みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。
今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。
第9回は、源氏の恋人のなかでもひときわ目立つファーストレディ・六条の御息所の後編!
前編はこちら↓
前編でも述べたとおり、彼女は『源氏物語』前半部の主要キャラクターでもあり、物語を展開させる重要な存在。
数多いる源氏の恋人の中でもとりわけ嫉妬深く、それゆえとりわけ苦しみ、とりわけひどい目に遭っているのに、扱いはほぼほぼヒールという悲しき女性なのです。
そのせいか、実は『源氏物語』ファンにも『あさきゆめみし』ファンにも人気はかなり高い!
そんな彼女の人気の理由を探ってくこのキャラ解説。
前回に引き続き、今回も彼女が起こした事件をなぞることで「六条の御息所」というキャラクターに迫っていきましょう!
このコラムの初回0回はこちらです↓
こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!
また、55周年記念の新装版も発売しています。
目次
1、『あさきゆめみし』における六条の御息所②~別れを迷い苦しむ御息所の耳に届く最悪の報せ~
前回は、御息所が嫉妬のあまり生霊を飛ばし、当時源氏がぞっこんだった夕顔を死に至らしめてしまったところまで解説しました。
源氏は御息所から遠ざかり、その間に後の正妻となる紫の上に出会ったり、宿下がり中の藤壺の宮に特攻したり、末摘花と出会ったり、藤壺が懐妊・出産したり、ライバルである頭の中将と恋のチキンレースまがいのことをしたり、政敵の娘とラブアフェアを楽しんだり、出世したり。
まぁそれなりに波乱万丈、面白おかしく過ごしているわけで、御息所のことなんてほとんど忘れてしまっているわけです。
そんな源氏に、寝耳に水の話が。
なんと、父である桐壺帝の譲位にともない伊勢の斎宮が交代となり、その斎宮に御息所の娘が選定されたと。
そして、御息所が娘に付き添って伊勢への下向を希望していると!(たとえ母といえど、斎宮となった娘の下向にくっついていくのは異例中の異例)
(余談ですが、源氏の恋人には夕顔しかり御息所しかり、すでに子を抱えている女性も登場します。が、不思議なのはその子供の存在感がすごーく薄いこと。御息所の場合、それなりに立派な邸宅に住んでいて娘とは別の対で暮らしていたためと推測されます。しかし、市井の(貴族から見ると)ボロ屋に暮らしていた夕顔の場合、娘がろくに登場しないのは現代の感覚だと違和感があります……。源氏の訪問中にママ恋しさに突入してきてもおかしくないのになぁと。(まぁ女房達が止めてたのでしょうけれど)しかも、娘を置いて誰にも黙って源氏と家を抜け出したりしちゃうわけですから、夕顔ってほんと魔性だなぁと)
慌てて御息所を訪ねる源氏は、彼女の美しさにあらためて感嘆します。
一方の御息所はというと、直接対面したことにより思い悩みはさらに深くなり、下向の日が近付くもののなかなか決心がつきません。
御息所の身分がもう少しだけ低ければ、年齢がもう少しだけ若ければ、元東宮妃でなければ、追いすがることもできたでしょうが……
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
そこに、御息所にとってあまりにも予想外の噂が聞こえてきます。
そう、源氏の正妻である葵の上が身籠ったというのです。
「妻が冷たい女で」なんていう不倫男の常套句を源氏もつかっていました
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
このことで御息所の心は完全に壊れてしまうのでした。
2、『あさきゆめみし』における六条の御息所③~大恥が憎しみへ、正妻VS愛人のバトル~
平安時代、祭りと言えば賀茂祭(=葵祭)で、源氏はそのメインどころである勅使に選ばれました。
いまをときめく源氏が内裏から上賀茂神社まで行列をなして進んでいく、華やかな祭りです。
これには都中の女性が上へ下への大騒ぎ。宮廷の女房達などは祭りの見物のためだけに宿下がりを願い出るほど!
つわりに苦しむ葵の上も、女房達に誘われて夫の晴れ姿の見物に出かけます。
それは御息所も同じで、思い悩み続ける彼女を慮った女房が御息所とわからぬように粗末な牛車を用意し、葵祭へと出かけるのです。
予想に反せず、大路は行列の見物人で大賑わい。
牛車を立てる(停める)ところを探すのにも苦労します。
やや遅れて到着した葵の上の一行は、左大臣家であること・源氏の正妻であることを笠に着て、すでに立ててある牛車をどかそうとします(これはよくないですね!)。
これがまかり通ってしまうほど、左大臣家というのはとんでもないお貴族様なんです
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
それは御息所の車にも及び……。
祭りの興奮から血気はやった男達は、「愛人ごときに大きな顔をさせるか!」と大バトル。
中に乗ってるのは普段立ち歩くことも希な貴族女性なのだから、もう少し配慮が欲しいところ
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
この騒ぎで周りにも御息所の存在が知られてしまい、おまけにバトルには負け、帰ろうにも混雑からその場をすぐ去ることもできず、御息所のプライドはボロボロです。
読んでるこちらがいたたまれない気持ちになります……
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
そこへ、源氏の行列が到着。
正妻である葵の上に会釈をすることできちんと礼をとる一方、御息所の存在には気づかず通り過ぎてしまいます。
この一件で、御息所の源氏への恋しさや苦しさといったさまざまな感情は、ただひとつ「憎しみ」へと姿を変えたのでした。
3、『あさきゆめみし』における六条の御息所④~憎しみを抑えられずついに二度目の生き霊飛ばし~
それからしばらくして、産み月にはまだ早いというのに葵の上が産気づきます。
しかし、お産はなかなかうまく進まず、加持祈祷を行っても葵の上の苦しみは増すばかり。(現代の感覚で言えばそりゃそうだろう)
その壮絶な様子に、取り憑いている物の怪はよほど執念深い存在だ、きっと御息所の亡き父に違いない、という噂まで。(当時は難産=物の怪の仕業という考えです)
何をどうしてかその噂を耳にした御息所は大変ショックを受けます。
御息所の父が物の怪になって現われるということは、それすなわち御息所が葵の上を恨んでいるということ……。まさか、自分が世間からそのような人間に思われているなんて。
けれど同時に、御息所は自分に自信がなくなっていきます。
夕顔の一件以来、ぼんやりすることの多くなった御息所……
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
憎しみは生き霊となって体を抜けだし、そしてはっきりと葵の上への憎しみを自覚するのです。
ついには葵の上に取り憑き、源氏に恨み言まで
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
幸い、葵の上はなんとか男の子(夕霧)を出産しますが、それから間もなく命を落とします。
もちろん、原因は御息所です。
『源氏物語』でははっきりと書かれてはいませんが『あさきゆめみし』では明確に御息所が取り殺したとしています
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
そして御息所も、ついにはハッキリと自分が生き霊を飛ばし、夕顔や葵の上を手にかけたことを自覚するのです。
葵の上の産屋で使われていた、魔除けのための護摩に焚く芥子の匂いが取れません
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
4、『あさきゆめみし』における六条の御息所④~ついに訪れる源氏との別れ~
御息所は源氏との文のやり取りで、自身の生き霊が葵の上を殺めてしまったことに、源氏が気づいていることを知ります。
こうなってはもう、源氏の側にーー都にはいられません。
ついに娘に付き添って伊勢に下向する決心をかため、嵯峨野の宮へ移動します。(斎宮は嵯峨野の宮で禊をしてから伊勢に行きます)
それから数ヶ月。
御息所の伊勢行きも近くなり、源氏は嵯峨野へと向かいます。(もうほっとけばいいのに)
妻に取り憑き殺した恨み言でも述べるのかと思いきや、いざ会ってしまえばやはり御息所は美しく、源氏は「最初からやり直したい」などとのたまう始末。
しかし、御息所はそんな源氏の未練を「何度やり直しても私たちは変わらない」と切り捨てます。
御息所にとって、源氏との恋はすでに終わったもの。
それに、もはやこれ以上自分自身の恐ろしい側面を源氏に見せるわけにはいきません。
身を切るようにしてなんとか思い切り、そして今、やっと解放されようというときなのです。
個人的に、この別れ方すっごく印象深くて好きです……!
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
源氏も御息所との別れはもはや避けられぬと悟り、ついに二人に別れが訪れるのです。
5、もっとも深く源氏を愛しもっとも長く物語に登場し続けた六条の御息所は【悲劇の悪】
こうしてようやっと別れた源氏と御息所ですが、数年後、一度だけ再会します。
そのころには御息所はすっかり病みついていて、今にも儚くなりそうな雰囲気に、源氏はあらためて彼女への愛を自覚。(またそのパターン……とあきれるところです)
歳を重ねた二人ならあるいは……と思わないでもないですが、でもきっとこの二人はうまくいかないでしょうね
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
二度も生き霊を飛ばされ、妻を殺されても、それでも御息所にはそう思わせるほどの魅力があるということです。
それは読者にとっても同じ。
扱いはとことんヒールですが、御息所は【根っからの悪】ではなく、あくまでも源氏の所業によって生まれた【悲劇の悪】。
源氏によって不幸に身を貶めるしかなかった、悲しい女性なのです。
『あさきゆめみし』では御息所の苦しみや悲しみがこれでもかというほどしっかり描かれ、【悲劇の悪】っぷりがより強調されていますね。
御息所は、本来であれば美しく才気があり、誇り高く、そして誰よりも愛情深い、このうえなく理想的な人。
そんな彼女が悪に身を染めていく様を、ある人は面白おかしく、ある人は優越感を覚えながら、ある人は自分を重ね、ある人は共感を、そしてある人は哀れみをもって物語を読み進めたでしょう。
数多いる女君のなかでもっとも長く物語に登場し、そして物語を動かし続けるキャラクターなだけに、いろいろな人がいろいろな思いで彼女を見守ったはずです。
ずばり、彼女の人気の理由はそこにあるとライターは考えます。
彼女の性格や起こした事件がエンタメ性に富んでいることはいうまでもありませんが、人気の秘密はそれだけではないはず。
彼女の見せる恋の苦しみは時代を問わず不変のものであり、現代人が見てもリアリティがあります。(さすがに生き霊は飛ばしませんが)
リアリティがあるからこそ、いろんな人がいろんな立場から彼女を親身に見ることができるのではないでしょうか。
「ああ、こんなこと・こんな人・こんな経験、現代でもある(いる)よねぇ」と。
すると、不思議と親近感も沸いてきますよね。
そこへ生き霊飛ばしという現実離れした技をやってのけるから、そのギャップもまた面白い。
くわえて、源氏に対して苛立ちを覚える女性読者にとってはちょっぴり溜飲も下がるというわけです。
御息所の死後は、なかなかそんなキャラは出てきません。
でも、安心してください。御息所、死後もしっかり怨霊となって現われます。それも二度も。
おどろおどろしくパワーアップしています
(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)
その姿は、源氏に泣かされた数多の女性の怨念の集合体。
まさかの『源氏被害者の会』の代表として現われるのです。こんなことできるの、御息所しかいませんよね!笑
あっぱれ、さすが御息所、としか言いようがありません。
とはいえ、紫式部はどんな思いで今さら御息所を登場させたのでしょうか……。
もしかして、当時から御息所の人気があまりに高く、読者の声に応えて……?なんて想像しちゃうライター自身も、もちろん御息所のファンの一人。
怨霊として現われ『あさきゆめみし』終盤でもその存在感を光らせる彼女に、あらためて愛着と、そしてほんの少しの哀しさを感じるライターなのでした。
(ayame)
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