みでしたし、バイトじゃなかったし。
だからワニくんじゃないんです。
でも、58日目を見たとき、ものすごく友人を思い起こしました。
『100日後に死ぬワニ』 きくちゆうき 小学館より引用
2020年2月はコロナもそこまで流行っておらず、五輪がまだ普通に開催できると思っていた時期でした。
そのため、ワニくんも単なるヒマなニュースだと思ってチャンネルを切っています。
ワニくんは知らないんです。こんなにコロナが流行って、オリンピックも開催できるかできないかわからなくなっている未来を。
そして永遠に知ることもないんです。
ああ、友達と同じだと思いました。
大酒呑みで年間360日くらい居酒屋で夕食を食べていたアイツ。
生きていたら、コロナで居酒屋が閉まって、夕飯に困ることになっていただろう。
だけど、ワニくん同様、そんなことにはならなかった。
なぜなら死んじゃったから。
創作と現実は違います。
でもそれでも58日目のワニくんは、私の記憶の中にあるアイツを呼び起こすのに十分でした。
『100日後に死ぬワニ』の59日目から、死までのカウントはものすごく重く感じるようになりました。
100日目で、もうアイツが見ることの無い桜が咲いていました。
『100日後に死ぬワニ』 きくちゆうき 小学館より引用
58日目ほどの衝撃はありませんでした。言葉も出てはきません。
正直、私はアイツと死の前3年くらい会っていませんでした。葬儀ではアイツの「今」の友達とたくさん会いました。私はもうアイツの過去の友達であることを実感しました。『100日後に死ぬワニ』のワニくんネズミくんの関係性とはまるで違います。現実と創作は違います。
それでも、ワニくんの開きっぱなしで既読になってしまうLINE、これからも咲くのに二度と見ることのない桜を見て、「人の時が止まってしまった」ということ・・・つまり「死」に想いを馳せました。
ライター個人として、『100日後に死ぬワニ』はすごくセンチメンタルな作品として心に残っています。
4、まとめ。引き算のテクニックで読者の数だけ『100日後に死ぬワニ』がある
この記事では、
- 『100日後に死ぬワニ』の余白のある表現が共感を呼ぶこと
- 『100日後に死ぬワニ』のライター個人の思い入れ
を解説しました。
今回漫画で通しで読むと、表現の引き算が大胆で、理解ができるぎりぎりまで抑えたセンスがすばらしく、感情移入ができる漫画だと思いました。
そして「Twitterで100日リアルタイム更新」という公開方法はその共感をより強くしたと思います。
通しで読まない代わり、誰かの日常のような顔でTLに流れてくるワニくんのありふれた日々。
間違いなく発明だったし、その後の炎上も含め、漫画史にアーカイブしておくべき作品だと思います。
それでは、来週は『ロスト・ラッド・ロンドン』の感想を書きたいと思いますー!
オシャレ&バディ、そして付きまとう人種や性差別。
ロンドンが舞台のクライムサスペンスは秋のようなさみし気な雰囲気が良いです!
↓前回のレビュー記事はこちら↓
ボーーーーーっとしてるワニくん、缶を見つけたけどなんかボーっとしてて「缶」って思えなくてスルーして、後で「いやアレ缶だわ・・・捨てるか」ってなんとなく戻ってきて捨てた