みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。
今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。
第27回目は、源氏を予想外の裏切りにあわせる青年、柏木です!
柏木は源氏の息子・夕霧の親友。
頭の中将の息子でもあるため、両父子は親子2代で友情を育んているわけです。
将来有望な柏木を源氏もずいぶん目にかけたのですが、源氏と柏木の関係は思わぬ方向に……。
詳しく解説します!
このコラムの初回0回はこちらです↓
こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!
また、55周年記念の新装版も発売しています。
目次
1、『源氏物語』における柏木
柏木は頭の中将(このころには太政大臣)の長男。
母親は元右大臣の四の君で(あの弘徽殿の女御の妹です)、由緒正しいお坊ちゃんです。
親譲りの美貌と才能をもち、とくに蹴鞠と和琴、笛にかけてはちょっとしたもので、宴などの折には重宝された人材でした。
また、源氏の息子である夕霧とは立場と歳が近い従兄弟であり、親友同士。
源氏の四十の御賀に際して、舞を披露した夕霧と柏木。
源氏と頭の中将の青海波を思い出しますね。
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
若かりし日の源氏と頭の中将よろしく、二人は友情を育みます。
そんな二人も年頃になり、夕霧は初恋の女性である雲居の雁と結婚。
柏木はというと、貴族男子にとってこの上ない栄誉である内親王(女三の宮)の降嫁を強く望みます。
けれど、この時の柏木の位は従四位下の衛門の督(衛門府の長官)。
血筋はいいけれど、内親王と結婚するには位がまだ低すぎる……とのことで、女三の宮は準太上天皇にのぼりつめた源氏と結婚しました。
その後もどうにも諦めがつかない柏木は、偶然にも女三の宮を垣間見したことで、より彼女への思いを強くします。
内親王という身分を考えると、本来あり得ない状況です
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
中納言に昇進して女三の宮の姉である女二の宮と結婚し、『内親王と結婚する』という念願を果たしてもその思いは消えません。
何年も密かに思い続け、ついには親しい女房の手引きで女三の宮のもとへ忍び入ることに成功。
思いを遂げ幸せの絶頂を味わいますが、同時に時の人である源氏に露見したら……という恐怖に震えます。
そして、その恐怖は現実のものに。
女三の宮は柏木との不義の子を妊娠し、それをきっかけに源氏にすべてがバレてしまうのです。
柏木は強い罪悪感と恐怖心によってすっかり病みつき、参内もままならなくなってしまいます。
そんな折、源氏の邸である六条院で朱雀院の五十の御賀の試楽(リハ)が行われることになりました。
こういった華やかな場に仕切り役として欠かせないのが柏木。
源氏の招きに重い体を引きずりながらなんとか応じた柏木ですが、試楽の後の宴にて、源氏から言外のプレッシャー(皮肉)をかけられ、慌てて退出。
そのまま病状は重くなり、女三の宮が無事に出産した後、夕霧に妻である女二の宮(落葉の宮)のことを頼みながら命を落とすのでした。
2、『あさきゆめみし』における柏木~生々しい描写でます悲愴感~
『あさきゆめみし』で描かれる柏木は、父である頭の中将によく似た容姿をしており、真面目一筋で頑固な夕霧に対し、華やかで人好きのする人物という印象を受けます。
そこに内親王との結婚を強く望む権勢志向も加わり、計算高く世渡り上手な臭いがプンプンしますね。
若さゆえか、強い自信をにじませています
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
ですが、そんな柏木のキャラクターも、女三の宮に恋してから一変。
知り合いの女房(女三の宮の乳姉妹)に縋り付いて仲立ちを頼むほど、女三の宮への恋に溺れていきます。
ちなみに、この小侍従とももちろん関係をもっている柏木です(えぇー)
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
そもそも身分違い、しかも朝廷を牛耳る源氏の正妻に懸想するなど、柏木にとってなんのプラスにもなりません。
わかっていても柏木は自身の恋心を止めることができず、だめだと思えば思うほどその想いは強くなります。(ロミオとジュリエット効果(カリギュラ効果))
彼の想いが加速度的に増していく過程は実に生々しく、柏木が熱い情熱をもった男であることが伝わりますね。
この時代、高貴な女性は顔が見えないのはもちろん声すら聞けませんから、やはり『生』の威力はすごいのでしょうね。
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
また、源氏への恐怖と罪悪感に苦しむ姿や、一向に情を向けてくれない女三の宮への恨みとその表裏にある恋しさの描写も克明。
源氏の沈黙こそが、柏木にとってこの上ない罰になりました
(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)
病みついて確実に死に向かっていく柏木の姿に、いっそうの悲愴感を添えています。
同時に柏木の繊細さも浮き彫りになっているわけですが、続いてはそんな柏木のデリケートな部分をさらに掘り下げてみましょう!
3、不義を押し通すにはあまりに繊細すぎた!一連の事件からわかる柏木の魅力
柏木の魅力を一言で表すなら、情緒豊かで人間味にあふれるところ。
言い換えるなら、繊細さです。
柏木は女三の宮への恋慕と不義密通を通して、実にさまざまな感情を見せてくれます。
そのどれもが生々しく、歪であるからこそ人間味にあふれ、読者の目をとらえて離しません。
まず、もともと強い権勢志向があり、そこには名門貴族の家に生まれた嫡男としての自尊心がうかがえます。
だからこそ、女三の宮の婿探しの折には「我こそは」と手を上げたわけですが、それが失敗に終わり、ひどくプライドが傷つけられました。
そのプライドを補うためか、「自分だって候補者のひとりだったんだ」「自分だったらもっと宮を幸せにできた」という自負心は消えず、それは源氏への「紫の上という正妻格の人がいるくせに」という批判心と「お飾りの正妻なんてかわいそう」という女三の宮への同情心と重なり、柏木の心の中に女三の宮への想いを強く残すことになります。
はたから見ても余計なお世話ですね
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
もちろん、分不相応だということもわかっていますが、それすら恋心をさらに大きくさせるスパイスにすぎません。
結果、女三の宮の美しい姿を直接見てしまったことで、想いが大爆発してしまったわけですね。
思わず震える柏木
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
この垣間見のシーンの面白いところは、その場にいた夕霧は女三の宮の軽率なふるまいに若干引いているのに対し(=冷静さを失っていない)、柏木は「これは私をあわれに思った神様の思し召し!」と喜び、完全に冷静さを欠いていること。
いかに、柏木が女三の宮への恋に盲目的にのめり込んでいるかがわかります。
その後数年かけて想いはさらに強まり、ついには女三の宮と直接対面。
おそらくその瞬間まで、たとえ直接会ったとしても、柏木は大それたことなどする気はなかったでしょう。
相手は内親王であり、源氏の妻ですから。
目を覚ましたら知らない人がいるのだから、女三の宮はどれほど怖かったことか……
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
けれど、長年思い続けた美しい人が目の前にいて、逃げるでもなく小さく震えており、しかも場所は褥……。
我慢できるはずもなく……、というわけで不義が成立してしまったのでした。(しかし、『源氏物語』の男子の常套句ですよね、「けして無理なことをするつもりはない」(結局する)っていうのは……)
一度通じ合ってしまえば、いけないとわかっていても最早どうにもできず、二人の関係はその後も続きます。(当時、源氏は病に倒れた紫の上の看病で二条の邸から戻ってこないし、肝心の女三の宮も強く拒否しないし)
愛しい人と交わるこの上ない幸福感と、何かと自分を引き立ててくれた源氏を裏切ってしまった強い罪の意識と露見への恐怖の間で、柏木は少しずつ不安定になっていきます。
また、源氏が六条院に戻ったときには「院(源氏)の顔を見れば、三の宮もきっと院に心を移すに違いない……!」と大いに焦り、源氏への批判心を持ちながらも結局『源氏にはかなわない』という思いを持っていることがわかります。(そもそも女三の宮はお前に心を移したわけではないぞ、という突っ込みはここでは置いておきましょう)
そして、ついには露見。
アルハラだー!
(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)
あまりにも複雑で歪、危うい精神状態だった柏木は、試楽の後の宴会での一件で、自尊心や自負心はもちろん、源氏への批判心などもすべてそぎ落とされてしまうのです。
これにより完全に精神のバランスを失った柏木は、今でいううつ状態になり、強く死を意識し始めました。
根が真面目な柏木は、病床の中でも源氏への罪悪感と女三の宮への消えない恋心、さらには親に先立つ不孝と、よき夫になれなかったという二の宮への申し訳なさなどで、さらに自身を追い詰めます。
これらが強いストレスとなって、いっそう柏木の病状は重くなるというわけです。
そんな柏木に追い打ちをかけるのが女三の宮。
柏木は病に苦しみながら「せめて彼女だけでも私を覚えていてくれたら……」と思い、【もう今にも死にそう、私を葬る煙は恋心となってあなたのそばにくすぶります(意訳)】というような歌を贈るのですが、それに対する女三の宮の返歌が、【こっちこそ死にそうなんだけど。勝手に死ねば。私こそ死ぬし(超意訳)】というもの。
これを受けますます病を重くした柏木にとどめを刺すのが、女三の宮の出家の知らせ。
「あの人は私も生まれたばかりの子も見捨てたのだ」と知り、ついには回復の見込みなしとなってしまうのです。
最後の最後まで、源氏への罪悪感に苦しみぬく柏木
(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)
少し長くなってしまいましたが、一連の事件のなかでの柏木の意識の変化は上記のとおりになっています。
創作キャラクターの、しかもメインどころではないキャラにしては、複雑かつ高度な人間味を形成していますよね。
これこそが、柏木の最大の魅力といえるでしょう。
また、柏木は源氏にとって、自身の過去の過ちを思い出させるきっかけにもなる人物です。
柏木の気持ちがわからないでもない源氏です
(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)
自身が不義をしたから同じことをされた……と悲観するわけではありませんが、柏木の行いに己の罪を重ね、自身も藤壺との密通後はしばらく参内できなかったこと、父帝への罪悪感と露見の恐怖に震えたことなども思い出させます。
ただ、源氏と柏木の違いは、源氏は罪の意識と恐怖を、冷泉帝と藤壺に対する絶えない愛情により乗り切ったこと。
さらには、当時まだ幼かった紫の上の存在や、桐壺帝の自分への愛情に確かな自信があったことも付け加えておきます。
こう考えると、源氏が図太すぎたわけではありませんが、柏木は不義を通すには繊細すぎたのだと言えるでしょう。
また、その繊細さ――柏木の人間味――こそがこの不義密通を引き起こしてしまったのだと思うと、なんとも言えない気持ちになりますね。
ちなみに、ライター個人としては柏木の具体的な死因も気になるところ。
いくら源氏のことが怖いからといって、不義がバレたくらいで死ぬか?と疑問を感じた人も多いはず。
注:以下は、専門的な医療知識をもたない、いち『あさきゆめみし』ファンの推察です。また、あくまでもお遊びレベル・二次創作レベルの考察を含みますので、苦手な方は飛ばしてください。
柏木は宴の席で源氏に強く睨まれたことをきっかけに死の床へと向かうわけですが、実際のところ遅発性の精神的ショック死というものは存在しないそうです。(恐怖などによってその場で命を落とすショック死などは実際あるそうですが)
そこで、ライターは柏木の死因を持病の心臓疾患の悪化であると考えます。
事が露見したあとの柏木は、食事も睡眠もまともに取れず昼も夜も褥にこもりっぱなしで、明らかなうつ状態。
その状態での宴での一件は、柏木に精神的なダメージを与えました。
これにより、アドレナリンなどのストレスホルモンが急激に増加し、血圧と脈拍を上昇させ、心臓に強い負担をかけたことは想像に難くありません。
普通であればこれだけのことで命を落とすには至らないはずなので(ちょっと息苦しくなって救心が欲しくなる程度?)、柏木は生まれながらに心臓にちょっとした疾患があったと考えました。
舞台は平安時代……貴族社会は思いのほか狭く、従兄妹同士や叔父と姪での結婚なども多く、意外なところで血縁関係があったりします。
柏木は頭の中将と右大臣の四の君の間に生まれましたが、実は物語に描かれない部分で近親婚だった説も否定できません。(というか、平安貴族の上層部はみんなうっすら親戚といっても過言ではないのでは……?)
それにより、柏木に心臓疾患が発現したとしても不自然ではなく、柏木の死の理由にも説明がつきますね。(こじ付け感は強いですが……汗)
4、猫によって始まり猫によって破滅した恋
最後に注目したいのは、柏木のエピソードで印象的な【猫】について。
平安時代、猫は愛玩ペットとしてそう珍しいものではありませんでした。
『源氏物語』では、女三の宮とその兄である春宮が猫愛好家として知られています。
しかし、【猫】は柏木にとってこの上ない喜びと恋破滅をもたらした存在でした。
そもそも、柏木が女三の宮を垣間見したのは、彼女の飼う猫が御簾をまくり上げてしまったから。
この猫こそが、柏木に消えない恋の炎を灯したわけですね。
柏木はその場で猫を抱き上げ、「宮の残り香……?!」とくんかくんかと匂いを堪能します。(いわゆる猫吸いか?!)
もともと猫好きでもなんでもなかったのに、春宮にうまいこと言って(柏「女三の宮様のところに可愛い猫がいましたよ」春「いいなぁ、譲ってもらうわ!」柏「まだ人見知りしてるみたいだから私が預かりますね」という、はたから見れば滅茶苦茶なやり方)件の猫を入手し、艶めかしい歌まで詠みかける始末。
一種のフェティシズム……?
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
この時点で、柏木は完全に宮と猫を重ねて見ています。
この行動は、宮への苦しい片思いを猫に逸らすことでその罪悪感をいったん薄れさせ、さらに恋心を募らせるのに一役買ったといえるでしょう。
そして、初めて宮と通じたその時、柏木は猫を宮へと返す夢を見ます。
しかしこの猫ちゃんかわいいな
(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)
猫の夢は懐妊を暗示するもの。(これ、現代でも夢占いでいわれてますね)
夢の通り、女三の宮は妊娠し、この恋は破滅へと進み始めるのです。
【猫】というキャラクターの意思から完全に独立した第三者は、この恋を『コントロールできないもの』としている存在ともいえるでしょう。
ままならない恋に身を落とし、やがては命まで落とした柏木の悲愴な人生が、より鮮明になりますね。
余談ですが、源氏も空蝉に恋した時、「せめて君だけでもそばにいておくれ」と言って空蝉の弟の小君をそばにおいて可愛がりました。
本人の代わりにゆかりのものや人を愛玩することは、今よりももっと一般的で、さらには意味が深いものだったのかもしれませんね。
恋する人の代わりに猫を愛玩するなんて、ちょっぴり変態チック?!と思わないでもないですが、そんなに珍しいものではないということで、柏木のことも多めに見てあげましょう。笑
(ayame)
『あさきゆめみし』を読むなら……(今なら無料もあり)
『あさきゆめみし』を全巻読むならこちらから!期間限定無料あり!
電子書籍の購入はこちらからも可能です!
コメントを残す