【『あさきゆめみし』キャラ解説】24回:ストーリー終盤の重要なテコ入れ要員!思わず同情したくなる女三の宮

みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。

今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。

第24回目は、源氏の二人目の正室・女三の宮です!

ご存知、源氏の一人目の正室といえば左大臣家のお姫様・葵の上。

【『あさきゆめみし』キャラ解説】4回:大人の事情に振り回された時代錯誤なお姫様・葵の上

2022年3月2日

源氏とは夫婦仲があまりうまくいかず、息子・夕霧の誕生を機に溝が埋まりかけたものの、六条の御息所の生き霊に取り殺されてしまいました……。

その後、源氏の正妻の座は永く空いたまま。

「あれ?源氏の奥さんといえば紫の上でしょ?」と思った方もいるかもしれませんが、源氏最愛の紫の上は立派な後ろ盾を持っていなかったため、その結婚は正式なものではなかったのです。(格こそ正妻に近いものでしたが、実際には大勢いる妻のひとりという扱い)

というわけで、源氏にとって二人目となる正妻が今回紹介する女三の宮。

「宮」という呼び名からわかるとおり、彼女は皇女です。

貴き血筋の幼い姫君の降嫁が、源氏の晩年に何を引き起こしたのかーー詳しく解説します!

 

 

このコラムの初回0回はこちらです↓

【『あさきゆめみし』キャラ解説】0回:コラム連載にあたっての前説~本作の魅力とキャラ解説に至った理由

2022年2月9日

 

こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!

 

また、55周年記念の新装版も発売しています。

1、『源氏物語』における女三の宮

時は源氏が准太上天皇の位に昇ったころーー。

女三の宮は源氏の兄にあたる朱雀院の3番目のお姫様。

幼い頃に母親を亡くしたため、朱雀院はとりわけ彼女を猫可愛がりしました

しかし、朱雀院はしばらく前から病を患っており、ついには出家を考えるまでに。

思い切れない理由が、可愛い可愛い女三の宮です。

自分が世を捨ててしまうと、まだまだ幼い三の宮(だいたい14歳くらい)は後ろ盾もないままひとりぼっち……。

皇女に見合う位のしっかりした男性と結婚させて面倒を見てもらうのが一番だということで、白羽の矢が立ったのが位人臣を極めた源氏です(ちょうど40歳)。

源氏は迷いつつも、内親王を妻にするという臣下にとってこの上ない栄誉に目がくらみます(源氏の妻は多くが中流なため)。

なにより、女三の宮は源氏の永遠の初恋相手である亡き藤壺の宮の姪

いまだ藤壺の宮の面影を追い求め続けている源氏は、ついに結婚を承諾するのです。

そうしていざ源氏邸である六条院に迎えた女三の宮は、とても可愛らしくはあるものの期待に反して歳よりあまりにも幼く、藤壺の宮の面影は皆無

従順でおとなしやか。この時代の女性としてはすべて美点ですが……

(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)

源氏は失望しますが、朱雀院の手前、皇女である女三の宮を正妻として大切に扱います。

しかし、女三の宮の幼さはいつまで経っても変わらず……。

自分はもちろん周りにも頓着しないため、ある日、うっかり柏木の衛門督(えもんのかみ)にその姿を垣間見られてしまうのです。

かねてから妻には内親王を望んでおり、降嫁前は「我こそは!」と強く希望していた柏木。

三の宮の美しい姿を目の当たりにした柏木の想いは再燃、ついには無理矢理三の宮と通じてしまうのです。

三の宮は柏木を拒みきれず(かといって受け入れるわけでもなく)、やがて妊娠。

柏木の子だと考えられる薫を産みます。(作中で柏木の子だと断定されてはいません)

もちろん、このような事態に源氏が気づかぬはずもなく。

三の宮は源氏の怒りやさまざまな煩わしさを厭い、出家してしまいます。

産後の体調不良や罪悪感なども、出家を後押しした要因です

(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)

皮肉にも、望まぬ妊娠・出産によって、彼女は自ら世を捨てる選択をするほど精神的な成長を遂げたのです。

とはいえ、その後も実子である薫に特別な関心を払うことはなく、ただただ仏の道に縋るのみ。

六条院を引っかき回すだけ引っかき回して仏門に入ってしまった女三の宮は、成長したといっても根本的な部分ではあまり変わらず、出家したことでますます浮世離れした人として描かれるのでした。

 

2、『あさきゆめみし』における女三の宮~過保護な父親による優しい虐待の被害者~

『あさきゆめみし』に描かれる女三の宮は情緒に乏しく、周囲へはもちろん、自分自身にもあまり関心がありません。

皇女として生まれ、父帝に誰よりも深く愛され、望めば何でも手に入る生活……。

それが当たり前だと、「何かを望むこと」すらなくなってしまうのかもしれませんね。

朱雀院の深すぎる愛は、彼女からあらゆる気力を奪ってしまったのでしょう。

結果、彼女はまるでお人形さんのような、自分だけの世界で生きる才気のない女性になってしまいました。

源氏にとってはただのトロフィーワイフであり、人形です

(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)

源氏の関心も早々に潰えてしまいますが、それすら彼女にとってはどうでもいいこと。

ただ自分の好きなように、何事にも煩わされることなく、のんびり暮らせればすべてのことはどうでもいいのです。

そんな彼女の性質は、うっかり柏木に垣間見られてしまったときにも見られます。

通常であれば、「男性に見られてしまった=恥ずかしい!困った!」となるべきことろを、彼女は「源氏に怒られる=怖い!」で頭がいっぱい。

つい先日注意を受けたばかりなのも、女三の宮の恐怖を煽ります

(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)

相手の柏木のことはまったく頭になく、起こりえる最悪の事態について考えることもせず、自分のことだけで思考が停止しているのです。

そんな彼女ですから、いざ柏木が夜這いに来ても拒否しきれず、ただ放っておいて欲しいと泣くだけ。

しまいには「なにも考えるのはいや」と思考することさえ厭う始末

(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)

嫌だと言って泣きつつも受け入れてくれるのだから、柏木の想いが燃えるばかりなのも当然ですよね……。

しかし、こうなってしまったのも、元を辿れば彼女を誰より溺愛した父親・朱雀帝の過保護さが原因ではないでしょうか

もちろん彼女の生まれ持った性質も大きいのですが、手元においてずっと可愛がっていた割に、彼女の性質を的確に見抜いた上できちんと教育し、ふさわしい居場所を見つけられなかったのは朱雀帝の落ち度でしょう。

女三の宮は朱雀帝の優しい虐待の被害者であるともいえますね。

 

3、女三の宮が六条院にもたらした影響は?降嫁によって揺るがされた紫の上の自信と命

ここまで読んでわかるとおり女三の宮に源氏が女性としての魅力を感じるはずがありません(なんだかんだ激しい女が好きですからね、彼は)。

しかし、若く美しい皇女の降嫁に、それまで源氏の一の人とされてきた紫の上の心中が穏やかでないのは当然のこと。

といっても、いまさら女三の宮に嫉妬するわけではありません。

紫の上の心を打ち砕いたのは、長い時間かけて築き上げた二人の強い信頼と絆をあっさりと壊してしまった、源氏の軽率さです。

源氏が自分を誰よりも愛していることはわかっていて、だからこそ裏切りが悲しいのです

(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)

また、紫の上はずいぶん前から知っていました。

源氏が自分を通して誰か別の人を見ていること、その人を今もずっと追い求め続けていること。

そして、後ろ盾のない自分を無自覚にしろ妻として軽んじていること。

寝殿に住まう女三の宮を訪ねるワンシーン。紫の上は正妻ではないため、東の対に住んでいます

(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)

それでも源氏の愛を頼りにこれまで生きてきたのに、まだ人形遊びをしているような幼い姫君に正妻の座を奪われてしまったわけです。

このことは六条院に住む女性達や、六条院そのものにも大なり小なり影響を与えました。

女三の宮の女房には軽々しい人たちが多く、六条院の雰囲気も変わりました。また、こうした若い女房の一人が柏木を手引きするのです

(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)

穏やかであった六条院に新しい風を吹き込んだ女三の宮。

その風はあまりにも激しく、やがて紫の上は病み付いてしまうのです。

4、重要なテコ入れ要員であるがゆえの損すぎる役回り

人として何か欠けているように描かれる女三の宮ですが、柏木と関係をもったことでわずかながら情緒のようなものが生まれたのは事実です。

乳姉妹の女房にまでここまで言われる女三の宮。そんな彼女が自らの行く末を強く希望したのですから、驚きです

(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)

それが源氏に対する恐怖や罪悪感、柏木・薫への煩わしさから出たものだとしても、彼女は人間として大きく成長しました。

源氏を正面切って批判する強さと思考力も手に入れました

(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)

しかし、その成長=出家は、父親である朱雀院や源氏を落胆させましたし、薫にとっては母を失ったのと同義です。

自分の意思を持つようになったのは素晴らしいこと。

でも結局、すべてを捨てて自分が楽な方向に逃げただけのように見えてしまいます……。

個人的に、逃げることが悪いことだとは思いません。

ただ、『源氏物語』には、源氏との出会いから成長し、たくましく生きていく女性がたくさん登場します。

源氏を愛しながらも朱雀帝の妃としての道を選んだ朧月夜や、源氏への深い想いをけして伝えることなく、自分だけの愛の道を生きた槿の姫君。

【『あさきゆめみし』キャラ解説】17回:源氏の幼稚さの犠牲となった艶やかなイマドキ女子・朧月夜

2022年6月29日

【『あさきゆめみし』キャラ解説】20回:自分だけの幸せを選び取った希有な女性・槿の姫君

2022年8月17日

そして、波瀾万丈の人生のなかで、それでも自分の足でしっかり立つことを決意した玉鬘。

【『あさきゆめみし』キャラ解説】22回:強運と凶運がせめぎ合う?!波瀾万丈人生の玉鬘

2022年9月21日

彼女たちと比較すると、女三の宮はどうしてもキャラクターとしての魅力に乏しく感じてしまいますね……

 

けれど、彼女も可哀想な女性なのです。

ただ穏やかに暮らしていただけなのに、見ず知らずの男(柏木)に襲われ、あまつさえ妊娠してしまうなんて、この上ない恐怖でしょう。

好いてもいない相手との子を産むのは、作中に登場する女性では女三の宮だけ。

また、一度情けをかけた相手をけしておろそかにできない源氏が唯一冷酷に接した女性でもあり、彼女の”異質さ”を目立たせています。

その異質さこそ、紫の上の素晴らしさを源氏と読者に再確認させる要素であり、彼女がストーリー終盤の貴重な「テコ入れ要員」である証拠。

さらに付け加えるなら、彼女は他の男との子を産むことで源氏に過去の過ちを突きつけ、どれだけ位人臣を極めようとけして消えない罪があることを思い知らせる役どころでもあります。

まさか20年以上経ってこの件に触れられるとは……

(文庫版『あさきゆめみし』5巻 大和和紀/講談社 より引用)

 

ストーリー展開上欠かせないとはいえ、ひたすら損な役回りであることを考えると、いっそう女三の宮が可哀想に思えてますね……。

しかし、それよりなによりライターがどうしても引っかかるのは、朱雀帝の親としての無責任さです。

「可愛い可愛い、かわいそうかわいそう」ばかりで「あとは夫になる人にまかせた!」ではあまりにも無責任(帝(院)という立場にいる人がどれだけ子の養育に関われるのかという点は別として)

(文庫版『あさきゆめみし』4巻 大和和紀/講談社 より引用)

親と子の間にあるのが無責任な愛であってはいけないし、そのベクトルもけして間違えてはいけない。

親が子に負う責任は時代を経ても変わらず、あらためてその大きさを確認して身が引き締まる思いです。

まさか『あさきゆめみし』(『源氏物語』)からこのような教訓を得るとは思わず、見方・読み方によっていろいろな立場の人に刺さる、深い作品だなと感じました。

皮肉なのは、女三宮自身が実子である薫にたいして愛情はもちろん責任も持てないままでいることですが、その薫についてはまた別の機会に。

 

(ayame)

 

『あさきゆめみし』を読むなら……(今なら無料もあり)

『あさきゆめみし』を全巻読むならこちらから!期間限定無料あり!

源氏物語 あさきゆめみし 完全版

 

電子書籍の購入はこちらからも可能です!

人気コミック絶賛発売中!【DMMブックス】




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください

ABOUTこの記事をかいた人

元研究職、現在は飼い猫を溺愛する主婦兼フリーライター。小さいころから漫画が好きで、実験の合間にも漫画を読むほど。 ジャンルを問わずなんでも読むけど、時代もの・歴史ものがとくに大好物。 篠原千絵先生大好きです!好きなタイプは『はじめの一歩』のヴォルグさんと『はいからさんが通る』の編集長。