みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。
今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。
第18回は、朱雀帝生母で源氏の最大の敵でもある弘徽殿の女御です!
源氏の母・桐壺の更衣をいじめ抜き、源氏と朧月夜の密通がバレた際には大袈裟に騒ぎ立て、源氏を須磨へと隠遁させた彼女。
どこに出しても恥ずかしくない【ザ・ヒール】ですが、今回はあえて弘徽殿の女御側に立って考察&解説してみようと思います!
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目次
1、『源氏物語』における弘徽殿の女御
弘徽殿の女御は、源氏の父である桐壺帝が東宮の時に入内した后妃。
右大臣の長女で、第一皇子(後の朱雀帝)の生母です。
桐壺帝の最初の妃であるとともに右大臣の後ろ盾もあって、後宮で絶大な権勢を誇りました。
それは住まいが弘徽殿であることからもわかります。
(弘徽殿……帝の日常の住まいである清涼殿のすぐ北側に位置する、もっとも格の高い殿舎)
しかし、自分より後に入内した桐壺の更衣(源氏の母)に帝の寵愛を奪われたことで、彼女は更衣と源氏を激しく憎むようになります。
更衣亡きあともその感情は消えず、むしろ桐壺帝が源氏を深く愛したことで源氏への憎しみは増すばかり。
また、後に入内した藤壺の女御に対しても、
- 憎き桐壺の更衣に瓜二つであり帝に深く愛されたこと
- 源氏が大変懐いたこと
- 自分を差し置いて中宮に立后したこと
などの理由から憎しみを向けます。
桐壺帝の薨去後は息子である朱雀帝が即位し、彼女自身は皇太后として権勢を振るいますが、女御として入内させようとしていた妹の六の君(朧月夜)が源氏と密通。
「これは朱雀帝への謀反!」と主張し、憎き源氏を都から須磨へと追い出すことに成功します。
ここぞとばかりに源氏を追い詰める弘徽殿
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
しかし、その後天災が続き、自身のみならず父の右大臣、そして朱雀帝も病に倒れるという不幸に見舞われることに。
朱雀帝は「これは亡き桐壺帝の呪い。源氏を都に戻すべし」という重臣たちの声に逆らえず、源氏を京の都に呼び戻します。
弘徽殿自身も朱雀帝を止めることはできず、その後は徐々にストーリーからフェードアウトしていくのです。
2、『あさきゆめみし』における弘徽殿の女御~典型的なザ・ヒールかと思いきや!?~
『あさきゆめみし』では『源氏物語』のストーリー展開を補足するため、ところどころにオリジナルストーリーが散りばめられています。
冒頭の桐壺の更衣入内のエピソードや、桐壺帝との馴れ初めはその代表。
桐壺の更衣がどのように桐壺帝に愛され、後宮でどのようにして過ごしたかが描かれており、当然そこには弘徽殿の女御の姿も。
若かりし日の弘徽殿の女御。自信に満ち溢れた勝気美人って感じですね!
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
桐壺帝と更衣の愛の物語は、弘徽殿の女御に視点を置けば裏切りの物語と言っても過言ではありません。
東宮時代からともに過ごし、第一皇子や皇女を生み、内裏の華として君臨していた弘徽殿の女御。
右大臣の強力な後ろ盾もあり誰よりも大切に扱われていた后妃だったのに、ぽっと出の更衣に帝の愛を奪われてしまったのです。
もともと気性の強い弘徽殿は、いろいろな方法で桐壺の更衣をいじめます。
例えば、更衣が通る渡殿(通路)に汚物を撒いたり、格下の更衣を香合の会に呼び出して恥をかかそうとしたり、怪しげな薬を飲ませようとしたり。
ちなみに、『源氏物語』ではハッキリ「汚物」とは書かれていません。
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
『源氏物語』でも書かれていて有名なのは、馬道(めどう:殿舎と殿舎を繋ぐための通路。渡り廊下みたいなものと思ってください)にカギをかけて閉じ込めるエピソード。
言ってしまえばただの締め出しなのですが、建物の外に締め出されるなんて、当時のお姫様にとってこれはとーーっても辛いことです。
でも、ちょっと弘徽殿の女御の視点になってみましょう。
事件は桐壺の更衣が桐壺から帝の住まう清涼殿へと移動していたときに起こっています。
ここで、内裏の画像をご覧ください。
桐壺は清涼殿から最も離れた北東の位置にあります
当時の建物のつくりから、殿舎から殿舎へと移動するときはよそ様の殿舎の馬道なり簀子なりを通っていくことになります。
マンションの共有の廊下がなく、かわりにベランダが共有部になっていると想像するとわかりやすいでしょう。
つまり、誰かが殿舎から殿舎へと渡っていくと、住人達には「あ、今あの人が通って行った、どこどこに行く気だわ」とまるわかりなんです。
そこであらためて内裏の構造を見てみるとーー桐壺から清涼殿に移動しようと思うと、どうあっても弘徽殿を避けられないんですよね。
桐壺帝は朝に夕に桐壺の更衣を召し、そのたび更衣は弘徽殿を通って清涼殿へと向かいます。
また、帝も頻繁に桐壺へと渡っていきます。
弘徽殿の女御は、更衣や帝が互いに往き来するのを毎回毎回目にするわけです。
こう言っては何ですが……そんな状況じゃ、ちょっとした意地悪くらい仕方ないのでは……!?(弘徽殿の女御がしたことが「ちょっとした」かどうかはさておき)
まして、彼女は桐壺帝から面と向かって「もう愛してない」とまで言われしまっているのです。
そんなことあえて言う必要ある……?
(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)
帝の寵を競う場である内裏において、他ならぬ帝からレッドカード出されちゃったわけですね……。
ただし、レッドカードを出されたからといって、弘徽殿の女御が内裏から退場できるわけではありません。
なんせ彼女は第一皇子の生みの親。
その肩には右大臣家とそれに連なる人々の命運のすべてがかかっています。
権門の家に生まれた女性の定めですが、弘徽殿の女御にはもはや内裏以外に生きる場所はないのです。
帝の寵によって輝く内裏において、その寵を奪われ、そのうえでトップでいつづけなければならない……。
それはとてつもないプレッシャーと苦痛でしょう。
弘徽殿の桐壺や源氏に対する仕打ちは嫉妬からくるものですが、「ただの嫉妬」と片付けるにはあまりにも重く、同情の余地すらあります。
典型的なヒールでありながら、その背景には生まれ持った使命に苦しみもがく女性の生きざまが見て取れるわけです。
3、源氏を恨みたくもなるのも当然?弘徽殿の女御が味わった辛酸あれこれ
ここであらためて、弘徽殿が味わった辛酸をひとつひとつ見ていきましょう。
まず一つ目は、帝の寵愛を格下の更衣に奪われたこと。
一度は後宮の主としてこのうえなく大切にされた弘徽殿の女御でしたが、桐壺の更衣入内後は桐壺帝の愛情もすっかり醒め、女性として寂しい日々を送ることになります。
二つ目は、息子である東宮に入内させようと思っていた葵の上を源氏に奪われたこと。
これに関しては、桐壺帝と左大臣がすすめた話であり源氏の意志は介在しないので、源氏を恨むのは八つ当たりに近いですね。
三つ目、東宮生母である自分を差し置いて、桐壺帝が藤壺を中宮に立てたこと。
中宮とは、いわば後宮の女王。
桐壺帝は最初の后妃である弘徽殿の女御を差し置いて、藤壺をその座につけました。
弘徽殿の女御は桐壺帝退位後に皇太后となり【女性】としては最も高い位にのぼりましたが、【妻】としては一の人になれなかったということです……。
四つ目、朱雀帝に入内させようと思っていた妹の六の君(朧月夜)を、これまた源氏に奪われたこと。
葵の上に続いて、朧月夜までも……。
弘徽殿が「これは!」と思った女性(縁組)は、ことごとく源氏によって奪われていきます。
なにより悲しく空しいのは、実の妹による裏切りです。
しかも、自分の邸(実家)で逢瀬を重ねていたというのだから、馬鹿にされてると激怒するのは当たり前でしょう。
五つ目、せっかく源氏を都から追い出したのに自分を含め周囲がバッタバッタと倒れる
憎い源氏を追い出してついにやってきたこの世の春!と思いきや、都は天災に見舞われ、さらに父の右大臣や最愛の息子まで病に倒れてしまいます。
弘徽殿自身は「病は気から!」と気丈に振舞いますが、朱雀帝は周囲の「亡き桐壺帝が怒ってる」「源氏を都に戻せ!」との声に抗えません。
父・右大臣も亡くし、こうなっては彼女に成す術はありません
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
その後朱雀帝は譲位し、弘徽殿の女御は表舞台から姿を消していくのです。
と、こうしてざっと書き出してみましたが……。
源氏を恨みたくなる気持ちもわかりますが、そもそもの原因を考えると悪いのは源氏でも桐壺の更衣でもなく桐壺帝なんじゃないか?と思わずにいられません。
彼がもう少しうまく立ち回っていれば弘徽殿もこれほどの辛酸を嘗めずに済んだし、源氏はもちろん更衣にももっと明るい未来があったのではないでしょうか……。
4、憎しみの裏に隠された愛情に感じる弘徽殿の女御の『人間らしさ』
くり返しになりますが、弘徽殿の女御の激情や行い、その全ての原因を作ったのは桐壺帝だと言っても過言ではありません。
桐壺帝の解説記事でも述べたように、物語全体を見れば桐壺帝こそ諸悪の根源なのです。
それなのに、弘徽殿の憎しみが桐壺帝ではなく更衣や源氏に向いたのは何故かといえば、それは桐壺帝への愛ゆえ。
たとえ裏切られても、憎まれても、弘徽殿は心の奥底でずっと桐壺帝を愛し続けているのです。
だからこそ、余計に寂しさも募るのでしょう。
桐壺帝が倒れたときの一コマ。切なくなります……
(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)
しかも桐壺帝、亡霊になっても朱雀帝には会いに来ても彼女のもとには来てくれなかったのです。
とくに描写はありませんが、このことは密かに彼女を深く傷つけたのでは……?
彼女の源氏への憎しみすべて、権門に生まれた女性ならではの虚しさや悲しさ、そして桐壺帝への満たされない愛があったのだと思うとやりきれません。
また、桐壺の更衣に対しては、一途に愛に生きることができたことへの羨ましさもあったのではないでしょうか。
激しい憎しみは深い愛の裏返しであり、愛憎が一体化するのは人間の性。
弘徽殿の女御は実際のところとても人間味のある『生身の女性』であり、ヒールではあるものの親近感を持ちやすく、愛すべきキャラといえるでしょう。
悪役が彼女のようなキャラクターであったことは、『源氏物語』が長年人々の心を震わせてきた要因のひとつかもしれませんね。
(ayame)
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