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【『あさきゆめみし』キャラ解説】10回:頼れるヒーローであり諸悪の根源であり物語のエンタメ性を支える存在・桐壺帝

みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。

今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。

記念すべき第10回は、源氏の父親である桐壺帝です!

『源氏物語』(『あさきゆめみし』)は圧倒的に女性キャラクターのほうが多いのですが、実は男性陣も負けてない!

数少ない男性陣も、みんなひと癖ふた癖あるエンタメ性に富んだ魅力的なキャラクターばかり。

そんな男性キャラもしっかり取り上げていこうと思うと、まず外せないのが桐壺帝というわけです。

ではでは、さっそく桐壺帝がどんな人なのかを原作『源氏物語』から確認していきましょう~。

 

このコラムの初回0回はこちらです↓

【『あさきゆめみし』キャラ解説】0回:コラム連載にあたっての前説~本作の魅力とキャラ解説に至った理由

2022年2月9日

 

こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!

 

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1、『源氏物語』における桐壺帝

光源氏の父親である桐壺帝は、源氏の生みの母である桐壺の更衣をとりわけ寵愛したことから「桐壺帝」と言われています。

とても良い帝であったとされますが、桐壺の更衣にぞっこんだったときは周囲の人間が苦言を呈するほどだったそうで……。

統治者として優れていると同時に、「この人!」と決めたからにはとても情熱的な男性であったのだとわかります。

ただ、愛する桐壺は自分の偏愛のせいで他の女御・更衣から妬まれ心労を重ねついには亡くなってしまうわけですから、賢帝と称されるほどの人物であるならば、その辺はもう少しうまく立ち回ってほしいところ。

桐壺の忘れ形見である源氏に対しても、臣籍に降下させはしたものの愛情はひときわ深く、結果として源氏は第一皇子の生みの母である弘徽殿の女御やその一派である右大臣たちと対立することになります。

愛情深いのは桐壺帝の魅力でもありますが、偏愛嗜好がやや強いといった印象は拭えず、そこが彼の唯一の短所であると言えるでしょう。(もちろん、桐壺帝が他の皇子たちを愛さなかったわけではありません。どの皇子もきちんと愛したのですが、とにかく源氏だけは特別だったのです)

そんな桐壺帝、桐壺の更衣や弘徽殿の女御のほかに何人かの妻がいて、子供は皇子だけで10人。

その10人目の皇子こそ、源氏の初恋の人である藤壺が生んだ子なのですが……ご存知の通り、この皇子(後の冷泉帝)は源氏との不義密通の子。

作中、桐壺帝がその事実に気づいているかどうかは明らかにされていません。

しかし、変わらず源氏に深い愛情を見せ、第十皇子を愛おしむ桐壺帝に、藤壺と源氏は人知れず罪の意識に苦しみます。

そうして、桐壺帝は源氏が23歳の年に病で亡くなるのです。

2、『あさきゆめみし』での桐壺帝~頼れるヒーロー?それとも諸悪の根源?~

桐壺の更衣の解説でも述べたとおり、『あさきゆめみし』では原作『源氏物語』では描かれていない桐壺帝と更衣とのなれ初めがオリジナルストーリーとして描かれています。

【『あさきゆめみし』キャラ解説】1回:すべての始まりである悲劇のヒロイン・桐壺の更衣

2022年2月9日

当時、桐壺帝の後宮で権勢を振るっていたのは第一皇子の生母であり右大臣家の一の姫である弘徽殿の女御。

身分の低い更衣として入内した桐壺の更衣は、桐壺帝と会話はおろか、まともに顔を合わせたこともない状態です。

そんな二人が、ひょんなことから密かに出会い、恋に落ちーー。

出会いは偶然でした

(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)

当初、桐壺帝は自身の身分を明かすことはありませんでした。

それは、気性の怖い弘徽殿をはじめとした女性同士の争いから、後ろ盾もなく頼りない更衣を守るため。

ですが、世の中そんなうまくいきません。

いくら後宮(内裏)が帝の私的区域だといっても、常に人の目はありますからね。

桐壺帝が更衣に夢中であることはすぐさま弘徽殿にも知られ、更衣も謎の公達が主上であることを知り……。

そこで桐壺帝は堂々と「更衣はオレが守る!」宣言。

このとき更衣は妊娠中。桐壺帝の宣言は心強く思えますが……

(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)

しかし、それで更衣を取り巻く環境が変わるわけではありません。

後宮は女の園。ときに帝ですら手に負えなくなる場所です。

弘徽殿だけではなく、後宮中の女性の嫉妬の念を一身に受けた更衣はどんどん病んでいき、結果的に源氏を生んで数年後に死亡。

母のいない源氏は内裏にとどまることもできず、桐壺帝は泣く泣く源氏を手放すのです。

あらためて振り返ると、桐壺帝の取った手段はそもそも最初から悪手だったのではないか……と思わずにはいられません。

帝という身分でありながら正当な手順を踏まずに更衣に手を着けたことーーこれは完全に彼のミスです。

そもそも、后妃として帝の側近くに侍る女性はみな有力貴族の娘であり、后妃との関係性はそのまま表の政治にも影響します。

帝が惚れた腫れただけで行動するなんて言語道断。

それだけ更衣に魅力があり、桐壺帝が情熱的な男であり、激しく燃えるような恋だったのでしょう……。

しかし、結果的に彼は弘徽殿をはじめとする後宮に侍るすべての女性を裏切ったのと同じことをしてしまい、さらにはその後長く続く政治的混乱の引き金を引いてしまったのです。

気の強い弘徽殿は桐壺帝に対してもズバズバ。それに対して桐壺帝はこの発言……もう少しうまく立ち回れていれば……。

(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)

桐壺の更衣にとっては頼れるヒーローですが、弘徽殿から見れば自分を裏切った憎い男であり、物語全体を見れば諸悪の根源といってもいいかもしれませんね。

3、果たして桐壺帝は真実を知っていたのか?~罪悪感が人を追い詰め世俗を捨てさせるまでに~

前述の通り、『源氏物語』では藤壺と源氏の密通について、桐壺帝が気づいていたかどうかは明らかにされていません。

それは『あさきゆめみし』でも同じなのですが、『源氏物語』にはないオリジナル要素として、桐壺帝は死ぬ間際に源氏への後悔の念と藤壺に対する謝罪を口にするシーンがあります。

言いたいことだけ言って、愛する人が待っている場所へと旅立つ桐壺帝(この頃には譲位して院となっています)

(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)

まるで源氏と藤壺が愛し合っていたことを知っていたかのようにも見えますよね。

でも、これまでの桐壺帝の源氏への寵愛や東宮(藤壺と源氏の子)への愛情深さ、藤壺に対する優しさなどを見るに、やはり彼は真実に気づかぬままだったのではないか、とライターは考えています。

なんせ桐壺帝、死後に霊体となってまで源氏のために奮闘するんですよ。

藤壺への謝罪も、単に亡き桐壺の更衣の身代わりとしたこと(正直、身代わりにされた側にしたらたまったもんじゃないですからね)、それゆえにまだ年若い藤壺を内裏に縛り付けたことに対するものだったのではないでしょうか。

でも、桐壺帝に対して深い罪悪感を抱える藤壺には、とてもそうは思えなかったのでしょう。

桐壺帝を亡くしたこと以上にショックを受ける藤壺

(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)

もし桐壺帝がすべてを知ったまま亡くなったのだとしたら……考えただけで、藤壺じゃなくても胸が痛みます。

くわえて藤壺は、桐壺帝に知られていたのだとしたら世間に知られてしまうのも時間の問題かもしれない……そんな疑念に囚われたのでしょう。

桐壺帝の死後しばらくして、彼女は息子である東宮と源氏を守るために出家を決断。(なんで出家が二人を守ることになるのかというと、桐壺帝が亡くなったことで抑制の効かなくなった源氏を拒みきれる自信がなく、さらには秘密の仲が噂になって東宮の地位が危ぶまれることを恐れたためです)

東宮は中宮という尊い地位にいた母を失ってしまったわけですから、出家が正しい判断だったのかどうかはわかりかねますが、桐壺帝が思わぬ形で藤壺を追い詰めてしまったのは確かです。

4、桐壺帝はすべてを許し愛する深い心をもった人だったのかもしれない

優れた帝といわれる桐壺帝ですが、ここまではライターの個人的な考えから桐壺帝に対してちょっと辛口でした。

でも、もし桐壺帝が藤壺と源氏の裏切りを知っていたのだとしたら?

すべてを知った上で、それを許し、むしろ謝罪し、変わらず深い愛で藤壺と源氏を包み込んでいたのだとしたら?

これほど深い愛情と器をもった人はなかなかいないでしょう。

こちらは藤壺出産後のワンシーン。このときすでにすべてを知り、許していたのだとしたら……?

(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)

賢帝として作中で賞賛されるのも納得です。(ライター個人的には気づいていなかった説を推しますが)

ただ、やっぱりもう少し弘徽殿一派に対する気遣いがほしかったなぁーと思ってしまったり。(またまた辛口ですみません)

真の賢帝であれば、自身が退いた後(死後)に世の中が乱れないように万全を期するものではないでしょうか。

もちろん、それがとーーーっても難しいことは十分わかっています。どの国、どの時代でも、優れた王のあとは世が乱れるものですからね。

桐壺帝も、できるかぎり精一杯やっていたとは思います。

でも、彼がせめてあとほんのちょっぴりでも弘徽殿に気持ちと意識を向けていたら、彼の死後の政治的混乱や藤壺の出家などは防げたのかもなぁと。

ただ、そうなると『源氏物語』の面白さが8割減くらいになっちゃうし、なによりその後の展開が大きく変わって『源氏物語』じゃなくなっちゃいますからね。

つまり、桐壺帝の盲目なまでの愛情深さこそが、諸悪の根源でもあり『源氏物語』のエンタメ性の根幹を支えていたといえます。

そう考えると、賢帝かと問われるとやや疑問は残るものの、やはり桐壺帝は偉大なキャラクターであったといわざるを得ませんね。

 

(ayame)

 

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ABOUTこの記事をかいた人

元研究職、現在は飼い猫を溺愛する主婦兼フリーライター。小さいころから漫画が好きで、実験の合間にも漫画を読むほど。 ジャンルを問わずなんでも読むけど、時代もの・歴史ものがとくに大好物。 篠原千絵先生大好きです!好きなタイプは『はじめの一歩』のヴォルグさんと『はいからさんが通る』の編集長。