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【『あさきゆめみし』キャラ解説】11回:幸福と不幸に晒され続けた源氏最愛のメインヒロイン・紫の上(前編)

みなさんこんにちは!ほんのり歴女なマンガフルライターayameです。

今回も始まりました、名作『あさきゆめみし』キャラ解説。

お待たせしました! 第11回はメインヒロインの紫の上(前編)です!

『源氏物語』といえば「紫の上」といっても過言ではないほど重要なキャラクターであり、屈指の人気を誇る彼女。

今回は前編・後編にわけて、彼女の人生を野次馬よろしくのぞいていきますよ~!

 

このコラムの初回0回はこちらです↓

【『あさきゆめみし』キャラ解説】0回:コラム連載にあたっての前説~本作の魅力とキャラ解説に至った理由

2022年2月9日

 

こちらは『あさきゆめみし』の完全版。美しい!

 

また、55周年記念の新装版も発売しています。

1、『源氏物語』における紫の上

夕顔を失ったショックで北山にこもった源氏。

【『あさきゆめみし』キャラ解説】5回:生きていれば最愛の女性だったかもしれない魔性の女・夕顔

2022年3月9日

その北山で偶然出会ったのが、可憐な美少女・紫の君です。(当時紫の年齢は10歳あたり。源氏より8~10歳年下と言われています)

父は兵部卿の宮、母は按察使の大納言の娘で、紫はれっきとした宮家の血を引く貴族の姫。

しかし、母親は正妻ではなく、嫉妬深い正妻の怒りに触れることを恐れた兵部卿の宮の訪れは間遠でした。

おまけに紫を産んですぐに母は亡くなり、紫はこれといった後ろ盾のないまま母方の祖母に育てられるのです。

源氏は紫をひと目見て、永遠の初恋相手である藤壺に生き写しであることに驚くとともに執着。

それもそのはず。実は紫の父である兵部卿の宮とは藤壺の実の兄なのです。つまり、紫は藤壺の姪っ子

源氏が紫を「紫の君」と呼ぶのも、藤壺の縁者であることを表わしているわけですね。(藤=紫色の花)

後に紫は祖母も亡くし、それを聞いた源氏は紫が兵部卿の宮に引き取られる前に彼女をゲット。言ってしまえば誘拐みたいなものです。

自分の屋敷に連れ帰り、彼女を理想の女性へと育て上げます。

そして、正妻である葵の上が亡くなった後に正式に紫を妻とし、それ以降彼女は紫の上と呼ばれるようになるのです。

しかし、しっかりとした後ろ盾がないためかこの結婚は正式なものではなく、紫の上は正妻格の女性ではあるものの北の方ではありません。(ちょっとややこしいですが、平安時代は一夫多妻制。妻(側室)を何人ももち、それとは別に恋人を複数抱えることも珍しくありません。妻のなかでも一の人といわれるのが北の方。寝殿造りにおいてメインの建物である「寝殿」の北に位置する対に居する人で、この北の対こそ正妻の住まい。源氏は生涯、紫の上に北の対を許すことはありませんでした)

それでも、優れた容姿と源氏に仕込まれたあらゆる才能、そして美しい心ばえによって、源氏から深く愛された紫の上。

幼い頃から源氏とともに歩み、喜びも悲しみも、そして苦しみも、すべては源氏から与えられ、その人生は波瀾万丈でした。

そんな彼女はまだ十分若いといえる年齢で源氏より先にこの世を去ります。

彼女の人生は幸福だったのか不幸だったのかーーその答えは読者ひとりひとりの心のなかにあるでしょう。

2、『あさきゆめみし』における紫の上~次々襲いかかる幸福と不幸を順番に解説~ その①

ここからは『あさきゆめみし』での紫の上について、次々と襲いかかる幸福と不幸を順番に見ていきながら解説します。(残酷)

言い換えるならば、彼女の人生そのものを細かく見ていくようなもの。

それだけ、彼女の歩んだ道は常に波瀾万丈だったのです。

2-1 幼少期の幸福と不幸~源氏との出会いから妻になるまで~

紫の上の人生は不幸から始まりました。

早すぎる母の死と自分自身を省みない父親ーー幼い彼女はそれがどういうことが理解はしていませんでしたが、貴族の家に生まれた姫としては不憫なものです。

血筋だけ見れば先帝の孫にあたるのですが、後ろ盾がない貴族の娘の人生は本当に悲惨……。(同じような例として、末摘花という女性もいます。彼女についてはまた別の機会に)

そんな彼女に訪れた最初の幸福は、源氏との出会いでしょう。

幼い頃から目を惹く美しさを持った少女でした。(藤壺に似ているため源氏には尚更そう思えるのでしょう)

(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)

祖母を亡くし父親の家に引き取られる予定だった紫の上を、事情を知った源氏は二条の家に連れ帰ってしまいます

(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)

源氏のこの行動はなかば突発的なもので、もちろん父である兵部卿の宮に許可などとっていません。

これだけ聞けば大事件ですが、結局、兵部卿の宮は紫の上の行方を捜すことはありませんでした……。

これは源氏にとっては好都合。紫の上にとっては…………?

父親が自分を探してくれなかったーーこれは子供にとって大きな不幸です。

とはいえ、なんせまだ幼い少女。

憧れの素敵なお兄様と暮らせることは、彼女にとって大きな喜びだったことでしょう。

また、源氏の庇護下にあれば生活に困ることはありませんし、十分な教養や才能を身につけることができます。

兵部卿の宮の屋敷(紫の上を快く思わない正妻つき)で暮らすより、遙かにマシだったはずです。

しかし、繰り返しになりますが、当時の紫の上はまだ幼い少女。

源氏がどういうつもりで自分を引き取ったかなど知りもしません。

数年経って、紫の上が15歳を迎えるころーーついに源氏は彼女に手を着けます。

源氏にとっては待ちに待った喜びの瞬間。

男女のなんたるかも知らない紫の上にとっては、信頼していたお兄様からの信じられない裏切りです。

なんというか……せめて乳母が男女のことを少しでも教えておいてくれれば……と思わずにはいられません。

(折に触れて、「源氏は姫様の男君」というようなことは言っていたようですが……)

(文庫版『あさきゆめみし』1巻 大和和紀/講談社 より引用)

彼女が受けたものは間違いなく性暴力であり、心に受けた傷の深さは計り知れません。

女性にとって、これ以上に辛く、苦しい経験はないでしょう。

しかし、その悲しみと引き換えに、彼女は先帝の皇子であり都中の憧れの的である源氏の大将の妻の座を手に入れたのです。

後ろ盾のない姫君が有力貴族の正妻になれるなど、誰が想像したでしょう。

これは稀に見る幸福と言わざるを得ません。

同時に、紫の上は源氏との恋の道へと導かれました。

男女間の情愛の中で交わされる幸せと喜びを知ることになるとともに、絶えることなく続く苦しみや悲しみに囚われる人生が始まってしまったのです。

2-2 源氏の妻になってから~絶えぬ嫉妬と須磨流し~

紫の上は源氏の手配により、裳着(成人)の儀式を迎えました。

紫の上の実父である兵部卿の宮にもすべてを話し、腰結役を務めてもらいました

(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)

しかし、理想の女性へと成長を遂げつつある紫の上を妻にしたからといって、源氏の浮気癖が治るわけではありません。

一度情を交わした人を放ってはおけないのが源氏という人。

最愛の妻を得てもそれは変わらないし、新しい恋の噂も絶えません。

また、紫の上が美しく成長すればするほど、うり二つである藤壺の影を心から消すことはできないのです。

聡い紫の上はそれを敏感に感じ取り、嫉妬や物思いというものを知ることになります。

女の勘というやつでしょうか……

(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)

この頃、源氏の父である桐壺院が亡くなり、政局が大きく動きます。

そんななか、源氏は政敵の娘である朧月夜と密会を重ね……ついにはそれが露見し、かなり危うい立場に

源氏の周りからは次々と人が去って行き、紫の上の父である兵部卿の宮も例に漏れません。

心細く感じ、源氏に「どこにも行かないで」と縋りますが、源氏は官位を奪われ流罪を下されるまえに、自ら須磨への隠遁を決意

これは藤壺と東宮(源氏と藤壺の子)を守るためでもあるのですが、そんな事情、紫の上は知ったことではありません。

一緒に行きたいと願っても叶わず、生きて再び会えるかもわからない……。

謹慎の身で女性を伴っていくことはできません。紫の上は一人、都で源氏が許されるのを待つしかないのです。

(文庫版『あさきゆめみし』2巻 大和和紀/講談社 より引用)

源氏の一の人になった幸せもつかの間、紫の上は悲しみの底に突き落とされるのです。

 

 

ここまででも紫の上の波瀾万丈な人生が十分伝わったかと思いますが、こんなのはまだまだ序の口。

続きは後編にてお話します。

 

(ayame)

 

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ABOUTこの記事をかいた人

元研究職、現在は飼い猫を溺愛する主婦兼フリーライター。小さいころから漫画が好きで、実験の合間にも漫画を読むほど。 ジャンルを問わずなんでも読むけど、時代もの・歴史ものがとくに大好物。 篠原千絵先生大好きです!好きなタイプは『はじめの一歩』のヴォルグさんと『はいからさんが通る』の編集長。