みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。
今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。
第7回は、棚からぼた餅(としか言い様がない?)『源氏物語』を代表するラッキー娘・軒端の荻です!
今回のコラムは若干前回からの続きのような形になっていますので、前回の「空蝉」を読んでいない方はこちら↓からどうぞ。
このコラムの初回0回はこちらです↓
こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!
また、55周年記念の新装版も発売しています。
目次
1、『源氏物語』における軒端の荻
軒端の荻は空蝉の夫である伊予の介の娘。
伊予の介には亡き前妻との間に紀伊の守と軒端の荻をもうけていて、空蝉はさほど歳も変わらぬ二人の継母をやっているわけです。
空蝉は源氏と一度だけ過ちを犯してしまいましたが、慎みとたしなみがあり身分をわきまえているため、その後は源氏を徹底拒否。
正妻の葵の上を除いて女性にそこまで強く拒否されたことがない源氏はますます燃え上がり、小君(空蝉の弟)の手引きで屋敷にこっそり侵入するのです。
しかし間の悪いことに、空蝉の部屋には訪問者が。
それが対の君こと軒端の荻。
(対=たい。寝殿造りで正面にある正殿に対し、左右や後方に作った別棟のこと。対屋。軒端の荻は西の対に住んでいたので対の君と呼ばれていたのでしょう(北の対は正室のもの))
源氏が興味本位にこっそり垣間見すると、碁を打つ二人の姿が見えます。
とりわけ軒端の荻の姿は源氏から丸見えで、暑さからか単衣襲に小袿を無造作に羽織り、胸をあらわにしただらしのない格好ではあるものの、色白で丸々としていて愛嬌のあるはっきりとした顔立ちをしています。
ほっそりと小柄でたしなみのある空蝉と比べると派手で美人ではあるものの、やはり源氏が目を奪われるのは空蝉でした。
夜、源氏はついに動き出します。大胆にも、空蝉と軒端の荻(にくわえ他に女房二人)が眠る部屋に侵入。
しかし、わずかな衣擦れの音と源氏がまとう春の香の薫りに気づいた空蝉は、ギリギリのところで薄衣のみを残して逃走。
そうと知らない源氏は 眠る女性の体をまさぐります。
しかし、どうにも以前体を重ねたときと様子が違う。
そう、源氏は空蝉と間違えて軒端の荻に手を出してしまったんですね。
人違いだと気づくものの今更そんなことは言えないし、万一空蝉とのことを知られたら自分はかまわないものの空蝉が気にするだろうし、仕方なく源氏は「ずっとあなたが好きでした」云々と軒端の荻に甘い言葉をかけます。
まだ年若い軒端の荻はそれをすんなりと信じ込むわけですが、事を致しながらも源氏は「この女も悪くはないけれど、これといって惹かれるところもないし、こうなっては空蝉のことが恨めしい」なんて考えています。
そして別れの時。
源氏は軒端の荻に対して「正式な夫婦になるよりも、秘密の間柄の方が情愛が深まるもの。誰にも言わないでくださいね」としっかり釘を刺し、源氏は空蝉の残した薄衣をこっそり持ち帰るのでした。
2、『あさきゆめみし』における軒端の荻~空蝉の人柄と源氏の身勝手さを強調する重要なポジション~
軒端の荻はたしなみ深い人妻である空蝉と対称の存在のように描かれています。
愛嬌があって美人で開放的な軒端の荻は、恋愛に対しても積極的。
源氏が方違えに来ると聞いて喜び浮かれ、「人妻のおかあさまと違って自分は独身だから」と、さほど歳の変わらない空蝉に対してやや無神経な発言をします。
受領(中流も中流)の妻子にまで源氏の噂は広まっており、身分を問わず都中の女性が源氏に憧れを抱いています
こっそり源氏を垣間見しようとする軒端の荻をたしなめる空蝉てしたが、思わぬ反撃。
「そんなに歳も変わらないのに……」と思っても言えない空蝉です
(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)
しかし、彼女の人柄なのでしょう、そんな発言をしても空蝉との継母・継子関係はそれほど悪くないようで、それは普段から一緒に碁を打つなどして交流を持っていることからもわかります。
軒端の荻の奔放で大胆、ちょっと浅慮だけれど可愛げのある性格が読み取れます。
そして、これらはすべて空蝉とは正反対のものなのです。
軒端の荻を垣間見した源氏がかえって空蝉の魅力に気づいたように、読者も軒端の荻の言動を通して空蝉というキャラクターをより深く知ることができるというわけですね。
にじみ出るたしなみや教養、品格こそ、空蝉の魅力です
(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)
また、空蝉逃亡後の源氏のあきれる行動……これもたまたま空蝉の隣に軒端の荻が寝ていたからこそ。
何も知らない軒端の荻は予想もしない源氏の訪問に大いに喜ぶわけですが、それがかえって源氏の身勝手さを浮き彫りにします。
そこで「間違えました」といって帰るのも恥……ってことらしいけれど……
(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)
そう考えると、登場シーンも少なく源氏の数多いる恋人の一人というよりもモブに近い軒端の荻ですが、とても重要なポジションのキャラクターであるとも言えるのです。
3、割とひどい役回りながらもしっかり幸せを掴んでいるラッキーガール・軒端の荻
源氏にとってはちょっとしたミス……なんだったら黒歴史といってもいいような軒端の荻との情事。
それを知らない軒端の荻は源氏との一夜の恋を堪能したわけですが、当然、その後源氏が再び訪ねてくることもなければ、文もありません……。
悲しみに暮れる軒端の荻の姿は『あさきゆめみし』では描かれず、あくまでも空蝉のエピソードの添え物扱いです。
とはいえ、実は軒端の荻、その後蔵人の少将と結婚。
時々源氏と手紙のやり取りもしていて、安定を手に入れながらも過去の恋のときめきを思い出したり、わりと幸せな人生を送るのです。
源氏、空蝉、軒端の荻の三人を並べてみたとき、間違いなく一番幸せなのは軒端の荻でしょう。
棚ぼたのような源氏との一夜の恋に、後の人並みの幸せな結婚。
『源氏物語』にはなかなか珍しい、平安のラッキーガールーーそれこそ軒端の荻というわけです。
(ayame)
『あさきゆめみし』を読むなら……(今なら無料もあり)
『あさきゆめみし』を全巻読むならこちらから!期間限定無料あり!
電子書籍の購入はこちらからも可能です!
コメントを残す