実家を出た姉たちの昔の少女漫画の蔵書に囲まれて暮らしています。実家で親の介護生活中のマンガフルライター、相羽です。
本日はそんな姉の蔵書から、
原作:氷室冴子先生・漫画:山内直実先生の『雑居時代』を紹介させて頂きます。
著者 | 原作:氷室冴子・漫画:山内直実 |
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出版社 | 白泉社 |
掲載雑誌 | 花とゆめ |
掲載期間 | 1986年~1987年 |
巻数 | 全3巻(コミックス版)/全2巻(文庫版) |
ジャンル | 青春雑居コメディ |
コミックス第1巻の第1刷が1988年2月なので、時代としては昭和の頃。舞台は北海道という作品です。
倉橋数子(くらはし・かずこ)、三井家弓(みつい・かゆみ)、安藤勉(あんどう・つとむ)の高校生三人(勉は浪人生)の、豪邸・花取邸での雑居生活がコメディタッチで綴られていくのですが。
僕が大好きなのは、主人公の数子です。
彼女は2つの側面を持った人物として、描かれています。
A:成績は学年トップ、外見も美しく、家事なども万端にこなし……と、外面的には非の打ち所のない優等生で、「万能委員長」とか「倉橋さんちの数子さん」とか呼ばれている、いわゆる「完璧人間」
……である一方で、自分一人の時とか、ごくごく親しい間柄の人のもとで見せる顔としては、
B:ちょっと高慢とも思えるような態度をとったり、言葉が悪かったり、品行方正とはだいぶ遠いわりとろくでもない性根をかいまみせたりもする、「不完全な」人間
……といった側面も持っていたりします。
僕は、後者の「B」の側面に数子の「人間」らしさがにじみ出ていてイイなと思っています。
「B」の側面の時の数子の言動には、過激な言い回しも多いです。
(『雑居時代』1巻 氷室冴子・山内直実/白泉社 より引用)
でも、ふだんは「優等生」「完璧人間」といった外壁で押し込めらているからこそ、解き放たれた時に迸(ほとばし)ってしまうエネルギーのようなものが、昭和感(笑)も含めて、とても「人間」らしいな~と僕なんかは思ってしまうのです。
荒々しさ。未成熟さ。不完全さ。
そういうのも含めて「人間」です。
あるいは、「A」の方の側面を「ロボット的」な側面、「B」の方の側面を「人間的」な側面ととらえてみることもできるかもしれません。
シンギュラリティもそう遠くなくやってくるとか言われている、昭和から元号も2回変わった令和の現在、はたして未来の高性能AIを搭載した「ロボット」は、過激な言い回しで「人間」を非難したりはしてくれるのでしょうか。それとも、人間の隣人となる「ロボット」は、みんな「優等生」なのでしょうか。
数子は、怒る描写が豊富な主人公だな、と思います。
叔父の譲(ゆずる)の婚約者・紫村清香(しむら・さやか)に同居人の家弓と勉をバカにされて怒る、というシーンがあります。(もっともこのシーンは演劇サークルに入ってる清香が数子の本音を引き出すために演技をしている、という若干複雑なシーンなのですが。)
数子は、強い自意識を持っている主人公なのですが。実際、学力をはじめ能力一般は高く、当時のハードな学歴社会の中では強者の側の人間です。
なのだけれど、ギリギリのところで弱者を蔑ろにしたりはできない……という人物です。
家弓も、勉も、それぞれの事情で人生がうまくいってない部分を抱えている、不完全な人間で。
そういう人間に共感して怒ることができるのは、ほかならぬ数子自身が不完全な人間だからです。
そもそも、本来、数子は二人のこともうとましく思っていたはずなのです(花取邸に一人で自由気ままに暮らしたかったらから)。だけど、いざ二人がバカにされると、二人のために怒ってしまう。こういう矛盾も内包しながら悲哀交々なところも、とても「人間」らしいな~と思います。
ロボットとは違う、
- 人間だけの「らしさ」が
- 昭和のノリが
- そしてBL要素も(え!?)
描かれている本作。
「怒る」以外にも、主人公の倉橋数子を「人間」たらしめている、たった一つの彼女を突き動かす彼女の動機(行動原理)があるのですが。(これは、第1巻第1話の冒頭ですぐにわかります。)
数子の「人間」としての強い原動力が何なのか。
ああ。我々はもちろんロボットではなく、優等生でもなく、完全なんかとはほど遠い「人間」なんだから、そういう動機を抱いてしまったのなら、もう彼女の行動・生き方は全部「しょうがない」ね……と、昭和から令和へ現実時間で数十年離れても、けっこう「人間」は同じだな……と共感を覚えるはずですので。
ぜひ手にとって、数子を突き動かしているものが何なのか確かめてみてください。
氷室冴子先生が生み出した、昭和の魅力的なキャラクターに触れてみてください。
相羽裕司
・次回の「80年代・90年代の漫画」ゆるゆるコラムはこちら↓
「マンガフル」では主に「考察」記事を執筆させて頂いております。
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