みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。
今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。
第16回は、不思議な縁と魅力で源氏を惹きつけた明石の君です!
明石という田舎育ちでありながら、源氏の一の人である紫の上に次ぐ地位を得た彼女。
源氏からの愛情も格別深く、特別な縁によって娘ももうけています。
はたして、彼女の何が源氏をそこまで惹きつけたのか?
詳しく解説&考察します!
このコラムの初回0回はこちらです↓
こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!
また、55周年記念の新装版も発売しています。
目次
1、『源氏物語』における明石の君
明石の君はその名の通り、源氏が明石で出会って恋人にした女性です。
当時、源氏は勘勅をこうむって謹慎している身。……なのに、ちゃっかり恋人を作っちゃうなんて、紫の上じゃなくてもビックリですよね。
普通なら自身の立場をわきまえてそういったことは避けるものであり、実際のところ明石の君に出会うまで艶めいたことはなかったようです。(単純にお眼鏡にかなう女性がいなかっただけとも言える)
そんな謹慎中の源氏が思わず手を付けてしまうほどの女性が、明石の君。
いったいどんな女性なのかというと……。
父親は明石の入道といい、周辺では有名な物持の僧侶です。
この明石の入道、もとは上流貴族で三位の中将(近衛の中将)まで務めた人ですが、その地位をすっぱり捨てて播磨の受領になり、その後出家して無位無官になった変わり者。(ちなみに、源氏の母である桐壺の更衣とは従兄妹同士。都は狭い……)
母親である明石の尼君も宮家の血を引いており、明石の君は身分も強力な後ろ盾もないただの田舎娘ですが、実のところ血筋はとても立派なのです。
そんな彼女に、入道は都の姫君に負けず劣らずの厳しい教育を授けました。
一流の教育を受けた美しい姫君です
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
というのも、入道はその昔、住吉の神より「(入道の家に)将来帝と后が生まれる」というお告げを受けたから。
「自分の娘が国母(天皇の生母)になる」と信じた入道の努力により、明石の君は優れた才覚と気品、そして美貌を兼ね備えた姫君へと成長しました。(余談ですが、入道は娘に対し「望む縁が得られなければ海に入って死ね」と言って育てました……ど、毒親―!)
性格は真面目かつ控えめで、自分の出自の低さを恥じ入ると同時に実はこっそり自尊心も高いタイプ。
品格や気位の高さは源氏の過去の恋人である六条の御息所に似たところがあり、そんな彼女の魅力に源氏もイチコロ。
「蔑まれるくらいなら死んだ方がマシ」と、自尊心の高さが垣間見えるシーン
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
結果、源氏が帰京してまもなく明石の君は姫君を出産しました。
やがて娘とともに上洛した明石の君は源氏の妻として不動の座を手に入れ、娘である明石の姫君は長じて後に入内し、やがて国母となるのです。
外戚政治に乗り出した源氏にとって、その第一歩となった姫君の生母である明石の君はかけがえのない存在というわけですね。
2、『あさきゆめみし』における明石の君~真面目なのはいいけど面倒くさい~
身分のない田舎暮らしの姫がひょんなことから源氏に見初められ、あれよあれよという間に皇后の母にーー。
なんて聞くと、シンデレラも裸足で逃げ出すような平安版ビックリサクセスストーリーのように思えますが、実際はそんなに甘いものではないのです。
どれだけ気品があろうと、源氏から深く愛されようと、生まれついた身分は変えられません。
くわえて、源氏には紫の上という最愛の女性がいることも十分理解しています。
控えめながら密かに自尊心の高い明石の君は、
- 自分のような身分の低いものが今をときめく源氏の側にいるのは憚られる
- まして正妻である紫の上に疎まれたら辛い
- かといって幼い姫君の将来を考えると明石に引っ込んでいるわけにもいかない
- それにしても生まれ故郷から離れるのは心細い(当時の人にとって長距離移動は過酷なもの(とくに女性にとっては))
等々、大いに悩まされます。
正妻である紫の上に子供がいないことも、上洛を尻込みしてしまう理由のひとつかもしれません
(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)
それもこれも、彼女の生真面目で優しい性格、そしてけして捨てられない矜持によるもの。
これらが彼女を苦しめる様が、『あさきゆめみし』にはたっぷりと描かれています。
そして、勇気を出して姫君とともに上洛したはいいものの、今度は「姫君の入内に母親の身分の低さが障りになる」と言われ、姫君と離ればなれに。
姫君は紫の上の養女となり、以降はけして出しゃばることなく、姫君が成長し入内するまで対面することすらありませんでした。
これがどれほど彼女にとって辛いことだったか、『あさきゆめみし』のこのエピソードは涙なしには読めません。
ちい姫との別れのシーン。このあとのちい姫が号泣するシーンもこれまた……。つくづく、源氏は残酷なことをしたものです
(文庫版『あさきゆめみし』3巻 大和和紀/講談社 より引用)
幼い姫君を手放した以上、もはやよすがとなるのは源氏の愛のみですが……。
源氏がひとりの女性のものになるはずもなく、むなしい日々を送ることに。
そうはいっても、源氏の明石の君への寵愛は格別に深く、紫の上にとって彼女の存在は長い間大きな脅威でした。
その事実もまた、明石の君を不安にさせるんですよね。
源氏の愛は欲しい、でも紫の上にどう思われているのか気になる、と。
愛する娘はいまや紫の上の養女ですから、もし紫の上が明石の君への嫉妬から娘に辛く当たったら……?なんてことも気になったはずです。(実際のところ子供好きの紫の上は姫君を溺愛しているので、そんな心配は杞憂なのですが)
そんなわけで、源氏との出会いからなにかと思い悩んでばかりの明石の君。
読者からすると「この人、悩むことが趣味なんじゃないの?」なんて思ってしまうほどです。
彼女の複雑な立場も理解はできますが、もう少し柔軟な性格をしていて、ほんの少しでも自分本位であれば、同じ立場でもここまで悩むことなどなかったはず。
真面目なのはいいけれど、ちょっと性格が複雑すぎて面倒くさい……。
源氏からするとそれも魅力なのかもしれませんが、もう少し自信を持って、伸び伸び生きて欲しいと思わずにはいられません。
同時に、平安時代において『身分』というものがどれほど重要なのか、あらためて思い知らされる次第です。
3、ある意味”チート”?源氏が明石の君に強く惹かれた原因を考察
そもそも明石の君はどうしてそんなにも源氏を強く惹きつけたのでしょうか?
美貌の姫はほかにもいるし、気品のある女性も、優れた才のある女性も、源氏はたくさん知っています。(代表が紫の上)
明石の君には、ほかにもっと源氏を強く惹きつける要素があるのです。
それは紫式部が組み込んだ、緻密な設定によるもの。
まず、出会いの切っ掛けに注目。
源氏は都から離れた土地で謹慎中であり、単純に女日照りです。
都暮らしから一転田舎暮らしになり、洗練された女性なんて周囲になかなかいません。
それもあって、根っから都人の源氏は強烈なホーム(都)シック中です。
そんななか、風流な暮らしをする都人の雰囲気残る明石の入道に親切にされた源氏は、明石の君よりもまず先に入道にコロッといったといえるでしょう。
その入道が熱心にすすめる娘・明石の君。
入道のあからさまなゴリ押し
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
「謹慎中の身だけど、まぁちょっとくらいならいっか~」なんていう軽い気持ちで文を出したら、応えはまさかのNO。
田舎娘にすげなくされたことで、プライドが傷ついた源氏はかえって燃え上がってしまったわけですね。
意図せず、源氏に恋の駆け引きの楽しさを思い出させてしまった明石の君
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
とはいえ、これだけであれば、あくまでも『明石のいる間だけの期間限定の恋人』どまりだったはず。
源氏が明石の君を放っておけなくなったのは、彼女が妊娠したからです。
子はかすがい……といいたいところですが、実際はちょっと違います。
源氏の頭にあったのは、かつて占いで「子供は3人、ひとりは帝、ひとりは中宮、真ん中の劣った者も位人臣を極める」と言われたこと。
明石の君の産む姫が皇后になるのであれば、そのまま放置しておくわけにはいきません。
そもそも源氏が明石に流れ着いたのも、住吉の神や亡き父・桐壺帝(霊)の導きによるもの。
人為を越えた不思議なパワーによって、源氏と明石の君は外堀からめちゃくちゃに固められてるのです。
冷静に考えればちょっと不自然なくらい強引なこの流れ、もはやチート級ですよね。
ストーリーの展開的に仕方ないと言ってしまえばそれまでですが、明石の君は設定に強固に後押しされたチート美女、といってもいいでしょう。
4、終盤に訪れるカタルシス!これが味わえるのは明石の君だけ
最愛の娘と離ればなれになり、愛した男性も独占できず、悩み続ける明石の君。
けれど、そんな彼女の不幸も娘の入内とともに終わります。
紫の上の心遣いにより、明石の君は入内後の姫のお世話係を任されたのです。
源氏と離れて最愛の娘の側近くでの生活ーー明石の君にとって、これまでの思い煩いのすべてが解消される幸せな時間の始まりです。
おまけに、母である明石の尼君の不意打ちのぶっちゃけによって、自分が生みの母であることも姫の知るところに。
成長したちい姫と明石の君、そして尼君の3人が歌を詠み合うシーン。本当の意味での母娘の初対面です
(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)
以降は母娘2人、空白の時間を取り戻すように濃密な時間を過ごしたことでしょう。
明石の君のこれまでの苦しみが実を結ぶこの瞬間、まさにカタルシス!
読んでいてほっこりすると同時に、心がスッとします。
読者にこんな思いをさせてくれるのは、作中で明石の君だけではないでしょうか?
そんな明石の君には『あさきゆめみし』において、重大な役割があります。
それは『あさきゆめみし』第1部のラストシーン。
彼女の言動によって、読者は「源氏に何が起こったのか」を知ることになります。
明石の君がいなければ、この物語は終わりません。
そして、その役目は源氏の愛から解き放たれた明石の君でなければなし得ませんでした。
源氏に大きな転機を与え、物語を展開させ、そして見事な幕引きまでしてくれた明石の君。
『源氏物語』においても『あさきゆめみし』においても、あまりにも大きな存在、それが明石の君なのです。
(ayame)
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